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勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました  作者: まりあんぬさま
獣人の国編

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狂気の雷、獣の牙

 ミレイユの口元が、狂気を孕んだ笑みで吊り上がる。

 掲げていた右手が、地を裂くような勢いで振り下ろされた。


「――堕ちよ!黒雷滅龍陣《カタストロフィ・ドラゴン・サークル》!!」


 瞬間、天を覆う雷雲から黒紫の雷撃が奔流のように溢れ出す。

 幾重にも連なる稲妻は蛇の群れのように地を走り、バニッシュたちを直撃した。

 張り巡らされた結界が火花を散らしながら防いでいたが――


「ぐあああっ!!」


 耐えきれず、若い獣人兵の数名が吹き飛ばされる。三人が白目を剥き、地に転がった。


「散れ! 固まっていると狙われるぞ!」


 灰毛の鋭い声が響く。

 その指示に従い、残った兵たちは岩や木陰に飛び込み、散開していった。

 灰毛自身も地を蹴って身を翻し、バニッシュと連携するように位置をずらす。


「フフフ……無駄よ。逃がさないわ」


 ミレイユの声は甘く響きながらも、雷鳴を背負った魔の囁きだった。

 右腕から奔る雷撃が収束し、形を変える。

 稲妻がうねりを上げながら絡み合い、やがて龍の姿を形作った。

 全身が黒紫の雷でできた、長大な龍――

 その口が開かれ、牙を剥く。


「喰らい尽くしなさい!黒雷龍牙閃《アビス・ボルト・ドラゴンファング》!!」


 大地が揺れる。

 雷龍が咆哮を上げて突進する。

 その進路にあった岩は粉砕され、大木は蒸発するように焼き切れ、地は黒焦げの亀裂を生じていった。

 真正面に立つバニッシュの瞳が、強い光を帯びる。


「……ッ、この程度で……俺は退けん!!」


 彼は両手を前に突き出し、幾重にも結界を張り巡らせた。

 透明な盾のような魔法陣が次々と展開し、重なり合う。

 雷龍はその結界を噛み砕くようにして、バニッシュごと飲み込んだ。


「バニッシュ殿っ!!」


 灰毛の叫びも虚しく、雷龍はそのまま天空へと昇り上がる。

 黒雷が咆哮のように迸り、空を裂いた。

 次の瞬間、龍は急降下する。

 掴み上げられたバニッシュを、その顎に抱えたまま――


 ――轟音と共に、大地へ叩きつけた。


「がああああああああッ!!」


 天地を震わせる衝撃音と共に結界は粉々に砕け散り、雷鳴の奔流が爆ぜる。

 バニッシュの身体は地を抉るほどの力で打ち据えられ、呻き声が迸った。


「バニッシュ様!!」


 散った獣人兵たちの声が悲鳴のように響く。

 ミレイユは高みに浮かび、楽しげにその光景を見下ろしていた。

 紫黒の稲光を纏った彼女の瞳には、哀れな獲物を嬲る快楽しか映っていない。


「キャハハハッ! いいわ、その悲鳴! それこそがお似合いよ、バニッシュ!」


 勝者の笑みを浮かべ、雷雲を背に高笑いするミレイユ。

 大地に叩きつけられ、土煙の中に伏したバニッシュは、肺の奥からこみ上げる血を吐いた。


「……ぐっ……はぁ……」


 補助魔法で肉体の耐性を上げていたとはいえ、先ほどの一撃は致命的だった。

 内臓は軋み、全身の骨が悲鳴を上げている。

 それでも――彼は、両手を土に突き、膝を揺らしながらも立ち上がろうとした。


「……こんなところで……」


