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あゆみのあかし  作者: 明石竜


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第七章 別れと再会

 三学期が始まって、放課後の屋上。冬の風が冷たい。

「正式に決まった。三月に大阪」

 陽菜は、いつもの明るさを装って言った。でも、その声は少しだけ固かった。

「そっか……」

 時子がうつむく。

 わたしは何か言わなきゃと思いながら、言葉が出なかった。

「でもさ、高校は通うし! そんな深刻になることじゃないって」

「深刻だよ」

 気づいたら、わたしは言っていた。

 二人が驚いてわたしを見る。

「だって……今みたいに放課後、いっしょに帰れなくなるんだよ?」

「だから何? 友達やめるわけじゃないでしょ」

 陽菜の声が少し強くなる。

「そういう問題じゃないよ!」

 胸の奥に溜めていたものが、一気に溢れた。

「わたしは……また一人になるのが怖いの」

 静まり返る屋上。

「せっかく、やっと変われたのに。陽菜と時子がいたから、わたしはここまで来れたのに」

 涙が止まらなかった。

「また距離ができたら、また……置いていかれる気がして」

陽菜も時子も、すぐには何も言わなかった。

冬の空の下、三人の息だけが白く溶けていった。

しばらく黙っていた陽菜が、ぽつりと言った。

「……ごめん、今日は帰れない」

それだけだった。時子も小さくうなずいて、先に屋上を出ていった。

足音が階段に消えていくまで、わたしは振り向くこともできなかった。

屋上に残ったのは、わたしと冬の風だけだった。

言いすぎたのかもしれない、と思った。でも、嘘をついた気もしなかった。

ただ、恐ろしいほど静かだった。


次の日の昼休み、屋上には誰もいなかった。

陽菜はグラウンドで部活の手伝いをしていて、時子は図書室にいた。

三人で過ごしていたはずの時間が、急にばらばらになったみたいだった。


そして数日後、写真部の部室で現像した写真の中に、三人で笑っている一枚があった。

去年の秋、どこで撮ったのかも覚えていないくらい、ふとした瞬間の一枚だった。

三人とも、カメラを意識していない。

誰かが何か言って、誰かが笑って、その笑いが写った、そういう顔だった。

わたしはしばらく、その写真から目が離せなかった。

距離が縮まったのは、特別な日じゃなかった。

こういう、何でもない午後の積み重ねだったんだと、今さら気づいた。

その写真を、わたしはスマホで撮った。

本当は、ちゃんとカメラで残したかった。

でも今は、ただ消えないようにしておきたかった。


翌朝、陽菜からメッセージが来ていた。

昼、屋上来れる?

それだけだった。時子にも同じメッセージが届いていたらしく、昼休みになると二人はもう、いつもの場所にいた。

なんとなく、三人とも最初は空を見ていた。

誰も、すぐには口を開かなかった。

謝るべきか、何か言うべきか、考えていたけれど、言葉がうまく出てこなかった。

風が強く吹いた。

しばらく黙っていた陽菜が、ぽつりと言った。

「この間、歩未が言ってたこと、それ、うちだって同じだよ」

顔を上げると、陽菜も泣いていた。

「本当は嫌だよ。離れたくないよ。でも、どうにもならないじゃん」

強いと思っていた友達が、こんな顔をするのを初めて見た。

「怖いのはうちも一緒。だからさ」

陽菜が一歩近づく。

「離れるから壊れる友情なら、最初からそんなもんだったってことじゃん」

その言葉が、まっすぐ胸に刺さる。

「壊さないよ。絶対に」

わたしは震えながら言った。

時子が二人の手をそっと握った。

「私たち、距離で測れる関係じゃありません」

三人の手が重なる。

冷たい空気の中で、手の温もりだけが確かだった。

「……ごめん」

「わたしも」

「私もです」

三人で泣きながら笑った。

その日から、わたしたちは「会える時間」を数えるのではなく、「会い続ける未来」を信じることにした。


三月の終わり、桜が咲き始める頃に大阪に引っ越すことになった。高校には電車で通うことになるが、通学時間が長くなるから、放課後一緒に遊ぶことは難しくなる。

「最後にどこか行きたいところある?」

わたしが聞くと、陽菜ちゃんは少し考えて答えた。

「やっぱり、明石海峡大橋かな。初めて三人で行った場所」

引っ越しの前日、わたしたちは夕方から明石海峡大橋の下に行った。ちょうど一年前、出会ったばかりの頃に来た場所。


「懐かしいね」

「あの時は、まだお互いのこと全然知らなかったね」

「今は、一番の親友」

夕日が海を赤く染めていた。オレンジ色の光が橋を照らして、幻想的な景色だった。

「写真撮ろう。最後の」

「最後なんて言わないで」

時子ちゃんが言う。

「また会えるから。これは終わりじゃなくて、新しい始まり」

「そうだね」

わたしたちは並んで、カメラのセルフタイマーをセットした。夕日をバックに、三人で笑顔を作る。


カシャッ!


「完璧だね」

液晶画面を見て、陽菜ちゃんが微笑む。

「この写真、大切にする」

「わたしも」

「私もです」

日が沈んで、街灯が灯り始めた。橋のライトアップも始まって、昼間とは違う美しさだった。

「ねえ、約束して」

陽菜ちゃんが少しだけ真剣な顔でお願いした。

「これからも、ちゃんと三人でいる時間、なくさんとこう」

「どういうこと?」

「クラスも別になるやろうし、新しい友達もできるやろ。でも、三人は三人」

「うん、約束」

「もちろんです」

「それから、夏休みと冬休みは、必ず三人で旅行しよう」

「いいね!」

「どこ行く?」

「まだ行ったことないところ。京都とか、奈良とか」

「神戸もいいよね」

「楽しみだね」

わたしたちは未来の計画を立てて、別れの寂しさを紛らわせた。



翌日、陽菜ちゃんの引っ越しの日。わたしと時子ちゃんは朝早くから手伝いに行った。

「陽菜、忘れ物ない?」

「うん、大丈夫」

荷物を車に積み込んで、いよいよ出発の時間。


「じゃあ、行くね」

「うん」

「また学校でね」

「絶対だよ」

陽菜ちゃんは車に乗り込んだ。窓から手を振って、笑顔を見せてくれた。でも、その目は少し赤かった。


車が走り出して、だんだん遠ざかっていく。わたしと時子ちゃんは、見えなくなるまで手を振り続けた。

「寂しいですね」

時子ちゃんが呟く。

「うん……でも、高校は同じだからまた会える」

「そうですね」

二人で並んで、空を見上げた。青い空に、白い雲が流れていた。


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