第1話:戦姫の誓い「こんな人生は、嫌。この世界を変えてみせる」
この世界は、残酷だ。
『戦いで死んだ戦士だけが天国にいける』
・病に倒れたもの、
・事故で命を落としたもの、
・老いて亡くなったもの、
彼らは皆、地下奥深くの陽の当たらない凍りついた場所へ送られる。
氷地獄と呼ばれる場所で、永遠の時を過ごすのだ。
どうして?
それが、創造主によって生み出されたこの世界だから。
吸い込まれそうに深い碧緑色に輝く湖の前で、
一人の少女が決意を胸に秘めた様子で
真っ直ぐに前を見据えていた。
歳の頃は十六。
腰まで届く艶やかな絹糸のような黒髪は
湖面を優しく撫でる風に洗われ、
サラサラとたなびいていた。
彼女の黒曜石のように輝く瞳は、
対岸に聳えるアルプスの山を凝視している。
天高く聳える山の頂には白く雪が降り積もっており、
雪化粧の威容は神々しさすら覚える。
時折、湖面がまるでダイヤモンドのようにキラキラと輝く。
太陽の反射が波間に反射して、
この世のものとは思えぬほど美しく
幻想的な光景を作り出していた。
そこかしこに色鮮やかな鳥や蝶が優美に舞い戯れていて、
湖をのぞき込めば多彩な魚が悠々と泳いでいる。
この場所で生まれ育った少女は、
穏やかな瞳の師匠の言葉を反芻していた。
老賢者として知られる師匠は、
生まれながらに足の障害で自力で歩けなかった為
刀剣をふるうことはなかったものの、
生涯にわたり真摯に学び続け、
惜しみなく叡智を分け与えてくれる存在だった。
「見てごらん、シグリドリーヴァ。
湖の私たちのいる場所から
対岸の薄靄の先に見える幻想的な風景を見ていると、
私は"彼岸"を想うのだよ。
シグリドリーヴァ、私は王都の禁書庫で、
遠い異国の「死の国の神話」を読んだことがあるんだ。
その国では、人は死んだら誰もが皆、
"彼岸"へと船で旅立つのだそうだ。
その"彼岸"は、まるで"此岸"と同じように、
穏やかで美しい場所だそうだよ。
そこでは、人は戦う必要がないんだ。
だって人が死んだ後に行く場所として、
常春の国が用意されているから。
あぁ・・・なぜだか・・
私は本当に「そんな死の国」があるんだって、
心の底から信じ切ってしまったんだよ。
「そんな死の国」があると信じると、
今を生きるこの一瞬がますます煌めくようになったんだ。
だから私は生の最期の瞬間まで、
周りのみんなに私の知る限りの全ての事を伝えたいんだ」
私は、あの日の師匠の言葉を絶対に忘れない。
戦姫の家系に生まれ、最恐の戦姫として育った私が
親の反対を押し切っても師匠に学ぶ事をやめなかったのは、
この場所で師匠から聞いた「そんな死の国」が
どうしても頭から離れなかったから。
何よりも・・・
盲目的に「死を恐れず、死に向かう戦い」に身を投じてきた私にとって
師匠は唯一「生きる意味」を指し示してくれた人だった!
・・・・・・・・・・・・
師匠の死はあっけなかった。
「師匠ー!!」
助けに走った私の目の前で、
師匠の生首は振り落とされた大鉈に
スパンと打ち落とされた。
・・・・なぜ?
師匠は、生涯にわたって刀を振るうことはなかった。
武力の前に、完全に無力だった。
あっけなく、その首は吹き飛んだ。
・・・・どうして?
美しい自然に囲まれたこの国で、
なぜ毎年のように血まみれの戦が繰り返されるの?
どうして、戦い続けなければならないの?
戦わないものが嘲られるのは、なぜ?
・・・・・・・・
私は師匠の生首に誓った。
師匠が夢見た「そんな死の世界」を、
私は絶対に現実化する。
だから私は何度だって誓う。
私は絶対に、諦めない。
こんな人生は、絶対に嫌。
何が何でも、こんな世界を変えてやる。
もう、絶対に、誰も惨めに死なせない。
だから私の生き方は、決まっている。
この世界を創造したという「神」、そいつに会いに行く。
絶対に、この世界を変えてみせる。




