表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

働いたら負けとはこのことか?

作者: NOMAR

 世の中にはいろいろな仕事がある。仕事をすることで収入を得て、衣食住をまかない、税金を払って国民の一員として、社会の一員として貢献することで、人類という社会の群体生物の中に機能するひとつのパーツに収まる。そのことで生活と安心を得られる。そのために、仕事が無く税金が払えない個体は侮蔑の対象となる。



 なのでいきなり職場が倒産し、無職になってしまうと自分が社会不適応のクズに感じてしまい、不安と自己嫌悪に苛まれてしまうものだ。今、まさにハローワークで失業給付の申請手続きをしてきた俺は、そんな暗い気分にどっぷり浸っている。惨めだ………



 だいたい本社の経営陣が、社長派と会長派で争ってて、社長派の内部に外資系企業に株を流した奴らがいて、その企業に本社が乗っ取られるなんて、子会社の平社員の俺にはどうしようもない。その結果、俺の勤め先はきれいさっぱり無くなった訳だが。



 しかし、日本の国語の教科書を作っている会社がイギリスの企業に乗っ取られて、中学生と高校生の国語の教科書の総発行責任者が日本語の読み書きがぜんぜんできないジョージさんっていうのは、どうかと思うのだが。



 腐っていても仕方が無いので、心配してくれた友人が飲みに誘ってくれたので、久しぶりに飲み屋に行く。友人の数は少ないが、付き合いは長い。こうして誘ってくれるのは有難いものだ。



「俺、今の仕事辞めようかと考えてる」

いきなりそんな発言をかましてくれたのは、金髪でがっちり筋肉質のツヨシ君だ。一見、格闘家とかプロレスラーと言っても通じる外見だが、見た目に反する繊細な内面がある。俺の現状を聞いて真っ先に飲みに誘ってくれたのがツヨシ君なのだ。

「なんでまた、いきなり。今の仕事っていい稼ぎしてんじゃないの?」

「稼ぎは良くても、誉められた仕事じゃないからなぁ」

 確かに、地下カジノのディーラーというのはそういう仕事かも知れない。

「だから、家族や親戚連中にも堂々と名乗れる仕事に就こうかなって」

 言ってることは解るが、そんなご立派な職業に簡単に就けるものだろうか。

「それ、解る。続けてたら自分が腐っていく気がするんだよね……」

 そう言ったのはタクヤ君だ。細面のイケメンて奴で、自分の見た目を生かして、今はホストをしている。

「昔、置き薬の訪問販売やってたんだけど、ヒドイところだったからすぐに辞めちゃった」

 タクヤ君に聞いたその仕事はノルマが厳しいところで、そのために悪どいこともやってたそうだ。

「出張で田舎に行ったときなんだけどさ、田舎って玄関に鍵かけずに出かけたりするんだよね。そんな家に入りこんで、寝たきりのおじいさん横目に見ながらタンスを漁ってハンコを探してさ、そのハンコを契約書に押して『よし、これで契約がひとつとれた』って……それを会社に回してノルマ達成。そんな仕事をしててさ、こんな毎日を過ごしてたら自分は人として駄目になるって気付いて、退職したよ」

 それで今の仕事がホストというのもどうかと思うが、続けてるということは前よりマシということなんだろうな。

 二人とも仕事ではいろいろ苦労してたようで、三人で仕事のしょうもない愚痴を肴に飲んだ。二人とも何かあれば力になる、と頼もしいことを言ってくれたが、迷惑かけたくないので早く次の仕事を探そう。なかなか時間帯が合わないけどまた三人で集まって飲もうぜ、と約束してお開きになった。



 とりあえず、生活するために仕事をしなければならない。幸いにもすぐにバイトは見つかった。夜中にスクーターで小さい紙袋を配る仕事だ。これなら昼間にハローワークに行ったり就職先を探すことができる。小さな茶色の紙袋の中に何が入っているのかは知らない。中身が何か知って配達するのと、知らないで配達するのでは、捕まったときいろいろ違うらしい。なので配達する人間は紙袋の中身を決して見てはいけない、と厳しく注意される。配っている相手の顔色をみると、なんとなく察しはつくがそこは気付いて無いふりをする。早くまともな職を見つけねば。



 ある日、ツヨシ君から電話があった。

「テレビ見てるか?ビールのCM、○○○社の新製品」

 テレビのCM、すぐに思い出せないが……たしか野太い声で新しい商品名を叫んでる、その声が印象に残っている。

「あれ、俺の声」

「なんか聞き覚えがあると思ったらあんたかい、何、声優になったの?」

「いやいや、俳優に転職したよ。今度、舞台に出るからチラシができたら送るけどいいかな?」

 是非とも送ってくれ、絶対に見に行くと返事を返した。そっか、もう仕事を変えたのか。地下カジノのディーラーよりは、俳優のほうがましかな?収入が心配になるがCMの声っていくら貰えるんだろうか。つぎの飲み会で聞いてみよう。



 俺も負けじとハローワークで探した仕事の面接に行く。久しぶりにスーツを着てネクタイを絞める。羽毛布団の販売、接客業は経験は無いが未経験可と書いてあるので、採用されたら頑張ってみよう。

 面接官は優しそうな好青年で仕事について細かく丁寧に説明してくれた。商品の現物を持ってきて、持ち運びについての注意点なども説明があった。こちらの経歴については履歴書にある最後の仕事の解雇理由を質問されただけだった。出張もあるということだが、べつに問題は無い。わりと好感触なので、ここで正社員採用なるか?と期待した。

 最後に青年からこの会社で勤めるためにして欲しいことがある、とのこと

「あなたは見た目が怖くないので、ウチで勤めるには髪型をスキンヘッドかパンチパーマにして頂きたいんですよ」

…………は?

「ウチは客を脅してナンボの商売ですからね」

 青年はにこやかに説明してくれた。



 翌日、自分には無理そうです、とお断りの電話を入れた。

 ハローワークで紹介される仕事だからといっても、うかつに信用してはいけないらしい。

 なかなか世の中は厳しい。



                   終

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