短編小説 知る権利
私の知り合いに博士と呼ばれる人物がいる。
役場の代表であり、彼がこの島を支配しているのである。
今日は図書館で、小熊と大熊に血縁関係が書いてある資料がないか探していた。
「このアルバムを見ろよ」
私は、大熊に差し出されたアルバムを見る。
この島を、開拓をしたときのメンバーの写真が書いてあった。
「大熊さん、若いですね」
「まあな。美青年だろう」
「自信過剰ですね」
私は冗談で言った。
「ああ、知っている」
私はページをめくっていくと博士が、大熊と肩を組んでいる写真があった。
「・・・・・・ 」
「やつも開拓の時は、あんなにダークではなかった・・・・・・ 」
「いつ頃から島が支配されたのですか? 」
「私の推測では、開拓を終えた後に行われた選挙の時から始まっていたのかもしれない」
「選挙ですか? 」
「この島は、開拓によって新しくなったから博士が、選挙をしようと言ってきたのだよ。しかし、やつは金をちらつかせて味方をつくっていたらしい」
「味方ですか? 」
「博士と私の両方の派閥があるとするならば、博士の派閥は多数派になるのだ。それから一番、強い勢力を持っているのが、国際数学警察と言われている」
「国際数学警察といえば、志熊警部も所属していますよね? 」
「そうだよ。国際数学警察にも様々な派閥があるらしいから、よく分からない。しかし志熊警部やベクトル警部は、私たちの派閥に所属していると前に言っていたよ」
「本当ならば、博士の派閥のほうが待遇が、いいかもしれないのに、どうしてでしょうね? 」
私は不思議であったので聞いた。
「彼らも謎多き、集団だからな」
大熊は楽しそうに笑った。
「話を元に戻すが、少数派は私たちということになる。そして、一番強い勢力を持っているのが、ネコバーなのだ」
「あの旅館の経営者が!? 」
私は驚いて聞き返した。
「ああ、彼女はな、博士の派閥から最も恐れられている存在であるのだ。彼女を怒らすと、もしかすると裏の組織よりも大きな力を発揮するかもしれんな」
「どんな風にネコバーはすごいのですか? 」
「そもそも、彼女がこの島の所有者であり、様々な人脈も多く持っているらしいぞ。そうならば、博士課程も卒業していないやつをこの島から追い出すことができるかもしれん」
「そんなにすごいお方であったとは! 」
私は驚いて、これからは神様とでも呼ぼうと思った。
「とにかく、やつの派閥が大きいからいくら公平に選挙をしたからといっても、結局は不平等になってしまうのだよ」
そんな話をしていると、博士がやってきた。
「(来たぞ!)」
大熊は、目で合図をした。
「お!開拓記なんか読んで、歴史の勉強ですかな? 」
「そうです。こいつはこの島に移住して間もないから歴史を教えようと思いましてね」
大熊はにこやかな顔をしながら言った。
「そういえば、この図書館も本が多くなってきて整理が必要であると思っていたところなんですよ」
博士はわざとらしくこちらをみた。
「整理となると、私たちがやりますよ」
「そんなことを頼んだら、役場の仕事に大きく影響するだろう。だから、私の知り合いの人間に整理させることにした」
私の知り合いとは、博士の派閥のことである。
「ああ、それから本の分類として禁書も設けることにしたぞ」
「素晴らしいお考えですね」
自分の派閥の自慢話を長々とした後に、博士は去った。
図書館という施設は、ただ本を読んだり借りたりするために存在するのではない。
もっと重要な役割としては、「知る権利」があるのだ。
「禁書を設けるということは、都合の悪いことを見せたくないということだ」
大熊は静かに言った。
「言い換えると、自分たちの都合の良い歴史だけ見せるということですね」
私も大熊と同じく、静かに言った。
「図書館にある機能の『知る権利』を侵害するつもりだ。そうすると、私と小熊の血縁関係を知る手がかりも失ってしまうかもしれない・・・・・・ 」
ここで一旦、コマーシャルに入ります。
---コマーシャルーーー
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---コマーシャル 終わり---
さて、続きの始まりです。
「私らが、ここにいたことをやつはどうやって知ったのかはしない。しかし、部下が我々を見張っている可能性は大いにある」
