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壱ノ章








『褪セユク花弁』




あなたの人間性が欲しきならず


あなたといふ人間がほしきなり


ゆえにあなたの心に興味はなく


あなたの魂にも興味はなし


ただあなたといふ肉の芸術品を欲したるなり


美しき髪は私の為に、愛らしき目鼻立ちは私のもののみに


艶やかなる双丘と縦穴は我が肉欲のため


鮮やかなる臓物と排泄物は私の喉の乾きを潤すため


その存在価値は私のみに委ねられる


嗚呼、美しき肉人形


あなたが永久のものならばよきを







『禁忌の園』




君の女のかほりが僕の信仰を惑わせる。


あの誓ひは主のためにか、己がためか。


主よ、僕は罪を犯してしまよさうでなりはべらず

どうかあなたのお力で私を卑しき欲望よりお救ゐくだされ。


幼き頃より苦楽を共にせし我が愛すべき妹を月日といふ悪魔が女へと変へていくなり。


乳臭かった彼女は今では雌の香りさへするやうになりき。


あなたは僕をお救いくださらざるにはべるや。


この地獄はいつまで続くのにはべるや。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



私を苦しめし地獄は、もはや地獄ならずなりき。


岩場で沐浴をしたりし彼女のなると美しきか、主よあなたにはわからじ。


私は彼女と言ふ女を手込めにしたかったのだ、

妹としての彼女ならず、女としての彼女を。


罪はいかで生まれむ、生まれることはなし


いかでならば罪は自身の意識によりて生まるればなり。


彼女とひとつになりきとき私はもはやここが地獄ならず楽園に感ぜられき。


主よあなたは私たちを引き剥がす蛇だ、狡猾なる舌先で私を謀らかし、罪といふ林檎を食べさせようとせしなり。


されどもはや屈するはなからむ、私はこれより彼女と生きていく、このエデンの園で朽ち果つるまで。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ニホンカラトオクハナレタシマデ、ボクタチハゲンキニ、スゴシテイマス。


ハハウエ、チチウエ、サゾシンパイナスッテオリマスデセウガ、シンパイハアリマセン。


コノシマニハ、タベモノガタクサンアッテ、ヒモジイオモイヲ、スルコトモアリマセンシ、ナニヨリ、イモウトガイッショニオリマスノデ、サミシイキモチモ、スコシハ、マギレルカラデス。


ボクタチハ、イチバンミハラシノヨイトコロニ、マイニチカカサズ、ノロシヲタイテイマス。


ドウカボクタチヲ、ミツケテクダサイ。







『美食家』




今日のディナーはティッシュです。


ストックはあと十二個ほど。


あの人は花粉症なのか、それとも、ひもじい僕に同情してくだすったのか、いつもより多くエサヤリ場に提供されていました。


ティッシュは春が旬の季節だな。


僕は鼻水を口でズルズルとすすり、味わいながらそう思いました。







『成仏』




淫らに揺れる青い髪


降り注ぐ紅い雪


指と指の間から溢れ落ちる紫色の花弁


聖母は金色の涙を流し、銀の瞼を閉じる


等しく死に、等しく地に帰る


これをどうして孤独と云いましょうや








『少女喰蟲』




僕ハ彼女ノ菊穴ヘト蛞蝓ヲ押シ込メタ


蛞蝓ハ菊穴ノ入リ口デ暫クノ間蠢キ


ヤガテ観念シタヤウニ ソノ内ヘト進ンデ行ツタ


ヌルン


ト其ノヌメヌメトシタ体ガ彼女ノ中ヘ入ルト同時ニ

「キャ」ト彼女ハ小サク悲鳴ヲアゲタ


蛞蝓ノ体液ガ彼女ノ小降リデ真ツ白ナ尻ヲ


テラテラト輝カセテイタ







『指切り』




嘘をついた。

ささいな嘘だった。


指を切った。

壮絶な痛みだった。


針を飲んだ。

死ぬのには十分だった。


僕はまだ死にたくなかった、だってお母さんの作るパンケーキが食べれなくなっちゃうからね


「嘘つき!」


あれ?どうして?


