紅い約束
10月〇〇日 ㈬ 雨のち晴れ
私が盛城町に来てから今日で3日目だ。
部屋の掃除やレイアウトも一区切り着いたのでしばらく休業していた日記活動に手が届いた。
今日は待ちに待った登校日で色々あったな。
朝の通学時間には不思議な三毛猫ちゃんが居て、少し興奮しちゃった。
その子は不思議な瞳で私の顔を凝視してきて、私は吸い寄せられるように触れようとしたけど、あと少しの距離で頭を踏まれてどっか行っちゃった。
踏まれて少し涙ぐんだけど、貴重な経験できたとポジティブに捉えたよ!
でも、触りたかったな…
学校では、ハルカちゃんと守君に七年ぶりの再会!嬉しかったよ。
なんだか、最初のハルカちゃんは少し怖かった気もするけど、時間が経つにつれて優しくなってくれた。
でも、昔と同じでハルカちゃんは少し苦手かな。
下校時には守君と一緒に帰った!
雨は止んで雲も全然だったから夕暮れが綺麗だったな。
私の家まで守くんは送ってくれたけど、その時の記憶が曖昧。
どんな話ししたのかな、思い出せない。
はっきり覚えているのはおかえりと言ってくれたことくらいでなんだか損した気分。
守くん約束覚えてくれてたかな。
ー秋ー
『ピピピッ!』
時計の音が静かな部屋に鳴り響く。
「......うん......ぅぅ......」
ベットで丸まって寝ていた俺は寝返って、テーブルに置いてある目覚まし時計にのそのそと手を伸ばす。
『ピピ、ビシッ......』
俺の手は一回二回三回と空を舞い、四回目に時計を捉えて少しばかり乱暴に時計のアラームを止める。
「うぅーん......うるさぃ......」
ベッドから出ないまま時計を持ってきて時間を確認する。
「六時半......って......」
俺は時間が早いと思い二度寝をしようとするが、目覚めが良く寝る気にもなれないためベッドから起き上がった。
本棚にクローゼット、テーブルの周りには漫画本が散乱していて締め切った青いカーテンの奥はぼんやりと光っている。
「たまには早めに起きるか......」
起き上がった俺は窓の方へ歩きカーテンを開ける。
「今日は......憂鬱な天気だな」
外はあいにくの雨で俺はため息をつく、空想とは違い自分の思うようには行かないのが現実だ。
ふと、さっきまで見ていた夢を思い出す。
その夢は妙にリアリティーがあり、起きた今でも本当にあったことなのではないかと思うくらいだ。
夢の風景までは覚えていないが夢の主は多分俺だ。
俺は何かを後悔していたみたいで最後に神様に頼み事をしていた。
『さようなら......』
その中でもひときわ記憶に残っていたのはそのひとことだった......
姿までは分からなかったが......一番大切な人の言葉だったのは分かる......
そういう夢は沢山見てきたが、ここまでのリアリティーな夢は初めてだ......
映画とかで言えばとんでもない展開になったりもするのだが......考えすぎか。
そんな事が起きない事は誰だって分かることだ。
「よぉーうし! 気を取り直して今日も頑張りますかね!」
俺は外を見た時の憂鬱な気持ちと、夢で見たリアルな感覚を消すため無理して気持ちを切り替える。
俺はクローゼットに手をかけ扉を開けると中から制服を取出した、茶色いブレザーに紅葉デザインの校章をつけた地味な感じの制服だ。
下に第一ボタン以外をきっちり止めたYシャツを着ると上にそれを重ね着する。
そして、最後にズボンを履きネクタイをそれらしくなるように適当に締めて着替え完了だ。
「さて、準備はできたが......まだ時間があるな」
俺は時計を再度確認し余った時間でテーブルの周りを少し片付け、読みかけの漫画を読むことにした。
ーーー
俺が漫画を読んでから、しばらくすると階段を上がってくる音がしてくる......
来たか......
「お兄ちゃん! おっはよう!」
制服の上にかわいらしいエプロン。
「あれ? もう起きてたんだね、しかも部屋が少し綺麗! なにがあったの!? せっかくボクが起こしてあげようと思ったのに」
髪は肩に当たるぐらいの黄色いショートヘアー。
「ああ、おはよう、今日は何故か目覚めがよかったからな」
綺麗に整った顔に、小柄な体系。
「う~! お兄ちゃんを起こすのはボクの中の『1日を有意義に過ごす方法』のベスト10位にランクインしてるほど大切な行動なのに~。その為に目覚ましまで早めに設定してあげたのに」
性格はとても明るくいつも笑っていて、驚くほどに兄思い。
「そういうことだったのか......悪かったな、お前のご期待に添えなくて」
「そう思うならボクの為に二度寝でもしてくれれば......そしたら......ボクが優しくお兄ちゃんを起こして......」
少しかわいらしく近づいてくる。
俺としても兄としてでも、これほどまでに嬉しい事は無いだろう。
だが......
「いや、それだけは出来ない! させられない!」
「ええ~! なんでなんで?」
そう、完璧な妹だ一つだけ一つだけ間違えてさえいなければ!
「それは......」
その一つだけそれは......
「それは?」
こいつが
「お前が......」
「ボクが?」
この、オンナノコが......
「男だからに決まってるだろうがぁぁ!」
そう......どういう神様のイタズラか。見た目と声と性格が女の子なのに引き換え、性別だけが男なのだ。
「酷いよ! 性別ぐらい兄弟なんだよ......」
「ああ兄弟だよ、普通に起こしてくれるなら別に気にやしないさ」
普通に起こしてくれるなら俺は別に構わないんだ、かわいいからな。
だが、こいつの場合声だけではなく体全体で起こして来るのだ。
女の子みたいな感触だから嬉しいのだが後味が......(以下略)
「起こすならせめて声だけにしろ!」
だが、俺の訴えは悲しい事に『ヤダ......』の一言でかき消される......
