飛んで火に入る夏の虫
10月○○日 ㈬ 晴
今日は朝からハルカちゃんと会ったので一緒に登校したよ。
ハルカちゃんの会話はとても面白くて私もこんな風に話せたらなと思うんだけど。
難しいです。
でも、なんで最後にらめっこって嘘言ったんだろう。
そこだけ少し気になるよ。
それから、もうすぐ文化祭。
守君の提案で巫女喫茶をすることになった!
皆の分の巫女服もあるし!良い感じ!
どんな風になるんだろう楽しみ。
でも、最近守君とあまり話せてないな...
次は頑張らないと!
四季祭が終わってから早くも一週間が経過していた。いつも通り鈴華ちゃんを幼稚園に預けて俺達三人は学校に向かっている。
「はぁ」
「どうしたの? お兄ちゃんがため息付くなんて珍しいね」
心配しているような感じはないが、夏希は俺のため息に反応した。
「そうか?」
「うむ、いつもは能天気で悩みがなさそうなお前にしては珍しい」
言い方は失礼だが冬也も同様に気にかけてくれている。
悩みは流石にあるが、確かに今回のようにため息を付く事はほとんど無いかも知れない。
それほど、あの夜の事を後悔しているということだ。
沙季に気持ちを伝えようとしたらそれを拒むように意識が飛び、目覚めてみれば膝の上で寝ていたことにテンパって告白のタイミングを見失ってしまった。
話の流れで来年の約束をし、気持ちが高揚していたのはいいが、悲しい事に翌日目覚めてみれば完全に冷め切っしまい、後悔が残ってしまった。
唯一の救いが紅葉の簪なのだが。
なくすのが怖いため綺麗な布に汚れぬよう簪を包み、それをたまたま余っていた丁度いい大きさの金属の箱に入れて俺の机の引き出しの中に厳重にしまってある。
「何か悩んでるなら相談にのるよ?」
あれから普通に沙季と会話はしているがとくにあの日のことは触れられずにいる。
言い出す勇気も無いのだが、何より一緒に登校することも沙季が帰ってきて今日まで一度もないのだ。
「はぁ~」
「お兄ちゃん、ボクの話聞いてるの~?」
そんなこんなで、今日までこの時間帯はなんだか憂鬱である。
「お兄ちゃんってば!」
沙季は今どう思ってるんだろうか、沙季の事を考えれば考えるほど辛い。
勢いよく告白できればいいのだが、そんな度胸は俺には備わっていない。
「はぁ......
「いい加減に......しろー!」
ズビシッ!
俺の頭部に激痛が走る、そしてさっきまで考えてたことがすべて吹き飛んでしまった。
「いてーな! いきなり何しやがる!」
完璧なクリティカルの激痛に頭がスッキリしたのは良いが、それとは別に俺は感情を荒げて夏希に怒ってしまう。
「反応しないお前に問題があるがな」
「そうだよ! せっかく相談に乗ってあげようと思ったのに、反応してくれないんだもん!」
冬也が夏希を庇うように俺にボソッと言う。しかし、庇うも何もそもそも問題じゃないことを数秒後に理解した。無論俺が悪く切れるのは辻違いだからだ。
そんなことに気付いたところで、後戻りは出来なく夏希は不機嫌になりそっぽを向いてしまう。
悪いと気付いている俺も、感情を覚ますのはすぐには無理そうで気まずい雰囲気になってしまう。
「悩みは、仙宮寺か?」
空気を直すためか、気を使って話しかけてくれた。
「別に、お前には関係ない......」
だがしかし、心が落ち着かないうえに図星を付かれた俺は冬也に対してもきつく当たってしまう。
「何それ! 冬兄が心配して話しかけてくれているのにその返し方はないんじゃない!?」
夏希はおそらく完全に怒っているようでいつもの愛らしさは感じられない。
「ああ、悪かったな......」
「ボクに謝るんじゃないでしょ!」
「誰もお前に謝ってねーよ!!」
そんな返しで俺はさらにぶっきら棒に返してしまい。さらに火に油を注ぐ形になってしまった。
「いや気にするな、ほら学校に付くぞ」