「君は死んだはずでしょう? どうして言葉を喋るの? 」







『傷』




太ももに貼った絆創膏を剥がすと、三センチほどの傷の中で、無数の黒い粒達が文明を築いていた。


時折聞こえてくる甲高い音は、どうやら彼らの言語らしい。


「アイガトウ、アイガトウ」


黒い粒達は口々に僕にそう言った。


「うるせえ」


傷口にシャワーをあてるとそれきり聞こえなくなった







『手紙』




『いつも空っぽのはずの僕の家のポストに手紙が届いたんだ。

こんな感動は今までに体験したことがないよ』


僕は手紙をポストへ入れた。



家へ帰ると手紙が届いていた。


『いつも空っぽのはずの僕の家のポストに手紙が届いたんだ。こんな感動は今までに体験したことがないよ』


僕は手紙を破って捨てた。


翌日僕から手紙が届いた。


『今日は手紙が無かった。お前が破いたからだ』







『蒸気料理』




「お待たせしました、蒸し蒸気のヘリウム和えでございます」


店員はそう言って私の前に空の皿をおいた。


腹が立った私は立ち去ろうとする店員を呼び止めた。


「おい君、何も入っとらんじゃないか」



それを聞いた店員は悪びれもせず答えた。



「ええ、こちらは実際に食べる料理ではなく、食べたという事実を食べる料理でございますので」







『チョコレート』




「わあ、美味しい!」


「バレンタインに君から貰ったのには負けるよ」


「そんなことないよ!とっても美味しいよ」



彼女は美味しそうに僕の大便で作ったチョコを食べている。



「実はね、私も作ってきたの」


彼女はカバンからハート型の箱を取り出すと、僕に差し出した。


箱を開けると、中には美味しそうな円形のチョコレートが数個入っていた。


「食べても?」


僕は尋ねた。


「もちろん」


彼女が答えた。



箱からチョコレートを一つとり、僕は迷わず口へ入れた。


思ったよりも柔らかいそれを噛じると、以前食べた覚えのある何とも言いようもない苦味が口に一杯に広がった。


これは、そう、大便の味だ。







『カニュム』




「カニュムって知ってる?」


「知ってる知ってる、当たり前だろ!」


聞きなれない言葉に耳を疑った。なんだそりゃ。


「美味しいよな」


食べ物なのか?


「ああ、だけど狂暴だよな。この前なんて婆ちゃんが食われそうになったんだぜ」


生き物か?


「おい! それ以上我が神を侮辱するな」


神なのか?







『ピエロ』




失敗した。けど良いよね。


だって、あたくしは、ピエロ、ピエロなんだもの。


泣き笑いでステージ立って、失敗しては笑われる。


その繰り返しさ、繰り返し。


えっ? 何で泣いてるかって?


興味がおありなんですね?


そうなんですね?


では教えましょう!


おっと、お代は先払いですよ!







『吸血鬼』




「あの娘の血は、スモークされた桜のチップの様な芳ばしさと、岩から染み出した湧き水のような繊細さが内包された、素晴らしい風味であった。やはり、処女の血に外れは無いとあの時確信したよ」


「これ以上、被害者を侮辱する様な発言を行うならば、被告人を有罪とし、閉廷と致します」







『ゲジゲジ』




口の中の異物感で目が覚めた。

なんだろうこれは、このモゾモゾとしたモノは。


.....まさか!


