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みかん2  作者: リュウ
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一人暮らし

 無事大学受験に成功した俺は、大学のある京都に引っ越した。これからは、夢に見た1人暮らしだ。もうお袋にとやかく言われることはない。

 しかし、1人暮らしは予想以上に大変だった。まず食事に困った。実は俺、料理が大の苦手なのだ。恥かしい話、まともに作れる料理はない。

 頑張って料理をしてみたが、いきなり包丁で手を切ってしまった。それも深く切ってしまったため、大量に出血した。

 痛かったが、俺は自分の血に動揺するような小心者ではない。すぐに止血のことを考えた。ただ、このことが原因でしばらく包丁を使うことが怖くなるのだが。

「消毒液と絆創膏があったよな」

 引っ越すときにお袋がコンパクトな救急箱を持たせてくれていたことを思い出した。それを見つけて、俺は迷わずに止血することができた。そのときに、看護師をしているお袋に少しだけ感謝した。

 しかし、俺はその後も料理に失敗し続けた。最終的には炊飯器に材料をぶち込んで、炊飯器を壊してしまった。諦めて惣菜で済ましたこともあったが、大学生がそれを続けるのは厳しい。

 その結果、料理の失敗と惣菜頼りの生活の繰り返しとなってしまった。そして、諦めてカップ麺でしのいだこともあった。

 お袋は、忙しいながらも料理は作ってくれていたな。『おふくろの味』はあまり美味しくはなかったが、ありがたいことだったんだなと実感した。

 しかし、掃除は昔から自然としていたので困らなかった。実家に居たころは両親が散らかした部屋を片付けていたくらいだ。両親はそれを当たり前のように思っていたようで、感謝はされていなかったが。

 兄弟もいないから一人暮らしは実家での生活とそう変わりはないだろうと思っていたが、そうではないと実感した。

 かといって寂しいわけではない。お袋に干渉されないという自由は確かにあった。実家になんて帰るもんか。そう思い、お袋と連絡を取ることはほとんどなかった。


「初めまして」

引っ越した1週間後、隣の部屋に住む男子学生が俺の部屋を訪ねてきた。

「1年生の村田です。生活音で迷惑をかけるかもしれないけどよろしくお願いします」

「朝倉です。俺も1年生です。こちらこそ迷惑をかけるかもしれへんけどよろしくお願いします」

それから、村田君とは少し親しい間柄になっていった。

「朝倉君助けて!」

ある夜、村田君がそう叫んで何度も俺の部屋のチャイムを押したことがあった。

「なんやねん。せわしないなあ」

そろそろ寝ようかと思っていた寝間着姿の俺は、そう言ってドアを開けた。

「ゴキブリが出た。退治して!」

「はい?」

俺は耳を疑った。何で自分でゴキブリ退治もできないんだよ。

「お願いお願い。一生のお願い!」

落ち着きなくそう言う様子を見て、何で大学生にもなって同級生の男にこんなことを言われるんだとさらにあきれてしまった。

 彼の部屋を見ると、確かにゴキブリがいた。

「ほうきか何かある?」

そう聞いたが、村田君はゴキブリから目をそらしたまま

「ない。何でもええから退治して!」

と言っていた。

「しゃあないなー」

俺は、素足のままゴキブリを踏み殺した。

「退治したで。じゃあな」

俺は、もう退治したからいいだろうと思って、自分の部屋に戻ろうと思った。

「ちょっと待てや。こんなえぐい死体を片付けずに殺り逃げする気か!」

「殺り逃げ⁉いやな言い方するな」

俺が殺したゴキブリは、内臓が飛び出た状態だ。確かにゴキブリが嫌いな人にとっては見ていられない状態かもしれないな。

 そう思って、ティッシュでヤツの死骸を包んで捨てた。

「もうええやろ?これからはホウ酸団子でも置いてゴキブリが来やへんようにしといてな」

そう言って、やっと自分の部屋に戻れた。

 そうだ、俺は素足でゴキブリを踏んづけたから、足を洗った方がいいよな?すでに入浴はしたが、不潔だろうから。


 大学生活はというと、最初の科目登録はわけもわからず苦戦したが、その後の授業は順調に進んでいる。

 授業で席が近い人とは自然に会話をするようになり、親しい人も増えていった。出身地が京都ではない学生も多く、地元の話で盛り上がることもよくあった。

 大学へは、実家にいるうちに運転免許を取得できたので、親父が乗っていた車で通っている。

最初は親父の車ということに抵抗があったが、換気してタバコの臭いを消し、車の中も整理して自分の物を置いたら、すっかりその感情もなくなり、「俺の車」と思えるようになった。

 親父の車はそこそこ年数が経っていたが、なかなかいい車で、走り心地は悪くなかった。デザインもかっこよかったし、大学生が乗るにはもったいないくらいの車だったのだ。親父のことだから、かっこつけていい車を選んだのだろうと思いながら、ハンドルを握るのだった。


 それから俺は、軽音楽サークルに入った。ギターなどの楽器は演奏したことはないが、歌うのが好きなので、ボーカルを希望した。すると、あっさりとボーカリストになれた。

ここで先輩に、

「お前の顔はボーカルだ」

と言われた。ボーカルに顔って関係あんのか?でも、

「歌うまいな。楽器せんでもええからボーカルやんなよ」

とも言ってもらえたから嬉しかった。

 それに、楽器を使わないから買わなきゃいけないものもないし、練習も相当大声出さない限り、近所迷惑にもならない。俺の歌が隣の部屋の村田君に聞こえていたら恥ずかしいが。

 歌うのはすっきりした気分になるから気持ちいい。バンドのメンバーも仲が良くて、一緒に遊びに行くことも多い。タバコを吸っている人もいるが、俺の両親と同じタバコを吸っている人はいなかった。


 この大学での生活が4年続くと思うと、とても嬉しくなった。この大学に入れて良かったと思うには早いのかもしれないが。

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