そんなヒートアップしていきそうな兄弟喧嘩を間に挟まれた冬也が止めるためにだろう、あえてそんなことを言ってくれる。
本当に悪いありがとう。
「ありがとう冬兄! それではボクは千秋ちゃんが待ってるので先に行きますね!」
俺と目も口も合わせずに不機嫌のまま、冬也にだけそう言って夏希は校舎に向かってズカズカと早歩きで歩いていく。
「気を使わしちまってごめんな」
夏希が居なくなったあと若干の抵抗があるが冬也に素直に謝る。
「俺は別に気にしていないから大丈夫だ。それより夏希君に後でちゃんと謝れよ」
俺の謝罪を軽く受け止めて、逆に俺たちの事を気にかけてくれる。
冬也のこういうところは本当に大人でしっかりしている。
俺もちゃんと見習わなくては。
「ああ、ありがとうそうする」
ちゃんと謝らないとな......まぁ思い詰めてもよくないし、あとで謝るとして気持ち切り替えるか。
そして、気持ちを切り替えるべく俺は深く深呼吸をした。
「またな、守」
「おう」
俺は教室に入る冬也の方は向かず返事だけして別れる。
そして、俺は自分の教室に向かう、間違えないように確認するため俺は少し顔を上げた。
すると、視界の先に教室の前で会話をしている春香と沙季が居ることに気が付く。
二人の表情はここからだとよく伺えないので俺は、二人に近づいて声をかける。
「よう、沙季! それと佐々木さん」
春香の肩がピクっとなり俺の方に振り向く。
そういえば、春香を佐々木と呼んだことってなかったな、特に理由はなく呼びづらいというだけだが。
「なんだ......愛坂君か脅かさないでよ~! おはよう!」
「おはよう......守君」
春香ははきはきと、沙季はおとなしめに言う。
「ああ、二人ともおはよう! 春香なんでビビったんだ?」
俺は、ケラケラ笑いながらからかうことにする。
最近こいつを弄るのが楽しい。というのも前に比べ勢いがなく押し負ける事が少なくなったのが理由なのだが。
「別にビビってなんて無いよ! 佐々木って苗字で呼ばれたから......」
春香の顔が赤くなる、びっくりしたのを恥ずかしがっているのか。
なかなか見れない光景に少しにやけてしまう自分が居る。
普通に女の子みたいにしてたらかわいいのに、勿体いよな......
「はいはい。そういうことにしとくよ、とりあえず教室に入ろうぜ!」
俺たちは教室に入り、後ろの方にある席に腰を掛ける。
奇跡的なこの席の配置は俺にとっては過ごしやすい環境だ、遠慮なく春香からノートを借りたりできるし沙季とも席が近い!
唯一の汚点と言えば、授業中沙季の顔を拝めないということくらいか。
「ところで、2人はここで何してたんだ?」
「え? ......えとね......」
「にらめっこだよ!」
沙季はどう言えば良いか迷っているが、それを待たずに春香が答えを言う。
それに対して気のせいか、沙季が少し戸惑っているようにも見える。
「何でにらめっこ? そして、わざわざ教室の外なんだ?」
「え? ......えっと......」
「それは! 沙季ちゃんの表情を明るくするためだよ! ほら、沙季ちゃんってかわいいのに表情堅いでしょ? だからにらめっこで表情を明るくしようと思ったの! 教室の外でやってたのは沙季ちゃんが教室の中は恥ずかしいって言ったからなんだ! あはは」
春香は淡々と理由を話してくれた。しかし、その話し方に何処か違和感を感じてしまう。
余裕がないというべきか。
「なるほどな」
まぁ、あえてその変は触れずになんとなく納得した。
理由は沙季の為にしたことだというのがちゃんと分かったので別にそれ以上は追求する必要は無いだろうと思ったからだ。
しかし、沙季が無理して直すほどの事でもないとは思うのだが。
たしかに普段はおろおろしてて笑った顔は滅多に見せないが、それでも人から好かれる性格をしているので全然問題は無いのだ。
ふと、あの夜の事を思い出す、あの笑顔は嘘じゃないよな......
