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Scarlet seasons  作者: 有河 さくら
序章~プロローグ~
3/8

四季神祭

10月〇〇日 ㈯ 曇り後晴れ


今日は7年ぶりに四季祭に参加しました。

でも、昔から憧れていた巫女舞を踊れたのはいいけど私の集中が切れちゃったせいで舞を台無しにしちゃった。

お父さんは笑って気にするなって言ってたけど。

やっぱり、お父さんや楽しみにしてた人には悪いことしたな。


やっぱり柳さんみたいには上手く行かないよね。


でも、今日1番嬉しかったのは泣いている時に守君が来てくれた事かな。

昔から私のヒーローでどんな時も助けてくれる守君はやっぱりカッコよかった!


それから、約束を覚えていてくれた事も凄い嬉しかったな。

途中まで言っていきなり倒れちゃったのにはびっくりしちゃったけど。

でも、ただ寝てるだけだと分かって凄く安心して、守君の寝顔をゆっくり拝ませて貰いました!


来年の予約も取れたし、早く四季祭来ないかな~



ー四季祭当日ー


 結局沙季との約束を何も思い出せず今日を迎えてしまった。

俺と夏希は榊神社の踊り場で露店巡りを終え、今は冬也と待ち合わせている。

秋とはいえ夏場の残暑がまだ残っているからだろう、お祭りに来ている人達は薄着の人も結構居る。


 俺は黒いシャツに紺色のジーパン。

夏希は女性用のTシャツに短パン姿だ。

 夏希は身体が小さいため女性用しか着れない、男性用を着るとダボダボで肩幅が全然足りなかったりするのだ。

違和感がないから俺は気にしてないが、知らない人から見れば男である以上気持ちはわかる。

 つい数分前、俺が夏希から少し離れた隙に三回ナンパされていた。

俺はそんな離れていなかったのだが回数的にそれだけかわいくて、なおかつ俺が居ない間にたまたま見つけた男が声を掛けたのだろう。

一人は俺も近くで見ていたのだが、夏希は丁寧に男という事を説明しやさしくあしらっていたが男は絶望に浸ったような顔をしていた。

 他の二人もおそらくそうだっただろう。


 榊神社は拝殿前の広場と踊り場で露店をかまえている。

特に踊り場は階段と階段の間がかなり広いため、沢山の露店がある。

 踊り場の外側はちょっとした休憩スポットや散歩に最適な小道もあり、今日はもちろんだが普段の日も地元の人はよく来ている。


「お、そこに居るのは愛坂ご兄弟ではありませぬか!」


 後ろの方から無駄に元気な声が聞こえてくる、綺麗な花柄の浴衣を着た春香だ。

 その周りには数人のクラスメイト(女子)がいて『愛坂君やっほ~』『キャー夏希ちゃん』などと、甲高い声で挨拶してくる。

 学校内のアイドル的存在である夏希は、それに対して持ち前の笑顔で反応する。

対して、俺はそんな女子の乗りにうまく乗れず苦笑いをしてしまっている。


「私は少し2人と話してから行くから、皆は先に遊んでて」


 それを聞いて女子達はそそくさと遊びに行く。


「ほな! 頑張ってな~話が終ったら連絡するんよ。そんならすぐ合流するわ」

「了解しました教官! こちらはおまかせください!」


 そういってその関西弁の子は女子たちの群れに交わってゆく。

確か春香の親友で......誰だったかな......

 春香は女子たちを見えなくなるまで見送り、俺達と合流する。


「まったく、二人とも言ってくれたら私も合流したのに」


 そういえば去年は3人で行動したっけ......

