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無能男の異世界人生。  作者: 手が届かない魚網
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無能:001 「俺は無能だっ!」

せっかく異世界に転生したのなら、冒険者になりたかった。

だから、俺は冒険者になるはずだった。

数々の冒険で無双して、かつクレバーさを発揮するチート冒険者になる気だった。


ま、そんな存在はこの世界に無かったんだがなっ!


***


転生先に冒険者組合という組織体系がないとは、2歳まで気づけなかった。

そりゃ、そもそも俺がいた世界にも冒険者などいなかった。

俺が敬愛している作家が生み出した○ョー○・○ィ○ンだって、自称「世界で最後の冒険家の1人」だったしな。

冒険家と冒険者はまるで違う。前者は個人であり、後者は「そういう組織のメンバー」のことだ。

で、まぁ、冒険者というか、冒険者組合みたいのは無いらしい。当然だな。あんなものは、他の既得権益者にとっては害悪でしかない。

つまり、この転生は「ご都合が効かない」と俺は結論を出した。

自分で1から組合を作っても、どうせ他の既得権益と揉め事連続人生で、かつ得るものはささやかってのが、組織のパイオニアの法則だ。○○エモンみたいに生きるのは嫌だ。

ならば、そんな無駄なことは一切せん。

世界設定に従って生き足掻くのみだ。

ちょっとガキ臭いが、しょうがない。だって、肉体年齢は2歳だぜ?


***


そう思っていた頃が、俺にもあった。

今はもう、14年ほど昔さ。

正確には……いや、どうでもいいか。

ともかく、まずは現状を整理しよう。

まず、ここではご都合は効かない。ここ、大事だぜ? 試験に出るよ?

とまぁ、前の人生の定型文句ノルマを思い返す程度には余裕が――無いっ!

有体に言うと、俺は今追われている。

何にだって?

無論、暗殺者にだ。他に、何に追われると言うのだ?

いやまて。

読者には、俺の当然という感覚は理解できまい。

おまえらには、俺の置かれた立場と状況なんて分かるはずも無いよなっ!

ふははははは。ザマーm9だな。情弱だなっ!


ちっっっくしょーーーーーーっ!

誰にも理解されねーよっ! いや、この世界の人間になら理解されるんだろうが、な。


とりあえず、俺は暗殺者に追われるのに相応の身で、今現在逃走中ということだ。

需要と供給をひたすら重ねていくと、俺が暗殺される原因が判明する、とでも言おうか。

何っ? さっきから婉曲過ぎる? もっとはっきり言え、だと?

言ったら、俺が終わるんだよ。主に、人生の残り時間の方面で。わかってねーなぁ、情弱は。

俺は、溜息をつき、読者に悪態をつくことで、疲労した体から余力をさらに搾り出す。よし、まだ走れる。

あ? 戦ってなんとかしろ、だと?

チート転生したんなら、相応の戦闘訓練くらいしてるだろ、だと?

これだから素人は困る。

俺のような立場で生まれた(転生した)人間が、ガチ暗殺者として育成された人間と張り合えるほど「戦闘訓練」をできたと思うのか?

若年者の教養レベルと想像力低下が国会で問題視される昨今(いや、前世か)、まことに遺憾である。


***


いいか?

戦闘とは、命のやりとりだ。

分かるな? 分かってくれよ? 元「平和ボケ日本人」の俺でも分かるんだからな?

で、俺は「今現在は」死にたくない。死んでしまうとは情けないとか、そういうことだ。いや、復活しないけどな。

最も確率が高い生存法は、自分がどんなに強者でも、決して戦わないことだ。

無手勝流は正しいのだ。戦う前に問題のケリつけとけって流儀だからな。

ま、無能には扱えないけどな。

でだ。俺はいわゆる、無能の部類ってわけだ。

だから、こうして暗殺者に追われている。

お分かりいただけたろうか?


***


暗殺者を8名まで把握した。

「俺」ごときに多過ぎだ。動員多過ぎ。すげえ経費かかるだろ、これ。

本物の一流の暗殺者は、こういう事態になる前に対象を始末するってのはこっちの世界でも変わらないらしい。

そりゃ、暗殺者がチャンバラやってたら、商売あがったりだろうさ。「戦闘」なんていうのはギャンブル過ぎるからな。

だが、「俺」を過大評価したのか、それとも戦闘に生きがいを求める愚者なのか、はたまたギャンブルジャンキーなのか、最初から剣戟で仕掛けてきた。

普通は、姿見せずに毒だろ? 常識的に考えて。

しかも、ロングソードを騎乗せずに振り回してる。

変だろ?

だって、「騎乗状態から地上に届く長い剣」って意味でロングソードって言われてるのにさ。

あんな細身長剣じゃ、地上で使うには不合理しか無かろうに。

んなことを考えつつ、疾走してやっと森に入れた。ユトハシルの森だ。

あれだな。

考え事しながらだと、本当に平均疾走速度って上がるのな。

代わりに、ほっとんど無防備だったけど。


***


この森のちょうど真ん中に、小屋がある。

ここからだと、俺の足で走って1時間ってところだ。

獣道しかないからな、しょうがない。贅沢は敵であり素敵なのだ。意味分からないが。

以前、ここの森のぬしである小屋の所有者と遭遇した。

その時、こういう事態が今日起きるから、それまでにもう一度小屋まで来いと言われたのだ。

この世界で「ご都合が効かない」ことを熟知していた俺は、今の今まで、つまり「ここまで追い詰められる」まで、ここの主のことを忘れていた。

だから、しょうがない。

俺は悪くないけど、やっぱり無能だ。

結局、ここに来てしまったのだから。




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