 傷ついた掌に魔力を込め、自身へと回復魔法を流し込む。

 じりじりと焦げた肉体を修復する光が淡く灯るが、それでも痛みは拭えず、体は軋む。

 それでもバニッシュは、歯を食いしばりながら天を仰いだ。

 空には――雷雲を背に、狂気の笑みを浮かべ宙を舞う女。


「キャハハハハッ……!」


 ミレイユの高笑いが雷鳴に混じり、戦場を震わせる。

 その姿は、かつて彼が知る少女ではなかった。


 ――記憶がよみがえる。


 まだ「勇者」と呼ばれる前のカイルと共に旅をしていた日々。

 あの頃の自分は、ひたすら仲間を支え、導く役目に徹していた。

 そして彼女――ミレイユは、まだ奥手で、自信を持てない少女だった。


『あの……バニッシュさん……わたし、やっぱり自分の魔法に自信がなくて……』


 俯き、杖を握る指を震わせていたあのときの姿。

 彼は隣に座り、火を焚きながら、魔法の基本と心構えをゆっくりと教えた。

 夜の帳の下、ミレイユは必死に耳を傾け、震える手を何度も握り直し、立ち上がった。

 カイルの背中に強い憧れを抱き、彼の隣に立ちたいと願っていた彼女。

 その甘酸っぱい悩みを、彼は何度も聞いた。

 涙を浮かべながら「もっと強くなりたい」と言い、翌朝には必ず立ち上がり、前を向いた。

 彼女は努力した。

 仲間のために、憧れのために、必死に杖を振るった。

 そして少しずつ自信を手に入れ、魔導士として歩みを強めていった。


 ――その彼女が、今。


 紫黒の稲妻を背に、狂気を孕んだ瞳で自分を見下ろしている。

 口元に浮かぶ笑みは、栄光に酔ったものではない。

 欲望と憎悪に侵された、もはや別人の笑みだった。

 懐の鳴心環が、不意に脈打つ。


 ――トクン、トクン。


 それは彼の心臓の鼓動に呼応するように鳴り響き、胸奥に疼く痛みを増幅させていた。

 仲間を信じ、支え合った日々。

 もう戻らぬ絆を失った痛み。

 そのすべてを刻むかのように、拍が胸の奥で強く打ち続けていた。


「……ミレイユ……」


 かすれた声で名を呼ぶ。

 それは怒りでも恨みでもなく、ただ――どうしようもない悲しみが混じっていた。


 「……大丈夫か」


 低く抑えた声が耳に届いた。

 振り向けば、灰毛が槍を手にしたまま駆け寄ってきていた。

 戦場の混乱の中でなお冷静に目を光らせるその姿は、仲間を率いる将の顔だった。

 だが、その視線は今、バニッシュの横顔に釘付けになっている。

 地に手を突き、荒い息を吐くバニッシュ。

 その頬には苦痛の影が濃く刻まれていたが――灰毛が見抜いたのは、それだけではなかった。

 肉体の痛みではない。

 胸の奥を抉る、心の痛みが彼を縛りつけている。

 灰毛は、ふと声を落とした。


「……迷っているのか」


 短い問い。

 その答えを聞かずとも察していたが、それでも敢えて口にする。

 バニッシュは返答しなかった。

 唇を固く結び、ただただ宙に浮かぶミレイユを見上げ続ける。

 高みからこちらを嘲笑う女。

 雷雲を背に、その身を紫黒の稲光で染め上げた姿は、もはや人間という枠を超えていた。

 灰毛は槍を握り直し、視線を彼女に移す。


「お前の気持ちは分かる。だが、あの者は……もう狂気に満ちている。戻ることは――」


 言いかけたその刹那。


「それでもッ……!」


 バニッシュの声が、灰毛の言葉を塞いだ。

 血で掠れた喉から、それでも強く絞り出す。


「俺は……彼女を知っている! 努力家で……不器用で……憧れた想い人に届きたくて……必死に、もがいて……っ!」


