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Scarlet seasons  作者: 有河 さくら
第一章
8/8

猫探しとSecret present

 わたしはいまそとにいる。

おうちのまどが、きょうはあいていたのだ。

すこし、とおくまでいってみよう。

あのやまのさきに、ごしゅじんさまがいるがっこうがある。

ごしゅじんさまがかえるまえにかえればいいのだ。


 だいぶとおくまできた、おうちのやねをわたったりおりたりのぼったり。

やまのとなりをあるいている、どこからみてもおなじやましかみえないおうちもおなじ。

がっこうはどれだろう、あれ? でもおうちはどれだろう。

あ、あそこにいるネコたちにきいてみよう!


 どうしてこうなったのかな。

あのこたちにひっかかれたきずがいたいよ。

ここはどこだろう、にげてるうちにやまのなかにはいっちゃった。


 もうあるけないよ。

 いたいよ。

 くらいよ。

 おうちにかえりたい。

 ごしゅじんさまにあいたい。

 はなしをききたい。

 あそびたいよ。

 おるすばんしなかったからかな?

 わたし、このまましんじゃうのかな?


『ごしゅじんさま、いつもいっしょにあそびたかったよ......』

 午後一時過ぎ、盛城商店街。

 人が少ない盛城町ではあるが、この場所に関しては観光客ではなく地元の人たちの方が多く居る。

狭い町だけあり、生活品や食材、その他インテリアや小さな映画館などがこの場所に集っており、田舎の中の都会と言える場所だ。

 この場所以外ではスーパーが無ければコンビニなんてものも盛城町には存在しない。

もちろん、あの有名なピエロがマスコットのハンバーグチェーン店なんてものも無い。

 都会に出て里帰りした若者たちは興奮して友人や両親にそんな話をする。

 もちろん、慣れてしまっているため地元の人は気付かないが、盛城町の四季神祭もまた外の地域の人にとっては、新鮮であり魅力的なお祭りなのである。


「おい愛坂、そろそろ行かないか愛坂先輩のプレゼント買いに来たんだろう。もたもたしていたらいいもの買えないぞ」

「うん、もう少しだけ! もう少しだけレモンデイズの曲聴いたら行くから」


 夏希と千秋は今商店街のCDショップに居る、そして夏希はそこに備え付けられた再生機で曲を聴いていた。


「そう言って何回目だっての! ほらさっさと行く」


 無理やり視聴中の夏希からヘッドホンを奪い取る。


「あー良いところだったのに~! 千秋ちゃんの意地悪~」

「言い出しっぺはお前なんだからしっかりしないでどうするんだよ」


 夏希はぷくっと頬を膨らませるが、それを言われたらどうしようもないという感じで言葉に従う。


「でも、誕生日プレゼントどうしようかなー」

「決めて無いのにそんなに余裕扱いてたのか」


 『えへへ』と笑いながら、夏希はさり気なくCDをレジに持っていく。


「? CD買って愛坂先輩のプレゼント買えるのか」

「大丈夫、もともと買うつもりだったから」

「だったら、視聴せずに最初から買っとけよ」

「気にしない気にしない」


 『たく』と言いながらもめんどくさいのか千秋はそれ以上は追及しない。

夏希はそんな千秋のことはあまり気にしていないようで会計を済ませると『ありがとうございました』と言う声を背に千秋と共にお店を後にする。


「ところでさ千秋ちゃん。最近気になっていたんだけど」

「ん?」

「ボクとお兄ちゃんを苗字で呼ぶのってややこしくないの?」


 夏希のその問いかけに千秋はどういうことだという顔をする


「そうか? 私は基本どんな人にでも苗字で呼ぶから、そんなこと気にしたこともなかったけど」

「え、そうなの? ボクには理解できないや」

「私にはお前の事の方が理解できないのけどな」

「え、ボクって普通じゃない」


 しらっとした顔で夏希は言葉を返した。

千秋は呆れた様子でため息を漏らす。


「文武両道で尚且つなんでもこなす超人が何を言ってるんだか」

「それって理解がどうとかの問題なのかな~、でも人並みより少しすごいだけで本当の天才には勝てないよ」

 

