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答えはまだ見えない  作者: 風雅 黒
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第2話

今回でプロローグ編は終了です。

自分なりには表現や描写を精いっぱい書き連ねたつもりなので楽しんでもらえれば幸いです。


とうとうついてしまった。どこにって?決まってるだろう。お母様が待っているであろう魔王の城(わが家)にだ。

今の俺には自宅がラスボスの間に見えるのさ。

正直、帰り道に何度知一の家に押しかけようかと思ったことか。かといって美那を誘っておいて俺が家にいないのはダメだろ?

覚悟を決めて家の門を開く事にした。普段通りならば門のすぐそばにある玄関前の扉に仁王立ちしているはずだ。俺はゆっくりと門を開けていく。

そして門を開ききったその先へと眼を移した。

そこには俺が想像していた仁王立ちのお母様はおらず、しんと静まり返った物音一つしない風景があった。

これはおかしい。いつもは鈴音が何かしらのアクションを俺に行使するかお母様による制裁が待っているはずなのにだ。嫌な予感がする。

俺は生唾をごくりと飲むと同時にゆっくりと玄関の扉を開いた。

家の中もしんと静まり返っていた。いつもはゆっくりとした音楽が流れていたり、鈴音の友達が来ていたりしてガヤガヤと騒がしかったりと静かになった事がないこの家がだ。

俺は恐る恐るとリビングへと歩いて行く。一歩一歩ゆっくりと確実に。

今ではこの静まり返った空気が逆に不安とあせりを生んで俺に重くのしかかってくる。

そして、不意に今朝のニュースを思い出す。




―――殺人事件




いやいや、まさかそんなはずはないさ。殺人事件は日本でも結構起こるけども当事者になんて俺がなるわけがない。家族の中には誰一人として恨みを買ったような真似をしたことがないはずだ。

ネガティブだった思考を無理やりポジティブにして思いこむ。

ゆっくりと歩みを進めた俺はリビングの扉前に到着した。

この扉の先にはきっといつも通りの風景が映っているはずだ。きっと今日は家族全員の体調が著しくなかっただけに違いない。

俺は安心感を得たいがためにリビングの扉を開ける。

扉の先に移ったのはあか、赤、紅。

これでもかというほどのおびただしい血の跡がテレビの画面に、ソファに、テーブルに、壁に余すところなく付着していた。

絶望感が広がっていく。呆然としながらあたりを見回していくとテーブルの足元付近に人の手が映った。

アレは一体何なんだ?考えるな、考えるな、近寄って確かめるな。アレを見てはいけない。

思考とは裏腹に体は手のほうへと近づく。

近づくな。近づいちゃだめだ。認めちゃだめだ。確かめちゃだめだ。

そこにあったものは父さんの死体だった。

そして、すぐそばには母さんの死体が見える。

父さんの死体は腹部に人の腕ほどの穴が開いていて、そこから服へと血がにじみ出て床を赤く染めている。

母さんの死体は血が一か所からではなく複数の個所からにじみ出ている、さらに一部原型をとどめていない部分もあり、もはや肉塊としか言いようがないものとなっていた。

その近辺には抵抗した時に持っていたのであろう包丁が横たわっていた。

認めてしまった瞬間に胃から来る圧迫感と嘔吐感に襲われる。そして、口に酸っぱさが広がり思いっきり吐いた。

今朝までのいつもと変わりのない風景。

そして、怖いけれども、やさしくていつもニコニコ笑っていた母さん。


「なんなんだこれは…なんなんだよ一体。何がどうしてこうなったんだ!!」


頼りない雰囲気を放っているがいざというときは頼りになる父さん。


「嘘だと言ってくれよ。頼むから、夢だと誰か言ってくれよ!!」


自分には関係ない。そんなことあるわけがない。そうずっと思っていた出来事が今目の前に広がっている。これは夢でも嘘でも幻でもドッキリでもない。現実だ。

認めなくちゃならない。分かってはいる。でも、だからこそ認めたくない。

矛盾した気持ちが駆け巡り、一輝を思考の海へと潜らせる。

だからだろうか、後ろから近づく気配に気付けなかった。

徐々にその気配は一輝へと近づいていく。そしてついに一輝の背後にたどりついた。


「こんにちは。君が月城一輝君だね?」


一輝はその声が後方から聞こえたことに気がつくと立ち上がり、後ろへと振り向く。

そこには白い軍服のようなものを身にまとった白髪紅眼の30代男性がやさしい微笑みを浮かべて立っていた。


「誰だよ……オメェは」


「私かね、ふむ。強いて言うならば導くものだ。君にお願い事があってね」


「お願い事…?」


「そう、お願い事だよ。そのお願いごとのためにご両親にお話をつけにきたのだがね。いやはや、残念だった。実に惜しい人たちを亡くしてしまった。君のご両親ならばきっと良い友人になれると思っていたのに残念だよ」


惜しい人たちを亡くしてしまった?良い友人になれると思っていたのに?残念?

それによく見れば白い軍服の袖部分が赤く紅く染まっている。アレは一体何の色だ?