そして、同じように冬也と現地集合したのだ。

 春香とは高校に入学してから遊ぶ機会がかなり少なくなったから、四季祭くらいしかまともに遊べる日が無いんだよな。


「最近の愛坂君の様子はどうかね......夏希殿!」

「悲しいくらいに、まったく変わりは無いよ!」


 夏希は春香に対して、タメ語で話している。

春香には姉みたいな気持ちで話しているのだ。


「そかそか、それなら良かったよ! 愛坂君はニブチンだからね! そうじゃないと」

「そうそう、お兄ちゃんがだらしなくしてくれないとボクの1日が有意義に過ごせないからね」

「なるほど~夏希ちゃんの生きる糧は、そのだらしなさなのか~」


 酷い言われようだ......

二人はノリが結構似てるためか波長が合い、会話のテンポが素晴らしい。


「なかなかに傷付くこと言うな、お前ら」


 とは言うが聞き慣れてることと自分も少しそう思うあたりダメージは無い。

それと、二人の場合からかうという行動であり、傷つけようとはしていない。


「愛坂君にはこういう事を言われつつ成長して欲しいのだよ」

「でも、直しても中途半端にだらしなさは残しといてね」


 二人は楽しそうに、俺にも話かけてくる。


「まぁ、できる限り努力するよ」


 適当に俺は返事をする。

 変えたいとは思うが本質的に変えるのは難しいもので、直すにはそれなりに気持ちの切り替えが大切なのだ。

何回も直そうとは思ったが心が言うことを聞かないため、最近は諦めかけている。


「うんうん、オウエンシテルカラガンバレ!」


 春香が絶対に期待してなさそうな声で言ってくれた。


「そういえばお兄ちゃんのだらしなさと言えばね! 沙季ちゃんとの約束を忘れちゃったみたいなの。それも自分で言っといてだよ」


 夏希はいきなり話を広げる、話さなければ良かったかな。


「沙季ちゃんとの約束を忘れちゃったの? 愛坂君らしいなぁ~でもさ男の子って適当なところもあるから言ったこと忘れちゃうんじゃないかな? それに......愛坂君だしね」


 微妙な間を空けてまた失礼な事を言われた。

忘れてるから否定出来ないけど、完全に忘れてはないぞ。


「でも、完全に忘れてる訳じゃなくて。中途半端に覚えてるんだよ? まだ、完全に忘れてた方がいい気がしない?」


 バッサリ切捨てられました御愁傷様。


「確かに、中途半端に覚えてる約束って嫌だよね......私なら完全に忘れられてた方がましかも」


 そうすると春香は少し悩んだ様子でこんな事を言う。


「愛坂君は沙季ちゃんの事、どう思ってるの?」


 軽く口をほころばせながら言う。


「すぐに泣くけど、なんとか頑張ろうとしている所はかわいくてほっとけない。なんか、守ってやりたい気持ちになる」

「それだけ?」

「そうだな......沙季に対して思う事はそれだけ、だと思う」

「そっか......その約束思い出せるといいね」


 いつも通りの笑顔でそう言ってくれる。


「それじゃあ、私は友達が待っておられるので......夏希ちゃん、あとはよろしく!」


 『ラジャー』と夏希が返事をすると、春香は片手にスマフォを持ち女子達の向った方角に歩いて行く。

最後に振り向いて手を振ってくれたので、俺達も軽く手で返事をした。


「お兄ちゃんも悪よの~」


 夏希がかわいい顔でそんなことを言う。


「まぁ、早く思い出さないとな。春香も応援してくれたし」


 俺も早いとこ思い出さないとだよな......

沙季の事をどう思ってるか......


「......」


 俺が沙季の事を考えてると、ふと夏希の口が動いた気がした。


「何か言ったか?」

「何も言ってないよ!」


 キョロっと否定された。

気のせいだったのだろか。


「よう、待たせたな」

「やっほ、まー君! 私の浴衣どう? 似合ってる!? 見とれた!?」


 すると、後ろから冬也達がやってくる。


「遅かったな。鈴華ちゃんも浴衣似合ってるよ」

「こんばんはです、冬兄。鈴華ちゃん」


 冬也は浴衣姿に金魚を二匹ほど持っていて頭にはお面などと、祭りを全力で楽しんでる風の格好をしている。


「ずいぶん楽しんでるご様子で」

「うむ、半分は鈴華のだが。俺もそこそこ楽しんでいるよ」


 右手にあるりんご飴を食べながら答えてくれた。

なんというか、見た目は全然興味なさそうに見えて意外と色んな事が好きなんだよな......