 夏希は苦笑いをしながら、言い訳をするが千秋はさらに上乗せする。


「少しって、本当の天才じゃなきゃ勝てないってのが、問題なんだよ」

「あはは......それは褒め言葉って事で良いのかな?」


 そう言われた千秋は少し気恥ずかしそうに顔を赤くして『知るか......』と冷たくあしらった。

その反応に苦笑いをする夏希は近くの雑貨屋に入る。

 千秋もそれに続いてお店に入る。


「ところで、愛坂先輩って何が好きなんだ?」

「うーん、それがボクもあまり分からないんだよね」

「分からないなら、そんなに悩まなくても良いんじゃ......」

「あはは、むしろ逆だよ。分からないからこそ何を買うか悩むんだよ」


 そうやって二人は守のプレゼントについて話しながらお店の中を彷徨ほうこうする。

夏希はお店にある人形をツンツンしたり本をパラパラ(めく)ったりして『違うよね』と眉を寄せたり腕を組んだりしている。悩みすぎたせいか最終的にはダンベルを受話器みたいに持つ始末だ。


「それはわざとだよな......」


 黙ってついて行ってた千秋もそれに関しては、ついつい突っ込んでしまう。

 しかし、それは別としてなんだかんだで商品を見たりして楽しんでいる。

 その点を見れば年頃の女の子なのだ。


「だって、全然決まらないんだもん~」

「なら、真面目に探せるように私はこいつを買うか」


 千秋が雑貨の中から取り出したのは巨大なハリセンである、その長さはざっと3尺はある。

 取り出した本人の目は何となくだが楽しそうだ。


「でかすぎ! そんなでかいのどこにあったの!?」

「ここに」


 ふんだんな雑貨の上を指さして、一言で片づける。


「そ、それはそうだけど......その大きさは洒落にならないよ」

「すいません、これ下さい」


 夏希の小言を無視して千秋はハリセンを買うことにする、会計の画面に移された値段は五百円と、大きさの割には格安である。

 黒いトートバックの中から、ピンク色の可愛らしいファスナー式の長財布を取り出すとそこから小銭を取り出し、会計を済ませた。


「う~、そんなので叩かれたらお嫁に行けないよ~」


 刹那、そんな夏希の叫びもむなしくハリセンによる一閃が夏希の頭部を捉えたが、夏希はそれを白刃取りで上手くガードしていた。


「早速ボケた愛坂に使ってみたけど、やっぱり駄目か」

「何を期待してたのさ~」


 夏希は泣きそうな顔をしながら千秋を見上げているが知り合いなら誰が聞いてもボケとしか捉えられないような発言なので、夏希の自業自得である。


「お前なら大丈夫だろ、ほら今もちゃんとガードしたし」

「そんな大きいハリセンの恐怖をボクは隣であじあわなきゃいけないの?」


 そして、何回かハリセンの斬撃を華麗にしのいだ夏希は雑貨屋を見終わって外に出る。


「は~、結局いい物見つからなかったよ~」

「いちいち、脱線してたからだろ」

「そのたび飛ぶハリセンの恐怖にも怯えてたけどね」

「まぁ、まだ時間もあるし次行こうか」


 すると、夏希が足を止める。


「いきなりどうした?」

「あそこ」


 夏希の顔から先ほどの明るい表情は消え去り、顔つきが曇る。

 その視線の先には、三人の男子に絡まれた女の子の姿があった。

その子は商店街の路地裏に連れて行かれる。

 周りには気付いている人もいるが、誰もが見ない振りをしている。そんな人達を見てなのか夏希は痺れを切らす。


「ボク少し行ってくる、千秋ちゃんはお巡りさん呼んできて」

「え? ちょっとまてって」

「ボク自身そうだったから。助ける力があるのに見て見ぬ振りはできないよ」


 夏希はそういうと男子たちを追いかける。


「おい! たく......お前の心配なんかしてないし......」


 後半の言葉は夏希に聞こえないようにしながら千秋は商店街にある交番に向かうのだった。



 

