表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/78

覚醒の代償、そして自立への静寂

私が配信を止めた瞬間、世界を包んでいたあの陶酔的な多幸感は、潮が引くように消え去っていった。

モニターに映る人々は、まるで長い夢から覚めたかのように、呆然として自分の手を見つめている。


「……一ノ瀬、これでいいんだ。……強制された平和は、ただの『依存』でしかないから」

佐藤くんは、配信設備のシャットダウンを完了させ、過熱したサーバーから手を離した。


高城さんは、私の隣に座り込み、自らの思考を支配していた刺々しさを捨て、穏やかな溜息をついた。


「……結局、私たちがしたのは『きっかけ』を与えただけ。……ここから先、再び奪い合うか、分かち合いを続けるかは彼ら次第よ」


私の美貌によって強欲を抑えられ、富を再分配した富裕層たちは、今、自らの意志でその継続を問い直されている。 紛争を止めた兵士たちも、銃を再び拾い上げるのか、それとも隣人と手を取り合うのか、その重い決断を自分たちの心に突きつけられていた。


私が鏡を見ると、そこにはかつての「全人類を魅了する神々しい姿」ではなく、ただの疲れ果てた一人の女子高生が写っていた。 能力を使い果たした私の瞳は、もう誰の脳を焼くことも、誰の人生を狂わせることもない、ただの茶色の瞳に戻っている。


「……怖いけれど、……これでよかったのよね。……誰にも縛られない、本当の自由が戻ったんだから」


私は震える声で呟き、佐藤くんが差し出してくれた、少し不恰好で温かいおにぎりを一口頬張った。


横田基地の外では、かつての混乱が嘘のように、人々が自分たちの足で静かに歩き始めている。

中東の賠償金も、イギリスの歴史的清算も、私たちが「事実」として世界に刻み込んだ以上、もう後戻りはできない。

けれど、そのシステムを動かし続けるのは、私の美貌への陶酔ではなく、一人ひとりの「知性」と「良心」でなければならない。

私たちは、世界を救うための「特別な存在」であることをやめ、名もなき群衆の一人に戻る道を選んだ。


「……行こう。……今度は、特別な力なんてない、ただの僕たちとして生きていくために」


佐藤くんが私の手を握り、高城さんが私たちの背中を押し、私たちは基地の重い鉄扉を開けた。

朝日は、かつての私のオーラよりもずっと優しく、そして平等に、新しく生まれ変わった世界を照らし出している。

本当の平和は、これから私たちが、そして世界中の人々が、一歩ずつ迷いながら作っていく物語の中にしかないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