「ならば、パソコン通信を用いて、やり取りをしたらどうですか? 」
「いいや、この島のネットワークは、すべて東雲研究所というITを専門に扱うところで管理されている。裏の組織がいないとは言い切れないぞ」
「ならば、どうしたらよいのでしょうかね? 」
私は、大熊に意見を求めた。
「本当は、我々の派閥全員が集まって話し合うのが望ましいが、それでは気がつかれてしまう。だから、可能な限り少人数で、やつらが知らない場所を探すのだ! 」
「そうですよね・・・・・・ 」
私は、少し考えた後に、再び大熊に聞いた。
「まずは、ネコバーさんはどうですか? 」
「そうだ。私も君と同じ事を考えていたよ」
最終的に、話し合いを行うメンバーを決定した。
それから再び大熊と小熊の血縁関係の証拠となる本を探した。
「あったぞ! 」
大熊は、喜びの声をあげた。
本のタイトルには『移民島ノ歴史』と書いてあり、旧島民の項目に書いてあった。
「この本によると、私と小熊は、同じ母親からうまれたらしい・・・・・・ 」
大熊の長々とした話を要約すると、大熊と小熊は兄弟であり、戦前までは共に暮らしていたらしい。
しかし、戦時中に両親が共に空襲で死亡して、大熊と小熊は戦争孤児として施設に引き取られて、そのときにバラバラに別れてしまったようである。
「まさか、本当に兄弟だったなんて・・・・・・ 」
大熊はしばらく放心状態であった。
それから、しばらくして私と大熊は図書館を出て、そのまま両者ともアパートへ戻った。
一週間後、我々は大熊書籍の書庫に集まった。
この書庫には大熊が今まで集めた本のコレクションがあり、大熊から入室を許された者しか入ることができない。
今日、集まった顔ぶれをみると、私と大熊を含めるとネコバーさん、ゆうきさん、それから志熊警部であった。
「こいつから概要は聞いているが、リバイアサンと、たたかうことは容易なことではないぞ」
志熊警部は、私を見ながら厳しい口調で言った。
「分かっている。しかし、いつまでもやつらの好き勝手にさせていいのか? 」
「いいわけないでしょう。みんな現状を変えたいと考えているけども、裏の組織の存在が怖いからよ」
大熊の代わりに、ネコバーが志熊警部に言い返した。
「ならば、暴力で訴えるか?言っておくが、はじめに手を出したらほうが負けだぞ! 」
志熊警部は鋭い言葉を放った。
先ほどから、攻撃的な発言ばかりしているところをみて、ゆうきは怒ったように志熊警部に言った。
「志熊警部、あなたは私たちの派閥ではないのですか? 」
「もちろん、君たちの派閥さ。ただ、軽率な行動は大切な仲間を失うだけと言っているのだ! 」
今、集まっている多くの者は戦争を体験していて、大切な仲間を失っていたのである。
だから、志熊警部の言っていることも一理あると皆が思った。
「大熊、我々の派閥は、やつらの派閥とは違って暴力などの力の大小で物事を解決しません」
ゆうきは、はっきりと言った。
「その通りよ。力の大小ではなく、私たちの派閥は、人と人との深いネットワークが売りよ! 」
「その通りだ」
ネコバーの力強い言葉に、大熊は冷静に共感した。
「やつらの派閥に対抗するためには、行動を起こす必要がある」
「そこで、今回の図書館の件か。リスクは高くないが、大熊はどんな行動を起こしたいのだ? 」
志熊警部は、大熊に具体的な案を求めた。
「禁書の分野を設けることを阻止することは困難だ。しかし、本を持ち出して保管することは可能だ」
「本を持ち出すということは盗むということになるが、犯罪となると見逃せないな」
志熊警部は意地悪く言った。
「お前が、そんな風に言ってくるのは、予想していた。しかし、どんな本がどれだけあるか管理していない図書館から持ち出してもやつらは気がつかないだろう? 」
大熊の悪い提案に、志熊警部は小さく笑った。
「お前は賢いな。それならば、図書館の管理不十分で処理されるからな・・・・・・ 」
「それに、私は盗むとは言っていない、持ち出して保管すると言っているのだ。他に異議はありますか? 」
大熊は皆を見渡した。
「最後に聞くが、その処分された図書館の職員はどうする?裏の組織に殺されたら、彼らから恨まれるであろう? 」
「その心配は無用だ。なぜならば、図書館の管理は、最近までこの島の全員でやっていて、図書館の職員はやつらの派閥の人間である。だから、彼らはやつを恨むだろう」