「さて、仙宮寺の神事まではまだ時間があるし射的でもやらんか?」

「いいね! 遊ぼうぜ」


 気持ちよく俺は返事をして、目の前にあった射的場で遊ぶ事にする。


「私もやる! もちろん夏姉もやるよね」

「鈴華ちゃん、わざと言ってるよね......」


 顔をひきつる夏希だがやる気は充分で気合いが入っている。

 チームは俺と夏希、冬也と鈴華ちゃんで別れて一人百円勝負。

コルクは十玉で、どっちが多く撃ち落とすかの単純勝負。

景品は小と大の二つに分けてポイント形式にもした。大は二ポイントだ。

 まず先制は生田目兄妹。


「......」


 冬也は静かに集中すると、狙いを定めて打つ。

『シュ......ポン......ポン......ポン』


 一、二、三と連続で撃ち落とし、順調に景品を落としていく。

その姿はさながらお祭り男だ、本気を出した冬也の勢いを止めれるのは誰もいない。

 そして、最後に大を二回狙うが片方は撃ち落とし、もう片方は横に傾いてしまう。


「ちと、でかすぎたか......一発では無理があったな」


 【生田目チーム十ポイント】


 冬也の射的に俺は唖然としつつ。

 次に鈴華ちゃんの出番だ。

露店に置いてあった踏み台に乗り銃を構える。

それでも身長がぴったりなせいか。台に乗りかかるような大勢になる。構える姿はスナイパーのようだ。


 そして、一発目を撃つ!


『スカッ!』


「お嬢ちゃん玉を込め忘れてるよ」


 射的場のおじさんがそう言うと、顔を赤くする鈴華ちゃん。


「これは、わざとだよ?」

「忘れてたんだろ?」


 冬也がいじめるように鈴鹿ちゃんに返す。


「忘れてないもん! わざとだもん!」


 鈴華ちゃんが否定する。

そのやり取りが横から見ると微笑ましい。

準備ができたらしく鈴華ちゃんは、一発目を撃つ......


『スカッ!』


 コルクの軌道は横に大きくそれる。


「だいぶ違うところに飛んじゃった......まっすぐだったのに......」


 そして、もう一発。


『シュ! ......ポン』


 次は真っ直ぐ飛び、小を撃ち落とす。


「やった、取れたよ~!」


 大喜びする鈴華ちゃん。それを見ていた冬也も鈴華ちゃんを褒めながら頭をわしわし撫でている。

軌道がそれたりはしたが、鈴華ちゃんはなんだかんだ上手く撃ち落とし。大を2つの小を二個撃ち落とした。


 【生田目チーム十六ポイント】


 そして、愛坂チームに交代となった。

 俺が先制を担当することになり、先手必勝と大を狙っていく。


「あれは、落ちそうだな......」


『シュ! ......ポン!』


 俺は一つ目を落とし次を狙う。

出だしは好調だ!


「次はあれかな」


 俺はまたも大を狙い撃つ。


『シュ! ......コン』


 当たりはしたが、当たり場所が悪くて上手く打ち落とせない。

 結局撃ち落とせないまま残り三発になり、小に切替えたのは良いが時既に遅し。

一つ撃ち落としたが一発は外し、冬也と同じように最後には斜めの小を一つ作ってしまったのだ。


 【愛坂チーム三ポイント】


 これはやばい、あまりの点数の悪さに自分を責めてしまう。


「わりぃ夏希、全然取れなかった」

「お兄ちゃんは欲張りすぎたんだよ」


 夏希がため息と共にスタンバイする。


「早めにあの二つは狙わないとかな......」


 夏希は狙いを定め撃つ!