 震える声は、もはや言葉として成り立っていなかった。

 しかし、そこに込められた想いは確かだった。

 灰毛は息を呑む。

 己の信じるものが狂気に堕ちようとも、かつての姿を知る者はまだ、手を差し伸べるのを諦めない。

 空を裂く雷鳴の下、バニッシュは必死に立ち上がろうとしていた。

 その眼差しは、ただひとり――ミレイユへ向けられていた。


「さあ――終わりにしましょう!」


 ミレイユの笑声が軍幕を引き裂くように響いた。

 掲げられた彼女の白い腕。

 その掌の上に、黒紫の稲妻が収束していく。

 轟音を伴い、雷雲から引きずり出されたかのような雷撃が一本の柱となり、天を割って彼女の手元へと集約されていく。

 空気が焦げる。地面が軋む。

 その圧力に、後方に散っていた獣人兵たちは思わず身を伏せた。


「くっ……!」


 バニッシュは血に濡れた唇を噛み、膝を震わせながらも立ち上がろうとする。

 その胸の奥には、まだ戦うべき理由が渦巻いていた。


 ――だが、その前に一人の男が立ちはだかった。

 灰毛。

 獣人国ルガンディアが誇る歴戦の戦士は、槍を片手にミレイユを真っ直ぐ射抜く視線を向けていた。


「……あの者は、我らが討つ」


 低く、揺るぎのない声。

 その背は壁のように、バニッシュの前に立ち塞がる。


「俺も――!」


 思わず言葉を発したバニッシュ。

 だが、その声は即座に鋭く切り裂かれた。


「お前はここにいろ!!」


 突き刺すような叱咤。

 灰毛の眼は一切バニッシュを見なかったが、その声音には容赦のない断絶が込められていた。


「戦場において、覚悟のない者はただ死を招く。……俺はそういう者を何度も見てきた」


 バニッシュの喉が震える。

 言葉が出ない。否定する資格すらないと悟らされた。

 灰毛は続ける。


「お前とあの女に、どんな過去があるのかは知らぬ。だが――我らはルガンディアの戦士だ。国のために、仲間のために、最後の一人になっても、あの者を倒す」


 振り返ることはない。

 その背はまるで、覚悟を定めた者と、揺らぎに囚われた者とを隔てる境のように、絶対的だった。

 バニッシュの胸に熱が突き刺さる。

 心臓の鼓動と鳴心環の拍が、痛みに似た響きを重ねた。


「……行くぞ!」


 灰毛が槍を構えた。

 その声は雷鳴すらかき消すほどの確信に満ちていた。

 獣人兵たちが立ち上がり、彼の背に従う。

 ミレイユの唇が妖しく吊り上がる。


「フフ……獣風情が……邪魔するんじゃないわよ!!」


 掲げられた右手から、ついに黒雷が奔流を成して解き放たれた。


「冥雷崩衝《アビス・サンダー・インパクト》――!!」


 黒紫の雷撃が大地を割り、軍幕を吹き飛ばしながら灰毛へと襲いかかる。

 だが、灰毛は臆せず一歩を踏み出す。

 槍を大きく回し、その鋭刃に奔流の雷を受け止めた。


「スキル――餓狼(がろう)!」


 吠えるように叫ぶ。

 次の瞬間、槍に奔った黒雷はそのまま灰毛の体を貫かず、吸い込まれるように刃先へと集約されていった。

 唸る雷撃が槍に宿り、白銀の穂先を黒紫の稲妻で包み込む。

 爆ぜる電光は、まるで狼が牙を剥いたかのように輝いた。


「喰らい尽くすは、敵の力だ……!」


 灰毛の双眸が、雷光を映して燃える。

 槍に纏った雷光は、咆哮する獣そのものだった。

 灰毛は地を蹴り、宙に浮かぶミレイユへと突撃する。

 黒紫の稲光を纏った穂先が、雷鳴を割るように一直線に奔る。


 ――ガァンッ!


