最前線
どうも、竜胆ガクです。
久々に投稿です。
受験もあり、他にも気まぐれで書いてたりするので、いろいろと同時進行してます。
これ以外にも結構書いてるので、徐々に上げていきたいと思ってます。
おっそいですが、なにとぞよろしくです。
まるで映画の中のようだ。
少し前までは普通の生活をしていたのに対して、当時はあまりにも大きすぎる変化であった。
だが今ではそう思うことももうほとんどなくなってきた。
トラックの荷台に揺られながら、曇天の森の中を進んでいく。
結構厚い雲をみると、もうすぐ雨がふるだろう。熱帯地方では良くあることだ。
今回は隣街の駐屯地へ食料やら弾薬やら諸々を運ぶ簡単な任務だ。
今通っているこの道も、前はそれなりに獣道だったが、今では大分整って車で通ることができるようになったらしい。だが、それほど便利になったということはそれ相応の危険も増えてるということになる。
実際、このルートで何件か盗賊の襲撃があり、運搬ルートの再検討が懸念された。
しかし、以前のルートだと総移動距離が現在の倍以上かかり、運搬コストのことも考える必要があるため、盗賊の問題を考慮してもあまり効率がいいとはいえなかった。
結果としてこのルートになったが、対盗賊用に私たちが護衛として就くことになった。今のところは問題なく進行している。
「…暑いねぇ~」
彼女は襟元をぱたぱたさせて扇いでいた。
同じ年とは思えないほど筋肉質で、この小隊の中でいちばんのタフガール、横浜美麗である。
「そうだな…でもそろそろ慣れてきたという感じもする。」
「えぇ~?こんなのに慣れるの?かんがえらんない。あずっちの体はもう人間じゃないんじゃない?」
彼女は軍人として十分な体を持っているが、やる気に欠けるのはいささかもったいない。
「そんなことはない。ちゃんとした肉体だ。それに、もうこの地方に配属になって半年だぞ?」
「でもさぁー…」
そんな会話をしながら、予定通り輸送ルートを進んでいく。時折鳥の鳴き声等が聞こえ、思ったよりもリラックスして事が済みそうだ。
そんな時だった。突然の爆発音と共に、乗っていたトラックに急ブレーキがかかり、体が車体に打ちつけられた。
音を聞く限り、前方で何かが突然爆発したのだろつ。おそらく対車両地雷だ。輸送物質を狙う盗賊の仕業に違いない。
梓は体制を整え、トラックの防弾装甲からはみ出さないように伏せ、彼女が率いる第六部隊の仲間にもそう指示した。
後方の第七部隊も状況を把握したようで、同じく緊急戦闘態勢にはいった。しばしの静寂が訪れ、周囲の音に意識を集中する。
周りに潜伏している敵勢力のわずかな動きを確認するためだ。
自分たちのトラックの左側からカチンと小さな金属音が複数聞こえ、梓はその音の正体を一瞬で判断した。
「みんな降りろ!グレネードが投げ込まれるぞ!」
トラックは上と後方以外は装甲で守られているが、爆発物ならば投げ込んで皆殺しにできる。
最悪の事態を避けるため、なんとかグレネードが降ってくる前に指示を出すことに成功した。
一斉にトラックから降り、その直後トラックの荷台に三つのフラググレネードが降り注いだ。後方のトラックの側面に避難すると、梓たちの乗っていたトラックで3つのグレネードが爆炎を吹いた。梓はひとつの危機を乗り越え、次の指示を出そうとしたとき、目の前の茂みに見覚えのない人影が何人もこちらをみている。
いや、ちがう。
見ているのではなく狙っているのだ。茂みからわずかに飛び出た銃口の鈍い金属の輝きを捉えた。
しまった。この動きは完全に読まれていた。
彼女がそれを理解しだした時は既に遅く、無数の弾丸が、無慈悲に撃ち出されていた。
その一瞬の光景は、彼女にとってとても長い悲劇を見ていたようだった。
弾一つ一つの動きがよく見える。だが、そのゆっくりと進む短い時間は、彼女の理性を取り戻すのには十分な時間だった。
被害を最小限に押さえるためには、こんな所で立ち止まっている暇などないのだ。
今いるトラックから、さらに後方のトラックまでの間はわずか7mほど。全力で走り抜けようと試みるが、いくつかの弾が体にめり込む。
幸い急所は外れているらしく、そのままトラックの後ろへ滑り込む。それと同時に周囲の時間が再び動き出したようだった。すかさず現在の被害状況を把握する。先ほどのトラックにいたのは八人、現在は五人で残念ながら三人が死亡、残った中で梓も含め負傷者2人。あの状況でこれだけなのはまだいい方だろう。
梓は失った仲間に短く黙祷し、自分の手当をする。腕に二カ所入ったようだが、貫通しているためたいしたことはない。ポーチの応急キットから包帯を取り出し、手早く包帯を巻く。
もう一人の方は太ももに受けているようで、彼の移動範囲は大きく制限された。それ以外の傷はなさそうだ。