沙季が笑顔を見せる人は極わずかだ、普段から気弱で極度に緊張してしまうため心を開ける人が居ないのだ。
そう考えると......
直さなくてもいいのではという気持ちが膨れ上がってきた。
臆病な俺は沙季の”特別?”をできるだけ一人じめしたいのだ。
俺のもやもやの一番の原因は誰か他の男に取られないかという心配から来ている。
『キーンコーンカーンコーン』
そんな事を思っていたら予鈴がなり『はぁ~』とさっきとは別のため息が漏れる。
一瞬で今までの気持ちがシフトチェンジしてしまう嫌なチャイムだ......
「一時間目なんだっけ? ......」
俺はやる気のない口調で春香に聞いてみる。
すると、すぐに回答が返ってきた。
「保健体育だよ!」
「マジか!」
「あはは! 嘘に決まってるでしょ! まったく愛坂君はえっちなんだから」
俺は極端に喜怒哀楽が激しいのか、やる気のない感情から一転希望のまなざしを射して、そこからわずか数秒の間に怒りと悲しみの順番に感情が変換された。
男である以上仕方のないことなのだが、何よりも沙季が苦笑いをしつつ俺を見ているのが何よりダメージである。
後悔しても遅いのだが、春香がこういう奴だってことを完全に忘れていた。
いい加減学習しろよと、自分を責めて凹んでしまう。そして......
『神様少しでもスケベな感情を抱いた僕をお許しください!』と心が叫びたがっているのだった。
チャイムが鳴ってからしばらくして先生が入ってきた。
「起立! ......気をつけ! 礼! おはようございます! 着席!」
春香が朝の号令をかける。
朝の挨拶はする生徒しない生徒と様々だが、春香はしっかりとする。
高校生になると昔のように素直になれない奴や。めんどくさいダサいと色々な理由で挨拶しない奴も多い......
一応俺は挨拶はちゃんとしている。自分で言うのもあれだが、案外真面目なのだ。
「おはよう! まずはじめに......」
先生が連絡事項などに関してのプリントを一列一列渡していく。
それらの説明をざっと話して。
最後にまた一枚のプリントが配られる。
『文化祭の出し物希望』と書いてあるプリントだ、希望する出し物を書く欄がある。
「もうすぐ文化祭が近づいているというのに、うちのクラスはまだ出し物が決まっていない。他のクラスは決まっているのに、だ! そういうことで、今日の放課後お前達には少し残ってもらって出し物を決めたいと思っている」
演技だか何だかは知らないが少し腹立つ言い回しをして、いきなりそんなことを言い出した。
『えー』『マジかよ! 今日ゲーセン行くのにさ』『くだらねぇ』『別に適当で良くなーい』
『うーん、お化け屋敷でいいや』
とか、当然ながら色々とクラスの皆が騒ぎ出す。
「だから、早めに終わらす為のそのプリントだ、ちゃんと相談して決めるんだぞ!」
先生は淡々と説明する。
まぁ、大抵こういうプリントは活かされずに終わるのだが。
先生も無駄な仕事をする。いや、それが彼らの仕事なのか......
早く帰りたいし一応俺は考えるか......
「愛坂君は何にするつもりなのかな?」
俺の心を読んだかのように春香が聞いてくるが周りの様子を見て察した、俺が1番話しかけやすかったのだ。
それになんだかんだで俺がこういうことに参加することを知っているからだろう。
「そうだな、妥当に行くならお化け屋敷かメイド喫茶とかかな~」
そういえば、冬也と夏希はどうなんだろうか......