 衝撃音が大気を震わせた。

 しかし、穂先の前に展開された紫黒の障壁が灰毛の一撃を阻む。

 火花と雷がぶつかり合い、視界を焼き尽くす。


「今だ!」


 灰毛の咆哮が戦場を震わせる。

 呼応するように、残された三人の部下たちが四方から槍を構え突進する。

 その瞳には恐怖も迷いもない。

 あるのはただ、己の隊長を信じ、国を護るという揺るぎなき決意。


「獣風情がぁ――なめるんじゃないわよッ!」


 ミレイユの右手が振り下ろされ、雷撃が迸る。

 落ちた黒雷が地を焼き、三人をまとめて吹き飛ばした。

 しかし、灰毛はすかさず声を張る。


「散開しろ! 群れるな、動き続けろ! 狙いを定めさせるな!」


 立ち上がった部下たちは即座に陣形を組み直し、灰毛の指示通り、岩陰を縫い、木の影を抜け、宙を舞う敵へと槍を突き立てる。

 一撃一撃は届かずとも、確実に彼女の意識を乱していった。


 「ちぃ……!」


 ミレイユの唇が歪む。

 紫黒の稲妻が乱れ撃ちのように降り注ぐが、散開した獣人兵たちには的を絞れない。

 彼らは命を削りながらも翻弄し続け、そのたびに彼女の額に苛立ちの汗が浮かぶ。

 それは決して華麗な戦術ではなかった。

 ただ生き延び、ただ一瞬を稼ぐための命を削る攻防。


 ――だが、それこそが獣人の戦い方だった。


 灰毛の声は止まらない。


「右から回り込め! 恐れるな、我らは牙を持つ獣人だ!」


 仲間たちが声を張り上げ応じる。


「応ッ!」


 雷鳴の中で交わる声は確かに響き合い、絶望を切り裂くようだった。

 その光景を、後方で見守るしかないバニッシュの胸に鋭い痛みが突き刺さる。

 彼は知っていた。

 本来なら、自分こそが前に立ち、仲間を護るべき存在であることを。

 それなのに、心の迷いを理由に立ち上がれず、ただ灰毛の背を見つめるしかない自分――。

 拳を握る。爪が掌を突き破り、血が滴った。


(……俺は、なんて情けないんだ……)