ーーー




 そんなことが表で起きていることも知らない学ランの男四人組は路地裏にセーラー服姿で黒短髪の女の子を連れ込み絡んでいる。


「なぁなぁ、君ってこの町の子? お兄さんたちさ、ここのこと全然知らないんだよね。だから、色々教えてほしんだけどいいかなぁ?」

「教えてほしいのなら、なぜこんなところに連れてきたのですか? 聞くだけならここじゃなくてもいいはずです」

「教えてくれるついでに君と遊びたくてさ~」

「ダッチィ......本音漏れ漏れ......その子怖がってんじゃん......」


 金髪でツンツン頭の普通にしていればイケメンの男。A君が女の子にチャラく接していると、顔にリングやピアスをした男。B君が舐め回すように女の子をジロジロ見る。

その後を追いかけるように、三番目の力士みたいな男。C君が本音をだだ漏れでB君にすべてをなすりつける。

 そんな男たちを前に女の子は冷静な顔を崩さずに、話を聞いている。


「一緒に遊ぼうぜ、大丈夫お兄さんたちに任せとけば楽しいからさ」

「パッツンも......本音漏れてるし......この町の事......知りたいだけじゃなかったの?」

「雰囲気ぶち壊し、優しいお兄さん設定なのにお前のせいで台無しじゃねーか」

「ここの事は別にいいじゃん、俺もう我慢できね~わ~」


 B君はその言葉と同時に女の子に触れようとする。


「ひぃ、汚い手で触ろうとしないで! どうせ聞くつもりなんてないでしょ!?」


 怖いのか、壁を背にした女の子は涙を浮かべている。

だが、それでもなお噛み付こうとする体制は崩さない。


「ひどいなぁ、お兄さんたち本当にここの事教えてほしかっただけなのに......もう、優しくしてあげないよー」


 すると、A君は我先にと手を伸ばした。


「その人、嫌がってるよ。やめてあげなよ」

「「ああん!!!??」」


 伸びた手がピクンと止まる、当然響いた高い声に身体全体が思わずびっくりしてしまったのだろう。

そして、別の形でだがA君以外のメンバーもその声に反応してしまっていた。

 全員がその方向(背後)をガンを飛ばしながら同時に確認する。

 そこには、小柄で黄色い短髪の”オンナノコ”が威厳のある表情で立っている。


 そう夏希である。


「いつの間にかに誰か後ろに居ると思ったら、またかわいい子ちゃんじゃね~の」

「もしかしてーここって、かわいい子多いんじゃねー?」

「二人とも......目がいやらしって......それにしても乳はねーけど......誰もこんなかわいい子に気付かないってどういうこと......」


 C君は馬鹿にしたような感じでゲラゲラ笑いながら言うが、夏希の表情は崩れない。


「......そういうのいいからさ、その人解放してあげてよ......」

「別に良いけどさ~、その代りにさ~君は俺たちと遊んでくれるの~?」

「......遊ぶくらいなら......平気だよ」

「話が分かるみたいで、お兄さん嬉しいよ」

「そういうことみたいだからさ~お嬢ちゃん帰っていいよ~」


 すると女の子をあっさり解放する男たち、しかし夏希の表情は強張ったままだ。

女の子はそのまま商店街の方に向かう。


「じゃあ、早速遊ぼっか」


 A君の右手が夏希の右手首を軽く掴んだ。その瞬間と同時に女の子の叫び声が聞こえる。

夏希が振り向くとそこにはカラフルな鶏冠頭の男に後ろから両手首を掴まれて捕まっている女の子が居た。


「解放したらって言わなかったけ」

「だから解放はしたっしょ」


 夏希の表情はさらに険しくなる、相手の言葉に怒りが芽生えたのだろうか。