「お前が…」


「ハイ?なにかな?」


「お前が…お前が殺ったのか。お前が殺ったんだな!!」


タガが外れた。一輝は我を忘れて怒り狂い、白髪紅眼の男に殴りかかる。


「暴力はいけない。それに私は君を迎えに来ただけであってこんなことをするために来たんじゃない」


白髪紅眼の男は若干あせった表情を浮かべながら一輝の拳を避ける。


「なにが迎えに来ただ!何が暴力はいけないだ!!お前がやった事はなんだ!!人殺しだろうがっ!!そうやって今までも殺してきたんだろうオメェは!!」


「そうですね。私もそう思います。ですが私の本意ではない。現に私はこうしてあなたと」


「黙れ!!お前の話を聞く耳なんざもってねぇっ!!父さんと母さんの敵ぃぃぃぃぃぃっ!!」


横たわっていた包丁を手に取り、包丁を突き刺そうと一輝は突進する。勢いよく、確実に殺せるように。

白髪紅眼の男の心臓を突き刺せるようにと。

白髪紅眼の男は悲しそうに、そして残念そうな表情を浮かべると左腕を前に突き出し心臓へささらないようにと防御の姿勢に移る。

ならばその腕ごともらっていくとばかりに一輝は包丁を突き出して突進する。

そして包丁は左腕部分に接触して白い軍服を切り裂き、腕を斬りかかるというところでひびが入り、砕けて折れた。


「なっ?!」


敵をとった。完全にそう思っていた。しかし現実は違い、包丁は砕けて折れた。

その一瞬の隙が命取りになった。

白髪紅眼の男は一輝が包丁が砕けたことで驚いている隙に右肩関節に向かって指を突き刺した。

右肩関節に激痛が走り、一輝は声にならない叫び声を上げる。


「君は大切なファクターなんだ。暴れないでくれると私はうれしいな」


慈愛に満ちた表情でそういい。指を一輝の関節から抜く。

指を抜かれるとめり込んでいた部分から血が滲み、血が流れていく。

指を抜かれた事によりさらに激しい痛みが一輝に襲う。

痛みが激しすぎて意識が無くなりそうなほどだ。



―――ピンポーン……



不意に聞こえてくるインターホンの音。

拙い。これはきっと…美那だ。インターホンの受話器を受けてここから逃げるように伝えなければ…


「おや?一輝君。君のお友達かな?だったらちょうどいい。サヨナラを告げることができるね」


本当にあぁよかったという表情を浮かべる白髪紅眼の男。

この男が何を考えているのかが本当に分からない。だが、美那をこの家に、リビングに近付けてはいけない。

その一心でインターホンのほうへと必死に走る。


「おやおや、せっかくのあいさつなんですから直接会いましょうよ?」


そういうとともに一輝を捕まえて右足を指で貫く。

それと同時に激痛が走り一輝はその場で倒れ、もう一度声にならない声を叫んだ。

美那の性格上、いや、俺が知っている昔の美那だったらインターホンを押して返事がなかったのに家のカギが開いていたら遠慮なく入ってくる。今の性格は昔と変わらないからおそらくここに来ることは目に見えている。だからこそ、だからこそここにきてはいけない事を伝えたかったのにその希望が絶たれてしまった。

もう、何も出来ることはない。いや、考えるんだ。まだ何かあるはずだ。伝える方法を…俺の思いつくかぎりの方法を。


「一輝ーいるんだったら返事してよ。一輝ー!」


どうやら声が聞こえるほどに近づいてきてしまっているようだ。もう考えている時間がない。一刻も早く美那に伝えなければ…


「美那!!ここから早く逃げろ!!逃げてくれっ!!」


俺の声が届いたのだろう。足音がだんだんと速くなりかけ足になってきた。そしてだんだんとその足音は大きくなって行く。

なんでこっちに向かってくるんだ。逃げろって言ったんだぞ。頼むからこっちに来るな。来ないでくれ。

俺の願いは虚しくもかなわず、リビング入口の扉が開いてしまった。


「なんだ、一輝。ここにって…」


そう、この一室はすさまじいほどの血で染まっている。そして、俺もまた傷だらけで出血している。どこからどう見ても惨劇の場にしか見えない。そして、俺のすぐ近くで笑みを浮かべる実行犯。


「っきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


すべてを理解したのか美那は甲高い声で叫び声をあげた。


「こんなところで叫び声をあげられても困るのですよ。レディ」


白髪紅眼の男はそういうと美那めがけて走り始めた。


「逃げろっ!逃げてくれ!!美那ぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!」


白髪紅眼の男は美那にせまり、そして無情にも美那をその右腕で貫いた。

美那は口から血を吐くと同時にその場でうつむいた。


「この袖は血で染まりすぎましたね」


白髪紅眼の男は袖を破いてそのばで脱ぎ捨てた。その袖の中にあった腕は俺が想像していた肉のものとは違い人の腕を模した白銀色の金属でできた腕だった。

確かに覚えたぞ。その腕を


「殺して…やる。……絶対…お前を…」


意識が遠のくのを感じる。血を流しすぎたのだろう。

俺は白銀で出来た腕の男のことを脳裏に焼き付ける。絶対に忘れないようにと。

そして、しばらくしないうちに俺の意識は堕ちた。






どれだけの時間がたったのかは分からない。ぼんやりと眼を見開いた先に見えたものはガラス張りの何か越しにみえる老人の顔だった。俺が眼を開いた事に驚いたという表情をしてから必死に話しかけているように見えた。

しかし、意識がぼんやりとしている所為なのか老人が何を言っているのかは分からなかった。

そしてしばらくすると睡魔に襲われ、俺はまた意識を手放すのだった。




誤字脱字表現方法の間違い等があればご報告願えれば幸いです。

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