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人間が嫌い。。
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まだ、日が昇らないうちに家を出る。少しでも早く会いたいから。自転車を一生懸命漕ぐ、足が自然と、はやるのだ。愛はお金で買えないと僕は思う。だけど、お金は愛へと代えられる。僕が背負うリュックの中には大量の愛が詰まっていた。彼女に渡す。それだけで自然と僕から笑みがこぼれた。愛は人を動かす原動力となりえて、僕を動かした。
街についた。少しだけ日が昇り、辺りを薄暗く照らす。眠っているのかな?僕は街の通りを歩き、物陰やら陰になって狭い場所など、彼らが好みそうな場所を重点的に探した。けれど、探せど探せど見つからない。
「あ、あれ?」
リュックの中から僕の愛を足跡をつけるがごとく、彼女等の好みそうな場所に置いておく。些細でいい。それが僕の不安を取り除き、安心をくれる。街を何周か回った。足跡は荒らされた形跡はなく、それどころか気配すら感じられない。僕がリュックから取り出し、開けた、そのままの姿で、猫缶はその肉々しい中身を青空に向け、己が存在を誇示していた。
信じられないことに街から猫が消えた。忽然と何の前触れもなく。僕が垂らした涙のように猫缶は街の至る場所に置き捨てられた。この街ではあまり見なかったカラスがそれをつつくことで心配は不安から確信に至り絶望へと移り変わった。まだ、太陽が見えない頃から足を運んだというのに太陽の方が先にサヨナラしようとしていた。また明日。僕の震えは恐怖からくるものだった。
僕はたまらず、かかり付けの動物病院の先生のところへ足を運んだ。
「お前、金は?」
(猫缶をスッと差し出す)
先生は僕を見て悲しそうな顔をすると猫缶を無言で受け取り、ポケットへと乱暴に入れた。先生って猫なのかもしれない。狂った頭がそう呟くもナイナイナイと首を振って振り払った。嗚呼・・。
「お前さぁ。お前なぁ。まずな、自分を病院に連れていきな?おかしいんだから、あからさまに」
「僕のことはいいんだ・・・!」
先生は溜息をつくと、「猫缶分くらいは話聞いてやるよ。今日はどうした?」と厄介そうに聞いてきた。この人はなんだかんだで優しくていい人なのだ。
「猫が消えた」
「いや、あんなことしてたら、そりゃ嫌われるって」
唖然とした僕を見て、先生は苦虫を噛み潰したような表情になった。なぜ、人と僕との間には、これほど差異が生じてしまうのだろう?
「猫は僕のことが好きだし。僕も猫のことが好きだ・・・!」
僕は青ざめ、絞り出すようにそう言った。まさか僕が原因の一端として疑われるなど、思いもよらなかったのだ。
「ストーカーはみんなそう言う。勘違いなんだ。お前ら(ストーカー)にとってのほんの少しのズレがな、活断層くらいズレてんの。地震なの。自覚しろ。世間が揺れるだろ。」
「違う!僕のは純愛だ。あぁいう類とは一緒にしないでくれ!猫達は僕を待ってた。そう、待ってたんだよ!僕もそれを感じた。ねぇ・・。相思相愛ってこういうものだよ。」
「現にお前の前から猫が消えたんだろ?そうだろ?論より証拠だろ」
「何かあったんだよ。事件か事故か。僕はそれを解き明かさなくちゃならない。猫達は僕を待ってる。そんな気がするんだ。話が通じないとはね、君のとこに来たのは間違いだったかもしれないね。」
「なんで俺が叱られなきゃならんのだ。もう来るな。えぇい帰れ!」
「言われなくたってそうするさ!僕にそんな態度をとったんだ!今度は、君の前から僕が姿を消すかもしれないね!」
少しだけ憂さが晴れた僕は、冴えた頭で考えた。僕は猫のことなら大抵知り尽くしている。その僕が言う。これは異常事態だと。猫の集団疎開など、ついぞ聞いたことがない。まるで地震や津波天変地異の予兆かなにかみたいに。あの街には何かある。僕の予感は正しいものだったのだ。猫は集団生活を好まない。一匹一匹が独立している生き物だ。それが、まるで示し合わせたかのように消えた。こんなことがあるのだろうか?