『シュ! ポポン!』


 その先で斜めになっていた小の箱を撃ち抜き、その反動で横に跳ね返ったコルクがもう一つの小の景品を打ち抜く。

絶妙な射的能力で減速が最小限に抑えられ、隣の小を打ち抜いたのだ。


『シュ! ポポン!』


 そして同じように大と小を打ち抜く。

一気に八ポイントになった。


『ポン......ポン......ポン』


 ミスなしで七発小を打ち抜く。

 今のポイントは十五ポイント。

あと二点で勝てるのだが大が無くなってしまったため今は小しかない。

良くて同点なのが残念だ。


「次、撃ち落としたらお前達の勝ちでいいぞ」

「そんな事言ったら後悔するかもだけど大丈夫? 冬兄」


 集中のしすぎか冬也に対して軽く話す夏希。

敬語は似合わないよな......普段はタメ語で話したい筈だ。


「男に二言はない」

「流石、冬兄、大人だね!」


 すると、夏希は最後の一つを狙う......


 『外れろ......外れろ~私とまー君のために~』と鈴華ちゃんは後ろでボヤいている。

何を考えてるんだ、鈴華ちゃん......

 だが、そんな事にも反応せず夏希は集中している。

 そして......夏希は混信の一撃を放つ


『シュ! ..............................』


 玉は景品を捉える! 確実なルートだ。

そして......


『ポン!』『スカッ!』


 玉は景品を外した。いや景品が消えたのだ。

弾が当たる瞬間に違う弾が当たり、その景品が無くなってしまった......

 横から子供の『やった~』と言う声が聞こえてくる。

 一方夏希は少し気の抜けた顔をしている。

そして、我に返ると『てへ』と笑い。


「お兄ちゃんごめんね......外しちゃった......」


 申し訳なさそうに言った。


「いや、今のは仕方ないだろ。夏希は間違いなく撃ち抜いてたし、たまたま運がなかっただけだよ。むしろこの成果は普通は無理だったし夏希はよく頑張ったよ」


 夏希の頭を撫でてやる。


「えへへ、ありがとう! やっぱりお兄ちゃんは優しいね」


 夏希は猫のように自分から撫でられにくる。


「だがだ、負けは負けだ。守と夏希君には罰を受けてもらう」


 すると、冬也が横から恐ろしいことを言ってきたので『ごくり』と俺達は唾を飲む。


「うむ。射的で取ったお菓子を山分け。俺達に七割、お前達に三割ってのはどうだ?」


 思った以上に軽い罰ゲームで助かった。

鈴華ちゃんは納得していないが、冬也が頭を撫でなだめている。

そうすると不服そうにしていた、鈴華ちゃんは大人しくなる。小動物みたいでかわいい......