 確かに男たちは条件を守っている、解放は一度しているのだ。


「それじゃ、前言撤回」


 そういうと、夏希は掴まれていた方の右手をパーの形にして左に身体を回転させながら勢いよく振り上げた、すると掴まれていた手首は簡単に解放される。

 手を広げたおかげで手首の辺りが少し太くなり力が弱まったのだ。

 だが、A君の体の振られ方を見る限り夏希の体格からは想像できないくらいの力が重なったことが決定的だと思われる。

 そして、夏希はA君が上の方に怯んだ隙に回転させていた力を利用して上半身を倒しながら後ろの女の子の方へ素早く走っていく。


「伏せて!」


 女の子に向かって夏希が合図すると女の子は勢いよく上半身を下げる、すると両腕を掴んでいた鶏冠頭のD君の体がわずかに前に引っ張られた。

そして、すでに身体を縮めながら男の目の前に居た夏希はその隙を逃さずに下段から体と腕を伸ばしきって顎に掌底を食らわせる。

 身体のベクトル同士がぶつかり合いより強烈な力がその間に生まれた。そして、力が弱かった身体はそのまま押し出されて宙を舞う、そうD君である。

 全くその出来事を想定していなかったD君の腕は簡単に女の子から離れて、女の子は自由を取り戻していた。

 ちなみにD君は気絶している。


「あはは......やりすぎちゃったかな」

「えと......あのう」

「ここは、危ないから早く離れて」

「でも!」

「ボクなら大丈夫だから」


 女の子は申し訳なさそうにしていたが『ありがとうございます』と言いながらその場を離れた。

そして、夏希は安心したのか先ほどまでの威厳な表情とは違い普段と変わらない優しい表情に戻っていた。


「お兄さんたち、完全に君を甘く見てたわー......でさ覚悟できてんだろうなガキ」

「パッツン......気持ちは分かるけど......落ち着こうぜ......相手は一人なんだし......捕まえちゃえば好きにできるんだからさ......」


 A君が本気で切れているのに対してC君はそれをなだめている、だが表情は同じような感じである。

B君もやはり同じようで。

 D君がやられたことに怒りを感じているのだろう。

 案外仲間思いなのかもしれない。


「このお兄さんに関してはごめんね、でもあの人嫌がってたからこうするしかなかったんだ」

「それじゃ~お前があの子の代わりをしてくれるのか~?」


 夏希は困ったように、笑っている。


「ボクじゃ、あの子の代わりにはならないと思うよ?」

「そんなのは~すぐ分かる事だし~それなら構わないだろう~」

「お兄ちゃんなら全然いいんだけどね、それに損するのはお兄さん達だし」


 さらっと夏希は嫌だという意思表示をする。

後半の損するとは、夏希が”オトコノコ”だということを意味しているのだろう。

 そして、そんなことはどうでもいいという感じで男達は一斉に夏希に向かっていく。


「一人に対して三人がかりは酷くない?」


 そんなことは、おそらく男たちも分かっている。

しかし、それでは駄目だと何となく察しているのだ。


 一、普通の女の子では完全に掴まれた手首は簡単に解けないということ。

 二、尋常ではないほどの機敏さと、自分より大きい体格の男を吹き飛ばす力。

 三、誰にも気付かれず近づくほどの潜伏術(隠れていたD君すら気づいていない)


 これらの事実は男たちの今の行動に結びついているのだろう。

しかし、重大な点を男たちは見落としている。


 夏希は女ではなく”男”という紛れもない事実を......


