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「被告人。。弁護あります?。。」


あるにきまっているだろう。


「何度も言うようですが、あなたは間違っています」


僕は毅然とした態度でお姉さんを攻め立てた。僕には猫達が居て、それが正義であり、自信につながっているのだ。


「私?私が??。。えぇ??」


お姉さんは自分が間違っていることに自覚がなかったのだろう。酷く驚き、腕を組み、「んー」と悩み、また猫に向かって「ニャァニャァ」いい始めた。草叢からは僕を弁護している猫達が、必死に訴えを起こしにゃぁと鳴いた。


「皆、あなたに喋らせるなって。。」

「それはそれは」


このお姉さんは、猫と自分の間に僕という人間が入って来たのが気に入らないのだ。そして、この空間に猫達を閉じ込め、自らが餌をやることで猫達を餌付けし、手なずけたのだ。そして、裁判と称し、僕をこの街から追い出そうと画策している。猫達は騙されている・・・。どうすればこの猫達を救い出すことが出来るのだろうか?


「僕が死刑?なぜです?罪を僕が犯しました?」

「だから猫をやたらに追いかけたでしょ。。」

「猫は喜んでいました。僕は知っています。あなたは知らない。猫達も知っている。加害者どころか、被害者まで居ないというのに、どうして僕がいわれのない罪を被る必要があるんですか?」

「話、通じないなぁ。。もぅ。。」


お姉さんは困った顔をして、唐突に腕を上げた。草叢に潜む猫達の視線が一斉にお姉さんが掲げ上げた腕に集中しているのを感じた。お姉さんは掲げた腕をまっすぐ下げ、向かいにある樹を指さし、「にゃっ!」と短く鳴く。すると草叢が波打った。波はウネリ、樹に打ち付けた。それは猫だった。樹の周りに、なん十匹の猫が現れ群がり、一斉にこっちを見て


ニャアアアアアアアアアアアアアア


と鳴いた。それは見事な統率で、芸と呼ぶには過ぎていた。


「私と猫は仲間。だから、話せるし、お願いも、聞いてくれる。ね・・?あなたの言うこと、猫達聞くかな?」


お姉さんと、樹の周りを取り囲むように巣食った猫達は僕をジーっと見つめた。猫達が一斉に唸り、お姉さんが喋り、そして静寂が訪れた。僕の次の言葉を待っているのだろう。お姉さんが僕を指させば猫は僕に向かう。群がり、そして・・・冗談でやり過ごすには、失う代償はあまりに大きい。お姉さんは自分の能力を見せることで、本物の裁判に仕立てたのだろう。どんな罪であろうが、それ相応の報いをお姉さんは相手に与えられる。


「僕は猫を愛しています。大好きなんです。理由なんてないんです・・。生まれた時からそうでした。小さい頃、猫が僕の友達で、仲間で、一緒に遊んでたんです。あの時の猫はもう居なくなってしまったのですが、ですが、僕は全ての猫の見方であり仲間であり友達です。僕は、僕は。。たんに皆さんと仲良くしたかったのです。子供の頃は釣り合いが取れていました。よく猫と追い掛けっこをして、いつしか仲良くなって友達になりました。でも、最近・・僕の体は大きくなって、体力もついて・・確かに、今思えば、一方的な追いかけっこになっていたのかもしれません。ですが、僕は僕から逃げきれる好敵手を探していました。それが迷惑になったのなら謝ります。やり方が間違っていました。ごめんなさい。僕は猫が、あなた達が大好きなだけなんです」


僕がしたことは正直に話すことだった。茶化すでもなく、逃げるでもなく正直に。お姉さんは横で手足をバタつかせ、にゃぁにゃぁ鳴いた。僕の言葉を猫達に訳しているのかもしれない。僕は話した。昔の思い出や今の思い出、どんなにこの街が素晴らしく、僕が大好きでいるかを、いつしか僕は涙が流れていて、声も途切れ途切れとなった。それを横で聞いているお姉さんも、なぜか涙ぐみ、にゃぁにゃぁ。。と声が小さくなっていった。猫達はそんな僕達をただじっと樹の周りから見守っていた。お姉さんは僕の言葉をひとしきり聞き、「ふぅ。。」と何か感慨深いため息をつき僕を見つめた。