「折角遊びに来たんだ、そんな罰ゲームで気分を悪くするよりかは楽しく分かち合わなくては損だろう?」


流石冬也いい事を言う。


「それにお前の顔も大分晴れたみたいだしな。あんな顔じゃ仙宮寺に顔向けできんだろ、願いを考えつつ神事でも見に行こうじゃないか」


 そう言われて大分気持ちが楽になった気がする。

時間も丁度良いし、冬也には感謝しなくてはならないかもな。


 そして、俺達は拝殿の方に向かうことにする。

歩いて行くにつれ更に人が多くなり、先に進むのも大変だった。

俺達はその人ごみの中でやっと広場に着く。

 そこには、中央の巫女舞の舞台に付く様に火の着いた大きい灯し台と、舞台と灯し台を囲むように陸橋が組み立ててある。


 俺達はまず紅葉を取る事にする。

願いに使うのはこの広場にある紅葉だけというのが昔からの風習だ。

 大きな紅葉を使うと願いは成就しやすいとも言われているため、大きいのは最初のうちに取られてしまう。

しかし、小さい願い事なら小さめなのでもよく叶いやすいみたいなので、わざわざ大きめなのを使う必要もない。

 要は収まりの良さでも神様は見てくれるのだ。

手紙とかでも文字数が少なくて空白が多いのと、文字数が少なくてもきっちり収まりが良いのでは後者の方が良いというのが一つの考えである。


 そして、願いを込めた紅葉は包み紙で包み舞台の左側の階段から灯し台の奥へ行き、少し高い位置から包み紙を投げ入れ一礼してから流れる様に右側へ降りていくのだ。

流れる様に投げ入れていくので、願い事はあらかじめ紅葉に封じ込めとく必要がある。


 包み紙は神社の社務所で配られている。

もちろんおみくじや絵馬も売っているのでついでに買う人も多い。


「流石に人が多いな、俺はこれでいいか......」


 俺は少し小さめな紅葉を取る。

特に願いも無いからだ。


「そうだねぇ......毎年思うけど今年は特に......あれ!? お兄ちゃんダメだよそんな小さいのじゃ! はいこれ! どうせなら大きいのだよ、このお祭りの基本でしょ!」


 夏希に大きめなのを渡される。

大きいのでも小さいのでも大差無いのだが、行為は無駄にできないよな。


「ありがとう」


 横では、ここに来てから冬也に肩車されている鈴華ちゃんが、大きめな紅葉を取ろうとしている。

人混みが多く、埋もれてしまうからみたいだ。

 ちなみに、地元の人、観光客、カメラマンと色んな人が来てる。

目的としては巫女舞を見に来る人が多いのだ。


「そろそろ行くか?」

「そうだな! 行こう」

「うむ」


 俺達は包み紙を貰いに行くため冬也についていく。


「どうぞ、おみくじですか? ありがとうございます! 二百円です!」


 社務所に付くと、一人の巫女服姿の女の子が目に入った。

あそこに居るのは朝霧か......


「あれ、千秋ちゃん何してるの?」

「なっ! 愛坂!!? なんでお前がここにいるんだ......」


 朝霧は予想外の訪問者に恥ずかしそうに慌てている......


「うーん、なぜかと言われると毎年来てるからかな」

「なら仕方ないか......」


 朝霧は恥ずかしいのか目線を下にそらす。


「朝霧は、ここで毎年手伝いしてるのか?」

「あ、愛坂先輩こんばんは! そうですね......場所は違いますが毎年四季祭の時は手伝いをしてます」


 朝霧は敬語になる。

夏希と話す時と、俺との時で喋り方に大分ギャップがあるのが凄く気になる。


「良かったら俺には敬語使わなくていいよ、なんかやりづらい」

「それは、難しいですね私の性格なので......すみません」


 そっか、それは残念だな......


「いや、いいよ無理言ってごめん」


 すると、朝霧は紙を渡してくれた。


「そろそろ時間ですから早めに並んだ方が良いですよ。生田目先輩はもうスタンバってますし」


 灯し台の道は封鎖されておりその前には沢山の人が並んでいる、まるで大晦日と勘違いしそうな人数である。

 その列を辿り冬也を探す、相変わらず鈴華ちゃんを肩車してるのですぐに見つかった。冬也の後ろにも沢山の人が並んでるので確かに早めに並んだ方が良さげだ。


「ありがとう! 俺はそろそろ行くよ。夏希はどうするんだ?」


 俺は朝霧にお礼をすると、動こうとしない夏希にどうするか聞いてみる。


「ボクは少し千秋ちゃんと話してるよ! ちゃんと約束思い出すんだよ?」

「分かった。ありがとうな! あと仕事の邪魔にならないようにしろよ」


 夏希は『うん』と頷いて朝霧と話始める。

 そして、俺は灯し台の列に並ぶ。


 そろそろ、時間か......

