第八章 新しい季節
二年生になって、わたしたちは別々のクラスになった。
それでも、昼休みになると自然と屋上に集まる。三人でお弁当を広げる時間だけは、何も変わらなかった。
「五月の体育祭、うち、走り幅跳びと棒高跳びと、百メートルと二百メートルと四百メートル出るねん」
陽菜ちゃんが誇らしげに胸を張る。
「そんなに出るの?」
わたしは思わず目を丸くした。
「さすが陽菜ちゃん。去年より増えてるよね。わたしは今年も一番楽そうな百メートルだけだけど」
「私も同じ」
時子ちゃんが苦笑する。
「本当はどれも出たくないんだけど……少なくとも一つは出なきゃいけない決まりっていうのが、ちょっと憂うつ」
二年生になって、それぞれ新しい友達もできた。
教室には、教室の居場所がある。
それでも――一番大切なのは、やっぱりこの二人だった。
別々のクラスになっても、まだ“わたしたち”は変わらない。
そう思っていた。あのときは、まだ。
週末になると、いろんな場所で、三人で遊ぶために集まった。
ときには明石で。ときには大阪で。
陽菜ちゃんの新しい街を探検して、行きつけになりそうなカフェを見つけて、他愛もないことで笑い合う。
どこにいても、三人でいれば、それだけで安心できると思っていた。
写真部でも後輩ができて、わたしは副部長になった。責任が増えたけれど、写真を撮ることはますます楽しくなっていた。
「歩未先輩、教えてください」
一年生の後輩が聞いてくる。
「うん、いいよ」
カメラの使い方、構図の取り方、光の捉え方。先輩から教わったことを、今度は後輩に教える。
「先輩の写真、すごくきれいです」
「ありがとう。でもまだまだだよ」
「いえ、本当に素敵です。特に、友達を撮った写真」
後輩が指差したのは、部室に飾ってある陽菜ちゃんと時子ちゃんの写真だった。去年の夏、花火大会の日に撮った一枚。
「大切な友達なんだ」
「そうなんですね。その気持ちが、写真に表れてるんだと思います」
後輩の言葉に、ハッとした。技術だけじゃない。被写体への想いが、写真に命を吹き込むんだ。
夏休み、約束通りわたしたちは旅行に行った。行き先は京都。古都の街を三人で巡る。
金閣寺、清水寺、嵐山。有名な観光地を回りながら、わたしはずっとカメラを構えていた。
「歩未ちゃん、たまにはカメラ置いて楽しもうよ」
陽菜ちゃんが笑う。
「そうですよ。せっかくの旅行なんですから」
時子ちゃんも同調する。
「ごめん、でも撮りたくなっちゃって」
「わかる。でも、思い出は写真だけじゃないよ」
陽菜ちゃんの言葉に、カメラを下ろした。そうだ、この瞬間を、五感で感じなくちゃ。
浴衣を着て、祇園を歩いた。石畳の道、町家の風情、行き交う人々。京都の夏は、明石とは違う魅力があった。
「アイス食べよう」
「賛成」
宇治金時のかき氷を三人でシェアする。冷たくて甘い、夏の味。
「おいしい」
「京都、最高やね」
「また来たいね」
ホテルに戻って、三人で同じ部屋に泊まった。お風呂上がり、浴衣を着てベッドに座る。
「修学旅行みたいだね」
「本当の修学旅行も、三人一緒がいいな」
「無理だよ、クラス違うし」
「そっか、残念」
他愛もない話をして、夜遅くまで起きていた。こういう時間が、一番幸せだった。
※
二学期の終わり頃。
「冬休み、わたしが中学まで過ごしてた岡山来る?」
わたしが少し勇気を出して誘ったひと言に、陽菜がすぐ食いついた。
「行く。うち、岡山行ったことない」
「私も。案内してほしいな」
時子ちゃんも乗り気だった。
冬休み、久しぶりに訪れたイオンモール岡山は、思っていたよりも少しだけ小さく見えた。
「広っ!」
陽菜は目を輝かせる。
「岡山って、さすがに大阪ほどの都会度はないけど、ここは負けてへんね」
「私、小さい頃にもし来てたら迷子になっちゃってたかも」
「わたし中学のときまで、よくここ来てたの」
そう言いながら、不思議な感覚に包まれる。
一人で歩いていた場所を、今は二人と一緒に歩いている。
過去のわたしと今のわたしが、ここで重なり合う。
この場所に、いま一番大切な二人がいる。
それがどうしようもなく嬉しくて、
だからこそ少しだけ怖かった。
ショッピングを楽しんで、午後からは、電車を乗り継いで倉敷の美観地区を訪れた。
白壁の町並みを、三人で歩く。
冬の光が水面でキラキラと跳ねて、陽菜が思わず立ち止まった。
「ええとこやな」
陽菜の声がいつもより少し静かだ。
時子ちゃんも黙って、川沿いを見つめている。
わたしは二人の横顔を見て、連れてきてよかったと思った。
このあとも大原美術館を巡ったり、カフェで人気の季節限定フルーツパフェを食べたりして楽しんだ。




