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ある女の子がテレビをジッと見ていた。傍らには尾の別れた猫が、これまたジッとテレビを見ている。女の子の見ているのは教育テレビの日本語講座だった。
「--------」
「にゃにゃああ」
女の子が言葉とは言い難い音を発した。尾の別れた猫が女の子の言葉を理解しているかのように鳴いた。女の子は猫の方へ振り向くと、何かを理解したかのように首をコクコク振った。勉強は続く。
どこか街の片隅にある。どこにでもあるような民家。そこに女の子と猫は住み、生活を共にしていた。まだ、年端もいかない幼い女の子だ。幼い子供一人、こんな街中で生活しているとは誰も考えはしないだろう。だが、その女の子は健気に生きていた。いや、生かされていたと言ってもいい。尾が二つの猫。この猫が女の子の身の回りの世話をしていた。女の子の周りに人の気配はない。親は居ない猫が一匹だけだ。女の子もそれに応えるように、年相応の我儘も言わず、真面目に猫のいうことを聞いているようだった。それは家の中だけの一匹と一人だけの世界。女の子はそれが普通だと思っていたし、外は怖いとこだと女の子は教えられていた、なので女の子は家から出ようとすら思わなかった。何時からこうなのか、どうしてこうなってしまったのか、今となっては誰も分からない。ただ、女の子はこの一匹の猫が親だと勘違いしていたし、それを猫は正そうとも、見捨てようともしなかった。
女の子は少しずつではあるが、日本語を理解した。猫がどこからともなく拾ってくる本や、垂れ流されるように、つけっぱなしにされたテレビ。それが女の子の先生であり、楽しみだった。勉強は楽しいものだった。女の子の世界を広げた。だが、その情報は偏っているものばかりだった。テレビのチャンネルは猫が決めていたし、拾ってくる本も猫が無作為ではなく、作為的に拾ってくるものであった。せまい世界は更に窮屈にせまくなっていた。語られるのは一方的な視点から見た事実。女の子は気づきはしない。勉強は続く。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆尾が二つの猫☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
女の子を育てている。