 俺のスマフォは十九時五十九分を示し。

そして二十時になる。


 ふと、少し離れた所から舞台の方を見ると。

髪を後ろにまとめた巫女装束の沙季が舞の準備を整え舞台の前に立っている。

その姿はまるで俺の母さんのようにも見え、心が反応してしまう。

 その近くには綺麗な姿勢で、陰陽師が着てるような色鮮やかな服装の宮司が居る、沙季の父で仙宮寺(いさご)さんが沙季に鈴と榊を手渡す。

 周りには沙さんと似たような格好の白い服の男の人達が居て、笛や小太鼓等を持っている。

しばらくして囃子の音が聴こえて来る。それに合わせてその人達が演奏を始めた。


 すると、沙季は舞台にゆっくりと身を運び、灯し台の火を見つめながら正座で座ると深く一礼をする。

これは身を清めることと神様に身を捧げる事を意味し、神様を宿すために行う行為らしい。

 

 そして、しばらくして立ち上がりゆるやかに舞が行われ、それと同時に灯し台までの道が開かれた。

 巫女舞はそこまで激しいものではなく、回ったり手に持っている榊や鈴を少し上下させたりするような地味な舞である。しかし、それでも目を奪われるくらいに美しい。


まるで、本当に神様を宿してるように。


 沙季ってこんなに綺麗だったんだな......


 途端に昔の事を思い出す。

沙季は泣き虫で弱虫だけど諦めが悪くて、守ってやらなきゃ心配で。でも、笑ったり頑張る姿は凄く......


"好きだった"


 心の中にふと湧き上がった感情。そうか、昔の俺は沙季の事を好きだったんだ。そして、今も......


 あの時も四季祭の季節で紅葉を手に願いを込めたのだ......

少しだけあの日の約束を思い出した。


 俺は手にある紅葉を見つめて、願いを込め紙に包む......

流れる様に列は進み俺の番になる。


 『俺のこの気持ちが叶いますように』


 そう願い俺は手に持っていた包み紙を投げ入れ一礼する。

 ふと、舞台の方に目を向けると沙季が居ない、炎が目の前を覆っていたため気が付かなかった。

下に降りた俺は社務所に居る夏希達に何があったか聞きに行く。


「沙季はどうしたんだ?」


 すると、朝霧が答えてくれた。


「舞をしている最中にふらっと転んだんです。なんか、気が抜けたようなそんな感じで......すぐに起き上がったんですけど何処かに行っていまいました......」

「あれは、尋常じゃなかったよ......沙季姉は昔からこういうの苦手だったからね......ほら! 昔みたいに探しに行ってあげなよ! 沙季姉のとこ!」


 昔みたいにか、結局夏希は分かっていたんじゃないのか俺の気持ち。


「ありがとう。沙季の行くところわかる気がするから行ってくるよ」


 すると俺は、昔約束をした場所に向かう。


 ビンゴ、沙季ん家の前で人だかりができている。

俺は人気ひとけの無い沙季ん家の横の池を通る、道ではないので普通人は通らない場所である。

 約束をした場所というのは沙季ん家の後ろの方にある開けた場所で、知っているのは俺の家族や仙宮寺の人くらいだ。

実は家の裏口から出れるため、家から抜け出た可能性は高い。


 しばらく歩くと広い場所に出る。

 ここからだと町が一望できる秘密スポットだ。

今は月が青白く照らしていて、人気ひとけの無いその場所は神秘的な世界を作り出している。

 そしてそこには巫女装束の女の子が体育座りで泣いていた。間違いない沙季だ。


「やっぱり、ここに居たんな。相変わらずの泣き虫め」


 沙季がびっくりして、振り向く......