恐る恐る口に手を入れて、奥にあったモノを引っ張り出す。


出したものを見るとそれはただの埃だった。

ほっ、と安心して再び眠りにつく。


バチン


「よし潰した」


僕は潰されていた







『コントラスト』




バラの香り、青。


ヒマワリの視線、紫。


夏風の躍動、薄紅。


木枯らし、新緑。


凍てつく雪原、漆黒。


明治12年の少年、紺。


平成12年の少女、白。


虹が架かる。

大きな入道雲の向こうへ。

今日の天気、虹。

明日の天気、銀。


雲間に覗いた太陽が、すこしだけ寂しそうに笑った。







『キュリオシティチェリー』




あのこ の すかあと を めくってやろう


あの子 の リコーダー を なめてやろう


あの子の体操着を盗んでやろう


あの娘の肉体を手に入れよう。


昨日の娘を埋めにいこう。







『超狂気的国家大日本帝国』




年端モイカヌ娘ニ欲情セシ大日本帝国男児。


何故男児ノ悉クハソノ青キ蕾ニ魅了サレルノデアロウカ。


亜米利加ノ論文ニ拠ルト変態的思考ハ本人ノ性ノ萠芽タル出来事ニ起因スルモノデアルラシイ。







『自惚れ』




貴女の本当の名前を知っているのは僕だけだ。


貴女の心のベールを裸にできるのは僕だけだ。


もし貴女が朽ちることを望むなら、貴女が安らかな死を願うなら、僕は貴女の亡骸と共に永劫を生きよう。


僕の肉体が砂となって消えるまで、貴女の帰りを待つ墓守となろう。


さあ、その唇で答えておくれ。







『或機械の独白』




ただの粘膜の接触であることは、理解しているし、その行為にたいして意味も無いのだけれど、でもそれは私の胸の痛みを和らげるのには充分だった。


3.52秒。


それは愛されなかった私が、初めて誰かと『かけがえのない時間』を共有できた刹那のエラーハンドリング







『同一』




彼女の心臓を抜き取り、僕の腕に動脈、静脈を繋げて移植した。


ピクピクと脈打つその姿は、初めて会ったときの彼女を彷彿とさせる。


「アアッアア、タスケテ」


彼女の脳と顔は僕の腹部に移植してある。


「コロシテ...」


女性のパーツをあちこちつけたせいか、時折腹部に激痛が走るがそんなことは大したことじゃない。


僕は真に、彼女のモノになり、彼女は僕のモノになったのだから。







『暗ひ天井』




イヒヒ、イヒヒ。

食べろ、食べろ。

蚕様食べろ、食べろ。

クチャクチャ、クチャクチャ。

ああイタイ、イタイ。

動くな、動くな。

ああオオ、いいぞ、いいぞ。

やめて、やめて。

蚕様タスケテ、タスケテ。

イヒヒ、イヒヒ。

パサッ、ボトリ、死への羽ばたき。

あぁぁぁぁぁぁ。

またお花を売ってネ。







『スモールライト』




クラスの中で一番お気に入りの子を、虫かごで飼うことにした。


彼女は、お風呂が大好きなので、時々風呂に入れてあげた。


もちろん、普通の浴槽では溺れてしまうから、僕の口の中でだ。


初めは、夜もすがらシクシク鳴いていたが、今ではすっかり止んで、笑顔さえ向けるようになった。







『シェフ』




猫耳が生えてきたから、むしりとって晩御飯として好きな娘に振るまった。


「おいしいね! 君が作ったの?」


「うん、材料からね」


今度は尻尾が生えてきたので、刺身にして食べさせた。


「おいしいね、なんの動物?」


「僕」


材料が手に入ったので調理して食べた。


「おいしいね!〇〇ちゃん」







『洞窟の中』




セイレーンの水死体の唇にキスした夏休み。


青白い肌は瑞々しく、ぞっとするほど冷たかった。


僕の熱した唇が、彼女の氷のような唇によって、その熱を急速に奪われていくのを感じた。


唇を離すと唾液が糸を引いて彼女の顔に垂れた。


口の中は潮味と海の動物の味。


水死体に恋をした少年の夏の一節。







『シマウマに連れていかれる』




ワンワンと猫が鳴けば、世界はぐるんと一回り


回ったのは世界か、それとも猫か


ミャアオ、鶏が啼けば夜の帳が下りる合図


コケコッコー、僕は泣いた


対して意味はない


三千円で買える未来


レゴを踏んだみたいに痛い教訓


明日かな、いや昨日だった


流転の中に取り残されたセキセイインコ


スピード、アイスみたいに溶けてく


赤い光、ルビーみたいに綺麗なピリオド、吐いた生魚みたいなカタストルフ


おしまい、続きはお城の中で。







『十六の感傷』




ガラス細工の心。


ヒビが入ったから取り替えた。


空気色のビー玉。


吐き出したらザクロ色。


飴細工の友達。


舐めたら溶けて消え失せた。


七色ソーダ、飲み込んだらまた明日。







『アンパン』




赤青緑、信号機みたい。


あれは誰?