「だって、お兄ちゃんを起こす時のあの反応が良いんだよ!? あれを見ないと1日やっていけないよ!」
「俺が1日持たねぇ!!」
てか、そんなに起こしたいなら目覚ましの設定を変えなければ良かったんじゃないのか。
......
まぁ、朝のおふざけはこんぐらいにして。
「さて、もういいだろ? 下に降りて朝飯にするか」
「そうだね! もうご飯は用意出来てるよ!」
さすが夏希だ。
「ほんと、お前は頼りになるよ」
部屋から出て階段を降りると、俺は洗面所に行き歯磨きと洗顔を済ませる。
台所に向かうと机には二人分の食事が置いてある。そして、俺の席に置き手紙が1枚。
「あれ? 親父はまさかもう?」
手紙を手に取りつつ俺は夏希に聞く。
夏希はエプロンを綺麗に畳んで台所の引き出しの中にしまっている。
「うん、パパはボクが起きた時にはもう居なかったよ」
そうか、相変わらず早いな。
親父の仕事については兄弟の俺達すらあまり知らず、どこか遠くでの仕事とだけ聞かされている。
そのため、家族3人で過ごすのは年に5回あるか無いかだ。
久々にゆっくり3人で過ごせると思ったのに、すぐに仕事にでてしまった。
「また寂しくなるな......」
「そうだね......」
おっと、しんみりした空気にしちまったな。
俺は親父からの手紙を確認する。
『守の面倒は任せたぞ、あいつは俺に似てだらしないからな!( ̄▽ ̄)』
俺宛じゃ無いのかよ!
横から『クスクス』笑い声が聞こえてくる......
「なーつーき......! お前内容知ってやがったな!!」
俺は夏希を捕まえて脇腹をくすぐっってやる。
「ひゃ、やめて! くす、くすぐっったいからぁぁ、やーめぇてー!!」
夏希をは涙を浮かべなが、笑いこけている。
俺はそのまま夏希を1分間ほどくすぐりの刑に処した。
「まぁ、茶番はこれぐらいにして飯にするか!」
「ひゃはは! やっと終わったぁ......うん! そうだね! ほら、温かい内に召し上がれ!」
夏希が笑い終わるのを待ったのち、手を合わせる。
「いただきます!」
そして、俺達は朝飯を食べる事にする。
鮭と味噌汁、それからお新香を少しと朝には丁度いい献立だ......しかし、俺は魚は苦手である。
「ほらお兄ちゃん、ちゃんと鮭食べないとだめだよ? それともまだ骨が苦手なのかな?」
夏希は意地悪な口ぶりでそんなことを言いだした。
いや、実際苦手だからこそ食べる気があまり起きなんだよ......
夏希は慣れた手つきで食事をしていく、この年になってまともに食べれない自分はなんとも惨めだ......
「ごちそうさま! ボクちょっと仏壇に挨拶してくるね」
すると、夏希は自分の分の食器を片付けて仏壇の方に向かう。
俺の家、愛坂家は父子家庭で毎月単身赴任中の親父から生活費などが届く。
母さんは4年前に他界してしまい、それからは夏希と俺の2人だけの生活が増えた、最初のうちは慣れない生活で大変だったが夏希の飲み込みの速さで今は安定している。
そういう俺は夏希に甘えて特に何も出来ないダメ兄貴に育ってしまったとさ......悲しかな......
「ごちそうさま」
そして、俺も食事を食べ終わり。
食器洗いを済ませてから夏希を呼びに仏壇のある部屋に向かう、そろそろ登校時間なのだ。
部屋を覗くと夏希は仏壇に向かって手を合わせている、心の中では『学校に行ってくるね』と言っているのだと思う。
「そろそろ行くぞ!」
俺は仏壇の前に居る夏希に声をかける。
それを聞いた夏希は静かに立ち上がった、その姿はまるで大和撫子のようで一瞬ドキッとさせられる。
てか、弟に対して何故心を揺さぶられてるんだろうか、俺がまともなのか夏希のかわいさが異常なのかどちらか分からない。
「うん、行こうかお兄ちゃん!」
俺は元気よく返事をした夏希にとりあえず聞いてみる。
「忘れものは無いか?」
すると夏希は歩きながら。
「ボクが何か忘れると思う?」
俺の横を通り過ぎる時にそう返した。
全く兄が気を使ったというのに......受け答えがそれかよ。
「やっぱ、お前に限って忘れ物なんてないか」
「あ・た・り・ま・え! ほら早く行くよ!」
俺は『はいはい』とため息を吐き、仏壇に置いてある母さんの写真に顔を向ける。
夏希や親父はここで母さんを見てる時どんな気持ちなんだろうか......
まぁ、そういのは詮索しない方がいいよな。
たとえ家族でも。
「......そんじゃ、行ってくるよ母さん」
仏壇に背を向け俺は玄関に向かう。
後ろから『いってらっしゃい』と言われたようなそんな気がするのだった。
玄関からは夏希の声が聞こえる。
「傘、ちゃんと持った?」
さっきの仕返しか?
「雨が降ってるのに、忘れる訳がないだろ」
夏希より先に外に出る。
「いや、お兄ちゃんならやるよ!」
そんなアホじゃない! と心の中で突っ込みを入れながら俺は鍵を閉めている夏希を待つ。
すると、その時!
『すきありぃ~』という声と共に黄色いカエル型のカッパを着た小さな女の子が俺に飛びついてくる。
「おわっ! とっと」
制服が濡れちまった......
