幼き彼女
文章が汚くてすまない……本当にすまない……。
「起きて」
ん、声が・・・・。
「もう、起きてよ」
誰だよ・・・・もう少し寝かせてくれよ。
「起きてってば!」
腹部に軽いが、それでも強い衝撃。同時にまどろみから持ち上げられる。
衝撃の正体は腹部の上に跨る少女だった。
「ぐへえっ、何しやがる!」
衝撃もそうだがその体制はまずいだろおい。
「あ、やっと起きた!遅刻だよ遅刻」
「あ?何言って・・・・。・・・・!?やべっ」
急いで時計を見る。
・・・・まずい、遅刻だ。
早く準備しなければ。
「早く早く!ご飯食べてる時間ないよ!制服に着替えて、顔洗って!」
「・・・・だな。悪い、毎朝毎朝」
「どしたの。急に改まったりして。翔ちゃんらしくない」
「確かにそうだ」
「・・・・でもまあ、これはわたしが好きでやってることだよ。それより早くしないとホントに遅刻!」
走る。走る。走る。
じゃないとマジで遅刻するから。
「ああもう!翔ちゃん起きるの遅いからいつも遅刻しかけるじゃん!」
「じゃあ別に来なくてもいいんだぞ」
「だーかーらー、わたしが好きでやってることだって言ってるでしょ!」
「・・・・なんか言ってることおかしくないか?ホント、変な奴」
「は!?何さ何さ、人がせっかく好意でおこしに行ってあげてるのに!」
走りながら横を向いて胸を張っている少女(器用だな)。だがまあ、胸は控えめにしかないのだが。
コイツの名は葉月。背が平均より小さくて、胸もほぼぺったん。前髪はぱっつんで、ロングの黒髪。
幼い容姿だが、足とかは妙に肉付きがいいというか、太くはないのだが、背徳感があってむしろエロい。
黒タイツ履いてるときとかマジでエロい。ちなみに制服姿のときはほとんど黒タイツ。
毎朝、お寝坊さんな俺を起こしに来てくれる幼馴染。
教室につく。
時計を見れば、もうすぐHR開始の時刻だった。
「ふっ・・・・ふっ・・・・まっ間に合った・・・・」
「そうだな」
「何でそんな息乱れてないの!?」
「だってお前のペースに合わせて走ってたし。流石に起こしてくれた奴を見捨てて自分だけ全速力で先に行ったりはしねえよ」
「そっか。ありがとね」
そういって葉月は笑う。
いや、むしろ礼を言うのは毎朝起こしてもらってる俺の方で、俺に構わなきゃ毎日葉月はゆっくり歩いて学校行けるはずなんだがなあ。
「お、来たな夫婦」
そう俺たちに話しかけてきたのはクラスメイトくんだった。
別に特筆すべきことでもないので名前は伏せる。
「夫婦じゃねえよ」
「まあたまた。毎日一緒に登校してんじゃんかよ。まったくこんなぎりぎりに来るとか、その幼な妻と何やってたんだよ」
「幼な・・・・妻・・・・?」
葉月がなんかショック受けてる。
うん、その容姿のせいだね。ただでさえ幼いのになぜわざわざ髪型まで幼くするのかね。
「幼な妻言うな!まだだよ!まだ終わってないよ、成長期!今日は昨夜より1㎜くらい見える景色が高くなった気がするもん!」
「よしよし。それを『気のせい』っていうんだよ~」
「頭撫でるな!クラスメイトくんも翔ちゃんも!」
「つい、な」
「そうそう。なんか葉月さんって撫でたくなるんだよなー。これでもう少し大人っぽさがあれば絶対モテるよなー、かわいいし」
「・・・・だそうだ。よかったな、もう少し大きくなればモテるってよ、かわいいし」
「からかわないでよ!――――――わりと真剣なんだよ?わたし。このままじゃ一生周りから子ども扱いされるよ」
そういって俯く葉月。
確かに初対面だったらまず確実に何歳か年下だって思うな俺も。
まあ、顔はかわいい・・・・かもしれない。
「こんなんじゃ、絶対振り向いてもらえない・・・・」
「え?葉月さん好きなやついたのか!?浮気されてたぞ翔太!」
「ち、違うよ!第一わたしが翔ちゃんと夫婦だっていう前提を撤回しなさい!」
