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みかん2  作者: リュウ
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大学一の美女

 学祭の季節がやってきた。俺たちはバンド演奏をする機会が与えられるので、その準備に向けて忙しくなる。

 とはいえ他のサークルの発表もあるため、俺たちの演奏時間は限られている。しかしその分、ゼミの模擬店の方に回る必要もある。そのため、他の学生もそうなのだろうけど、学祭前後はかなり大変になる。

 しかしやっぱり、俺はバンド活動を最優先させたいと考えている。ゼミに対して不満があるわけではないが、バンド活動の方を大切にしたいと考えているし、サークルの方が人数が少ないから。


 そういうわけで、学祭前は普段よりバンド演奏の練習は熱心になっている。そのようにバンドの練習をしていても、学祭で行われる他のことが気になることもある。

「そういえば、うちの大学でもミスコンがあったんやったな」

練習の合間に、部室で祐志がそう言い出した。

「ヒラリーならグランプリに選ばれそうやな」

ミスコンの話を聞いた智矢が、そう言いだした。

「いや、私はバンド活動が一番大事ですから」

彼女は、恥ずかしそうにそう返した。

「ありがとう。でも、ミスコン出やへんかって進められてそうやな」

祐志も彼女に対してそう言った。すると、彼女は返事に困った顔をしていた。

 ということは、実際にミスコンの立候補を進められたということだろう。まあ、それも仕方ないだろう。少なくとも俺は、大学の中で彼女よりも綺麗な女の子を見たことがない。

 それだけに、俺は彼女にはミスコンに出てほしくないと思う。ミスコンに出たら多くの人に注目されて、他の男に彼女を狙われそうで怖いから。それに、大学のミスコンで事件があったという話も聞くから、彼女に怖い思いをさせたくない。

「ヒラリーには晴男先輩がいますから、ミスコンなんて出ない方がいいですよね」

ベースをいじりながら、ヒロがそう言い出した。普段あまり喋らないヒロがはっきりとそう言うなんて珍しい。そんなに彼女にミスコンに出てほしくないのだろうか。それは、ヒロが彼女のことを好きだからだろうか。いや、そんなことを考えたり聞き出すのはやめておこう。せっかく一緒にバンド活動を続けてくれているのだから。