「おっはよう! まー君!」
まったく、こいつは......
「おはよう、鈴華ちゃん」
俺はいやいやながらも仕方なく小さな体を抱き抱えて、やさしくあいさつする。
すると、遅れて盛高の制服を来た銀髪のイケメンの男がブロック塀の奥から現れる。
「今日も朝から悪いな」
「いや、いいっていつもの事だし......」
こいつらは、生田目冬也と鈴華。
冬也は俺と小学校からの親友で微妙な優等生。
髪の色は青白く、中途半端に癖っ毛が見え隠れしていてそれが微妙にイケメン指数を上げている。身長も高めで言うことなしだ。
ちなみに部活は演劇部で部長をしている。演技は他の部員に比べて非常に上手いので学校ではかなりの有名人だ。
一度舞台に上がればこいつの空気に飲まれるほどの天才である、それなのに進路は演劇関係ではないらしいもったいないものだ。
そして、この子が冬也の妹で好奇心旺盛な鈴華ちゃん。
幼稚園児で明るくかわいい子だ。
まぁ、幼稚園児だから愛らしいのは当然なんだが。
チャームポイントは綺麗なロングの黒髪らしい。
そして、何故か冬也より俺の方に懐いてくる。
冬也曰く、俺に惚れてるのだと言う。
いくらなんでも幼稚園児に手は出さない。てか犯罪だよ!
「おまたせ! 行こっか」
とかなんとかしているうちに夏希が戸締りを済ませてこっちにくる。
「おはようございます。冬兄、鈴華ちゃん」
年上相手なので、あいさつは慣れない敬語を使う夏希。
冬也とは夏希も長いのだが、呼び捨てはほとんどしない。
「おはよう」
冬也はクールにあいさつをする。一方、鈴華は敵を見るようにして。
「おはよう恋敵、まー君は私のだからね?」
黒鈴華になる。
てか、こいつは幼稚園児だよな? ......その台詞もどこで覚えた。
「うーん、どうだろう。鈴華ちゃんはお兄ちゃんに手が届くかな? ボクを出し抜いて」
夏希はにこにこしてるが、目が笑ってない。
こいつら怖っ! てか、大人気ないぞ夏希。
............
あれ、突っ込みどころ違くね? 俺......
「うむ、熱い恋愛バトルはそれぐらいにして行こうか遅れるぞ」
冬也は冷静に言う。
「冬也......あの会話をさりげなく納得するなよ!」
そうそう、ここがツッコミ入れるとこだよ!
「まぁ、問題ないだろ」
「俺からしたらどう考えても問題ありだ......」
すると、冬也は少し真面目な顔になり......
「まぁ、とにかく......俺の妹を泣かせたらゆるさんぞ......」
.................................................................................
何言ってんだ殴ってやろうか......
「......お前はどこのお父様キャラだよ!」
「いや、俺は鈴華のお兄ちゃんだが何か?」
お父様キャラ否定された......
だが、しかし、それ以前に、明らかに、間違いなく。お前にその台詞は合わない......
何より真顔で言うと余計に......
......まぁ、とにかく、そろそろ行かないと。
「さて、行くか」
まず俺たちは、鈴華ちゃんを幼稚園に連れて行く。
「バイバイ、またね! まー君!」
「行ってらっしゃい......」
俺は苦笑を浮かべながら手を降る。
すると、冬也が俺の肩に手を乗せ。
「妹の事は、俺に変わってこれから頼むぞ」
このシスコンめ!
「いや、こんなの毎日続くのは絶対にごめんだから......」
「冬兄。お兄ちゃんにはボクが居ますので間に合ってます」
「いやいや、俺の妹も夏希くんに負けないぐらい魅力的だ」
話がまたおかしくなってるし......
『その話はやめろ』と心の中で俺は囁く。
「でっ! お前はどう思う!」
「でっ! お兄ちゃんはどう思う」
見逃して欲しかった......だが俺は意を決して。
「俺はどっちのものでもない!」
......
「「そうか…」」
え? なぜ二人とも落ち込む!
俺は間違った答えはしてないぞ!
そうしている間に学校に付いた。
校門では風紀委員が見張っているが俺たちには関係ない(俺はネクタイをきっちりあげて、第一ボタンの開きを誤魔化す)
「随分と遅いじゃないか、愛坂」
昇降口から学校に入った瞬間下駄箱の方から声が聞えた。
少し焦ったぜ......
俺は傘を畳んだあと、声がした方へ体を向ける。
そこには男っぽい? 雰囲気の女の子が下駄箱の前で立っている......
髪は茶髪く尻尾みたいに細くまとめたポニーテールが特徴的で、長さは腰ぐらいまである。
ちなみに、白襟のセーラー服を着ていなければ女の子と気が付かなかったkもしれない。
「うん? お前は......」
「おはよう! 千秋ちゃん! こんなとこに居るなんて珍しいねボクを待っててくれたの?」
俺が『誰?』と言おうとした瞬間夏希が言葉をかき消した。
「朝練を終えて戻る途中でお前を見かけたからここに来たんだよ。それより私との約束忘れただろ?」
千秋とやらは不機嫌そうに言い放つ、いや普通に不機嫌だ。
「へっ? ボク何か約束したっけ?」
夏希は、不思議そうに聞く。
「......お前、昨日朝練の約束とついでにCDを貸すっていう約束したろ......」
「あー! そういえばレモンデイズのCDを朝練ついでに貸すって言ったけ......ごめん」
夏希は少しだけ申し訳なさそうに謝る、呆れた様子で夏希と会話を続ける千秋とやら。
「ところでCDは?」
「もちろん、忘れた......」
夏希は苦笑いしつつ明るく答える......