「だ、そうだ。なんか言ってやれよ、翔太。・・・・翔太?」
葉月、好きな奴いたんだな。
まあ、見た目はともかく中身は年頃の女の子なのだ。恋だってするだろう。
でも、好きな奴、いたんだな・・・・。
「・・・・おーい、翔太?大丈夫かー」
「あ、わ、悪い。それより、もうHR始まるぞ」
「げ、マジだ。そんじゃあとでなお二人さん!」
「うん」
「・・・・ああ」
授業の内容が頭に入らない。
唐突だが、俺は葉月のことが好きだ。
あの撫でたくなる頭も、しゃべり方も、すぐ大きな声を出すけれど、素直なところも。あの小さいけれど愛らしい容姿も全部。
けれど俺はロリコンというわけでもない。別に小学生を見ても動悸が激しくなったりするわけでもない。だが、葉月を見ていると、動悸が激しくなる。苦しくなる。
だからショックだった。葉月に好きなやつがいると知って。
すごく自意識過剰な話だが、正直、葉月も俺のことを好きでいてくれているんじゃないかという期待が少しばかりだが、あった。
毎朝俺の世話を焼いてくれて、好きでやっている、なんて言われて勘違いしていた。
幼馴染がいるやつならだれでも一度は妄想することだろう。
実はこいつ、俺のこと好きなんじゃないか、と。
でも、実際は違った。
そりゃそうだ、葉月からの接触はあっても、俺から葉月にアクションを起こしたことなどほとんどない。
そんな俺のどこを好きになるっていうのだ。
うん、叶わぬ恋だ。しばらく引きずるだろうが、諦めよう。そして、葉月の思いが成就したら、思いっきり祝ってやろう。
放課後、葉月と共に下駄箱へ向かうと一通の手紙が入っていた。
どうやら呼び出しのようだったので、なぜだか凄く不安そうな顔をしていた葉月を先に帰らせると、俺は呼び出された場所、屋上へ向かった。
ラブレターかとも思ったが、つい数時間前、俺は失恋したばかりなのだ。また勘違いで、ショックを受けるくらいなら、そんな期待は最初から持たない方がいいだろう。
そう思って屋上へたどり着くと、呼び出し人と思しき一人の少女がいた。
中々に整った顔立ちで、葉月が純粋無垢の印象が強い可愛さなら、彼女は清楚で静かな美貌だった。
彼女は開口一番に、言った。
「好きです。付き合って下さい」
思考が停止した。
「は・・・・・・」
咄嗟に出た声は、疑問の色すら帯びておらず、ただ息が漏れただけの音だ。
そんな俺に彼女は続けた。
「好きです。私と、付き合ってもらえませんか」
「え、ちょ、は?お、俺?俺に言ってるのか?」
「はい。他に誰がいるんですか」
どういうことだよ。こんな子知り合いに・・・・あ。
そうだ、クラスメイトだ。いつも教室の片隅で本を読んでいる子。
でも俺ほとんど話したことないぞ。
「俺、君とほとんど話したことないんだが」
「はい。でも、翔太君、優しいです。話すたびに私に優しくしてくれた」
「それは・・・・」
俺がいつもやっていることだ。
嫌われたくないから、相手によく思われたいから、表面上は温厚な男子を演じている。
大多数の人と分け隔てなく話せるかわり特定の誰かと仲良くはしないしできない、相手も俺が本心から話していないことを無意識に察しているのだろう。おかげで俺に友達はほとんどいない。
「それで、返事の方は・・・・」
「それは・・・・」
正直、よくわからない。
こんなきれいな子に告白されたのだ、好きと、言われたのだ。
でも、相手は俺の一部しか見ていない。俺も相手のことを知らな過ぎる。
―――――それでもいいじゃないかと、俺の中の何かがささやいた。
お前はまだ葉月を諦めきれていない。なら、この子と付き合って、好きあえば、きっと忘れられる。
だから、それでいいじゃないか、と。
それで、いいのだろうか。
わからない。わからない。・・・・わからない。
「少し、時間をくれないか」
下駄箱へ向かい、靴を取り、履き替える。
