第三章 雨の日の約束
梅雨に入って、雨の日が続いた。
水泳の授業が中止、自習になって、わたしたちは図書室で過ごすことになった。時子ちゃんは嬉しそうに本棚の間を歩き回り、わたしと陽菜ちゃんは窓際の席に座って雨を眺めていた。
「歩未ちゃんは雨、好き?」
陽菜ちゃんが突然聞いてきた。
「うーん、どっちかっていうと晴れの方が好きかな。写真撮りやすいし」
「うちはね、雨の日も好きなんだ」
意外だった。あんなに活発な陽菜ちゃんが、雨を好きだなんて。
「なんで?」
「雨の日って、なんか特別な感じがしない? いつもと同じ景色が違って見えるっていうか。それに、こうやってのんびり過ごせるし」
確かに、雨の日の図書室は落ち着く。外の雨音が心地よいBGMになって、時間がゆっくり流れているような気がした。
「見つけました」
時子ちゃんが本を抱えて戻ってきた。
「何の本?」
「写真集です。明石の風景を撮った」
時子ちゃんが開いて見せてくれた本には、わたしたちが普段見ている景色が、まったく違う表情で写っていた。早朝の明石海峡、夕暮れの明石城、雨上がりの魚の棚商店街。
「すごい……こんな風に撮れるんだ」
プロの写真家の作品だった。同じ場所を撮っても、こんなにも違う。わたしの写真はまだまだだと思い知らされた。
「歩未ちゃんも、いつかこんな写真撮れるようになるよ」
陽菜ちゃんが励ましてくれる。
「そうですね。歩未さんの写真、とても素敵だと思います」
時子ちゃんも優しく言ってくれた。
「ありがとう……頑張る」
三人で写真集を眺めながら、将来の話をした。時子ちゃんは作家になりたいと言った。陽菜ちゃんはスポーツ関連のお仕事。私は……まだはっきりとは決めていなかったけれど、写真に関わる仕事ができたらいいなと思っていた。
「十年後も、三人で集まれたらいいね」
陽菜ちゃんが言った。
「明石で、また明石焼き食べながら」
時子ちゃんが続ける。
「その時はわたし、すごい写真撮れるようになってるから、二人の写真撮るね」
「約束だよ」
陽菜ちゃんが小指を立てた。私と時子ちゃんも指を絡める。
「十年後も、ずっと友達」
雨音に紛れて、わたしたちは小さく約束を交わした。それは、まだ見ぬ未来への希望だった。




