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コマンドーオブチルドレン  作者: 竜胆ガク
オープニング
2/3

新兵器

 ギラギラと太陽が照りつける砂漠地帯で、空を見上げた。

 雲一つない快晴だが、それ故にここの植物は芽を出すこともない。あるのはわずかなブッシュとサボテンだけ。

 その陰で大型の対物ライフルのバイポッドを立て、じっと砂漠に一体となる。


 砂の流れる音を静かに聴いていると、低く響く声がインカムを通じて脳を揺らす。

「まもなく対象との合流予測時間だ。見えるか」

 空を見上げていた瞳を鉄で作られた筒の中へと導いた。

 前方役数km先にかすかに砂煙が濃い部分が見えた。恐らく対象の装甲車だろう。


 予想戦力には入ってないが、旧世代の装甲車に加え、新型の強化装甲の装甲車を導入してくると見た。

 いくら対物用の大口径ライフルのこのM200でも、新型の装甲車にはかすり傷程度しか入らないだろう。


 インカムのスイッチを押し、本部へ連絡を入れた。


「デュランダルの使用要請をする」


 M25デュランダル重狙撃砲。直径30mmの無薬莢型の弾丸を打ち出すこの怪物でなら、奴らの主力を容易に貫くことが出来るだろう。


 しかし、本部からの返答はNO、だった。

 理由は単純明確。戦力に新型を投入してくる確率はきわめて低いからだ。

 というのも、対象の組織は、他の軍事組織に比べると資産が非常に少ない。

 新型の装甲車を導入するには、大企業並の資産がないと組織自体が破産するであろう。


 もし奴らが資産を犠牲にして、新型の装甲車で依頼を達するにしても、奴らほど小規模な企業に入る仕事の報酬はたかが知れている。そのため、こちらの戦力を無駄に教えるほどの相手でもない。切り札は隠しておくべき、というのが本部の考えだろう。

 だが、奴らがわずかな戦力でこの地方に来るとも思えない。


 ここの地方は重要な貿易ルートの一つ。

 自分たちも含め、通過する貿易団体を奇襲して荷物を一つ残らず奪っていくのには絶好の狩場だ。

 これはごく一般的に知られているため、知らずに狩場に侵入してくる物はほぼ皆無だろう。だから、奴らが旧世代の低装甲の装甲車で通過するには相当の「運」がついている必要があるといえる。


 本部はあくまでも標準のプロトコルに従って指示を出す。つまり憶測だけでは不用心に許可は出さない、と言うとことだろう。

 しかし、もしこのまま新型の存在を知らずに標的との間合いを詰められたら対処することはできない。


 わずかな思考のあと、動いた。


 隣に鎮座しているチタン製のボックスを開くと、中には真新しいパーツが綺麗に並べられている。

 ボックスは二つあり、その大きさは箱を見ただけで容易に体感できる。

 それを慣れた手つきで次々と組み立てていく。

 敵との距離はすでに2000mを切っているだろう。組み立ても最後の仕上げに入った。

 それぞれのパーツを繋ぐネジと細いピンのはまりを確かめる。

 そして、低い70倍率のスコープを乗せて完成。


 超長距離対物ライフル、M25デュランダル重狙撃砲が目の前に姿を現した。


 以前一度だけテストの時だけ触ったが、その感触は今でも忘れられないほど強い存在感を持っている。

 同じ事務所の傭兵全員に試したが、私以外は肩が砕けてしまった。


 そんな怪物をそばに置き、再びM200のスコープを覗く。向こうには先程よりも砂煙が濃くなっている。スコープの倍率を上げ、すでに視界に入っていた米粒ほどの影の正体を確かめる。

 やはり装甲車が小隊を組んで走っている。が、一つだけ見たこともない型の装甲車が最前列を走っていた。

 予想した通りだ。奴らは新型の装甲車を一台投入してきた。


 M200を置き、隣で異様な存在感を放つ怪物を手に取りスコープに瞳をあてる。前方からこちらに向かってくる装甲車は新型を含めて全部で四台、デュランダルの装弾数は5発、すべて当てる。


 最前列を走る新型の装甲車にレティクルを合わせる。左からの僅かな風の影響を配慮してやや左に傾ける。

 準備は整った。

 トリガーに指をかけたとき、周囲の空気が揺らいだ。風でもなく、陽炎でもない。存在し得ない揺らぎを纏い、心を無にして眼を見開く。


「鉄の化物の咆哮と共に恐怖するがいい…」


 その言葉は不思議な光を纏った銃の咆哮によりかき消され、同時に鋼の弾丸を打ち出した。

 即座にコッキングレバーを引き、次弾装填と共に再びトリガーを引く。

 二発目は僅かに右に曲がり、隊列を組む右側の装甲車に向かって飛んだ。

 音速で飛んでいるはずの弾丸は今の彼女には時がゆっくり進んでいるかのように見える。

 そしてそれらが当たる前に三発目は既に発射されていた。

 弾丸は左へ奇妙なカーブを起こした。

 三発の弾は前衛三台の装甲車へ食い込み、エンジンを貫き、誘爆した。

 その爆発を合図に残り二発を一瞬で撃ち出した。

 まっすぐ直線に飛んでいたが、後に撃った弾は弾道を僅かに上に反れ、弧を描いて縦に並んで走っていたと思われる並んでいた装甲車を貫いた。その二台は火を噴き五台全てを撃滅した。

  5秒もなかった爆破劇を見送り、少女は呟いた。


「ダスビダーニャ。任務完了」

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