 仲間を信じ、命を張ることをためらわぬ彼らの背に、自分の覚悟はあまりに霞んでいる。

 俯く顔に、熱い涙が落ちた。

 雷鳴が轟き、稲妻が閃く。

 結界はすでに擦り切れた布のように破れ、バニッシュの補助魔法も限界を迎えつつあった。

 灰毛たちの身体は傷だらけだ。毛並みは焦げ、槍は何度も雷に焼かれて黒ずんでいる。

 それでも――その足は止まらなかった。


 「ぐっ……!」


 雷撃を胸に受け、膝を折りながらも一人の兵が叫び声をあげ突撃する。

 だが、その身体はもう限界を超えていた。

 黒雷をまともに浴び、煙を立ち上らせながら地に崩れる。

 次いで、もう一人。

 雷に焼かれ、血を吐きながらも槍を構えた兵が吠え、最後の一歩を踏み出す。

 その瞳には恐怖はなかった。ただ仲間と国のため、己の命を賭けて前に進む誇りだけが宿っていた。

 だが、その誇りの灯火も雷光に呑まれ、地に沈む。


 ――残されたのは、灰毛と、一人の部下。


 二人の肩は激しく上下し、荒い呼吸が戦場の轟音に混ざる。

 体は重い。槍を握る腕は痺れ、足は今にも崩れ落ちそうだった。

 それでも、その眼光の輝きは失われなかった。


 「……これしきで、俺たちの牙は折れん」


 灰毛の瞳が闇を貫く。

 その声に、最後の部下は血に濡れた顔を上げ、静かに頷いた。

 言葉はいらない。ただ視線だけで、想いは伝わった。


 ――これは、最後の特攻だ。


 ミレイユの口元に妖しい笑みが浮かぶ。


 「フフフ……二人きりになったのね? いいわ、その絶望した顔をもっと見せてちょうだい!」


 黒雷が迸り、空を裂く。

 狂気に満ちたその声は、かつての仲間を慕っていた少女のものではなかった。

 後方で見守るバニッシュの胸が強く痛む。

 歯を食いしばりすぎて口の端が切れ、血が滴る。

 懐に収めた鳴心環が、心臓と同じ拍を強烈に刻み続けていた。


 ――ドクン。ドクン。


 その音はまるで、「立て」と告げるかのように、痛烈に響く。

 だが灰毛の背中は一歩も揺らがない。

 その眼差しは、最後まで戦い抜く者のものだった。

 灰毛は、最後の部下にただ一つ、目で合図を送る。


 「行くぞ」


 それだけで十分だった。

 二人の獣人は、雷光を浴びながらも地を蹴り、宙に舞う狂気の魔導士へと牙を剥いた――。


 天を裂く轟音。

 紫黒の雷が集約し、龍の形を象り放たれた。


 「――黒雷龍牙閃《アビス・ボルト・ドラゴンファング》ッ!」


 その咆哮と共に、雷龍が大地をえぐりながら灰毛たちへと襲い掛かる。

 視界を覆い尽くすほどの漆黒の光。誰が見ても、抗えぬ死の奔流だった。


 だが――。


「隊長、ルガンディアに……栄光あれッ!」


 最後に残った部下が、己の運命を悟ったかのように微笑み、真っ直ぐに雷龍へと駆け込んだ。

 その背に、灰毛は一瞬たりとも迷わず続く。

 次の瞬間、雷龍が部下を呑み込み、轟音と閃光が大地を焦がす。

 しかしその刹那、灰毛は――仲間を踏み台に、さらに高く宙へと跳ね上がっていた。


「うおおおおおッ!!!」


 咆哮が天を震わせる。

 灰毛の眼光はただ一人、紫電を纏い宙に浮かぶ女――ミレイユのみを射抜いていた。


 「無駄よ! いくら足掻いたところで!」


 ミレイユは両手を広げ、咄嗟に障壁を展開する。

 幾重にも重なる黒紫の魔法陣が彼女の全身を守るように輝いた。

 それは絶対の防御。常ならば、決して破られることはない。

 だが灰毛は、一度槍を大きく回し、声を張り上げる。


 「スキル――餓狼ッ!」


 次の瞬間、雷を吸う狼のように、灰毛の槍が障壁に触れた。

 そして――まるで喰らい尽くすかのように、障壁の輝きが吸収され、掻き消えていく。


「なッ……!?」


 ミレイユの顔に、初めて狼狽の色が浮かんだ。


「オオオオオッ!!!」


 灰毛は獣の如き叫びと共に、槍を突き出す。

 標的は女の胸元――だが、土壇場でミレイユは身を捻り、その刃は肩口に突き刺さった。


「ぐああああああッ!」


 絶叫。

 雷鳴をも掻き消すような悲鳴が戦場を揺らす。

 灰毛は勢いを止めなかった。

 宙から地へと、そのままミレイユを叩き落とす。

 地面に激突した瞬間、土煙が上がり、衝撃が大地を揺らした。


「この牙、決して退かんッ!!」


 獣の本能のままに。

 灰毛は牙を剥き、肩に深々と刺さった槍に更なる力を込める。

 血が噴き出す。ミレイユの体が痙攣する。


 ――だが。


 その苦悶に歪んだ瞳が、不意にぎらりと妖しく光を帯びた。

 苦痛、怒り、憎悪――すべてが混ざり合い、狂気の炎を宿す目だった。


「貴様ァアアアアッ!!」


 叫ぶと同時に、ミレイユの体から漆黒の雷が爆ぜる。

 至近距離から放たれた一撃は、灰毛の体を直撃し、轟音と共に吹き飛ばした。

 地面を転がり、土煙を巻き上げながら灰毛の巨体が地を打つ。

 その槍はなおミレイユの肩に突き立ったまま、赤黒い血を滴らせていた。

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