第四章 夏の思い出
夏休みが始まって、わたしたちは毎日のように一緒に過ごした。
「今日はどこ行く?」
陽菜ちゃんの決まり文句で一日が始まる。
明石公園を散策したり、大久保駅前のイオンに行ったり、プールに行ったり、大蔵海岸で海水浴を楽しんだり、図書館で宿題をしたり。特別なことは何もないけれど、三人でいるだけで楽しかった。
八月に入った頃、時子ちゃんが提案した。
「花火大会、一緒に行きませんか?」
明石のお隣、神戸ではウィークエンド花火が度々開催される。神戸港で打ち上げられる花火は、関西では有名だった。
「行く行く! 浴衣着て行こうよ」
陽菜ちゃんが即答する。
「浴衣……持ってないんだけど」
わたしが困った顔をすると、時子ちゃんが微笑んだ。
「じゃあ、私の家に来ませんか? 母の浴衣があるので、着せてあげられると思います」
花火大会の日、わたしは時子ちゃんの家に早めに行った。古い日本家屋で、庭には手入れの行き届いた庭園があった。
「お邪魔します」
「いらっしゃい。さあ、上がって」
時子ちゃんのお母さんが優しく出迎えてくれた。
二階の部屋で、時子ちゃんが浴衣を選んでくれる。淡い水色の生地に、白い朝顔の柄。
「これ、似合うと思います」
「ありがとう。でも、着られるかな……」
「大丈夫です。手伝います」
時子ちゃんの手際の良さに驚きながら、浴衣を着せてもらった。帯を結んでもらって鏡を見ると、いつもと違う自分がいた。
「わあ、歩未ちゃん可愛い!」
陽菜ちゃんも浴衣姿で現れた。彼女は赤地に金魚の柄。いつものボーイッシュな雰囲気とは違う、女の子らしい姿だった。
「陽菜ちゃんも似合ってる」
「えへへ、ありがと」
時子ちゃんは紫のグラデーションの浴衣。大人っぽくて上品だった。
三人で並んで時子ちゃんのお母さんに写真を撮ってもらった。
「みなさん、とても素敵ですよ」
お母さんが微笑む。
電車を乗り継いで、会場に着くと、すでにたくさんの人で賑わっていた。屋台の匂いと人々の笑い声。夏祭りの雰囲気に、胸が高鳴る。
「かき氷食べたい!」
「わたし、りんご飴」
「じゃあ私はたこ焼き」
それぞれ好きなものを買って、海岸沿いのいい場所を確保した。まだ日が暮れる前で、空はオレンジ色に染まっていた。
「きれいだね」
「うん……」
「素敵です」
三人で夕日を眺めながら、静かな時間を過ごした。こういう瞬間が、一番幸せだと思った。
やがて空が暗くなり、花火が始まった。最初の一発が夜空に花開くと、周りから歓声が上がった。
ドンドンと打ち上げられる花火。赤、青、緑、金色。色とりどりの光が夜空を彩る。神戸港もライトアップされて、花火とのコントラストが美しかった。
「すごい……」
時子ちゃんが呟く。
「最高だね」
陽菜ちゃんも夢中で空を見上げている。
わたしはカメラを構えて、花火を撮影した。でも、ふと思った。この瞬間は、カメラに収めるよりも、目に焼き付けておきたい。
カメラを下ろして、ただ花火を見上げた。横には大切な友達がいる。この夏の夜を、わたしは一生忘れないだろう。
フィナーレの連続花火が終わって、辺りは静かになった。人々が帰り始める中、わたしたちはもう少しその場に座っていた。
「楽しかったね」
「また来年も来ようね」
「約束」
また小指を絡める。この約束は、きっと守れる。そんな確信があった。




