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調査

"はぁァぁ?税務署ぉ?オイオイ、オメー何で今頃『税務署』なんだヨ?住民税の滞納でも思いだしたカー?第一、こんな時間にお役所様が仕事してるハズがねぇダろー"

だが、ハヤトの愛車は構わずに街中目掛けて進んでいる。

「・・・いや、時間なら大丈夫だ・・・多分な。何故なら今日は『木曜日』だろ?最近のお役所は『ノー残業デー』とやらで、週末の金曜日は残業が禁止されてるからよ。結構な話かも知れんが『だから』と言って仕事量そのものが減るワケじゃねーから、『その前日』に頑張って仕事を(こな)しておくしかねぇんだよ」

"ハハッー!現代版『朝三暮四』かヨ!アホな話だネー。んで『今日は遅くまで残ってるだろう』って読みカい?"

「ああ。税務署の入ってるビルの横はオレも夜中によく通るが、週中で12時前に消灯しているのを見るのは稀だからな・・・。特にこの時期は忙しいハズなんだ」

街中は、帰宅ラッシュも一段落して走りやすくなっていた。


「・・・どうもすいませんね、こんな遅がけに押しかけまして・・・」

対応してくれた税務署の職員に、ハヤトが頭を下げる。

「いえいえ、そちらもご苦労様です。亜人検察庁の大鷲部長からも先程お電話を頂戴いたしておりますので、お気遣いなく。我々で何かお役に立てる事がございましたら」

「ありがとうございます。とりあえず、各社の法人税に関するデータベースにアクセスしたいんですがね」

「承知しました、ではこちらに・・・」

職員がハヤトをバソコンの前に案内する。

「これを使ってください。何しろ、機密程度が高いデータはWEBサーバに接続していないので、特定のPCからしか検索出来んのです」

「了解です。では、暫く借りますんで・・・」

ハヤトは職員からパソコンを借り、データのチェックを始める。

「まずは・・・問題のニッポウ・グローバル社だが・・・あるな・・・コレか」

画面に顔を近づけて、データを睨む。

「まず、住所は・・・合ってるな。狩居沢市か。やっはり、別荘地のド真ん中じゃねーか・・・こんな処で業種が『健康食品の輸出』って言われてもなぁ・・・都心でもなけりゃぁ、空港や港湾近くってワケでもねーし・・・おや?」

ハヤトの眼がひとつのデータに止まった。

「売上が・・・何だこりゃ?一昨年が20億円なのに対して、去年がたったの600万円?えらく差があるじゃねーか。更にその前年が1億円と・・・随分と奇妙な売上推移だな?」

そして、更にデータをチェックする。

「従業員数が・・・8名だけど・・・うち、オーナーの爺ィを含めて6名が『役員』?しかも・・・これは外国人か?アルファベットの名前もあるぞ?何だかキナ臭くなってきたな・・・単なるペーパーカンパニーじゃぁ無いようだが・・・ん?」

ふと、役員一覧の中に見覚えのある名前をハヤトが見つける。

「常務執行役員・芳倉茂蔵・・・?ええっと・・・何処かで聞いたぞ・・・芳・・・倉・・・そうだ!」

ポンと、ハヤトが膝を叩く。

「思い出した、阿久里の家で夫人が『運転手の芳倉が』と言ってたんだ・・・珍しい名字だし、単なる偶然じゃぁ無さそうだな・・・」

ハヤトは急いで席を立ち、さきほどの職員を呼んだ。そして「個人の所得税の資料を見たい」と要請した。

果たして。ハヤトのカンは的中していた。

「やっぱり・・・芳倉茂蔵、確かに阿久里財閥の一角、阿久里運輸の勤務になっているな。それと、ニッポウ・グローバルで僅かだが役員報酬を得ている。・・・なるほど、そうか!」

ユリナは『ある人から情報を得た』と言っていた。その『ある人』はこの芳倉である可能性が高い。彼が『内通』してユリナに事情を暴露したのでは無いだろうか。

「つまりアレだな。『芳倉』がニッポウ・グローバル社の『役員』をしているという事は、この会社と阿久里は深く繋がっているワケだ。あンの、クソ親父め・・・『会社の所在は知らん』とか言って・・・大嘘をつきやがったな・・・」

チッ・・・とハヤトが舌打ちをする。

それから、ハヤトは時計を睨みつつも「何か他に手がかりはないか」と、他のデータを漁り始めた。

「くそ・・・調べれば調べるほど色々出てくるじゃねぇか・・・こいつは大事だぞ・・・ええっと・・・成本財閥の関連は・・・と。いや待て」

ハヤトが手を止める。

「そう言えば・・・成本の野郎が執事の事を『バラド』と呼んでたな・・・」

そして、再びニッポウ・グローバル社の役員名簿を確認する。

「・・・あった!やはり、役員名簿に「Barad(バラド)」とあるぞ。くそ・・・ややこしい話だな、これがもし『あの執事』だとしたら、成本も『この会社』に関わっているって事か・・・アイツら、裏で何かツルんでんな・・・?だから阿久里の親父も表立って成本に抗議しないってワケか・・・」

よし、とハヤトはパソコンを離れた。

「すいません、ありがとうございました!」

職員に礼を言うと、ハヤトは足早に愛車へと戻った。

「いくぞ!チャンキー」

車のエンジンが回転を始める。

"よぉ!いいデータが取れたミテェだな!"

「ああ・・・それとな、チト調べたい事がある。『蛇の道は蛇』というからな・・・亜人検察庁の大鷲部長(わっしー)に無線を繋いでくれ」

ほどなく、無線機の向こうに大鷲部長が出る。

「・・・どうだ?何か、分かったか?」

「ああ・・・だがその前にひとつ、アンタに聞きたい事があってな。『もしかしたら』と思ったが、確信がねぇ。これはもう同じ『亜人』である、アンタに聞くしか無いと思ってね」

「・・・何だ?」

亜人検察庁は亜人の犯罪を捜査する組織だが、その組織が『人類』ばかりで構成されていると亜人差別を助長し、ヘタをすると罪のない亜人が殺される危険もある・・・という議論は発足当初からあったのだ。そのため、検察庁トップは人類代表が座るが、その実行部隊の長は亜人から選出されるのが慣例なのだ。

「1/32だ。・・・何か身に覚えのある数字じゃぁないのか?」

「・・・・っ!」

無線の奥で、大鷲部長が返答に窮しているのが分かる。

「何故、それを知っている・・・都市伝説・・・・だぞ・・・『それ』は・・・」

「言い訳はいい。兎に角、知ってる事を教えな」

「うう・・・良いか?飽くまで『噂』だからな?そこの処を間違うなよ?・・・古来より亜人の先祖から『言い伝えられてきた話』なんだ。『若い女性の血』は確かに、亜人の能力を維持・強化するのにとても役立つ・・・しかし、だ。亜人の血を『1/32』だけ持っている人間の女性の血は・・・『更に高い壁を超える力が手に入る』とされるんだ・・・」

ようやく、ハヤトには事件の全容が見えて来た気がする。

「・・・分かったよ。今からチャンキーにこっちで得た情報をそちらに送らせる。すまんが『捜査令状』を用意しといてくれ。これは・・・単なる『家出』なんかじぁねぇ。かなり大掛かりな『亜人犯罪』だ!」


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