あとで、冬也には聞いてみるか。
「あとは、輪投げとかそういう単純なゲームとかかな」
春香も少し考えてるようだ。
そういえば、一年の時もそういう出し物してるクラスが少なからずあったな......
「じゃ、そういう事だ! ちゃんと書いて今日の放課後は早めに帰れるようにしような~」
先生は手元にあった教科書を教卓の上で整えてから、期待してないようにそう言うと教室を出て行った。
すると、入れ替わるように一時間目の先生がくるのだった。
英語か......
ーーー
時間は別れた時に戻り音楽室。
僅かな部員が居る中でピアノを引いている子がいる。音楽部の部員である千秋だ。
千秋の演奏したピアノは迷いのない綺麗な音を奏でて室内全体に響いている。
『......』
演奏が終わり一人の女子学生が拍手をして近づいてくる。
「千秋ちゃんのピアノはとてもいいわ! ついつい聞き惚れちゃた」
「いえ......そうでもないですよ、私なんてまだまだです」
彼女の名前は吹雪茜音楽部の部長である。
ロングの黒髪で、長い前髪を後ろに束ねシュシュで結んでいる。
全体的に少しふくよかな感じのため、大人びた雰囲気が出ている。
「そんなことないわよ、今度の音楽祭の伴奏は千秋ちゃんが担当で決まりね」
茜は明るくウィンクをして言う。
それに対して苦笑いをする千秋は、嫌そうにしつつも軽く頭を下げた。
「ありがとう......ございます」
すると、千秋は茜の手元にあった数枚のビラに気付く。
よく見ると周りの部員も何人か持っているようだ。
「部長、その手に持っているビラは何ですか?」
「え? あーこれね」
茜は千秋に言われて、手に持っているビラに目を向けたあと一枚取り千秋に渡す。
「私の家で飼っていた猫がどこかに行っちゃってね、今探してるのよ」
心配させまいと笑いながら話すが、顔は正直で苦笑いになっている。
かなり心配なのだろう。
「そうなんですか......大切な猫なんですか?」
千秋は控えめに猫の子を聞く、落ち込んでる事が分かるからこそ下手なことは言えないのだ。
しかし、それでも意味はなく茜は寂しそうな顔になってしまった。
それだけ大切な存在なんだと伺える。
「ええ、長い時間この子と過ごしてたから大切な家族よ......だから居なくなるとは思わなかったわ」
「私に出来ることなら、探すの手伝いますよ」
千秋はそんな茜の表情を見て同情したのだろう、迷いない言葉で協力する意思を見せた。
「本当に!? 千秋ちゃんありがとうね!」
茜は噛み付くような勢いで反応するが。
千秋はそういう反応が苦手なのか大分ツンとした恥ずかしそうな表情で、すねたよう言葉をかえす。
「部長......いい加減に千秋じゃなくて朝霧って呼んでくれますか? じゃないと...... 探しません」
恥ずかしさを紛らわすように素直になれず強く当たってしまう。
慣れていないせいか茜はそう言われて慌てる、こちらはこちらで無意識のうちに千秋と呼んでしまっていたのだろう。
すごく申し訳なさそうにする茜に対して、千秋も少し申し訳なさそうにする。
「ごめんなさいね、朝霧さん。次からは気をつけるわ」
「い! いえ! わかっ……」
「千秋ちゃん聞いてよ~お兄ちゃんってばボクが心配してあげてるのに、魂の抜けたトラえもんみたいにポカンとしてて相手にしてくれなかったんだよ? 本当に信じられないよね! ボクと言う血を分けた兄弟が居ながら聞く耳も持たないなんて! 頭に来たから思いっきり頭にチョップをかましてあげたよ!」
ドアのドカンと言う音とともに夏希が入ってきてマシンガントークを一人でぶちかます。
その光景に近くで見ていた茜と千秋は唖然としている。
それぞれ話していた部員達も何事かと目を向ける。
「朝から随分機嫌が悪いみたいだな......あとドア閉めようぜ......」
千秋はその勢いに圧倒されつつも反応する。すると、よく聞いてくれたという感じで夏希は近寄ってくる、その距離五センチほどでだいぶ危険だ。
「そりゃ、朝からあんなに無視されたら誰だって怒るよ!」
