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あなたも誰かの愛玩動物なんだよ。
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僕の趣味は合法であるとここに記しておきたい。
ある都会の街中、何通りにも入り組んだ細い通路に広い通路。ここは僕の狩場だった。彼等、彼女等が通る道を立体的にマッピング。そうして幾重にも張り巡らされた通路をコチラで意図的に限定していく。彼等、彼女等は己の意志で逃げているように思っているのだろうが全て僕の手のひらの上の出来事である。確実に選択肢の少ないほうに追い詰めていき、そうして袋小路まで追い詰める。そうして最後の気力を振り絞り、逃げから戦いに移り変わった彼らを僕は抱きしめるのだ!そうして用意していた餌で懐柔し、ひとしきり体をマッサージしてやる。最初は嫌がっている彼等も僕の手練にあえなく篭絡し、ゴロゴロと喉を震わさざるえなくなるのである。ここか?ここがいいんだろ?さぁどうだ!もはや力が抜け、甘え始める彼等を待ってましたとばかりに撫で続ける。もうたまらんです。そういう顔をしはじめたら次はオヤツタイムだ。登山用のリュックから選り取り見取り猫缶やキャットフード、シーバー。フフフ。ストーカーに追われ、疲れ果て。固まった体をこれでもかというくらい揉み解された猫はもう勢いよくガツガツ喰らうしかないのである。僕の趣味は猫も僕も幸せになれる最高の趣味だ。
ある日、警察に事情聴取を受けた。なんでも近所の人から、『変な男が毎週、猫を追い回しています』と通報を受けたらしい。なんて奴なんだ!!僕はこの街と猫達には凄く詳しいんです!ぜひ犯人逮捕に協力させてください!と警官さんに申し上げたところ「君のことだよ・・」と冷めた目線を向けられた。温厚な僕も、さすがにこれには憤った。
「僕は誰よりも猫のことを考えています!」
この口頭から入った僕の演説は素晴らしいものだった。野良の猫といえ、それは地球が生み出した生命の賜物であり、いわば地球の飼い猫。そう定義できるのではないか。君達、人間はそれを我が物顔で所有物のように扱い、持て余したら捨てるか殺す。猫を飼う資格なんて言ってる輩が嫌いだ。そんなものを持ち合わせているかどうか考えること自体、傲慢なんだよ。僕は、この街で猫と共に暮らしているんだ!適度に運動させ、そうしてマッサージをする。食べ物だって健康で良いものを与える。いわば、親であり、友達であり、兄だよ。それを何だね?君は!!失礼じゃないか!!
警官さんは、うんうんとしきりに頷き、終始笑顔で僕に応対した。だが、目は笑っておらず、僕の話も何だか本当に頭に入っているのか怪しい素振りだった。警官さんは僕の話を一通り聞き終えたあと、まだ話し足りないんだ!という僕を制して
「立ち話もなんだしさ・・。残りは警察署で聞くよ」
そうして、僕をパトカーへと促した。「不審人物一名確保」無線で警官が通達する。確保・・。ね?僕はこの警官が何一つ分かっていない分からず屋で、僕を端から見下していたことに低い笑い声を漏らした。警官さんの態度はどんどん冷めていき、もはや業務的になっていることはあきらかだった。
「分かりましたよ。まぁ話し合えば僕の正しさは分かってもらえると思います。なんせ話の通じる人間同士なんですからね!」
僕は警官と帯同するふりをしてパトカーへと向かった。警官さんは、どこか遠い目をしている。僕を頭のおかしな奴だと決めつけているらしい。面倒ごとが増えたと内心、警察としては言ってはいけないことを考えているのかもしれない。僕は警官さんがパトカーの扉に手をかけ、扉を開けた瞬間、走り出した。一瞬、警官さんの反応が遅れた。開け放たれた扉をどうするか。それは人間にしか分からない悩み。普段猫と追いかけっこしている僕には人間との追いかけっこ等、ぬるいもので。すぐに警官さんは僕の姿を見失ったようだった。
もうここで、狩りはできない・・。
あくまで趣味なのである。趣味は人や親に迷惑をかけるようなものであってはいけないのだ。僕はこの街で出会った猫達にお別れをした。人間からは特に注視されず、なおかつ猫が好きな場所に食べ物を小分けにして置いた。
サヨウナラ
僕は誰に聞こえるまでもなく、そう呟き家路についた。
翌週、僕は新しい狩場を開拓するため、自転車を走らせていた。なんとなく猫の多そうな町というのは分かるものだ。いや、これは僕の持論なのだが、猫は街の治安に深く関わっている。その街の事情をしりたければ僕はまず猫を見る。何匹か見ればその街がどういった街なのかある程度推測できるのである。僕は狩場を探した。適度に入り組み、暖かいところが多く狭く細い場所が何通りもありそうで、餌が豊富に確保できる場所を。そういう場所は最近、減ったように思う。猫の住みやすさと人間の住みやすさは決して=ではありえない。僕は数ある街にあたりをつけ、そこを探した。
ある街に僕は驚いた。そこは猫達のために造られた街であった。
一見すると普通の街なのだが、妙に狭い場所や隠れやすい場所が多いというか、意図的に作られている。それは廃材や植物を利用し、人間にとって邪魔にならないよう工夫を凝らしてあるのだった。全体で見れば、その街がいかに意図的に作られたのか気付く人もいるだろうが、まさか、それが猫のためのものだと誰も思い当たることはないだろう。恐ろしく造られた街。俺でなきゃ見逃しちゃうね。信じらねぇ上玉だ。久々に血が騒ぐぜ。
俺の獲物だ・・。