「まあ、そんなんに出やんでも、ヒラリーはうちのサークルの中で一番の別嬪やでな」

智矢がそう言った。すると彼女は不思議そうに

「どうしてそんなにはっきり言えるんですか?」

と聞いていた。俺は、彼女のその反応を見て吹き出しそうになった。

「あほやな。うちのサークルはあんたの他に女子がおらんやろ⁉︎」

俺にそう言われた彼女は、また恥ずかしそうにしていた。

「なんかすみません。他に女子がいないから、唯一の女子は誰でもそうなりますよね。変な勘違いをしてしまいました」

彼女が、そう言い少し落ち込んでいた。

「いや、あんたは大学の中で一番可愛い」

俺は、独り言のようにそう言った。彼女から視線をそらしていたのに、自分が言ったことに急激に恥ずかしくなった。

「え…」

彼女も、俺の言葉にきょとんとしていたので、俺は更に恥ずかしくなった。

「そーゆー話は二人きりでしてくれバカップル!」

祐志にそう言われて、恥ずかしいがほっとした。彼女もそうだったらしい。

「いや、私より妹の方が可愛いですよ」

彼女がそう言い出した。

「ヒラリーって、妹がおるんや」

智矢がそう言った。俺は彼女に妹がいることを前から知っていたが、部内で話したことはなかったのだった。

「そうなんです」

彼女はそう言って、家族写真をメンバーに見せた。

「本当、可愛いな」

メンバーは口を揃えてそう言っていたが、

「でも、ヒラリーとだいぶ年が離れとるん?」

と聞いていた。

「はい。6つ下なので、今は中学生です」

「こんだけ年が離れとると、どっちが可愛いかって比べられへんな」

智矢は、彼女に対してそう言った。

「次の学祭は、妹と両親も遊びに来るんです」

彼女が嬉しそうにそう言った。そのことは俺も知らなかった。ということは、彼女の家族と会う可能性もあるのか。そう思うと、何だか緊張してしまう。

「じゃあ、あんたの家族に楽しんでもらうためにも頑張ろな」

俺はそう言い、またみんなで練習を再開した。


 俺たちのバンドは、学祭初日のオープニングを飾るという形でバンド演奏をすることになった。そのことに緊張感もあったがやっぱり嬉しいし、楽しみにしてきた。

 このバンド演奏のために前日は夜遅くまで準備する必要があったし、当日も朝早くに出る必要があった。

 そして学祭当日、前日の準備で少々疲れているはずなのだが、俺は発表の楽しみが先行しているのか、全く眠気を感じなかった。

「はじめて大勢の前で演奏するので、緊張します」

大学へ向かう俺の車の中で、彼女はそう言っていた。

「大丈夫やよ。あんたはいつも安定した演奏をしとるんやから」

俺は彼女にそう言った。実は、彼女とは違った緊張感があることは、誰にも言えなかった。

 学祭当日を迎えた大学は華やかに彩られ、既に大勢の人で賑わっていた。俺は去年の学祭にも参加していたが、やっぱり凄いと思うのだった。

 車を降りた俺は、いつも通り彼女のキーボードを抱えて、二人で会場へ向かうのだった。

「会場まで距離があるし、大変じゃないですか?」

彼女にそう言われたが、俺は

「あほやな。だからこそ、あんた一人に運ばせたらあんやろ」

と言って、キーボードを離さなかった。彼女は

「先輩って、しょっちゅう私のことあほ呼ばわりしますよね」

と拗ねながらも、

「でも、いつもありがとうございます」

とお礼を言ってくれた。俺は恥ずかしくて、

「いや、気にすんな。俺が勝手にやっとるだけやで」

と返した。俺がこうしているのは感謝されたいからではなく、彼女に対してかっこつけたいというだけなのだ。

 会場へ向かうと、既にバンドメンバーが揃っていたので何だかほっとした。

「おはようカップルさん。もう準備はできとるから、後は発表の時を待つだけやで」

祐志にそう言われた。

「ああ、頑張ろうな」

俺はそう言い、直前の練習をするのだった。

 本番の時間はすぐにやってきた。俺は、もう少し練習したいという気持ちもあったが、早く発表したかったので、テンションが上がっている。

「今日は来てくれてありがとうございます。学祭を楽しんでいってください」

ステージに上がった俺は、最初のMCとしてそう話した。

 見下ろすと、想像以上に多くの人が見ていることがわかった。彼女の家族もいるのだろうけど、どこにいるのかわからなかった。俺にとってはその方が、緊張せずに歌えるだろうか。そう思いながら、俺はマイクに向かって叫び始めた。