泣き顔が月に照らされると、俺の鼓動が早くなった。

女の子の涙ほど強烈なものは無いが、今の沙季は神秘的で綺麗で......何よりもかわいい。


「何で......ここに......居るの? ......ひっく、ここなら誰も......来ないと思ったのに......」

「まぁ、沙季は昔と全然変わんないから。来るとしたらここかなって」


 そうすると、少し元気がでたようで沙季は話しだした。


「来てくれたのが......まもるくんでよかったよ......守くんじゃなかったら、黙り込んじゃったもん......ずっと泣いてて......迷惑かけて......沢山の人が......来て......もっと泣いて。私泣き虫だからなぁ......」


 俺は黙って聞いている。


「私、失敗しちゃったの......舞の途中でね......すっと、気が抜けて......そしたら......転んじゃって......その瞬間周りの目が......怖かったの......人が苦手な私が何でここに居るんだろうって......そう思ったら......頭が真っ白になって......気がついたら走ってた......逃げだしてた......」


 淡々と話を続ける。


「あの時......丁度守君を見ちゃったの......それが、原因かな......それまで、人の目気にならなかったのに......」

「まさか俺のせい?」


 すると沙季は首を大きくふる。


「それは違うよ! 私が集中しきれてなかっただけだもん......私が......守くんの事気になっちゃっただけだもん......」


 凄くどきりとする、巫女装束姿の女の子が泣きながら、俺の事が気になるって......

好きな子に言われたら我慢できるかよ。


「俺もあの時沙季のこと見てたよ、凄い泣き虫な女の子が一生懸命頑張ってる姿をさ」


「......泣き虫って......改めて言われると......少しショックだよ......でも、見てくれたんだ......」


 沙季から笑みがこぼれた、元気になったかな。


「それは、見てたに決まってるじゃん」


 俺は恥ずかしくて目をそらしてしまった......

だが、少し間をあけて俺は約束を口にする......


「紅く染ったこの場所で、一枚の葉に願いをこめよう」


 それを聞いた途端に、沙季は目を瞑り一緒に

口ずさむ。


「「多くの季節を乗り越えた先で、再び会うことを約束しよう」」


 子供の頃に凄い恰好良く言った言葉だ。完全に忘れていなかったのだが、かなり恥ずかしい。


 でも、それでも俺の気持ちは昔と同じだ......

放っておけないし守りたい、何より好きだから俺はここに居る。


「ちゃんと思い出してくれたんだね。大切な約束」

「沙季のこと見てたら、あの頃のこと色々思い出したんだ」

「ずいぶん遅く思い出したんだね!」


嬉しそうに沙季は話をしてくれる。

いつの間にか、涙も引き満面な笑顔を見せてくれる。


「う、そこは触れないでくれたまえ......」

「忘れてた守くんが悪いのです!」

「もっともな発言に、反論のしようもありません」


 そして、俺は覚悟を決めて気持ちを伝えるようとする。


 すると、沙季は優しい顔で察したように俺の口を指で抑える。

とたんに俺の意識が薄れていく、まるで魔法をかけられたかのように。


「守の言いたいこと凄くわかるよ。でも今はだめ、......い......それ......ダメ......」


 そして、俺の薄れた意識はそこで途絶える最後に『思い出して』と聞こえた気がした。


ーーー


 なんだか頭の下あたりに柔らかい感触が伝わる、俺は気になって閉じていた目を開けて確認した......


「あっ、やっと......起きたね......」


 目の前には巫女装束姿の沙季が俺を見下ろしている、月が横から照らして神秘的な表情だ。


「あれ、ということは」


 これは膝枕!!!?

それを知った瞬間顔が火照りだした。


「話してたら......急に......倒れちゃうんだもん......びっくりしたんだよ?」


 沙季は気にしてないようで話してくれる。

そういえばなんで倒れたんだ......全く覚えてない......


「俺、どれくらい寝てた?」

「たぶん二十分くらいかな......」


 俺はジーパンのポケットからスマフォを取り出す。

時間はもうじき二十一時になるところだ......


