第六章 冬の奇跡
十二月に入って、街はクリスマスの装飾で彩られた。
「ねえ、クリスマスどうする?」
陽菜ちゃんが聞いてきた。
「三人でケーキ食べるとか?」
「いいね! どこかカフェでも行く?」
「それもいいですけど……うちに来ませんか?」
時子ちゃんが提案した。
「本当?」
「はい。母も、二人に会いたいって言ってましたし」
クリスマスイブの日、わたしたちは時子ちゃんの家に集まった。リビングには大きなクリスマスツリーが飾られていて、暖炉には火が灯っていた。
「いらっしゃい」
時子ちゃんのお母さんが、手料理でもてなしてくれた。チキン、サラダ、ピラフ、そして手作りのケーキ。
「すごい、豪華!」
「お母さんが腕を振るってくれたんです」
「いただきます!」
三人で食卓を囲んで、楽しい時間を過ごした。時子ちゃんのお母さんも一緒に座って、いろんな話をしてくれた。時子ちゃんの子供の頃の話、明石の昔の様子、おすすめの撮影スポット。
食事が終わって、わたしたちは時子ちゃんの部屋に移動した。
「プレゼント交換しよう」
陽菜ちゃんが提案して、それぞれが用意していたプレゼントを交換した。
陽菜ちゃんからは手作りのミサンガ。時子ちゃんからは栞と小説。わたしは二人の写真を現像して、手作りのアルバムにしていた。
「わあ、超嬉しい……」
「ありがとう」
それぞれがプレゼントを大切に受け取った。
「あのね、じつは大事な話があるんだ」
陽菜ちゃんが少し真剣な顔をした。
「どうしたの?」
「うち、来年の春に引っ越すかもしれない」
その言葉に、わたしと時子ちゃんは固まった。
「えっ……」
「父さんの仕事で、大阪に。まだ確定じゃないんだけど」
「そんな……」
時子ちゃんの声が震えている。
「安心して。たとえ引っ越しになっても、高校やし、別に転校はせぇへんよ」
陽菜は明るくそう言った。
「そっか。それはよかったです」
時子ちゃんもホッとした表情を見せた。
電車に乗れば一時間もかからない。中学までなら、学区の関係で間違いなく転校していた距離だ。
でも、高校は違う。通おうと思えば、通える距離だ。
頭では分かっている。毎日顔を合わせられなくなるわけじゃない。
それなのに、胸の奥がざわつく。
放課後、当たり前のようにお互いの家を行き来していた日々。急に集まって、宿題をしたり、くだらない話で笑い転げたり。
その“当たり前”が、少しずつ遠くなる気がした。
距離は変わらないのかもしれない。
でも、何かが変わってしまう気がして――怖かった。
明石の海は、同じ場所にあるのに、潮は止まらない。
わたしたちも、きっと同じ場所にはいられない。
外では雪が降り始めていた。明石でこの時期に雪が降るのはとても珍しい。
「雪や。めっちゃ降ってる」
「きれい……」
「写真撮ろう」
わたしたちは庭に出た。冷たい空気が頬を刺すけれど、不思議と心は温かかった。
雪の中、三人で手をつないで笑った。わたしはセルフタイマーで何枚も写真を撮った。雪化粧した庭、舞い降りる雪、そして笑顔の二人。
「この冬を、ずっと忘れない」
「うん」
「絶対に」
雪は一晩降り続けて、朝には街が真っ白になっていた。クリスマスの奇跡のような雪景色。わたしたちは早朝から外に出て、明石海峡大橋を見に行った。
白く雪化粧した橋は、いつもとは違う幻想的な美しさだった。
「すごい……」
「こんな景色、初めて見た」
わたしは夢中でシャッターを切った。でも、一番撮りたかったのは、雪の中ではしゃぐ二人の姿だった。
「ねえ、雪だるま作ろう」
陽菜ちゃんが提案して、三人で雪だるまを作った。大きいのと小さいのと、二つ作って親子の雪だるま。
「超かわいい♪」
「わたしたちみたいだね」
「私たち三人だけど、雪だるまは二つだよ」
「じゃあ、もう一つ作ろう」
三つ目の雪だるまを作って、三人家族の完成。
「これ、わたしたちだね」
「ずっと一緒」
「離れても、心は一緒ですね」
雪だるまの周りで、わたしたちは記念写真を撮った。




