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犯罪

「『容疑』と来たか・・・困ったものだな。さっきも言っただろう、ユリナ嬢は自発的意思で『此処』に来たのだと。別に『誘拐』では無いぞ?」

成本は少々苛ついている様子だ。

ハヤトは構わず、ツカツカと成本に近寄ると、目の前にどっかと座った。

「・・・『容疑』は『誘拐』じゃねぇ。そうじゃなくって単純に『亜人に対する売血行為』の禁止規定違反だよ。これが亜人特別法の重大犯罪である以上、オレが出張るのが『スジ』って事になりそうなんでな」

「『売血』だと?・・・何の話かな?取締官君」

成本の額に皺が寄るのが見てとれる。

「・・・アンタのトコの執事、『バラド』って言ってたな?そいつ、問題の『ニッポウ・グローバル』の役員に名前を連ねてるじゃねーか。税務署で確認したから、これは確かだ」

「・・・・税務署、とはね」

ふん、と成本が苦笑いを浮かべる。

ある種の権力者にとって『税務署』は警察よりもタチが悪い。アメリカの伝説的ギャング、アル・カポネが逮捕された切っ掛けを作ったのも税務署なのだ。

「それで、そのニッポウさんの『経費』を見たんだ。そしたら医療用具や実験機器を扱うアストロ商事からの『購入』が、やたら目についてよ。それで今度はそのアストロ商事の売上を調べたら・・・ニッポウ・グローバルに採血関連の機器や消耗品を売ってんだよ。つまり、(くだん)のニッポウ・グローバルって会社は『血液』を売っている可能性がある・・・と推察できるのさ」

成本は黙っている。

「そんで今度はニッポウさんが、その血液を『何処に販売しているのか』を調べた。いや、ニッポウの会計士さんが真面目で助かったよ。まぁ、不真面目にやると何処かで整合がとれなくなって税務署に突入されるから、それは良い選択だろうが・・・そしたら、相手先は『ナイアガラ・ソフト』とか『グローバル・モータース』とか、世界に冠たる『亜人企業』が揃い踏みじゃねーか。これが何を意味するか、猿でも理解るよなぁ?」

「ほう・・・私には分からんがね」

「しらばっくれんじゃねーよ。そこの『ユリナ』お嬢さんだよ。さっき自分で『1/32の亜人混血児』だって言ってたろ?大鷲部長(あじんにくわしいやつ)に訊いたよ。『1/32の血には特別な意味がある』ってな。唯でさえ『人間の血液』には『良い値』が付くんだろ?それが更に『プレミア物』となりゃぁ・・・さぞかし大儲けが出来るって話じゃねーのか?まったく・・・トンだ『健康食品』だぜ!」

ククク・・・と成本が肩を揺すって笑う。

「恐れいるよ、全く。これだけの時間で、よくそこまでが調べがついたものだな」

『成本の動きがぎこちない』ハヤトは、そう感じ取った。

さては、何か企んでやがるな・・・

「だが、アンタは途中で『分前が惜しくなった』と。違うかい?『自分だけで、それを独占出来ないか・・・』ってな。そう考えて、情報をユリナにリークして『(かくま)う』事にしたんじゃねぇのかよ!」

やはり、成本の動きが不自然だ。明らかに何かを狙っている。

「さてな、貴様の推論なんぞに興味は無いが・・・それは執事である『バラド』の話だろう。私とは無関係じゃないのかね?」

「おいおい、政治家の言い訳じゃあるまいし『それは秘書が勝手にした事で』で済むとでも思ってんのか?んな、わきゃぁねーよな。どうせ監視の目がユルいケイマン諸島か何かを経由してアンタに『裏金』が入るルートが何かあンだろ?だが、徹底的に調べれば必ず『ボロ』は出るだろうぜ?」

そこまで言って、ハヤトは立ち上がった。

「アンタに『そういう容疑』がある以上、ユリナを此処に置いておく事はできん。『合法的に』連れ帰らせてもらうぞ?」

ハヤトはユリナの方をちらりと見る。

「・・・。」

当のユリナはじっと黙ったまま、ソッポを向いている。

成本は不敵な笑みを浮かべていた。

「・・・嫌だ、と言ったら?」

『何かする気だな』と、ハヤトは悟った。

吸血鬼の身体能力は人間を遥かに凌駕するが、それは飽くまで『獣化』した場合の話だ。人間の姿では大した差は出ない。そして吸血鬼が『獣化』するには数秒から数分の時間が必要である。なので、『強制執行』をするには、その獣化するタイムラグを狙うのがベストなのだ。

無論、『それ』は相手も理解している。獣化するのなら、どうにかしてハヤトを『足止め』して時間を稼がなければならない。

「・・・おい。言っておくが、ヘンな気を起こすんじゃねーぞ?オレはこういう修羅場を散々潜り抜けて、今があるんだ。分かるかい?ヤケを起こしても『オレには勝てない』ぞ?」

ハヤトは腰のホルスターから愛銃を抜き、銃口を成本の方に向けた。

「おやおや、『S&WのM29』か・・・.44マグナム弾とは随分と下品な銃だな。ハリウッドスターでも気取ってるのかね?」

「いや・・・悪人の『面の皮が厚い』ってのは、人間も亜人も同じなんでね。相応の装備が要るだけの事だ」

ひとたび吸血鬼が獣化すれば皮膚の硬度が強化されるので、警察装備の拳銃ではまったく歯が立たないのだ。

「ヘンな気、か・・・はてな・・・意味が分からんが・・・」

ふたりの間に張り詰めた空気が流れる。

そして、先に動いたのはハヤトだった。


ドゴォォー・・・・・ン!


.44マグナム弾が耳をつんざく轟音を上げる。

だが、その銃口は『成本』の方ではなく真逆の、ハヤトの真後ろに向いていた。

ギャォォォォ!!!

ハヤトの背後でうめき声がした。

「あ・・・・あ・・・・っ!」

成本はソファーに座ったまま、ガタガタと震えている。

そして、ゆっくりとハヤトが後ろを振り返った。

ギャオ!ギャォォッッッ!

そこには、完璧に獣化した吸血鬼が血を流しながら転げ回っていた。

「フン・・・やはりそうか。なぁ『執事』さんよ。アンタが本物の『成本(あじん)』なんだろ?」

44マグナムの銃口からはまだ、薬莢が焦げた煙が漂っていた。


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