「一人だと難しいとお兄さんは察したんだよ!」

「あはは、確かにそれは正しい判断だと思うよ」

「呑気に話している......暇なんて......あるのか! 隙が出来てるぜ......」


 すると近くに居た体格の一番でかいC君が夏希に両腕を広げて抱きつくように掴みかかる。

しかし、その腕は空を掴んでいた。

 夏希は掴まれる瞬間に身を屈めてC君の右脇を通り素早く後ろに回っていたのだ、そしてそこから両腕で軽くC君の背中おすとそのまま前屈みに倒れていった。


 後ろを向いている夏希に対して続いてA君が肩を掴もうとしてくるが、掴まれる前に右手で右手首を掴んでそのまま回り込み前後逆転させる。

A君は逆手の状態に持っていかれ腕の関節が曲げられないようにされてしまった。


「痛い! 痛い! お兄さんたちが悪かったから離してくれ」

「ボクが逆の立場だったら離してくれる?」

「当たり前だろ! お兄さんは女には優しいんだぜ」

「仕方ないな~今回だけだよ?」


 すると、夏希は手を離し素早く後ろから離れる。


「信じてくれてありがとう、お礼しなきゃな!」


 A君は最低な感じのトーンで話しながら振り向くが、そこには勢いを誤って突進してくるB君の姿があった。

 そう、夏希は言葉では離した様に見せかけていたが後ろに居たC君を避けたのだ。


「ごめん、大丈夫?」

「ふざけやがって~大丈夫な訳ね~だろう!」


 夏希は本当に悪そうにしてはいるが、こういうことには容赦ないのだろう。

汚い相手には汚い手段を使うのが夏希なのかもしれない。


「愛坂!」


 すると商店街の方から大きな声がした。夏希はそちらに目を向けると、そこにはトレンチコートの女の子が立っていた。

別行動をしていた千秋だ。


「ごめん、遊びは終わり! バイバイ!」

「ふざけるなまだ遊んでねーだろ」


 すると夏希はケロッとした顔をする。


「え......遊びって何を考えてたの? ボクの遊ぶってこのことだったんだけど」

「「「はぁ!!!」」」


 男たちの声は重なった。

夏希の遊ぶとは、男達の相手をすること(女の子の逃げる時間稼ぎ)だったのだろう。

 夏希は遊ぶとは言ったが男たちと同じように何をするかという細かいところまでは話していない。

つまり、男達の早とちりだったのだ。


 すると、夏希は千秋に向かって走り出す。

 それを見た男たちは起き上がって逃がさないという感じで壁を作る、B君A君C君の順で夏希の前に立ちはだかる。

 しかし、B君が起き上がる前にそばに居た夏希は、跳び箱みたいに中腰のB君に飛んで逆立ちの状態になるとそのままジャンプする。

そして、次のA君の肩を踏み台にすると足のバネを上手く使いおもいっきりジャンプする、すると万全な体制だったC君を飛び越えて背後にうまい具合に着地した。

 そのまま千秋の方に走って行く夏希。そして、それを後ろから追いかけてくる男達。


「千秋ちゃん、あとはお願い!」

「え? 今なんて」


 そして、夏希が千秋の横を通り過ぎると、男たちが醜い声をあげながら猪突猛進のごとく駆けてくる。

それを見た千秋はあまりにも醜い光景に悲鳴交じりの声で『来ないでくださーい!!!!!!』と言いながら何処から出したのか分からないハリセンをC君の顔面目掛けて振り強烈な一撃で引導を渡した。

 すると、C君の力士みたいな巨体は後ろに倒れて、後を追いかけていたA君B君を下敷きにする。


「流石千秋ちゃん」

「お前私を利用しただろう!」

「ごめんごめん、でも上手く行ったからありがとうね!」

 

 千秋は半分泣いているような感じで夏希に怒りをぶつける、相当怖かったのだろう。

 対して夏希は申し訳なさそうにしつつも、終わりよければすべてよしという感じでなだめている。


 すると、しばらくしてお巡りさんが来たが、現場の光景を見て目を疑っていた。それもそうだ男に絡まれた女の子が居るはずなのに、そこには元気な女の子と倒れている男四人が居るのだから。