 俺は、多くの人に見られているという意識は多少あったが、喉の調子が良くいつも通り大声で歌うことができた。そして、いつも通り歌詞を間違えた。

 「お疲れ様です。先輩、歌詞間違えましたよね⁉︎」

発表の後、機材の片付けをしながら彼女に笑いながらそう言われた。やっぱりばれていたか。

「そんなこと言うなんて、あんたをあほ呼ばわりしてきた仕返しか?」

俺は、彼女に言われたことが悔しくて、そう返した。

「いや、私も少しミスしてしまったので、自分だけやなかったんやと思って」

「そうやったん?全然気付かへんかった」

彼女はいつも通り安定した演奏をしていると感心していたのだった。

「ミスが目立ってしまうボーカルって、大変ですね」

彼女にそう言われた。

「それって褒めとんの?それともばかにしとんの?」

笑われた後なので、疑心暗鬼になってしまう。

「凄いと思ったんですよ。私にはできないなって」

彼女にそう言われると、やっぱり照れる。

「そうや、この後って空いとる?」

俺は彼女にそう聞いた。

「ええ。模擬店の当番は夕方からです」

「そうか。俺もや。やからさ、これから一緒に学祭回らへん?さっき俺を笑った罰や」

俺はそう言って、にやりと笑った。

「はい」

彼女は、戸惑いながらも承諾してくれた。


 「あ、お姉ちゃんや!」

彼女と二人でキャンパス内を回り始めたときに、元気な女の子の声がした。

明里(あかり)!それからお父さんとお母さんも」

彼女が嬉しそうに手を振った。俺も、彼女の妹と両親が視界に入った。

「バンド演奏お疲れ様。めっちゃ良かったで」

明里ちゃんがそう言って、人目も気にせず彼女に抱きついた。

「ありがとう。私も明里たちが来てくれて嬉しい」

彼女はそう言って、明里ちゃんの頭を撫でた。

「そういえば、君は祐花里の…」

俺は彼女の父親と目が合い、そう言われた。彼女は、家族に俺の話をしていたと聞いている。

「はい。祐花里さんとお付き合いをさせていただいている、朝倉晴男です」

俺は、緊張しながら彼女の両親に自己紹介をした。

「祐花里の先輩やったっけ?話を聞いたことがあって。これからも娘のことをよろしくお願いします」

彼女の父親にそう言われて、嬉しいしほっとした。これは、家族公認の関係と思っていいよな?俺はお袋に、彼女の話どころか連絡もまともに取っていないが。

「祐花里が大学で楽しく過ごしとるみたいで良かった」

彼女の母親も、笑顔でそう言っていた。

 写真で彼女の家族を見たことはあるが、優しそうな両親だし、仲が良さそうで羨ましくなる。しかも、彼女の父親は小児科医なんだよな。彼女もその影響で、医者を目指しているし。俺の親父より年上だろうけど、派手な印象はないが端正な顔立ちをしている。写真で見たときからそう思っていた。実際に見ると思っていたより小柄ながら写真よりかっこいいと思った。彼女にとって一番身近な男性がこんな人だと思うと、少し気後れしてしまう。

 でも、せっかくそんな彼女の家族が認めてくれているようなのだから、後ろめたさを感じることなく、彼女と一緒にいていいよな?


 彼女の家族と別れてからは、完全に二人きりになった。会場は学祭が始まったときよりも人が多くなり、彼女とはぐれてしまいそうになる。そう思った俺は、自然と彼女の手を握り締めていた。

「先輩?」

俺に手を握られた彼女は、恥ずかしそうに困惑していた。

「はぐれたら困るやろ?もう付き合ってから何ヶ月も経つんやで、これくらいで恥ずかしがるなよ」

そう言う俺も、恥ずかしくないわけではないからお互い様か。

「そうや、何か食べたいもんある?おねだりしてくれたら()うたるけど」

恥ずかしさを紛らわすためにも、彼女にそう聞いた。

「それは、かっこつけたいからですか?」

彼女にそう言われて、色々な意味でどきりとした。

「ああそうや。それ、あんたが言う台詞か?」

最近彼女が生意気になってきた気がする。ただ、そんなところも可愛いと思ってしまう。

「本当、楽しい罰ゲームですね」

彼女が嬉しそうにそう言う。そう、これは俺を笑った彼女への罰と言って誘ったのだった。なのに、また生意気を言われるなんて。だがやっぱり、彼女と一緒に居られる時間は何をしていても楽しいと思うのだった。


 こうして、彼女と過ごした学祭は、去年よりもずっと楽しいと思えるのだった。しかし、学祭の大変さは同じだ。なので、学祭の行事が全て終わって片付けも全て終わった頃には、俺たちは疲れ果ててしまった。

 彼女は初めての学祭という緊張感もあったのか、俺以上に疲れているようだった。

「着いたで」

俺の車に乗せて帰宅するときには、彼女はうとうとと眠ってしまっていた。

「すみません、私…」

目を覚ました彼女が、はっとしていた。

「初めての学祭で疲れたんやな。よう頑張ってくれたな」

俺は、彼女に向かってそう微笑んだ。

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