「あなたは猫が本当に好きなんだね」

「はい。それはもう。ここにいる子達も皆、僕の友達です」


僕の言葉を聞き、猫達がシャァァァ!と叫んだ。威嚇のようなその声は僕に『当たり前だろ!』と怒っているようだ。お姉さんは「にゃんにゃん」言って手をブンブン振り回す。すると猫達は静かになった。


「けどね。。あんまりやり方がよくないみたいなの。。」

「やり方ですか?スキンシップってこういうものですよ??」

「うん。。あなたに追いかけられたくない子や、触られたくない子もいるみたいなの。。あなただって、知らない人に急に追いかけられたら嫌でしょ。。?」

「それはそうですけど・・?どうせ友達になれば問題ないでしょ?」

「う、うん。。えっとね。。だからね。。なんて言ったらいいかな。。?眠りたい時に運動したくないでしょ。。?眠りたいんだから」

「そうですね。」

「うん。。だから・・私から皆に言っておくから。。あなたと遊びたい子はあなたに近づいてしっぽを振るように教えるね。。そうしたらおいかけっこしたいってことだから。。」

「なるほど!!それはいいアイデアですね!!」


僕だって、例え猫にとっても僕にとっても結果が最高のモノとなると分かっていても、それを強制しようとは思わない。お姉さんが猫に言い聞かせることによりスキンシップする前から、本当の相思相愛が実現されるのである。未来のことを考えると自然と顔が綻んだ。つい先日までの猫が居なくなった街を徘徊していた自分。あれは無駄ではなかったのだ。僕とお姉さんは目を合わせ、握手を交わした。それは皆に和解することを示す握手であった。



裁判は示談が成立したようだった。お姉さんが皆に聞こえるように「ニャー」と叫ぶと、至る所から猫が這い出てきた。何匹いるのか数えるのも馬鹿らしくなってしまうほどの数。猫達は樹をつたって各々の住処に散っていく。ここに来なかった猫もいるだろうに、その数は、街にいる猫にしては異常な数だと断言できた。この街ごと猫の住処なのだろう。そして、その友達と名乗るお姉さんは一体何者なのだろうか?。壁に囲われた広場には、蠢く生き物の気配は僕等だけとなった。照り付ける太陽が木陰に居る僕達を光と影の二つの世界に分けていた。僕は、この時、生まれて初めて猫以外の生き物、人間に興味を持ったのかもしれない。


「あなたは一体何者なんですか?」

「私。。?私は猫だよ。。」


どう見ても人間の姿をしているこのお姉さんは自身のことを迷うことも、ためらうこともせず猫だと言い切った。不思議と違和感を感じないのが僕には不思議だった。どこか、心の奥底で、このお姉さんを猫としてみているのかもしれなかった。


「あなたは一体なんなの。。?」

「僕?僕はただの猫好きな人間ですよ」


元来た道をお姉さんと辿った。前を歩くお姉さんは、特に何かを喋るようなことは無かったけど、その足取りは、目的地に向かう時より、帰る今の方が軽く、嬉しそうだった。


「あんまり。。やりすぎたらダメだよ。。皆に嫌われちゃうよ。。」


お姉さんは帰り際、笑顔のまま心配そうに僕に忠告すると、どこかに行ってしまった。お別れの挨拶や次、会う約束、そんなものは一切なかった。それは、どこか猫らしかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆猫の広場☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

人間でいうとこの多目的ホール。今回は裁判所として使用された。本来は猫の集会に良く使用される。とても人間には見つけにくい場所にある。






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