「わかった、わかったから離れろ! ......あと、ドア閉めろって......」
千秋は顔を赤めて夏希をどかす、恥ずかしさを誤魔化すように開いているドアを閉めるように言う。
「?? あっ! ......ゴメンね、あはは......」
夏希はすぐに離れドアを閉めてくる。しかし、顔も少し赤くなっていて千秋の誤魔化しも虚しく逆に意識させてしまったようだ。
「おはよう、今日も元気が良いわね。夏希ちゃん」
一方同じく唖然としていた茜だが、二人のやり取りを見ているうちに和んだのかにこにこしながら夏希に挨拶をする。
「あ! あかねぇおはようございます!」
敬語を絡めつつ親しそうに茜の事を呼ぶ夏希。
茜はそれに対して慣れているようで優しく笑っている。
「でも、もう練習する時間あまりないわよ?」
茜は夏希に申し訳無さそうな表情をしつつ言う。
それに対して夏希は特に気にしてないようでキョロっとして明るく反応する。
「大丈夫ですよ! 喋りに来ただけですから!」
『なんでやねん』と鋭い突っ込みを入れる千秋、茜は予想していたらしく困り顔で笑っている。
「普通は練習のために来るだろ」
「だって、家で自主練してるから特に問題ないんだもん」
呆れたように言う千秋に対し大丈夫という感じで反応する夏希。
「部長とかに演奏を聞いてもらうのも活動の一つだろ」
とか、言いつつ夏希も演奏は上手いのでそこまで問題は無いのだ、夏希の万能さは部活の誰もが知っている。
「ところで、それなんですか?」
夏希がいきなり話題を変えて、ビラについて聞いてくる。
油断していた茜は少し慌てる。
「え? ああ~これね! 夏希ちゃんも良ければ協力してくれないかしら」
「協力ですか? ちょっと見せて下さい......ふむふむ......」
すると、取り換えずビラの内容を見て確認する。
「なるほど猫を探してるんですね! ボクでよければ協力しますよ!」
夏希はビラを見てから二秒も経たせずに手伝う事を決断した、とりあえず主要の内容だけ瞬時に確認したようだ。
「ありがとう夏希ちゃん」
「とりあえずお兄ちゃんにも協力を要請しますね!」
「先輩に迷惑じゃないか?」
心配そうに言う千秋だが気にしなくても平気だというような顔で夏希は切り返す。
「お兄ちゃんとかは基本的暇人だから大丈夫だよ! それに朝の事もあるしね」
「そうか」
さっきまでの不機嫌な姿はどこに消えたのか、いつの間にかいつもの明るい夏希に戻っていた。
『キーンコーンカーンコーン』
「もう時間みたい。それじゃ、二人ともありがとうよろしくね! ……はい! それじゃ、みんな解散! 放課後もよろしくね」
部員達は茜の一言で音楽室をあとにする、合唱部の朝練は幕を閉じるのだった。
ーーー
昼休み、俺は冬也と共に学食で飯を食べることにする。
パンとかにして外で食べることもあるが、だいたいは食堂で食べることが多い。
お互いカレーうどんを頼んで学食内のテーブルに座る。
そこそこ人数も居るが毎回生徒は同じなので変わた様子はない、これが彼らの習慣なのだ。
「やっと昼か~今日もまだ二時間あるとか勘弁だぜ......しかも放課後は文化祭の出し物を決めるとか、帰りが遅くなるとか帰宅部にあってはならんことだぞ......」
うどんを食べつつ俺は愚痴をもらす。冬也はそんな俺の愚痴を聞きなが同様に食べている。
俺はゆっくり食べているのだが、冬也は早めに食を進める。これは猫舌の有無による差である。
「まぁ、たまにはいいじゃないか......家に帰っても対してやる事もないのだから1日くらい遅くなっても」
「それはあえて言わないでくれ」
それを言われると何も言えない。
家に帰っても何する訳でもない、夏希が帰るまで自室で読み終わった本を読むかリビングでつまらないテレビを見るくらいだ。
つまり、夏希が居ないと何も出来ない。
「そ、それよりもだ冬也のクラスは何を出すんだ!?」
忘れていたが聞こうと思っていたことを話題に出す。
俺の頭よナイスな話題の切り替えだぜ!