「あのう、さっきはありがとうございました!」

「あれ、どうしたの?」


 そこにはさっき絡まれていた女の子が居た。


「この子が交番に来てお前の事教えてくれたんだよ、金髪の女の子が路地裏で襲われてるって。私はすぐにお前って分かったけどな」 

「そうだったんだね、ありがとう」

「いえいえ、恩は仇で返せませんから。ですので何かお礼がしたいのですが」

「うーん、何かあるかな?」


 夏希は何も思いつかない様で、千秋に助けを求める。

千秋はそれに対して呆れた様子だ。


「そういえば、猫探すって言ってなかったけ? そろそろ探した方が良くないか?」

「え、今何時?」

「もう三時半過ぎてる」


 しかし、そんな表情はしても千秋は助け船を出す。

時刻を大雑把に伝えると、夏希の顔色が少し変わる。


「いつの間にか時間が大分過ぎてたんだね......どこ探す?」

「時間もないし手分けして探せばいいんじゃないか? この子にもお願いしてさ」

「そうだね! それじゃ......お願いしてもいいかな?」


 女の子に向かって夏希はお願いする、女の子はそれに対して腑に落ちなそうにしている。


「そんなことで良いんですか?」


 どうやら、不良から助けてもらったにも関わらず大したお礼にもならないことを気にしているみたいだ。


「気にしないで、それぐらいしかないだけだから」

「そうそう、こいつが好きにしたことだからこれぐらいで良いんだよ」

「はぁ......分かりました」

 

