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第3章 月の下の再会 ①王子の決意
夜の王宮。
大理石の廊下を、靴音が静かに響く。
窓の外には月が浮かび、
その光が、青い瞳を淡く照らしていた。
エリアスは机の上の文書を閉じた。
リュシオンとの新条約。
香草の交易に関する詳細な記録。
それを読みながら、彼はずっと考えていた。
――香草の国。
――庶民の慰め。
父王の言葉が脳裏に響く。
だがその香りに救われた自分が、今ここにいる。
それを否定することなどできるはずもなかった。
彼は机の引き出しから、小さな布袋を取り出した。
ミナが作った香草袋。
何度も嗅いだその香りは、
今でも変わらず優しく彼を包み込む。
――「貴女の作る香りは、どこか懐かしい」
気づけば、唇が震えていた。
「……行こう」
小さく呟き、外套を羽織る。
彼は、夜の王城を抜け出した。
護衛も連れず、ただ一人で。
月明かりだけを道標にして。