昇降口出ると、葉月がいた。
「なんで、まだいるんだよ」
「一緒に帰りたいからね」
「・・・・そうか」
「どうかした?」
葉月が顔を覗き込んでくる。
動悸が激しくなる。
駄目だ、まだ割り切れてない。
「・・・・なんでもない。行こう」
「もしかして・・・・告白された?」
「・・・・何で知ってるんだよ」
「え・・・・。嘘、本当に?」
隠しても仕方ない。まあ、こいつは別に俺を何とも思っていないのだろうし。
「ああ」
「そんな・・・・」
葉月は酷くショックを受けたような顔をしていた。
何でお前がそんな顔をするんだ。
「何でお前がそんな顔するんだよ」
「え?い、いや!ううん、何でもない!よかったね!」
「?」
先ほどの顔から一変、笑顔になる。
ただ、その顔は少し引き攣っている。
「そういえばさ」
「な、なに?」
「俺、お前のこと好きだったんだ」
「へ・・・・う、嘘だ、前言ってたじゃん。翔ちゃん、大人の女の人が好きだって!」
「そういうこと言ったこともあったな。あー、うん。あれ嘘だ。お前を好きだって悟られないためのカモフラージュ。俺はお前のこと大好きだった」
何故だか、恥ずかしげもなく、はっきりと言えた。
振られるとわかりきっているから、その開き直りからかもしれない。
「大好き、だった?過去形?」
「いや、ちがう。じつはまだ好きだ。お前のことが。でも、諦めようって思う。お前に好きな人がいるなら」
「・・・・わたしも」
「?」
「わたしも好きだよ」
「は!?」
な、ちょ、ど、どういうことだ!?
葉月は好きな奴がいて、それで、ええと?
「だから!今朝話してた私の好きな人っていうのは、翔ちゃんのことなの」
「は!?ふ、ふざけんな!お前に好きな奴がいるって知って、諦めようって思ってたんだぞ!俺の覚悟返せ!純情返せ!」
「ええええ!?酷くない!?でも、わたし前々から言ってたじゃん!翔ちゃんのこと好きだって!」
「は!?」
え、前々から?そんなこと言ったって・・・・ん?まさか・・・・。
今朝からの葉月の言動を思い返す。なるべく鮮明に、はっきりと。
「これはわたしが『好き』でやってることだよ。それより早くしないとホントに遅刻!」
「でもまあ、これはわたしが『好き』でやってることだよ」
「何さ何さ、人がせっかく『好意』でおこしに行ってあげてるのに!」
あとは・・・・
「え?葉月さん好きなやついたのか!?浮気されてたぞ翔太!」「ち、違うよ!」
「ほらね」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
「もう、全然気づいてくれないんだもん。一日一回は最低でも言ってる」
「気づくか!」
・・・・。
えっと・・・・。
葉月の気持ちを知ったわけだが。
「じゃあ。あ、あの。葉月さん」
「なんでしょうか翔ちゃん」
「つ、付き合ってもらえますかね?」
「いいですよ!こちらこそ付き合ってほしいです!」
あれ、なんかあっけねえな・・・・。
思ってたのと違う。
「わーい!わーい!やったぁ!やっと実ったよー!」
葉月が子供のように飛び跳ねる。
いや、マジで子供にしか見えない。
「お、おう。俺も、うれしいよ、うん」
「―――――で、翔ちゃん」
ギラッと、人を殺しそうな目で葉月がこちらを見た。
な、なんだこの気迫、こいつ誰だ。
「ヒェっ」
「その、さっき告白されたんでしょう?――――――どうするの」
「ひぃっ、こ、断ります!」
「ホントに?翔ちゃん優しいもんね、ちゃんと断れるの?なんなら、私が」
「大丈夫です!明日絶対断りますから!」
「わかった。信じる。―――――わーい!わーい!」
なんだろう、この人なんなんだろう。
瞬時に目の色変えやがった。
でも、ああいう目をした葉月も、怖いけれど可愛いなと思う俺は本当に葉月が好きなんだなと思った。