「おいおい......」
「あはは......! 家での事は忘れないんだけど。友達の約束とかはたまに忘れちゃうんだよね~」
夏希にもとりあえず欠陥があったんだな。
とか思いながら聞いていたが見てるのも飽きたので俺は夏希に声をかける。
「夏希、その子は誰だ?」
2人の話に入り込む俺。
「......愛坂......この人は?」
千秋とやらも夏希に俺の事を聞く。
「えっ? あ、そうだったね」
少し混乱しつつ紹介をし始める。まずは俺に紹介をしてくれる夏希。
「えーとね、この子はボクの同級生の友達で朝霧千秋ちゃん!」
朝霧千秋か、そういえば夏希から少し聞いたことがあったな。
次に俺の紹介を朝霧にする夏希。
「えーと、次は千秋ちゃんに紹介しないとね......こっちはボクのお兄ちゃんで......」
「愛坂守先輩だろ」
朝霧は確信した表情で俺の名前を口にする。
「あ~! ボクがせっかく紹介しようとしたのに~!」
「だって、いつも話聞いてるし覚えちまうって......あと千秋って呼ぶのやめてくれ......」
「えっ! どうして?」
「私、千秋って名前嫌いだから......あと、こそばゆい......」
恥ずかしそうに呟く千秋。
「え~! ボクは千秋ちゃんの名前可愛くて呼びやすいから好きだよ?」
「なっ! ......私のことは朝霧って呼べって!」
朝霧が赤面しながら言葉が裏返る。
こうして見ると女の子らしくて、かわいいかも......
「うん? 痴話喧嘩か?」
後ろから冬也の声が聞える、そういえば存在を忘れてたな。
「多分......違うだろ」
俺はあえてあやふやな返答をする。
違うと思うが心配なので"多分"を付け加えた。
「あっ! 生田目先輩じゃないですか。おはようございます!」
朝霧は冬也に挨拶をする。
てか、本当に視界に入っていなかったんだな。
「一応さっきから居たよ?」
"一応"とは散々な扱いを受けているな我が友よ。
てか、夏希はちゃんと視界に入っていたのか?
ある意味、一番視界に入っていなかったと思うのだが......
夏希と朝霧はまた話に没頭し始める。
「朝霧を知っているのか?」
俺は、冬也に聞いてみる。
「うむ、少しな......音楽部と合同練習をした時に話した程度だ」
「たったそれだけで覚えてもらえるって、やっぱりお前人気あるんだな」
「いやそうでもないさ。それよりだ......話し変えるぞ」
結構呆気なく話を終わらされたな。
そんなことはさておき冬也は少し顔を強ばらせる。真剣な顔で、演劇をしてる時と同じぐらい真面目になり。
「今の夏希くんはとても幸せそうじゃないか?」
二人に聞こえないように小さく話してきた。
そして、冬也の言葉と表情を見てその意味を理解した。
まぁ、今のあいつを見れば考えても意味がないがな。
「ああ、昔では考えられないぐらいに明るくなったよ」
昔の夏希と今の夏希とじゃ全然違う。
色々と大変だったのだ、見た目の問題は生活に大きな支障があった。
小学生の頃の話だが、男の子なのに女の子っぽいと言うのは純粋な小学生にはいじめの対象になってしまっていたのだ。
今考えれば、どうってことのない出来事だったのだが。
当時の夏希の事を考えれば凄く傷つく出来事だったはずだ。
幼い頃の傷は深いトラウマになる事が多い。
だから、今でもその出来事は夏樹にとって笑い事ではないはずだ。
「時が経てば人は変われるものさ、夏希君の笑顔は周りの人に恵まれた結果だよ」
俺は笑いながら言う。
「それは、お前や春香のお陰でもあるよ。ありがとう」
「うむ......それはそれとして......時間が危ない」
冬也は照れたと思いきや冷静な顔にもどり、さり気なくとんでもないことを言う。
時計の針はすでに37分を過ぎていた......
これはやばい......
「おい夏希! それと朝霧! 早く行かないと遅刻だ!」
「え? うそ、もうそんな時間!?」
「こんなとこで話しするから!」
「先に千秋ちゃんが話してきたんじゃん!」
今度は完璧に痴話喧嘩だな
「おい、痴話喧嘩は良いから行くぞ!」
「「痴話喧嘩じゃない!」」
二人の声が重なる。
「やれやれ......俺は先に行くぞ」
冬也は軽く走り出す。
はぁ、今日は騒がしい朝だ......
そして、俺たちは急いで教室に向かうのだった......
『キーンコーンカーンコーン』
学校の鐘が鳴る前に教室に辿り付く俺。
「はぁ、はぁ、なんとか、間に合った......」
俺は当然だが、自分の席に付くことにする。
冬也は間にあったとして。夏希と朝霧は間にあったのだろうか一年の教室は一つ階が上だからな......