誰かが電柱の影から覗いているわ。


あっ宇宙人だ!タコみたいな宇宙人! ...あれ消えた。


ってお婆ちゃん! 死んだはずだよね? どうして?


....止めてお婆ちゃん!殺さないで! その犬はタロウだよ! タロウっ!


....あれ消えた。 あっそっかコレ吸ったんだ。







『刺殺少女ブリュンヒルデダーク』




五人殺した、愛するシグルド


肋骨突き抜け、肺破り抜け、心臓貫いて


貴方の首と、私踊るわ


愛したあの人と接吻を、愛するこの人にも接吻を


煌めく月明かり、ステンドグラスの影、カリスに注いだ血液


どうしましょう、愛する心が止まらないのよ


ああシグルド、願わくば私の滾る心臓を、貴方の魔剣グラムで貫いて頂戴







『花火』




「お母さん!産まれましたよ!元気な男の子です! 」


そう言うと看護婦は手に持った包丁で、抱いた赤ん坊を刺し殺した。


小さくて短い断末魔の後、ぐったりと赤ん坊が事切れたのを見た母は、涙を流して叫んだ。


「なんて美しい!これが死の芸術なのね!」


母の股の間から伸びた臍帯が、ミミズのように床に落下した。







『コンサバティブデッドガール』




あれは青よ、本当は赤だけどね。


皆で夕御飯、本当は朝ごはん。


私たち友達、友達って何?


立ち止まる、それ即ち腐敗。


コンサバティブ?


いいえ、デッドエンド。


干からびた死体、砂漠さまよう亡者。


私ね女の子なの、本当よ。







『フルコース』




お上品な皿に『お食事』と称して人肉を盛り付ける


あら綺麗


スープには、猫のハラワタを


飲み物には、コオロギの体液を


サラダには、山盛りの大麻を


美味、珍味、芳醇


黄色のドギーバックに詰め込んで


夜の帳をデザートに


オ・ルヴォアール・マドモワゼル、またのお越しを







『カルト』




シクシク、シクシク


小父さんが涙を拭ってあげやう


ペロペロ、ペロペロ


わたくし、助かるの?


私が解脱を迎えられたらネ


それはいつ?


君の肢体を毛一本に至るまで貪った後サ


ギチギチ、ギチギチ


タスケテタスケテ母様!

イタイイタイよ、父様!


お前の父は私なのだ、ああ娘よ!娘よ!







『女学生』




ねえ、A子さん


なあに、B雄くん


ボクが何したいか、わかるかい?


お花遊び、かしら



ドサッ、黒と紺のコントラスト



わたし、女よ

ボクも、女さ


ヒラヒラ、ヒラヒラ、花弁の舞


穢くて厭よ、こんなコト


ふふふふふ、度胸がないんだね


私初めてなのヨ


嘘をつくんだね、お嬢さん


貴女もね、お兄さん







『ブラッディナイオ』




マリオネットマリオネット


糸をピンと張り、顔には笑みのペルソナを。


マリオネットマリオネット


お客は今日も手荒。私をベッドに横たえ酷いことをする。


マリオネットマリオネット


私はカミサマに操られた人形。


だから、涙も流さないし、酷いことされても平気。


さあ、今日のお客様は、あなたかしら?







『汝ら国民、称えよ戦果』




ツクテンツクテン


闇市肉は人の味、スジばっていて味が悪い


配給米はどぶの味、生臭くて食えやしない


ツクテンツクテンツクテンテン


赤子喰われ、花喰われ、女はみんなあばた面


街のルンペンヨダレを垂らし、ドブの飯を漁ってる


ツクテンツクテンテンテンテン


ワシらは人じゃ、犬じゃねえ







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