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地味女、土魔法で我道を拓く  作者: 泉井 とざま


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第2話:追放宣言と崩れた居場所

 あれから約一年――依頼達成の翌日、サナはパーティの仲間に呼び出されていた。

“清らかな風”。ギルドの仲介で参加することになったパーティーだ。


 サナはギルドの重いドアを、なんとか押し開けて中へ入った。

昼下がりの空気は、少しだけ緩んでいて、忙しく書類を持ってまわる職員をしり目に、いくつかのパーティーが雑談や酒に興じている。


 入った瞬間、数人の視線がこちらを向く。

そのうちの一人が、わざとらしく笑いながら言った。


「あーあ、地味女がまた来たよ」


 ……地味女。

そう呼ばれるたびに、胸の奥がざらつく。

残念だけど、土魔法が地味なのは、わかってる。

けど、私がそう呼ばれるのは魔法のせいだけじゃなくて、このちんまりした見た目と、広まってしまった悪い評判のせいだと、もうわかってる。


 私はその中の一つへと、逃げるように小走りで駆け寄り頭を下げた。

すでに集まっていた仲間たちから、厳しい視線が向けられる。

その視線は、言葉よりも冷たく、いつもに増して重かった。


「遅かったな……」

長剣と騎士のような盾を使う戦士のフランクさんが、こちらをじっと睨む。

「その……すみません。片付けに、手間取っていて……」

私は目線を合わせたくなくて、深く頭を下げた。


「ま、いいんじゃないの~。先に始めちゃってるし」

ワイングラスをゆるゆると回して、気のない声をあげるのは、短剣を使うジョーイさん。

誰にでも明るい人物と言われているけど、私への言葉だけはトーンが低い。


「ベルは待とうって言ったんだがな! 別にいいよな!?」

イエス以外を求めていない問をぶつけてくるのは、大きな槌を使うビリーさん。

体だけでなく声も大きいから、私は体をビクッと跳ね上がって、動けなくなってしまう。


「みんな、それくらいにしてあげて……サナ、大丈夫?」

優しい言葉をかけてくるのは、風の神の神官であるベルさん。

心配を顔に滲ませているけど、あの表情の下で私のことを笑っているのを知っている。


 私は、鞄の上から、中にしまった報告書の束をそっと抑えた。

これが、今まで書いていた私の遅れた理由。

指示した内容で書けているか確認して、提出しておいてあげると言いながら、ベルが、自分の名前に書き直して提出していることをつい最近知った。

だから彼女は、私が報告書を書いて遅れていたと知っていても言わない。

その他に武具の手入れの手配に馬車の予約、消耗品の補充なんかもやってきたけど、

それらは役に立たない私がすべき、当たり前の仕事だったのかもしれない。


 何も言わないまま固まった私を見かねて、フランクが座るように言い、言葉を続ける。

「サナ。悪いが今日で、パーティーを抜けてもらう」

その声はいつも通り静かで、色のない淡々としたものだった。


 呆然としている私にジョーイが言う。

「キミ、ベルが書いた報告書を自分が書いたって言い張ってるらしいね」

いつもの軽薄そうな笑みが消えて、怒りを宿した強い視線で睨まれる。

「ずっと前からベルから相談を受けていたんだ。それだけじゃない。依頼中の態度にも問題があって言われてるよ?」


 ジョーイの方を振り返ろうとした瞬間、大きな声が降ってきた。

「お前! 魔法を使ったと思えば、いつもいつも俺たちの邪魔ばっかりしやがって!」

ビリーがジョッキをテーブルに叩きつけると、ダンッっという音と共に中のエールが飛び散った。

その音が、頭の奥で何度も反響する。

喉がヒュッと鳴って、呼吸の仕方を忘れた気がした。

足元が床に縫いつけられたみたいに動かない。


「お前はこのパーティーの遠距離攻撃の担当だろうが! 全然やってねぇじゃねぇか! この地味女!」

熱くなるビリーをフランクが腕をあげて制止する。

「落ち着け。今はそういう場じゃない。」

呆然とする私を守ってくれたわけではないことは、その目の鋭さが物語っていた。

「サナ。君がこのパーティーで不和を招いているというのが事実だ」


「みんな、言いすぎよ……サナは、頑張ってたわ」

リディアベルが、静かに言った。

その声は、優しくて、柔らかくて……冷たかった。


「ギルドには私から説明しておくから。あなたのことも悪いようにはしないわ、サナ」

そう微笑むベルの口元は、穏やかにほころんだまま。

けれど、耳元にだけ、全く違う声が届いた。

周囲には聞こえていないはずの、ささやくような声。

「今まで雑用ご苦労様。後任も決まっているし、さっさと消えて、地味女」


――音飛ばしの奇跡だ。

そう気づいた瞬間、背筋が凍った。

「どうしたの?サナ」

心配そうにこちらを見つめるベルにハッとする。

誰も反応してない。あの言葉を聞いたのは、私だけだった。

それだけじゃない。ビリーの声が響いたせいか、周囲のテーブルから好奇の視線が突き刺さる。

それらのすべてが、私からの言葉を待っていた。


「わかり……ました……今まで、ご迷惑を、おかけしました……」

かすれるような声で、なんとか言葉を絞り出した。

足元がふわふわと浮いているようで、歩いているのか、ただ流されているのかもわからない。

それでも、その場を離れたくて、足に力を込めた。


 学校であんなに頑張ったのに……なにがダメだったのだろう。

冒険者ってもっとわくわくできると思ったのに……

もう、こんなつらい思いしたくない……

私なんかの魔法じゃ、やっぱりだめなのかな?

今回の分の報告書……どうしよう……

明日から……どうしよう……

頭の中に、言葉にならない思いが浮かんでは消えていく。


 失意の少女が、冒険者ギルドの門をくぐった。

パーティー追放の一幕。

優しく寄り添うように見せかけ……まさに悪女!


☆や感想を頂けましたら、これ幸い。

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