「今日は遅刻寸前の日かな? 愛坂君!」
どこにでも居そうな女の子の声で話しかけられた。
「その台詞、今ので何回目だ? 春香」
俺は声の主の方を向いてどうでもいいことを聞いてみる。
「うーん、二学期だけだと七回で、入学時からだと五十二回かな」
そんな問いに普通に答える彼女。
「......本当か?」
「もちろん! 嘘!」
彼女はニッコリと笑いながら言う。
こいつは幼稚園からの幼なじみで委員長の佐々木春香。
特徴は抑えめなミディアムヘアーでピンク色の髪だ。
スタイルもよく性格も明るくて誰とでもそつなく関われる。おかげでクラスでもかなりの人気者だ。
くっ、しかし自分で言っといて騙されるとは......情けないぜ。
「あのな~、分からないなら分からないと言えよ」
「そんなあっさり分からないなんて言ったら、私のメンツか立たないよ!」
春香は甘いねぇ、甘すぎるよと言いたげな表情をしながら喋る。
「お前にメンツも何もあるのかよ」
俺は突っ込んでみる。
「もちろん委員長として!」
「......」
絶対違うと思いつつ、俺はこれ以上言っても切りがないと思ったので何も言わないことにする。
「何か言ってくれないかな?」
「面倒くさい」
春香は俺の顔を覗き込みながら言ってくるが、俺はそれに合わせてそっぽを向き素っ気なく即答する。
「ひどいな、愛坂君は......そんな事ばっかり言ってると......いつか牛になるよ?」
「......」
俺は喋らない、喋ったら負けだ。
「牛になっちゃったら、家を追放されちゃうよ! それでどこかの家の人に見つかって『おお! こんなところに美味そうな牛が居るぞ』と言う台詞と共に連れてかれて、焼き肉にされちゃうよ! 『上手に焼けました~』とか言われちゃうよ!」
「......」
色々と突っ込みたい事があるけど突っ込んだら負けだ、耐えろ! 耐えるんだ俺!
「何か言わないと本当に牛になっちゃうよ? いや、牛より馬かな馬だったら焼かれる可能性減るね!」
「......」
何言ってるんだこいつ、次は馬かよ......牛もどうかと思うが馬って。
「『これは末期の重症ですね、奥さん』『そんな......じゃあ夫はどうなるんですか!?』『はい......奇跡が無いかぎりは......』『そんな......』」
「......」
春香は突然、1人2役で演技をし始めた。
どこのドラマだよ、てか話が急展開すぎないか。
「『病名は』『......ごくっ......』」
「......」
なんだこの空気、気まずいぞ......
「『......馬耳東風です』『そんな! 嘘と......嘘だと言って下さい! 先生ッ!』」
「......」
耐えるんだ俺......
こんな訳の分からん芝居に反応してはダメだ......
耐えなければ俺の負けだ......
「『このまま、夫は馬になってしまうんですか!』『残念ながら......』『私は夫とこれから馬の耳に念仏の生活をしろって......言うんですかッ! 先生!』『くっ......すいません......』『そんな......先生......』」
流石にこれは耐えられんぞ......
俺の肩がピクっと揺れる! こいつの言動を止めろと! とどろき叫ぶ!
「だぁ~れが、夫だ! 馬だ! 馬耳東風! 馬の耳に念仏だぁー!!! 俺が黙って聞いていれば頭にのりおって!」
「『先生! ......これは!?』『奇跡だ! 奇跡が起きた......』」
なおも続ける春香。
「ほぉ~、この期に及んでまだふざけた芝居をするかコノヤロウ」
俺は殺気を込めて言う!
対して春香は芝居をやめると腰に手を当てる。そして、人差し指を俺に向けて『ちっちっち』と素晴らしい笑顔で言う。
「それは違うな~、これは勝負だったのだよ! 愛坂君!」
このまま続けるのが馬鹿馬鹿しいので自分を落ち着けた、こいつの自分ルールには勝てる気がしない......
「......たくっ、分かったよ。良くわからんがお前の勝ちにしといてやる」
俺はため息を吐きつつ、自分の席に再び腰をかける。
「ちなみ先生が来るまで耐えれば、愛坂君の勝ちだったんだけどな~」
嘘だ、絶対嘘だ......
「ほら! 席に付け! 今日は転校生が居るから静かにしろ!」
そんな事を思ってたら先生が来た、号令もせず先生はそのまま話す。
うん、転校生? 俺は初耳だぞ......
同じことを思ったのか周りも似たような反応をする。
「そういえば今日は転校生が来るんだった」
春香は、今思い出したようでそんなことを言う。
「男の子か女の子かは分からないけど、情報だとこっちに里帰りしてきたみたい」
中途半端な情報だな。
「そうだったのか......」
あまり興味は無いが、男か女かぐらいは多少気になる。
「男の子ならかわいい子。女の子でもかわいい子が良いな~」
春香がそんな独り言をする。まぁ誰であっても仲良くするだろうそこが春香のいいところである。
教室の中はガヤガヤうるさい。
「ほらそこ! 静かに! ......よし......入っていいぞ」
いよいよ主役の登場か。
『てくてく』と主役である女の子が入って来る。身長は大分低く、おとなしめで古風な感じの女の子だ。
髪は黒くてロング......顔は......
「は! 初めまして......仙宮寺......沙季と言います......」
「!?」
緊張気味な手でチョークを持ち、黒板に字を書く彼女。
名前は仙宮寺沙季
俺はこの子を知っている......
いつも、ドジって泣いてばかりいた女の子......
「......色々と不束な点がありますが......よろしくお願い......します......」
彼女は頭を下げる。そして、勢い誤って教卓に頭をぶつける......
沙季は顔を上げると涙を浮かべて泣きそうな顔をしていた。
とたんに教室は笑いに包まれた。
......変わらないな......今も......
「どうやらかわいい女の子みたいだぜ、春香」
春香は、心此処に有らずといった表情をしている。
「春香?」
俺はもう一言、声をかける。
「......え? ......ど、どうしたの?」
春香は慌てて返答する。
「どうしたって、お前がどうしたんだ?」
「あっ、そうだね......」
珍しく返答に詰まっている春香。
うん? まてよ、これは数少ない勝利の予感......
「あ~、もしかしてあの子のかわいさにあらんことを妄想してんのか? 百合か!? この学園にもそんな属性があったのか~!」
俺は今まで以上に悪のりする。
数少ない可能性は無駄にできんからな。
だが、俺も俺で恥ずかしこと言っている。まず学園じゃないし。
「う、うん......そんなとこかな」
春香は元気がなく呟く。
おいおい、うなずくなよ絶対有り得ないだろ。
なんかやりにくいな......
