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猫は声だけじゃなくて、体全部を使って伝えるの。伝えられないことなんてないでしょ?
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「あなた。。一体なに?。。」
お姉さんはそれだけ言うと黙り込んでしまった。黙り込むも、僕の服は離さない。顔は上気し少し汗ばんだように感じるその顔は何か、限界まで思いつめたようだ。
「どうかしたんですか??」
僕の服をなおもつまむお姉さんは、視線を僕に向け
「座って。。」
と、なんだか迫るような勢いで僕をベンチまで引っ張った。引っ張られた僕は後ろにもたれるようにベンチに座りなおしてしまう。ベンチは僕がもたれかかったことで、傾くように揺れたのだが、お姉さんは身じろぎ一つせず、僕の服を離しもしないのだった。
「あの、僕等どこかで会いました?」
「初対面。。」
「誰かの知合いですか?」
「そうだよ。。。」
なおも目的が分からず、たえず下を向き思いつめたように地面を見続けるお姉さんに僕は若干の恐怖を感じた。少し逃げ出したかったけど、なおもお姉さんは僕の服を掴んで離さない。それに僕も猫を追いかけまわし疲れていたのだ。空を見つめ猫の形の雲はないかと探した。あれば追い掛けようと思っていた。お姉さんはなおも地面を見続けている。そうして、30分ほど時間が経った。
「よ、用がないなら僕はそろそろ帰りますね」
「いや。。待って」
痺れを切らした僕はお姉さんを置き去りにしてその場を去ろうと再度ベンチから立ち上がった。服を掴んで、ていっ!と引っ張りお姉さんの手から無理やり服を引きはがした。お姉さんは少し『あ。。?』という顔をして、僕の服に釣られたように上がった手を下ろすのであった。そしてお姉さんは無言で僕に遅れて立ち上がった。顔からは決意が満ち溢れていたが、陰鬱そうな雰囲気は拭い去れないのでいた。お姉さんは近くに置かれていたトランクに手をかけると開けた。
「ニャァ」
トランクの中から現れたのは猫であった。しかも大型のトランクから三匹の猫が次々と現れた。見ると、トランクの中はフカフカのベットに小型の敷板のようなものが施されていて綺麗に三個空間が空いているのだった。出てきた猫達はお姉さんの足に纏わりついた。時折、猫達は僕の方を向くも、何かに怯えているようにお姉さんの傍を離れず、三匹で持ち場を回すようにグルグルと円を描いているのだった。
「にゃぁ」
お姉さんが唐突に鳴いた。僕は『ん?』と、眼前に巻き起こっていることに対し、正直ついていけないでいる。猫達はお姉さんの声に反応するように一旦お姉さんに纏わりつくのを止めると、思い思いに、にゃぁにゃぁ鳴き始めた。お姉さんはなにやら、ニャァニャァ言いながら手を大きく動かしたり片足を曲げたり、全身で何かを表現していた。猫とお姉さんのやり取りは5分ほど続き、ひとしきり終わったのだろう。お姉さんの身振り手振りが小さくなっていき、止まった。夏の暑い陽射しが照りつける中、ひとしきり猫とボディランゲージを交わしたお姉さんは、少し汗ばんでいてふう、と一息つき僕を睨みつけた。
「やっぱりあなたが私の友達イジメてるでしょ。。?」
「は??友達・・?」
「猫。。」
「??猫を?イジメてないですよ?」
「ウソ。。皆、あなただって言ってるよ。」
あぁ・・僕はこのお姉さんは少しおかしいんだなと思った。たまにいるのだこういう類。猫のことが好きでペットという垣根を越えたと勘違いしてしまった人。それは一方通行の愛情であり、猫からしたら迷惑以外の何物でもない。この風変わりなお姉さんは、僕の行為をどこかで見ていたのだろう。そして、勇気を出して僕を糾弾しにきたに違いなかった。
「イジメ?猫は喜んでいますよ?」
僕はお姉さんではなく、三匹の猫達に向け、同意を求めるように頷いてみせた。猫達はどこか怯えるようにしてお姉さんを中心に三匹で身を寄せ合った。可哀想に騙され、脅され、躾られているのだ。
「猫は嫌だって。。あなたは間違ってる。猫を追いかけ回すのヤメテ。」
「あなたは猫の代弁者にでもなったつもりですか?」
「私は猫に頼まれたから。。」
お姉さんは、それだけ言うと黙ってしまった。たぶん、伝えるべき事は全部伝えたつもりでいるのだろう。ふぅぅと出し切るように息を吹き出すと、ニャァと短く鳴いた。それに呼応するように三匹の猫達はお姉さんが運んできたトランクの中に収まるのだった。お姉さんは猫達がちゃんと収まったことを確認し、出来る限り揺れないよう丁寧にトランクを締め直すのだった。
「それじゃぁ私はもう行くね。。あまりイジメたらダメだよ。」
「イジメはしませんよ?イジメはね。」
お姉さんは、どこか満足した顔になるとトランクを持って街のほうへと歩いていった。
なんだったのだろうか?拍子抜けするというか、なんというか。ハッキリ言って良く分からない。猫から頼まれた?猫の言葉を理解できるのか・・。そもそも猫は話すのか。とにかく風変りなお姉さんだ。
僕はとりあえず帰ることにした。家路につくまでの間、考えることは猫のこととお姉さんのことばかり。猫と話せるというなら、あのお姉さんは猫に恋文を頼まれたりするのではないだろうか・・?もうすでに、次の休日が楽しみで仕方ない。僕ははやる気持ち抑え、働いた。顔はほころび、幸せは続く。猫のことを考えれば頑張って健気に働けるのだった。そうしてあっというまに時間が過ぎて休日になり、元気に猫を追いかけまわした。
「ほれ!僕とお話しよう!!」
「シャァァァァ」
「またまた!ホントは喜んでんだろ?!」
何匹も捕まえ、意思疎通した僕。愛を確かめ合った。ゴールインするんじゃないかと思った。僕がひとしきり満足すると、道端でお姉さんとバッタリ出くわした。お姉さんはとても困った表情をしている。僕は猫の気持ちをわざわざ確かめる必要もないので軽く会釈し、その場を去ろうとすると、お姉さんに呼び止められた。
「ねぇ。。どうして分かってくれないの。。?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆猫使いのトランクケース☆☆☆☆☆☆☆☆☆
猫を一匹から三匹持ち運べる。中には保冷剤や湯たんぽなどを収納でき、猫の快適な室温になるよう、気を配れる。猫のために作ったので、人間のことは考えられていない。重い。段差などあると一苦労。比較的おとなしい子だと長時間の収納も可能。