次の週末も僕は、あの街へと明け方早くから足を運んだ。だけど、猫は居ない。廃墟のように色あせてしまった街をゾンビのようにして歩いた。どうにもあきらめがつかず猫を探すが見つからない。猫じゃらしが、たくさんの猫の尻尾に見えて草藪の中へ顔から突っ込んだ。そうして、その日の捜索はあきらめた。
そして、次の週末もその次の週末も・・・。
「店長。あの人きた」
「っち・・・。買いもしないで、猫の前に何時間も何時間も」
「私あの人、怖い」
猫に会えない帰り道。帰り道にあるペットショップで僕は心を慰めた。ペットショップにいって猫達を見つめる日々。いっそ、どこかの捨て猫を拾って、その子と結婚してしまおうか。結婚指輪は首輪だけど、何不自由ない生活を送らせて、寿命を全うさせてやろうか?追い詰められた僕は健全な思考へとシフトしようとしていた。休日の午前は猫を探すが会えない。午後には虚しくなり、ペットショップへと猫を見に行く。誰が僕から猫を奪ったのだろう・・。僕は半年あまりこの虚しい時間に埋没し、所々、人間の手引きだと思われる個所を発見した。巧妙に隠してはいるが、僕を舐めていたのだろう。あまりにしつこい僕に対して奴も痺れを切らし、どこかおざなりになってきていた。だが、その手練は僕を超えていて、尻尾すら掴めないのが今の現状であった。
「なあ、お前ウチで働けよ」
「僕は誰のものでもないんだよ。猫と同じさ」
たまに先生の手伝い(僕は動物を懐柔する手練手管には一目置かれている)をして、猫を触って心を回復した。だが、僕の心は爆発寸前の活火山のごとく、いつどういった結果が伴うのか予測は難しくなっていた。飼い猫はなんか違う。
そんなある日、ついに猫を発見した。いや、その日は半年間の遅れを取り戻すように猫が居た。猫が僕の元に戻ってきたのだ!猫達は必至に逃げるも、僕はこの猫と会えない半年間で街により詳しく正確になっていた。研鑽を怠ったことはなかったのだ。そうして一匹目の猫を捕まえた瞬間!地球全土の中で、この僕が一番輝いていたであろうこの瞬間!僕は、その一匹目の猫に猫缶をやり、恐くない恐くないと猫のツボを刺激しはじめた。気を許すかのように次第にゴロゴロ喉を震わした猫。僕の興奮度合いは絶頂だった!
「はぁはぁ。。。」
ニャァァァァァ
猫が気を失うまで僕は愛撫することを止めなかった。おぉっと、いけないいけない。僕は人目のつかない場所にそっと猫を横たえ、大量の猫缶でその姿を見えないよう隠してやった。それはまるで神様の祠のようだった。それからの僕に説明など不要だろう。街中にあふれた猫を片っ端から捕まえ抱きしめ、撫で、舐め、わやくちゃにし、ここは天国に違いない!と、前方が白くなり、ぶっ倒れるまで僕は猫を追いかけまわしたのだ。
「ふははははは、やってたったぜ」
僕は公園のベンチで幸福の余韻に浸っていた。汗だくで高笑いしながら空を見た。なにもかもが最高だった。今日ここで死んでもいい。僕の人生は今日この日のためにあったのかもしれなかった。猫缶がいっぱいだったリュックの中身は空になった。身体はクタクタだったがリュックも体も心さえも軽かった!最高だった。
「フフフフ・・アッハッハッハッハ!!!」
僕がベンチで高笑いを続けていると、大きなトランクケースが僕の目前で止まった。そして、そのトランクを運んできた女の人が僕の隣に座った。僕から見える位置でも、ベンチは3つ他にある。その3つから、わざわざ僕と同じベンチを選び、座ったのだ。年は20代だろうか。ジーンズに黒いスポーツウェアを着て、動きやすそうな服装だった。髪はショートで、なんとなく僕は黒猫を連想した。わざわざ僕の隣に座ったというのに僕と目を合わせることなく地面の1点をひたすら見つめている。僕はさすがに高笑いするのを止め、お姉さんを見た。お姉さんは自分からここに座ったというのに、とても居心地悪そうに視線をいたる所に散りばめている。どいてくれ、ということだろうか?このベンチに用事があるのかもしれない。もしかすると、誰か彼氏とでも待ち合わせをしていて、僕は邪魔ということかもしれなかった。僕は別にこのベンチには何の思い入れもないわけで、この幸せの余韻を邪魔されるのも誰かの邪魔をするのも嫌だった。僕は軽くなったリュックを背負い、その場から立ち去ろうとベンチを背に、歩き出そうとした。すると、服が何かに引っかかった。何事かと、後ろを振り向くと、お姉さんが僕の服をつまんでいた。
「あなた。。一体なんなの?。。」
お姉さんは、地面に向かって憂鬱そうに言った。