第五章 秋風の中で
十一月になると、文化祭の準備が本格的に始まった。
わたしたちのクラスは喫茶店をすることになった。陽菜ちゃんはウェイトレス、時子ちゃんは会計、わたしは装飾担当。
「歩未ちゃん、写真部に入ったんだって?」
準備の合間に陽菜ちゃんが聞いてきた。
「うん、先週入部したの」
写真をもっと上手くなりたくて、写真部の門を叩いた。先輩たちは優しく、いろいろなことを教えてくれた。
「じゃあ文化祭で写真展示とかするの?」
「うん、部活の展示もあるんだけど……」
じつは、文化祭で個人作品も展示したいと思っていた。テーマは「明石の四季」。春夏秋冬、この街の美しさを写真に収めたかった。でも、まだ秋と冬の写真が足りなかった。
「秋の写真、一緒に撮りに行きませんか?」
時子ちゃんが提案してくれた。
「本当?」
「はい。私も、この街のいろんな場所に行ってみたいんです」
「うちも行く! モデルになってあげる」
陽菜ちゃんが笑う。
次の週末、わたしたちは明石公園に行った。紅葉が始まっていて、木々が赤や黄色に染まっていた。
「ここ、きれいだね」
「写真撮ろう」
わたしはカメラを構えて、落ち葉の絨毯の上を歩く二人を撮影した。陽菜ちゃんは落ち葉を蹴り上げて、時子ちゃんは落ち葉を拾って眺めている。自然な姿が一番美しかった。
「歩未ちゃんも入って」
陽菜ちゃんが手招きする。
「えっ、でも……」
「いいから。セルフタイマーで撮ろう」
三人で並んで、カメラのセルフタイマーをセットした。十秒のカウントダウン。
「笑って笑って」
陽菜ちゃんが盛り上げてくれて、わたしたちは自然と笑顔になった。
カシャッ。
その写真は、秋の陽射しに照らされたわたしたちの笑顔が、とても温かく写っていた。
明石城跡の天守台に登って、街を見下ろした。赤い屋根の家々、遠くに見える明石海峡大橋、青い海。
「わたし、この街が好きになった」
思わず口に出していた。
「私も。歩未ちゃんと出会えたから」
時子ちゃんが言う。
「うちはもともと地元だけど、二人と一緒だともっと好きになったよ」
陽菜ちゃんが二人の肩を抱く。
「ありがとう……」
胸が温かくなった。こんなに大切な友達ができるなんて、春の入学式の日には想像もしていなかった。
文化祭当日、わたしの写真展示コーナーには思った以上にたくさんの人が来てくれた。
「すごい、きれいな写真」
「この橋の写真、感動した」
そんな声が聞こえてくる。でも、一番嬉しかったのは、陽菜ちゃんと時子ちゃんが何度も見に来てくれたことだった。
「歩未ちゃんの写真、本当にすごいよ」
「プロみたいです」
二人の言葉に、涙が出そうになった。
「二人がいたから、こんな写真が撮れたんだよ」
本心だった。二人と一緒に明石の街を巡ったから、この街の美しさに気づけた。二人がモデルになってくれたから、人の温かさを写真に収められた。
「じゃあ、冬も一緒に撮りに行こうね」
「もちろん」
わたしたちは笑い合った。
文化祭の最後、クラスの喫茶店も大盛況で終わった。片付けが終わって、三人で屋上に上がった。夕暮れ時で、街が赤く染まっていた。
「今日、めっちゃ楽しかったね」
「うん、疲れたけど」
「でも、いい思い出になりました」
わたしたちは並んで、夕日を眺めた。高校生活の、大切な一ページ。