「お前にしては珍しいことを聞くな......」
「まぁ、一応文化祭の出し物決めようと思っててな、周りのクラスは何するか聞いとかないと被ったら嫌だと思って」
「心にも無いことを言うものではないぞ?」
「ゴホゴホ!」
冬也に図星を突かれた俺はうどんを口に含んだ状態でむせてしまった。
分かってはいたのだがやはりこいつは誤魔化せんか......
いや、てか俺の周りの奴には誤魔化しが全然効かない、俺が下手なだけなのか?。
「適当に良さそうな物を考えて早く帰りたいだけです」
「本音までは聞いてないのだが......」
こいつ! と言いたい気分ではあるが、確かに俺が勝手に素直になってしまっただけである。
「まぁ、俺のクラスと被る事は無いだろう。人形劇をやるのは俺のクラスくらいしかないだろうしな」
「人形劇か......お前が居るのが影響してるのかもな」
「いや、単純に演劇部員が多いだけだよ......俺一人居たところで、人形も無ければ何もできやしないさ」
それはそうだが否定もできないだろう。学園の人気者が居て影響しないというのは絶対ない......
冬也が居て、演劇部員が居るなら人形劇なのだ俺ならそうする。
「でもさ、なんで人形劇なんだ? 別に演劇でも良かったんじゃないのか?」
「最初はそうだったんだが俺が断った......演劇をやるには期間が短い......小道具とかを準備するのはどうにかなってもキャストの負担は大きい。まず台本を覚えられるかが問題だ」
なんとなく分かった、冬也達演劇部がキャストを頼まれたのだ。
「掛け持ちはできないってことだよな?」
「うむ、そういうことだ。その分人形劇は負担が少なく役割分担が平等に分けれるって事で話がまとまった」
なるほどな......人形劇なら後ろで台本を読めるから、わざわざ暗記する必要が無いのだ。
俺達はうどんを食べ終る。もちろん俺の方が遅かった。
しばらくそこに居座り会話をして、切りが良くなったので食器を返却してから教室に戻ることにした。
「ごちそうさま」
「あいよ!」
食堂のおばあちゃんに、ごちそうさまと言うと元気よく返事をしてくれた、反応が良すぎるため、気分も良くなった。
食堂から出て教室に戻る、地味に距離があり食べ終わった後だとダルイ。
しばらくすると俺の教室に着く。
教室に入ろうとすると、その前にひとこと冬也が言葉を残す。
「そうだ、早く帰りたいなら皆が選びそうな物にしとくといい、多数決になればその分早かろう」
なるほど......確かに単純でいいかもしれない。
「わかった、ありがと」
冬也は右手を上げ、背中で返事をして自分の教室にむかっていった。
「休み時間も終わりか」
俺は席に着くと春香と沙季に提案する、まずは信者を増やすのだ。
皆が思いつきそうでちょっと特殊な出し物だ......
今思いついた。
ーーー
授業が終わり放課後の出し物会議だが、俺の提案したメイド喫茶ならぬ巫女喫茶でまとまった。
冬也の話を聞いてメイド喫茶から巫女喫茶にしたのだ。
実際は春香に任せて俺は見ていただけなんだが。
理由としては単純にメイドじゃありきたりでつまらない!じゃあ、どうする!? 巫女喫茶でいいではないか!