こちら側のトラックにも同じくらいの小隊がいるはず。援護を受けつつ、彼の護衛をしていかなくてはらない。今回の輸送任務は確実に失敗だが、生存者を保ちつつ、戦線を離脱することが次の任務だ。
「六番隊、こちら3号輸送トラック護衛班、七番隊隊長、合川だ。こちらは現在死亡者、負傷者ともにゼロだ。そちらの被害状況は?オーバー」
ヘッドセットから通信が入った。すぐ後ろの荷台からだろう。声と重複して聞こえてくる。
「こちら六番隊隊長、荒波。現在適の奇襲を受け、三人がKIA、一人が大腿部に弾を受け移動不自由だ。援護を要請したい、オーバー」
「了解した、先ほど本部に援護を要請した。敵をできる限り殲滅しつつ、回収地点まで移動するぞ。オーバー」
「了解。」
通信が切れたすぐ後で、激しい光ときーんと耳をつくような音がした。フラッシュバンで牽制したのだろう。荷台から物音がし、七番隊が降りてきた。
「六番隊隊長だな?手短に順序を話す。ここから、400メートル先にヘリが降りられるランディングポイントがある。そこまで負傷者を援護しつつ移動する。弾は気にしなくていい。だが、無駄撃ちはするな。こちらには分隊支援火器が2つある。彼らを先頭に、突破口を開こう。これは全員が手っ取り早く移動することが大事だ。いいな?よし、時間もない。行こう」
合川中尉、彼はまだ若いが、十分なカリスマ性をもっており、我が軍のなかでもそのスキル値は上位に位置するだろう。
合川中尉が隊員の二人にハンドサインをすると、二人はその手にもつ軽機関銃のトリガーを引き、敵の牽制を始めた。こちらの弾幕で敵の射撃が止むと同時に、梓とその六番隊は負傷者を中心に囲むように移動を始めた。
ここからはカバーする場所がないので、全員で敵を殲滅する必要がある。後ろでは、合川中尉率いる七番隊が後ろから追ってくる敵を倒しながら、ゆっくりついてくる。
梓たちは負傷者のスピードに合わせつつ、前方からやってくる敵を伐ちつつ、少しずつ進んでいた。
しばらくすると、前方に隠れることが出来そうな茂みを見つけた。敵の数は大分減ってきている。後に、七番隊も合流して、次の道のりを手早く見つける。
周りをざっと見回し、ランディングポイントの直線上に森を見つけた。移動速度は劣るが、敵の目を欺くのにはベストだし、なにより最短ルートになる。
「よし、森を突っ切ろう」
梓は迷いもせずに提案した。
「森?その手があったか!だがしかし…いや、なんでもない。そうしよう。」
何を戸惑ったのか一瞬考えた合川中尉だったが、無理やり思いを隅に追いやったように見えた。
部隊はヘリの到着予定地への最短ルートとして森に向かった。
ブッシュから森までは大した距離はないが、敵に狙われる時間はたっぷりと言っていいだろう。
部隊は負傷者を連れながらでのできる限りの最速で走った。
こちらも威嚇射撃をして敵が頭を出せないような状況を作り出し、時間を稼ぐ。
無事その後の負傷者もなく森に入ったが、同時に無線に通信が入った。ヘリの到着予定地に向かいつつ無線を聞いていた梓は絶望した。
「…ヘリが…来ない…?」
それを聞いた一同は思わず耳を疑った。すかさず合川中尉が詳細の説明を要求した。
内容はこうだ。
予定ではなんの問題もなくヘリを派遣するはずだったが、出発したヘリとの連絡がとれないとのこと。さらに、何者かによって基地にあるヘリすべてが飛行不可能にされているらしい。
これでは助けどころか増援も来ないだろう。
徒歩で移動しようにもこちらには負傷者がいる。それに、この数の敵を相手には弾薬が先に尽きるだろう。
そうなれば部隊の壊滅は確定だ。
「どうすんだ隊長!」
「これじゃ俺たち全滅だ!」
六番隊の一部はパニックになりかけている。
このままでは撤退どころか部隊の存続にも支障をきたすだろう。とりあえず落ち着かせなくては…。
だけどどうやっておちつかせる?どうやって実際にここを脱出する?おちつかせること一つにしても、不十分な点が多すぎる。
「大丈夫だ!わずかではあるが確実に進んでる。目標地点付近には今はもう使われていない廃屋がある。時間は掛かるが、いずれはそのあたりに到着する!まずはそれまで気を緩めるな!」
となりの合川中尉の助言により梓のピンチは一時的に救われたことになる。
彼もまた、違う部隊をまとめる隊長であることを強く認識したと同時に、自分の隊長としての力のなさを思い知らされる瞬間でもあった。
しかし、彼の作ってくれた士気を無駄にしないためにも今は後ろめた考えを捨て、前を向くことこそ、今の自分にできることだ。
ゴーグルに内蔵されたアプリから地図を呼び出し、くまなく見回す。
他になにか、なにか無いかと、ランディングポイントまでの地図を隅々まで探した。
「…あった、これだ!」
