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標高2100mの少女

作者: 少年K

ある少女がいた。


その少女は、高地に住む少数民族の一人で、


貧しいながらも皆で助け合って生きていた。


風が強く、朝日が美しい土地だった。


少女が6歳になった日の朝、


買い物のために町へ下りようとしたとき、


突然、彼女は高い場所から降りることが出来なくなった。



坂を下りる途中、まるで板に遮られるかのように


下に行くことが出来ない。


ある高さを境に、まるで少女だけを遮る


見えない板が張ってあるかのようになった。


空中に歩を進めると透明な床に立っているように見える。


まるで空にバリアが張られたかのように、


どこまでも少女だけを通さない障壁が広がっていた。


それはまるで地球が少女を拒否しているかのようだった。



しかし、少女はそれを無邪気に楽しんでいた。


時たま山肌から離れて空中に立ち、人々を驚かせた。


少女は心配そうに見上げる大人を指差して笑うのが好きだった。


両親はもう山の下に降りられない彼女を憂いて泣いたが


泣く理由を尋ねる少女に何も答えることはできなかった。


自分の降りられない場所で他の子供達が遊んでいるのを


寂しそうに見つめることがあったが、


それ以外は今までと変わらず、幸せそうだった。


そのうちに噂が広がり、山の下から見物人が来るようになった。


空中に立つ彼女を見てお金を置いていく人もいて


貧しい村のちょっとした収入となった。


少女の叔母はよく少女に町の名物を買ってやった。



あるとき、見慣れない格好の人々が山に登って来た。


複雑な計器類を背負い、難しいことを話していた。


白衣を着た彼等は、青い瞳で尋ねた。


この子が空に閉じ込められた子ですか。


彼等はいつの間にか白色のテントを張り、


その周りに大きなアンテナや機械を広げ始めた。


よく少女のところにやってきて、何かを調査した。


専門的な言葉と妙な音のする沢山の機械は


村の人々を怯えさせた。


少女の叔母が彼等を何度も怒鳴るようになったが


増え続ける白衣の人々を止めることは出来なかった。


そのうちに、少女が下りられなくなる丁度の高さに


大きな白い建物が出来た。


少女は毎日その中に連れて行かれ、


何かよく分からない検査を連日受けた。


彼女は友達と遊びたがったが、彼等は黙って首を横に降った。


何ヶ月も経ち、少女は白い建物に行くのををひどく嫌がるようになった。


少女は長い間笑っていなかった。


家にいたいと泣きながら母にすがったが、


母は宝石のついたネックレスを握りしめるばかりだった。


ある夜、少女はベットから抜け出し、行くあてもなく走り出した。


村の人々の視線はどことなく冷たくなり、


家族の笑顔はぎこちなくなっていた。


白い建物での検査は彼女をひどく疲れさせた。


少女は山の上が嫌で嫌でたまらなくなった。


山の上から逃れたくて、少女は裸足のまま駆けた。


そのうちにごろごろとした石や渇いた草がなくなり、


平らな場所を走っている感覚に変わった。


それは彼女がよく知る、空中を走る感覚だった。


暗闇で何も見えないまま、少女は走り続けた。


ひたすらに逃れたかった。


どれだけの間走ったのか、


いつの間にか少女は自分が眠っていたことに気がついた。


少女が重たい身体を起こし、


顔を上げて瞼を持ち上げると、


視界いっぱいに、空が広がっていた。


空に、雲に、朝日が差し込む。


それは、少女が今まで見た何よりも美しかった。

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