「......ずいぶん元気ないな?」
「え? そんなことないよ! 全然ピンピンだよ!」
春香は手をかなり全快に振る。
絶対嘘だ......
まぁ、追求なんてしないが。
「うーん、席は......ロリタローの隣が空いてるな。佐々木! 仙宮寺を案内してやってくれ」
先生が春香を指名する。
「えっ! 私ですか!?」
春香は驚きならが反応する。
「当たり前だろ、席が隣だし何より委員長だからな」
先生は当然の如く台詞を吐く。
まぁ、委員長だということには納得だが......
「はい、分かりました」
あまり元気の無い声で言う。
春香は近くの人にしか分からないくらいの深呼吸をして、気持ちを落ちつける。
覚悟を決めたようだ。あれ何の覚悟だ?
春香は前に出て、沙季と対面する。
「よろしくね、沙季ちゃん」
春香は手を差し出し、沙季はその手を怖ず怖ずと握り返す。
「うん......よろしく......ね......」
春香と沙季。結構絵になってるじゃん。
俺は少し見とれる。
「じゃ、佐々木、委員長として優しくしてやってくれ。仙宮寺は盛城町に昔住んでいたと聞いている、皆も知ってる者は仲良くするように」
先生はそれらしいことを言う。
それに対し、返事をする生徒たち。
元気な返事、だるそうな返事と、色んな返事が重なる。
「こっちだよ、沙季ちゃん」
「うん......」
二人がこっちに向かってくる。
春香はなんか表情が微妙で、沙季はやはり怖ず怖ずしている。
とりあえず俺は近くに来た春香と沙季に声をかける。
「お疲れ、春香!」
「ありがと......」
春香は元気なく礼を言う。
そして、俺は沙季に目を向け会話を続ける。
「久しぶり......またよろしくな! 沙季!」
「っ! ......ご、ごめんなさい、貴方は......?」
怯えたチワワの様に身を固くして、驚いたような口調で伺ってくる沙季。
そういや長い間会ってなかったからな......
「ごめん、俺だよ。昔遊んだろ? 愛坂だよ、愛坂守」
丁寧に名前を告げる俺。
「......ま......も......る......くん? 本当に?」
重い口を開き聞いてくる。
「ああ、本当だ!」
俺はきっぱり告げた。
「本当......なんだね?」
「だから本当だって!」
「また会えたね!」
明るくなる沙季。
そして......
「あの~、お取り込み中ごめんね......授業始まるよ?」
春香の邪魔が入った。
空気読めとか言いたかったが、まぁ言っている事も分かるので退くことにする。
「仕方ない、じゃ次の時間話そうか!」
「うん、そうだね」
明るいが、お互い残念そうに相槌をうつ。
ちなみに、沙季の席は春香を中心にして左斜め下の席だ。
そして、俺とは話しずらい位置に居る(春香の隣)。
沙季は自分の席に付く。
そして授業へ......長い1日が始まる。
しばらくすると、春香もいつもの明るさを取り戻し、沙季と楽しく会話し始めていた。
その中で俺は、春香と俺と沙季は昔たまに遊んでた事を思い出す。
大分昔の事で忘れていた。
ーーー
放課後、雨が止み俺と沙季は一緒に帰る事になった。
夏希と冬也と春香は三人とも部活だ。
とりあえず、俺以外は部活に入っている。
夏希は朝霧と同じ部活で合唱部に所属している。
部活は楽しみの一つらしく、放課後は必ず顔を出している。
部活がない時は少し不機嫌になるくらいだ。
冬也は気紛れで部活に参加している。
本人曰く休んでも支障は無いらしい、才能の特権か。
そして、春香は部活以外でも学校の子と話したり。委員長の仕事など色々とこなしてるため朝の登校時はもちろん、放課後一緒に帰ることもほとんどない。
ちなみ部活は書道部だが、やることだけはやりほぼ放置気味らしい。
今回はそれの処理のため部活に参加中とのことだ。
話を変えて沙季の家は俺ん家の近くの榊神社の境内にある。
仙宮寺家は俺の母さんの実家でもあり。
事実上、俺と沙季は従妹だ。
ちなみに、盛城町は昔は榊村と呼ばれ。榊神社はその名残りである。
「沙季と一緒に帰るの何年ぶりだろうな」
「7年ぶり......かな」
確か、小4の時に引っ越したんだっけ。
「あの時は俺と沙季と夏希でよく遊んだっけな」
冬也と春香もたまに遊んでいた。
春香は何故か沙季と遊ぶ時だけはほとんど来なかった。だから、春香と沙季2人一緒に遊んだ覚えがあまりないのかな。
「そうだね......鬼ごっことか......かくれんぼとか」
「確か沙季は何しても弱くって最後は必ず泣いてたっけな」
俺は、意地悪な感じでクスクス笑う。
「そんなことないよっ......!!」
沙季は顔が真っ赤になる、かわいい。
「でも、あの時は楽しかったよな」
「うん......凄く......楽しかった」
優しい笑顔を作る沙季。
しばらくして榊神社に付いた。俺と沙季は境内に入ると百段くらいの長い階段を昇り踊り場に出る。
すると、次の階段まで露店の骨組みなどが道案内をするように参道の横に置いてあった。四季祭の準備をしているのだ。
踊り場の左右の外側には一つずつの物置小屋に、休憩所と散歩ができる庭がある。
その他は紅葉している木に囲まれていてとても綺麗だ。
踊り場を抜けてまた同じような階段を昇りきるとそこには鳥居があり、そこを二人で潜ると拝殿のある大広場に到着した。
四季神祭の準備などがされているここはサッカーグラウンドぐらいの広さはある。
参道が引き続き伸びており、中央に割り込むようにある舞台に邪魔され二手に分断する。
舞台の上にはブルーシートが引かれている。おそらく中には、階段や灯し代を作るための単管パイプと木の板が置いてあるのだろう。
そして、舞台を跨ぐように二つの参道は合流し引き続き道案内をする。その途中には右側に手水舎、左右に狛犬と続き五メートル程で横長の拝殿に辿り着く、閉め切った拝殿の奥には本殿に繋がる廊下が見える。
ちなみ、ここだと分からないが本殿の周りは注連縄で囲ってある。
広場の周りには赤く染まった紅葉が散ったりしていて。角に綺麗に集められている。
左端には社務所がありその横にはおみくじを結ぶ木や絵馬を飾る櫓などがあり。
右端には祭り用の道具などが入った倉庫と池、そしてその先に紗季の家がある。
最近では四季祭の時ぐらいしか此処には顔を出さなくなった。
昔は家族でよく来てたんだけどな......