 納得はしていないようだが、納得するしかないと諦めたのか元気なく返事をする。

そして、今居る通りから一同は商店街の中心にある噴水広場に向かうのだった。


「あの~もしかしてなんですけどお二人は年上の方ですか?」


 言葉に困っていたのか女の子は唐突にそんなことを言い出した。

それに対して夏希が言葉を返す。


「たぶんそうだと思う。その制服、盛中のでしょ?」

「はい! そうです」

「それを見たら後輩かなって分かるよ」


 夏希は笑顔で質問に答える。

その、笑顔を見て緊張がほぐれたのか女の子の表情が明るくなった。


 そして、すぐに広場に着いた。

 噴水の周りの広場には商店街の道を塞がないように四か所にベンチを配置している。

そして噴水の周りも座れるようになっており、待ち合わせや休憩するのにはうってつけの場所である。

 ちなみに噴水の四方には四つの女性の石像があり、それらは商店街の道の方を向き祈っている。

 この石像は季節の神をあらわしているが、なぜ祈っているのかは不明である。


「じゃここからは手分けってことで、ここから商店街の入り口まで探したら戻ってきて。千秋ちゃんはあっち、君はあっちを探してね」


 夏希は二人に探してほしい方を指して言う。

女の子には八百屋やスーパーなどが並ぶおじさんおばさんが多い方を。千秋には電化製品やインテリヤなど生活用品が売られている通りをお願いする。

夏希は、残った小さな映画館やゲームセンターなどがある一番危険そうな通りを探すのだろう。

 ちなみに、さっき夏希達が居たのは雑貨や本屋、飲食店などの娯楽品などが立ち並ぶ通りである。


「あと、また絡まれたりしたら危ないから、さっきの制服の人を見かけたら店の中に隠れるかこいつの方に逃げるように」

「千秋ちゃんの方じゃ駄目なの?」

「私はお前と違って、か弱いからな」

「千秋ちゃんのハリセンなら返り討ちにできるんじゃない?」


 千秋は迷いなく夏希にハリセンを振るうがそれを予想したように軽々く夏希は躱してしまう。

その光景を見てた女の子は苦笑いを浮かべるが楽しそうだ。


「はい! じゃあその時は先輩達を頼ります!」


 すると、二人の動きが止まり見合いながらいきなり笑い出す。


「ははは、先輩だって! お前に先輩なんて合わないだろう!」

「あはは、それって、どういう意味? 千秋ちゃんだって......合ってる......でも想像できない!」


 なんで笑われたか理解できていないような女の子をよそに、二人はお互いに言い合っては笑いこけている。


「ふふふ......そろそろ行かないと時間が」

「お前が、ふふ、笑わせるせいだろう」

「あはは......じゃ私は先に行きますね」


 その光景を見ていた女の子は笑みを浮かべながら逃げるように猫を探しに行く。

 そして、二人もそれを見てすぐに探しに向かうがお互いクスクスとしばらく笑っていた。


 それから、何事もなく三人は往復してきて、そのころには時間は優に四時を過ぎていた。

戻ってきた夏希は何故か浮かばなそうな顔をしており元気がなかった。

一方、女の子は報告をしてから『もうすぐ門限なので帰ります、今日はありがとうございました』と言ってから帰って行った。


「お前らしくもない、どうしたんだ? そんな顔をして」


 千秋は女の子が見えなくなったのを見届けると、元気のない夏希に話しかける。


「うん......これ見て」


 夏希はスマホの画面を千秋に見せる。

 そこには『三毛猫が見つかった、今から通学路にある空き地に来てくれ』と書いてある。

 画面の上を見ると”愛坂守”と書いており守からの連絡だと分かった。


「見つかったって本当か? すごい良い知らせじゃんか!」


 夏希はそんな反応をする千秋に対してさらにため息を吐く。

どうやらそういう意味じゃないようだ。


「うん、ボクもこれ見た時は驚いたよ。でもねお兄ちゃんの名前見たらプレゼント買えてないことに気が付いちゃって」

「そういうことか......」


 それを聞いて千秋は納得したようだ。すると、トートバックから茶色いガゼット袋を取り出し夏希に手渡す。


「今回だけだぞ」


 夏希は予想外の伏兵に疑問そうな表情をしている。


「これ何?」

「見た方が早いよ」

「うん」


 そして、夏希は中身を確認する。

 その中には、ゴム製の可愛らしいアザラシが描かれたキーホルダーと、少し高そうな黒っぽいボールペンが入っていた。

それを見た夏希は途端に笑顔になって千秋の方を見る。


「これって?」

「猫を探している途中で見つけたんだ、なんでも良いって言ってたろ......]


 千秋は毎度のことながら顔を赤めてそっぽを向いている。


「これって!?」


 夏希はそんな千秋に対して嬉しさのあまり、意地悪そうに同じことを繰り返す。


みなまで言わせるな! 愛坂先輩のプレゼントだ......!」

「ありがとう! 千秋ちゃん!」


 千秋が言い切る前に本日最高のとびっきりの笑顔と喜びを込めて夏希は抱きついていた。


「ありがとう! 千秋ちゃん大好き!」

「な! な!! な!!! 何をするんじゃーい!!!!!」


 千秋はそれに対して普段使わないような高い声を上げて、夏希の頭上にハリセンを思いっきり振るう。

夏希はそれに対して持ち前の反応で白刃取りを成功させた。だがしかし、反応が少し遅れていたのだろう半分掴まれていたハリセンはスルリと手の拘束を抜けて夏希の頭に軽く当たる。

 千秋の顔はとても赤く、例えるなら茹でたトマトのようだ。しかし、それよりも赤く、煙を吹いているような感じである。


「ごめんなさい......」


 夏希は度が過ぎたと反省する反面それ以上にうれしさの表情を隠しきれない様子である。


「次、こんなことしたら絶対に許さないから!」


 対する千秋は顔が赤いままで、発言された言葉が何故か女の子口調だということに気付いていない様子だ。

 夏希はそんな姿を初めて見たのか、笑いを一生懸命堪えながら。


「分かりました......」


と苦しい時間を過ごすのだった。




大変長らくお待たせしました。

プロット作成中途半端なまま最新話を更新してしまいました^^;


とりあえず今回の見どころはですね......

やっぱり夏希ちゃんの戦闘シーンですかね。

なんか、夏希ちゃんが人間離れしているのが目立ちますが、そういう設定ですので←ずっと書きたかった。


あと、不良さんのこと適当に書きすぎましたごめんなさい!


それからなんですが、今回は千秋ちゃんがかわいくなかったですか?

実は千秋ちゃんの女の子っぽさも前面に出していた回なんですが気が付きましたか?

千秋ちゃんは女の子で、夏希ちゃんは男の娘なんですよ?


あと、女の子が予想外になじんでしまいました←ボソ


ではでは、次回もよろしくお願いします!

(早くプロット完成させなきゃ)

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