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答えはまだ見えない  作者: 風雅 黒
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第4話

不思議な男だった。見た目は猿人にちかいけどもどこか違うし、衣服も私たちが来ているような毛皮や絹のような物じゃなかったし腰には鞘のないむき出しの剣を無造作にくくりつけていたし、危なくないのかしらあれ。

私の顔と体を見て驚いてたけどもそれほど不思議なことなのかしら?そ、それには、…はじめて可愛いなんて言葉言ってもらっちゃったし…

食糧と水を盗んだことを知った時のあいつの顔は落胆と憐れみが含まれた軽蔑の表情だった。このときはきっとコイツも結局あいつらと同じ男で、私は突き出されてしまうものだと思った。

正直、怖かった。いつもいつもギリギリだけども上手くいっていたから失敗した後のことなんて考えたことはなかった。

あいつらは私を追いかけていた時、調教して売りさばくと言っていた。私はきっとここで終わりで、あいつらの慰みものになった後、奴隷にされるんだと思った。そう思うとだんだんと恐怖が私の意思を飲みこんでいって、自然と目じりから涙があふれてた。怖かった。とても怖かった。

でも、今あいつは私を助けようと戦ってくれている。

それにしても切り始めが腹減ったはないわよね。ほんと、不器用で、ひねくれていて、そしてとても素直なやつ。それが私の中のあいつの評価だった。





「へっ俺たちに逆らったこと、後で後悔してもしらねぇからなぁぁぁぁっ!」


「ふん。生憎俺は後悔しきった後なんでな。もう後悔するようなもんは何もねぇんだよ!」


以前の俺なら戸惑ったはずの戦闘。相手が持つ凶器を見ても震えもしねぇし恐ろしいとも感じない。

俺が倒れた後で何か俺の体に施されたのか、あるいは恐怖感が麻痺しているだけなのか。いや、今はどっちでもいい。今この時を俺が生きていくためには不必要だ。俺は楽観的な考えをまとめつつバスターソードを手に持って突進してくるワニ男の一撃を避ける。避けきった場所には狙っていたかのように弓矢が飛んでくる。俺はそれをとっさに8月の剣(ソードオブオウガスト)で斬り伏せた。まさか俺がここまで動けるとは思ってもいなかった。これだけ動けるのならあるいは白銀の腕の男も倒せるかもしれない。


「隙アリだ!黒猿野郎!」


「もらったぁぁぁぁあっ!」


そんな考え事をしていると左右から蛇男と河馬男が長剣で切りかかってくる。


「うぉっ?!当たったらあぶねぇだろうが!」


俺は後方へと素早く移動すると素早く蛇男を蹴り飛ばし、河馬男は持っていた剣の刃を根元から切り飛ばした。河馬男は蹴り飛ばされた先にあった岩にぶつかり気絶する。


「ならさっさと降参しやがれっ!」


ワニ男はバスターソードを上段から振り落としつつ突っ込む。


「食いっぱぐれるのは嫌だから無理な相談だ」


それを一輝は8月の剣(ソードオブオウガスト)で受け止めた。


「でたらめな野郎だなお前はっ!俺たち4人相手に同等以上に戦いやがるんだからよぉっ!」


「そいつはどうも」


ワニ男のバスターソードと一輝の8月の剣(ソードオブオウガスト)はお互いがお互いを押し付けあい、ガチガチと音を鳴らす。どちらの剣も未だ折れることなくワニ男と一輝が剣と剣を交差した状態を維持し続ける。

それを好機とみた鳥男は再び矢に手をかけ、射る。それは吸い込まれるかのように一輝の左背中、心の臓のある場所へ直撃した。


「ざまぁ見やがれ。カッコつけるからこういうことになるんだよ。ヒャッハー」


次の瞬間に奴は倒れる。鳥男、そしてワニ男と蛇男もそう思っていた。

しかし、現実は違った。

一輝は心臓を射った鳥男のほうへギロリと睨みつけると交差し続けていたバスターソードを打ち上げ、そのままワニ男の首を断ち切った。

頭は明後日のほうへ飛び、胴体はその場で倒れ伏せ、首の上から無くなった部分から血が流れ出ていく。

鳥男と蛇男は背筋に寒気を感じた。それは二人とも今まで感じてきたことはあった。しかし、今回は一段と強烈なものだった。

ふと一輝のほうへと視線を向ける。そこにはうつむきながらも口元を動かす一輝がいた。


―――ツギハオマエノバンダ


鳥男は一輝がそう言っているような気がしてならなくなった。

恐怖に怯えた鳥男は腰を抜かしながらもその場から一刻も早く立ち去らんとあわてて走り出した。

それを見た蛇男はのびている河馬男を背負って逃げ去るのだった。





今回のこの戦闘は大きな収穫だと俺はワニ男達と剣を交えていて思った。動けはしたが経験がない以上苦戦するだろう。そう思っていたのに戦闘経験者と同等以上に戦える。これはうれしい誤算だ。

そう考えながら戦っていたのがいけなかったのだろう。

俺の左背中に矢が突き刺さった。ウソだろ?ようやく、ようやく奴を…白銀の腕の男を追いかける事が出来るって言うのに…もう俺の人生終わりなのかよ…

そう悲観していたが痛みはいつまでたってもやってこない。

もしかして、何ともない?そう思うとだんだんと腹が立ってきた。射って着たであろう場所へと睨みつける。しかし、その方向には人影が感じられない。畜生め。苛立たせやがってぇぇぇぇぇっ!