と大雑把にこんな感じだ。
巫女服は榊神社の社務所にあるアルバイト用の巫女服を使わせてもらう事で話がまとまった。
沙さんには沙季に電話してもらい確認は取れたが。それだけではなく榊や鈴なども貸してもらえることになった。
沙さんの優しさには感謝である。
「………」
そして、早めに切り上げられたのは良いのだが。
「あの、夏希さん」
「何かな? お兄ちゃん」
「まだ、怒ってらっしゃいますか?」
「どうだろうね。お兄ちゃんの解釈に任せるよ」
この通り夏希と偶然居合わせて、気まずい雰囲気と共に下校している。
どう考えても、まだ怒っているよな言い出しづらいが謝っておこう......
「あのさ、今日はごめんな......心配してくれたのに話ちゃんと聞かなくて......」
「本当に悪いと思ってるの?」
やばい、相当怒ってる......
いつもならここで簡単に許してくれるが、今回はそんな様子は一切ない。
「悪い! 本当にごめん」
「全然気持ちが伝わらないな~......」
夏希は全然笑ってない声で、追い打ちを掛けてくる。
それに対し俺はひたすらに謝るしかない。
「わたくし、愛坂守が悪かったです......お許し下さい......」
俺はやりづらい気持ちを隠しつつ言ったが迷いがあり、声がぶれてしまった......
それよりも、こんな謝り方をしてたら人によってはさらに機嫌悪くさせるのではないだろうか。
無論夏希も例外ではない。
「全然聞こえないよ? もっとちゃんと言ってよ」
仕方ない恥ずかしいけどこの際我慢だ! 俺は勢い良く跪き、土下座の大勢になる。
「俺! 愛坂守が悪かったです! お許し下さい!
わたくしを俺に言い変えて、俺は全身全霊で謝りそれと同時に勢い良く頭を下げた。
「……」
「……」
夏希は振り返り顔は伺えないが俺を見下ろしているように感じる、様子が伺えないからさらに怖い。
「……」
「……」
「……」
しばらく沈黙がつづくき、そして
「......ふふふ」
夏希の方から笑いがこぼれた気がした......
「あはははは、お兄ちゃん顔上げなよ! ボクはもう怒ってないよ? クスクス......」
すると、夏希が勢いよく笑い出し俺に冗談である事をサラッと伝える。
イタズラっぽく笑う夏希に対して状況が読み込めないでいる俺はおそるおそる顔をあげる。
見上げると夏希のいつもの愛らしい顔がのぞいたので、本当に怒っていない事が分かり身体が脱力した。
どうやらさっきの笑いは気のせいではなかったみたいだ。
「夏希ちゃんのドッキリ大作戦! どう? びっくりした? びっくりしたよね!? 酷い顔してるもん!」
「あはは、まじか......」
俺は安心して気の抜けた笑いがこぼれる。
まじでやばいと思ってたし怖かった。
「ほら、いい加減立とうよ! あと、ごめんね! お兄ちゃんが元気無かったから少しびっくりさせちゃった」
夏希は手を伸ばす、俺はその手を取り立ち上がる。
「悪いありがとう」
「うん! この件は許してあげる!」
すると、夏希はにこにこしながらサラッと。
「でも、そのかわり! 猫ちゃん探すの手伝ってね!」
俺にどこから出したか分からないビラを見せて、唐突にそんな事を言うのだった......
新章書きました♪
今回は、猫ちゃんが関係してきます♪
それから、沙季ちゃんの日記難しいです。
何書けば良いかわかりません…
自分も書こうかな…。
あと、まだ微妙な点もあるので少し修正するかもしれないです♪
あと、今回の新キャラクターは
吹雪茜
身長165cm
スタイル抜群なナイスな女の子です。
胸が大きいです♪←ここ重要
音楽部の部長で夏季とは親しげでしたよね?
設定はのちのち公開しますね♪
今は言わないでおきます♪
この章の中心人物ですので、お願いしますね
♪