「なるほど・・・・・・ 」
志熊警部は、そのように言った後に、何回もうなずいた。
そして、志熊警部は静かに、皆に対して言った。
「頑張れ・・・・・・ 」
頑張れ、という言葉の意味合いは言うまでもなく、黙認するまたは応援するという意味である。
「異議がなければ、具体的な計画を話すぞ」
大熊は具体的な計画を話し始めたのであった。
ここで一旦、コマーシャルに入ります。
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「以上、ログオン編集部からのお知らせでした」
----コマーシャル 終わり----
私たちの話し合いの結果、昼間に堂々と持ち出すと、人目につきやすいという話になった。
すなわち、夜に持ち出すということに決定したが・・・・・・ 。
今日の役場の会議で博士がこんなことを言っていた。
「今ある図書館は古く、処分するのは面倒だから解体して本を処分することにしましょう」
「お言葉ですが、あの図書館には貴重な文献がたくさんあり、捨てるのはもったいないと思います」
大熊の言う貴重な文献とは、この島の歴史書や大熊が子どもの頃に読んだ本があるからである。
それを分かって博士が言っているか知らないが、返答は冷たいものであった。
「古い本を残しておいて、何の価値がありますか?そもそも、時代は進んでいるのだから、役に立たないでしょう。パソコンで対応すればいいでしょう」
「・・・・・・ 」
「いいですな。明日の7時に、工事を開始しますからよろしく」
「今は、道路の工事は人手は足りませんよ」
「いいや、私には有能な部下がたくさんいるからな」
その時は、大熊は引き下がった。
なぜならば、必要以上にモノを申すと、厄介事を博士に押しつけられる恐れがあるからだ。
「明日だから、今日中に移動させないといけない」
「それはいいが、私は誰か来ないか見張っていればよいのだな」
志熊警部は、大熊に最終的な確認をとった。
「ああ、お願いします」
「いいが、私も警察だから、立場が危うくなると逃げるぞ! 」
「いいさ。その時は、私らでなんとかごまかすさ」
私と大熊、それからゆうきとネコバーは夜の図書館へ忍び込んだ。
「ネコバーは、この島の地図や年表類を頼む」
「ゆうきは、フロッピーディスクやカセットテープなどの記録媒体を頼む」
そして、私と大熊は、歴史書を運ぶことにした。
前に、歴史書を見たときと配置は同じのようにみえたが、しかし・・・・・・ 。
「なぜ、配置が変化しているのだ! 」
大熊は苛立った。
「しかし、短期間で、配置を変更できることは考えにくいから、きっと近くにあるはずです」
「そうか。ならば、君は後ろの棚を頼む」
私と大熊は、それぞれ近くの棚を探した。
「ある程度は、見つかりましたが、前に見た資料がありませんね」
「特に開拓史の1巻から10巻まで全てなくなっている」
「どうしますか? 」
「ここに長く滞在すると、やつの部下が来るかもしれんぞ」
「そうですね。あるだけ持っていきましょうか」
私と大熊は、図書館の玄関まで歴史書を運んでいった。
「大熊、見つかったかしら? 」
ネコバーとゆうきは私たちを持っていてくれた。
「遅いぞ。欲張って持っていって怪我をするといけないから、私も少し持つぞ」
志熊警部の気遣いは珍しいことであった。
そして、大熊のかけ声で、一斉に大熊書籍の書庫へ資料を運んでいったのであった。
「みんな、無事か? 」
大熊は、全員の安否確認をした。
「大成功でしたね」
ゆうきはうれしそうな顔をしていた。
「いいか、この資料を私の秘密の本棚に隠すぞ」
大熊はそう言い、木でできた床のタイルをはがすと、持ってきた資料を隠した。
「ここは、秘密基地みたいなもので、安易に人が立ち入ることができないから安全だな」
「ああ、そうさ」
大熊は、明るく言った。
次の日、図書館では、解体工事が行われていて、近くでは本が焼かれていた。
一方、博士は、満足そうに解体現場を親方のようにな顔つきで見物していた。
「図書館の役割は、本を読んだり、借りたりするためだけにあるのではない。本を分類、保管して、後世に伝える、または知る権利を保障してくれる役割を持っているのだ」
大熊書籍の屋上から見ていた私と大熊は役場で仕事をするために戻っていったのであった。
終わり