俺は八つ当たり気味にワニ男のバスターソードを打ち上げ、その勢いを利用してそのまま首を切り落とした。気持ちの悪い肉の感触が剣を通してこの手に伝わってきた。

俺は今、初めて生き物を殺した。しかし、俺がやらなければ猫耳少女が危なかった。俺が殺らなければ助からなかった人がいて、それを助けられたんだ。それでよかった事にしよう。

そして、殺した相手のことを覚えておこう。せめてもの罪滅ぼしに…いや、やめておこう。俺は復讐者。過去にこだわっても後ろを見ずに前に進むだけだ。

それでもやっぱり…


「この手の感触はなれたくはないもんだな」


俺の心からの感想が口からこぼれ出た。






「さっきはありがと、助かったわ」


「あぁ、そりゃよかったな」


「それにしてもあんたって強いのね。そんな黒尽くしのあやしい格好してるのに…」


「ほめてんのか…それとも遠まわしにけなしてんのかお前は…」


「ごめん。私はそんなつもりはなかったんだけど気に障ったのなら謝るわ」


にゃはははと笑いながら猫娘が俺に話しかけてくる。こいつの姿を見てると、なんだか活発で好奇心旺盛な子猫にものすごく懐かれたような、そんな感じがするな。

いや、表現としては間違っちゃいない…のか?

それにこいつ見てるとなんだか少し癒されるような気もするな。


「ねぇ?人の話ちゃんと聞いてた?」


「あ、わりぃ。聞いてなかったな」


「仕方がないわね、もう一度だけ言うわよ。今ここで食糧を分けてあげるにしてもあんた、食糧入れるような道具持ってなさそうだし私が住んでる集落に着いたら食糧入れる物分けてあげるからそれに詰め込んでほしいっていったの」


「あ、あぁ。そうだったのか。悪いなそんなところまで」


「べ、別にあんたに気があるとか…そういうのじゃないんだからね!これは命の恩人であるあんたへのお礼なんだから!」


「ハイハイ。了解しましたよっと」


前言撤回だ。癒されもするが、それ以上にこいつと話すのは疲れるわ。無駄な言い回しが何とも面倒くさい。まぁ、なんだかんだいってこいつの世話焼きっぽい性格は嫌じゃないけどな。


「それにしてもあんた。さっきからずっとだらけた表情してるんだけども、さっきの戦闘中みたいにもっとピシっと決められないの?」


「いつでもどこでも張りつめたまんまでいられるかってんだ。俺を過労にするつもりかお前は」


「過労ってあんたね……もういいわ…何言っても聞かなさそうな気がするし…」


「そうしてくれ。そのほうが俺もいろいろと気が楽だ」


「あ!そういえば…」


「今度はなんだ猫娘」


「そう、それよ!!」


「はぁ?」


「私は猫娘なんて名前じゃないの!私の名前はクリスカ。クリスカ・グッドマンよ。あんたは?」


「俺の名前か?俺の名前は……一輝。ただの一輝だ」


「ただの・かずき?変な名前ね」


「典型的な間違いしてんじゃねぇぞこの栗饅がっ!」


「クリマン?それって私のこと?」


「そうだよこの栗饅が」


「ふぅーん。愛称みたいなもよね。じゃあそれでいいわ。ところで典型的な間違いって?」


やべぇ…相手の勘違いで結構不名誉なあだ名つけちまったかもしれねぇぞ俺…悪口で行ったつもりがまさかそうとらえられるとは思わなかった…結構罪悪感がくるんだが…


「あ?あぁ、名前間違えるなって事だ。俺の名前は一輝だ」


「かずき…カズキ…一輝。よし、覚えた。ところでファミリーネームは?」


「捨てちまったよ。」


それが、不器用な俺なりの復讐するための決意。そしてけじめのつけ方だった。






「ところで一輝ー」


「んぁ?なんだ栗饅」


「ずっと気になってたんだけども矢が背中に突き刺さってるのって痛くないの?」


「……う”ぇぇぇぇぇぇぇえっ?!」


最後の最後でしまらない一輝だった。



誤字脱字表現方法の違い、感想等ありましたらよろしくお願いします。

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