ちなみに、四季祭とは四季神祭といい、紅葉狩りで有名な盛城町特有の祭りで秋になると毎年行う祭りだ。
祭りの内容は。この広場にある紅葉を取り、それに願いを込めて用意された色紙に包む。
それを灯し台の火で燃やして四季の神様に願いを聞いてもらうというものだ。
燃やした時の煙が天に登ることから、神様に願いを届けるという考えになったらしい。
そういえば、沙季は何故盛城町に戻って来たのだろうか。
「そういえば、沙季はどうして盛城町に戻ってきたんだ?」
沙季に唐突に聞いてみる。
「うん、おばあちゃんがもう元気がなくて、それで巫女舞をするようにってお父さんから連絡があったの」
なるほど、そういうことか。
仙宮寺家の女性は代々、四季祭で巫女舞を踊ることになっているのだ。
それも、仙宮寺家しか行えない特別な舞いらしく。
願いを届けてる間は同時に行う。
ちなみに4年前までは母さんが担当だったのだが、他界してからは婆ちゃんが巫女舞を披露していた。
しかし、去年の舞いを踊ってから体が限界を迎えたらしく、親戚同士でどうするか話していたのだ。
「お母さんはすごい反対してたんだけど、私がやりたいって言って大変だったけど説得したの」
「そんなにやりたかったのか?」
沙季は首を横にふる。
「違うよ。大切な約束があったから、チャンスは今しかないと思ったんだ。勿論、巫女舞もやりたかったけどそっちが本音だよ」
そうか約束のために盛城町に帰ってきたのか......
そういえば、沙季が引っ越す少し前に俺も沙季と約束をしたような気がする。
「あのさ、もしかしてなんだけどそれって俺との約束かな?」
そう聞くと沙季の表情が変わる、どうやら図星のようだ。
「そうだよ、守くんとの約束。私にとっては四季祭とかよりも凄く大切なことだったの」
そう言われて凄く嬉しくてこそばゆい。
でも俺は細かい事までは覚えてなく、微かな記憶しか無いのだ。
覚えているのは今日と同じように紅葉が綺麗だったことと、ちょっと恰好つけてた事くらいだ。
「だけどごめん。どんな約束したのかは全然覚えてない」
そうすると沙季はさっきとはまた違う表情。少し不満そうな顔になる。
「覚えてないんだ。酷いなぁ、守くんが言い出しっぺだったのに」
沙季は泣きそうな顔で頬をプクッとさせて拗ねてしまう。
俺が言い出しっぺだったのか、さらに罪悪感が増す。
「ごめん、凄く大切な事を言った事は覚えてるんだけど。今はぱっと思い出せない」
子供の頃のことなのに今でもぼんやりと覚えているあたり。今でも心の中では大切なことなのだ。
「そうなんだ」
少しほっとしたのか顔つきが良くなる。
すると、沙季は人差し指を俺の胸に当て上目遣いで俺に軽く微笑む。
俺はその表情にドキッとしてしまう。
「それじゃ、もう一度だけチャンスをあげるね。今週の土曜日、四季祭の日までに最初の部分だけでもいいから思い出してきて」
沙季はそう言って、俺に課題を与える。
「分かった絶対に思い出すよ」
「絶対だよ? 絶対に思い出してきてね!」
すると沙季は俺から離れて背中を向けて手を組む。
「まだ、色々と話したいところなんだけど。そろそろ、お父さんが心配するから帰るね」
家に帰ると言っても既に家に居るようなものだろうと、微妙につっこみたいところではあったが夕日も沈みかけて良い時間だ。
夏希もそろそろ帰る頃だろうし。先に家に居ないと寂しがってうるさいかから面倒だ。
「そうだな、俺も帰らないと夏希がうるさそうだしそろそろ帰るよ」
「うん、でもその前にそろそろあの言葉欲しいかな」
「あの言葉?」
あの言葉とは何だろうか少し考え込んでしまう。
「あの言葉ってなんだ?」
「言わないと分からないなんて、凄くさみしい気分だよ」
すると沙季はヒントを言う。
「再開した人や、帰ってきた人に言う単純だけど大切な言葉だよ......」
そこまで言われて鈍い俺はようやく意味が分かった。
確かにまだ言ってなかったな。
「おかえり!」
俺はありったけの笑顔と気持ちのいい声で言った。
「ようやく言ってくれたね」
沙季は嬉しそうな声でそう言うと、俺の方に振り向きありったけな笑顔で言う。
「ただいま!」
夕日に照らされた紅葉と神社の中で、沙季の笑顔も照らされて一際輝く。
俺はその笑顔に見とれれながら、よく知ってる子なのに知らないような笑顔と声。
でも、どこか落ち着けて知っているような感情が俺を包み込む。
今日という日に、俺と沙季は再開した。
ーーー
その日の夜。俺は夏希と共にテレビをつけながら夕食を食べていた。
だが、テレビとかには目もくれず俺は沙季との約束を思い出すことに集中している。
「それでね、千秋ちゃんが......お兄ちゃんきいてる......?」
俺はあの時何を約束したんだろうか、子供だけあって勢いで言ってしまった気もする。
けど、今でも心に残っている大切なこと......