「だいぶ寝てたんだな......そろそろ戻らないと......」

「そうだね......でも......一つだけ......約束お願い......してもいいかな......?」

「また、約束か?」


 俺は思わず余計な事を言ってしまう。


「うん、来年も四季祭の時に......またここで会いたいなって......ダメかな?」


 気にしてないようで良かった。


「そんなことでいいのか」

「うん、それだけでいいの......それだけで元気が出そうだから......」


 そういうことなら。


「分かった、約束しよう」

「ありがとう......じゃこれ! ......」


 沙季は緋袴(ひばかま)の腰帯の辺りをゴソゴソする。


「約束の証だよ」


 沙季の手には押し花で作られた手作りの(かんざし)がある。

紅葉の簪ですごい綺麗に手入れされている。


「これってもしかして」

「うん、七年前の......約束の証だよ。毎日持っていたくて......押し花で簪にしちゃったんだけど......」


 沙季はずっと約束を覚えててくれたんだよな、それは俺が願いを込めて渡した紅葉のおかげだったのかな。


「大切にしてくれたんだな」


 俺は嬉しくて、頬のあたりが緩む。

どんな風に見えてるだろうか......恰好悪く見えてないかな。


「うん! それでね......次は守くんがこれを持ってて。今回の約束も......これがあればきっと叶うから」


 沙季は俺の手に簪をおさめる。


「わかった、来年まで預かってるよ」

「絶対に......なくしちゃ...... ダメだからね!」

「なくさないさ......」


 自身はあまり無いけど......


「......今言葉に迷いがあったよ?」


 バレた......


「そ、そんな事無いさ! 時間も時間だからそろそろ行こうぜ!」


 時間も二十一時をとっくに過ぎ四季祭は終わる時間だ。


「そうだね......お父さん怒ってるかな......」

「いや、大丈夫だろ......むしろ心配してると思う」


 沙さんとはそういう人なのだ。


「あはは......確かにそうだね......」


 沙季は笑いながら納得する。

そして、沙季をつれて戻ると沙さんをはじめ装束を着た男の人達と、夏希と冬也達が待っててくれた。

 沙さんが来なかったのはそういう事か。


 それから、少し皆で話したがすぐに帰ることにした。


「それじゃ、そろそろ帰るよ」

「うん、またね」

「じゃ、また学校で!」


 俺は少し離れてから最後に沙季の方を見る、巫女装束を着た沙季が笑っている。

 それを見た俺は、手に持っていた簪を強く握りしめ約束を守ると誓った。




第3部ご閲覧ありがとうございます。

今回の話で序章は終了となります。


ちょっと、まだ序盤なので暇な内容だったかもしれませんが。

ここまで、見てくれた方には感謝です♪



今回は、四季神祭のお話です。


四季神祭とはざっというと。神様に願いを聞いてもらうことを目的としたお祭りです。


神に頼むならおまえりでいいかなと思う人も居るかもですが。


重要なのは、願い方です。


ぱっと解説すると。神様宛に手紙を書くって感じです。


紅葉は手紙の内容。包み紙は封筒とかの役割です。

それを燃やすことで、神様に手紙を届けるというのが簡単な考え方ですね。


とはいえ、四季祭もお祭りです。

普通のお祭りのように、露店とかもあります。

そんな風景も今回の部で書いてたのですが、上手く伝わったでしょうか?


ちなみに、今回力を入れたのは。夏希ちゃんの凄さですね!


かわいいだけじゃなく、かっこよさもあるんですよ♪


でも、やっぱりかわいいんです←


あとは、沙季ちゃんの巫女服姿で月に照らされながら泣いているシーンは自分の中で大分美しく書けたと思います。


巫女服にポニーテール凄く清掃な雰囲気があり、巫女服が月に照らされて青白く輝くのです。

神秘的な姿からは流れる涙…!


自分の頭の中では凄い神秘的な沙季ちゃんが居るのですが…読者様に伝わっているかは、心配です。

想像するのと、伝えるのでは全然違うので…



最後にこの部には2人の人物が登場しました。分かりましたか?


1.仙宮寺(いさご)


沙季ちゃんのお父さんで、守のおじさんです。

穏やかで優し人ですね!


2.春香の親友(???)


関西弁が目立つ明るい女の子、春香ちゃんが明るい性格なのはこの子のお陰かもですね。


今回はあまり出ませんでしたが、今後の活躍に期待してくださいね!

























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