14dB ◆ 初めての朝
R18シーンをばっさり切り取ったら、こんなに短くなりました……。
完結後にR18シーンも含めて、ムーンライトノベルズの方に載せようか悩んでます……。
海辺の余韻を抱えたまま、ふたりは凪の部屋へ戻った。
玄関を閉めた瞬間、強く抱きしめられ、そのまま腕に抱えられてベッドへ運ばれる。
見下ろす彼の唇が、ためらうように動く。
「……詩音、いい?」
詩音は凪の袖口をぎゅっと握りしめ、視線を彷徨わせながら、こくりと頷いた。
その頷きに応えるように、夜は静かに更けていった。
***
カーテン越しに、淡い朝陽が差し込んでいた。
時計の針の音も聞こえない、静かな朝。
目を覚ませば、隣には詩音がいる。
シーツにくるまりながら、すうすうと安らかな寝息を立てている、無防備で、柔らかくて……愛おしい寝顔。
昨夜――彼女は、俺にすべてを委ねてくれた。
指を絡め、鼓動を重ね、抱きしめ合って……
言葉はなくても、手のひらの震えや唇の熱が、すべてを語っていた。
肩越しに伝わる体温。背中に回された細い腕。
どこまでも近づき、境目が消えるように抱き合いながら、時間の感覚さえ忘れていった。
そして今、俺の腕にあるのは、世界の何よりも大切で……愛おしい存在。
指先で頬をそっとなぞると、昨日よりもさらに近く感じられる。
彼女の手のひらに自分の指を滑り込ませると、眠っていた詩音がかすかに眉を動かした。
そして――ぎゅっと、俺の指を握りしめてくる。
あたたかい。
やわらかく、小さな手。
その一握りだけで、胸の奥がどうしようもなく熱くなる。
気づけば、視界がにじんでいた。
あまりに幸せで、笑みがこぼれるのに……涙もにじんでしまう。
隣で眠っていた詩音が、小さく身じろぎした。
まぶたを重たげに開け、ぼんやりとこちらを見た次の瞬間――俺の頬を伝う雫に気づいて、小さく驚いたように瞬きをする。
慌てて起き上がろうとする彼女を、俺はすぐに抱き寄せた。
頭の後ろに手を添え、髪の間をなぞるように指を通しながら、ぐっと引き寄せる。
耳の裏から襟足にかけて流れる髪が、指先をすり抜けていく。
その感触ごと、俺は抱きしめた。
声にはならなかったけど、その代わりに涙が静かに頬を流れる。
言葉にならない想いを、ただ抱きしめることでしか伝えられなかった。
詩音も、ぎゅっと肩口に顔を埋めて、俺の背に腕を回す。
しっかりと、けれど優しく。
そのぬくもりだけで、全部が伝わった気がした。
深く息をつき、少しだけ腕の力を緩めると、離れがたい気持ちを抑えながらゆっくりと身体を離す。
詩音は肩口から顔を上げ、にっこりと微笑んだ。
そして俺の胸に指を添え、小さくなぞり始める。
ひらがなで、ゆっくりと。
〝お〟〝は〟〝よ〟〝う〟〝ご〟〝ざ〟〝い〟〝ま〟〝す〟
その感触がくすぐったくて、思わず笑みがこぼれる。
俺も彼女の手を握り返し、同じように指で言葉を返した。
〝おはよう、詩音〟
そして、額に。頬に。閉じかけた瞼に。
次々とキスを落としていくと、詩音はくすぐったそうに、声を出さずに笑った。
俺の胸をとんとんと叩いて――「もう」と言いたげに。
その仕草さえも愛おしくて、この朝がどれほど幸せなものかを思い知らされる。
見上げてくる詩音の瞳を受け止め、俺もそっと微笑み返した。