ランディングポイントの廃屋一つに、古い通路があるのを見つけた。軍の入手する情報は舐めたものではない。
「どうした、なにがあった?」
合川中尉にすぐに報告した。
「…よし、希望が見えた。お前ら聞いたか?ランディングポイントに基地付近まで続く地下通路がある。既に本部に連絡を通し、向こうからも陸路で増援が来るそうだ。あとすこしだ、頑張れ!」
私たちは徐々に進み出した。
牽制射撃が効いているのか、敵の気配が遠のいている。
「なぁ、あずっち。あいつらの動き、なんかおかしくない?」
美麗が妙なことを言い出した。
「どいうことだ?」
「さっきまであんなに執着して着いてきたのに、急に人気がなくなった。あずっち、いやな予感がするんだが…」
そういえばそうだ。こちらからの攻撃を警戒してかと思ったが、たしかに人気がなくなっていた。
「もうすぐ目的地の山小屋だ。あと少しだぞ!」
合川中尉は負傷隊員を担ぎながら、後ろに向かって、全員に聞こえるように言った。
私は、余計な不安を無理やり頭の隅に追いやった。
「美麗、今は目の前だけに集中だ。不安は気を緩める。余計なことは考えるな」
美麗は表情によく表れる性格だ。引き締まった表情を見れば、気を切り替えたのはひと目でわかる。
「おうよ、弾薬はまだある。マークスマンなら任せろ!」
「頼りにしているよ、美麗」
しばらくすると、目の前が開けた。
鬱蒼とした周りの森とは打って変わって、開けた平野に出た。
そのに一つだけ、ポツリと小屋が立っていた。
いや、一人の少年を加えれば一つではなかった
。
アサルトライフルに、申し訳程度の装備だけを着けた少年が、こちらを向いて立っていた。
「なぜ…子供が…?」
しんと静まり返った平野に一人、子供がたっているのだ。中尉が驚くのも無理はない。彼だけではなく、私も、私たちの部隊も、皆驚いているに違いない。
その銃口は、こちらを向いていた。そして、狙っているその目は、とてつもなく冷酷だった。
「総員戦闘体制!早急に無力化しろ!」
合川中尉の指示が飛ぶも、一向に誰も動かない。
いや、動けなかった。
あの瞳に、体中をつかまれているような、そんな感覚で、全身の力が入らない。
「なんだこれは…一体…」
私を含め、部隊が全員硬直している中、たった二人だけ、銃を構えている人物がいた。
それは、合川中尉と美麗だった。
「おい!あずっち?何やってるんだ!早く銃を…」
美麗は異常に気づいたようだった。
「…ちっ、あいつの仕業か!」
美麗は少年の方を見ていても、私たちのように、硬直することは無かった。合川中尉も。
美麗が再び銃を構えた瞬間、少年の銃は火を噴いた。
先頭に立つ合川中尉は、銃も構えず、仁王立ちをしていた。
「中尉!合川中尉!逃げてください!」
動く口だけを全力で動かす。しかし、中尉は動かない。むしろ、地面を踏みしめる力を強めたようだった。
「中尉!」
そう叫んだ時、中尉の体に銃弾がのめり込んだ…はずだった。
まとまらずに散った弾丸がすべて、中尉の数センチ前で止まり、地面にぱらぱらと落ちた。
「どういう…こと…?」
「何が起こってるんだ?」
中尉は何事もなかったかのようにレッグホルスターからハンドガンを取り出し、一発の弾丸を放った。
それは一直線に少年の方へ飛び、頭を貫いた。
そして、少年は力なく倒れた。
「さぁ、行こう。目標はすぐそこだ」
私は状況を飲み込めないまま、中尉の言うがままに従った。
「あの…中尉?」
私は意を決して聞いてみたが。
「今はここを離脱することを考えろ」
の一点張りだった。
だが、現状では中尉の言う通りだった。
またいつ奴らが身を潜めているのかもわからない状況での余計な雑念は命取りとなる。
「…わかりました」
「よし、これより地下道に入る。狭い通路だから、挟み撃ちに注意し、前後を常に警戒。いいか!」
全員が一斉に返事をする。
私たちは、突然の自体に備えて、常に前後を警戒してゆっくり進んだ。だが、その後の襲撃はなく、地下道に罠はなかった。
ランデブーポイントには、支部から四台の装甲車が迎えに来ていた。
負傷者は4名。みんな軽傷だ。
そして、生き残った隊員は全員生還。
一時期はどうなることかとおもったが、なんとか逃げ帰ることに成功してほっとする。
しかし、輸送隊を狙う盗賊にしては妙に計画的だし、なにより規模が大きすぎる。
これまでのこういった類の事件は少数の、いわゆる一般人で構成された極小規模な団体によって起こされたことがほとんどだ。
大規模な団体を組むのなら、こんな人気の少ない場所ではなく、政府へのテロ攻撃を行うことがほとんどだった。
それに、あの少年と中尉に起こった現象。
動けた美麗。
一体、あの一瞬で何があったのだ。
「本当に、終わったのか…」
なぜかわからないが、私はこの上ない不安を覚えた。