「うーん......痛っ!」
刹那、丸めた新聞紙が俺の頭に当たる。
夏希が勢いよく俺に振ったのだ。
「まったくもう。何を考えるてるかはわからないけどさ、せっかくのご飯時にボクを無視するのはやめてよね」
俺の悪い癖が発動してたようだ。
一つの事に集中すると他のことに対応出来なくなってしまうのだ。
それを夏希との食事時にしてしまった。
俺と夏希にとって家での会話はかけがえのないもので、数少ない家族の会話なのだ。
「悪かった、今日はちょっと色々あってな......それで考えこんでたんだ」
夏希はため息をついている。
「それで、何を悩んでるの? ボクが話を聞くから言ってみてよ」
そう言われ俺は、今日あったことを話す。
もちろん沙季のことだ。
転校してきた事と約束のこと。
「沙季姉、帰ってきたんだ!! 明日ちゃんと会いに行かなきゃ」
夏希は嬉しそうだ。
俺も夏希も、当時の沙季は放っておけないぐらい泣き虫だったけど。
でも、その分好きだったからな。
「まぁ、それはそれで。お兄ちゃんは沙季ちゃんとの約束を忘れてたと......」
夏希はジト目でからかうように言う。
「約束を忘れてるって言うのは女の子にとっては凄くショックなことだと思うよ。それも、昔に約束したことで本人が覚えてないんじゃなおさらだよ」
「いや、でもあとちょっとで思い出しそうなんだよ......」
「お兄ちゃんは乙女心分かってないな~。思い出すとかじゃなくて、覚えてるかが大切なことなんだよ。まぁ、ボクはどんなお兄ちゃんも好きだけどね!」
いや乙女心って......
だが、夏希が言うならあながち間違ってはない気もする。
確かに、覚えてないってことを沙季の身になって考えると凄く辛いと思う。
「お兄ちゃんが、あと少しで思い出せそうならさ。どうしてお兄ちゃんがその事を覚えてるのかって事を考えてみたらどうかな?」
どうして覚えているのか。
約束の事を忘れて居なかった理由か......
「ありがとう、なんか大分参考になったし話してて楽になったよ」
俺は夏希の頭を撫でてやる、すごく嬉しそうな顔をしている。
すごくかわいいのでサービスでさらに撫でる。
「どうせなら、ハグしてくれた方がボク的には嬉しいんだけど」
「調子にのるな......」
軽くチョップしてやると『ひゃ』と嬉しそうな声を出してくる。
夏希は俺にされることは大抵嬉しがるので、これもなんだかんだでサービスであり。俺へのご褒美でもある。
「ごちそうさまです!」
夏希は夕飯を食べ終わっても居ないのにそんなことを言うのだった......
ーーー
ご閲覧ありがとうございました!
大分、自分は文章を書いたりするのが苦手なので分かりにくいところも沢山あったと思います。
ですので軽くキャラクター紹介をします。
今回登場したキャラクター達はこの話の中心人物達です!
登場人物紹介
愛坂守(高2)
身長171cm
本編の主人公、さえない感じの普通の男の子。
昔は気の利いた頼れるお兄ちゃんだったけど、今では頼りなさ満点。
黒髪ショートで、見た目は普通の優等生。
特技と言える事は何もなく、それにより自身に自信がない。
しかし、周りの人からは何だかんだで好かれている。
仙宮寺沙季(高2)
身長153cm
ヒロインです、泣き虫で気弱だけどとても頑張り屋な女の子。守よりお姉さん。
7年前に盛城を離れたが、再び戻ってきた。
動物が好きで、猫や犬を見ると性格が変わる。
愛坂夏希(高1)
身長156cm
守の弟で文武両道で完璧な子!
身体能力は総合的に言えば校内1位。
凄くかわいくて、学園のマスコット的存在。
守が大好き過ぎるがため、守以上に守を知っている。
完璧な弟にも苦手なものはあります…
生田目冬也(高2)
身長177cm
とてもイケメンでクールな青年、しかしながら見た目では想像出来ないことを言ったりする意外君。
演劇部の部長で才能があるが、本人はそこまでやる気が無い。
佐々木春香(高2)
身長165cm
すごい元気で、明るい女の子。喋り方が安定してなく変わった話し方をする事が多い。
スタイルは良い方で男子からも女子からも人気が高い。
朝霧千秋(高1)
身長161cm
夏希の同級生。
夏希には男っぽい喋り方をするが、年上には敬語を使う。とても恥ずかしがり屋。
綺麗に結んだ尻尾みたいな髪が特徴。
曲がった人間は嫌いで、そういう相手には冷たい。
生田目鈴華(5歳)
冬也の妹で、幼稚園児。
幼稚園児っぽさはあまりない。
見ての通り主要キャラのには春夏秋冬を名前の中に組み込んで居ます。
時間は有限ですから、春夏秋冬を辿って物語も進めていきます。
あとは、少し不思議なファンタジー系にもしたいので、キャラの仕草やちょっとした違和感などにも注意して見てください♪
もしかしたら、そこにちょっぴり不思議な事が隠されてるかも知れません。
伏線は沢山張りたいとも思いますので、末永く見て頂けたら、来る日には必ず答え合わせします♪