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#6/0 タイムマシン

さーて始まりました後半戦

果たして瑠美は犯人を捕まえられるのか⁉

1998-05-15-17:32


 空港に到着したのはあれから一時間も経ってからだ。久我先生にお前は遅いから運転するなと言われたので、久我先生に任せたが既に時刻は17時半だ。高跳びの飛行機ならいつ出発していてもおかしくない。

「本当に誠二を捕まえられるんですか?」

 ロビーを見渡すがあいにく旅行客で込み合っており、誠二を見つけるなんて、到底不可能に思えた。

「この様子じゃ、厳しそうだな。だが問題ない」

「何か策が?」

「まあな」

 久我先生は不敵な笑みを見せる。その笑みはこの状況が楽しくて仕方なさそうな笑みだった。こっちは幸子を殺した犯人が逃げ出すかもしれないとい瀬戸際なのに、何を楽しんでいやがる。

「よし、お前は下日誠二を探せ。入国審査を通っていなければ捕まえられるはずだ。リンは大得瑠美の分のアレを買ってこい。土産売り場かどこかにあるはずだ。買った後はリンも下日誠二を探せ。俺は他にやることがある」

「他にやる事って……」

「お前は知る必要は無い。少し汚い手を使うからな」

「必要無いって……」

 ここまで事件を手伝ってきたのに、未だに久我先生に信用されていないらしい。私の質問で事件が解決したようなものなのに……!

「そうだな……下日誠二を見つけられなくても、見つけられても、18時30分になったら屋上に引きずってこい。卯月の情報から逆算するに、18時30分には出発しているだろう」

「18時30分って……」

 ロビーの時計を見ると既に時刻は17時40分を示していた。あと一時間も無い。

「さあ、ぐずぐずしている暇はない。動け」

 そう言うと久我先生はどこかに向かって行ってしまった。

「リン君行くよ」

 リンはいつの間にかドラマや映画に出てくる、絵に書いたような探偵の服装——インバネスコートとディアストーカー帽を身に着けていた。さながら少年探偵といった所か。

「君付けしないでください」

 リンはむっとする。

「じゃあちゃん?」

「ちゃん付けも嫌です」

「じゃあなんて……?」

「先輩と呼んでください。お前のような低知能と違ってぼくは何年も先生と共に事件を解決してきたのです。ほら、急ぎますよ」

「はい……リン先輩」

 私達も誠二を見つけに向かう。

 しかし、リン先輩は『何年も先生と共に事件を解決してきた』と言ったが、それが事実だとすれば事務所の黒板に書いてあった事件解決数0とはどういう意味だろう。まさか書き忘れということも考えにくいし、本当に解決していない訳でも無いだろう。その答えが、あの二人の秘密に直結しているだろう。

 それに、久我さんの言う汚い手も気になる。何か犯罪になりそうな事をしでかしそうだ。あの人の事だから、警察と違って探偵なら多少悪い事をして犯人を捕まえられる……そう考えていても不思議ではない。

 とにかく今は誠二を見つける事が先決だ。他の事はあとで考えればいい。


1998-05-15-18:30


 結局、一時間経っても誠二を見つける事が出来なかった。列に並ぶ人を一人残らず探したし、あらゆる人に聞きこんだし、従業員にも聞いた。だけどそもそも一般の客は知らなかったし、英語を喋れない私は海外の人からの情報を得られなかった。それに従業員に聞いても、警察でも何でもない方には個人情報を伝えられないと言われてしまった。

 悔しいが、警察でも何でもない、探偵ですらない私にはどうにもできない。私にやれることは全てやった。海外に行ってしまったらもう捕まえるのは絶望的だ。海外に行くお金なんてもうない。引きこもっていた三か月で貯金はほとんど使ってしまった。

 重い足取りで屋上に向かう。久我先生が誠二を捕まえている可能性に賭けて。きっとあの人なら捕まえている。今までだってうまくいってきたのだから。

 だが屋上にいたのは久我先生ただ一人。他には誰もいない。私の希望は打ち砕かれた。

「遅かったな」

 久我先生は私の気持ちなんて気にしていないかのように言う。

「誠二は見つかり……ませんでした」

「だろうな」

 だろうなって。本当にこの人は……! 思わず拳を握りこむ。

「見ろ、あの飛行機に下日誠二が乗っている」

 久我先生が目配せした先には、夕焼けの空を飛ぶ飛行機があった。

「あぁ……」

 手を伸ばしても届くはずが無い。もう誠二は空の彼方だ。もう誠二は罪を償うことは無い。折角ここまでやってきたのに。あと一歩で。

「あなたを信じていたんです……! 必ず、幸子を救うって言ってくれたじゃないですか……!」

 涙が零れる。この人になら任せられる、そう思って依頼したのに。

「まだ手はある」

 久我さんの顔には夕焼けの光が差し込んでいた。

「はぁ? 今更、警察にでも通報するつもりですか?」

「いや、時を巻き戻す」

「何を言っているんですか?」

 とうとう頭がおかしくなったか。今まで変人だとは思っていたが、まさかここまでとは。

「まさかあの車が実はタイムマシンで、88マイル出せば過去に行けるとかいうつもりですか」

 私の口からニヒルな笑みが零れる。

「いや」

「では服を脱ぐ必要が?」

「お前の裸に興味はない」

「じゃあ電話ボックスに入るんですか?」

「成程、テレビばっかり見ているとお前のようになるのだな」

 どういう意味だ。

 久我さんはリン先輩を呼ぶ。リン先輩は鞄からキラキラ光るものを手渡した。

「こいつで時を巻き戻し、下日誠二がまだ飛行機に乗っていない時間に行く」

 久我さんの手には大ぶりの懐中時計が握られていた。文字盤はフタで閉じられているが、その中身からは視線を引き寄せられるような何かを感じる。

「そんな事が出来るわけ……」

「出来る。俺は何度もやって来た。飛行機に乗る人間を乗らない事にするなんて造作も無い。さあ、これに触れてみろ」

 懐中時計に触れようとする。だが直前に制止される。

「ああ忘れる所だった。リンアレを」

 そう言うとリン先輩は鞄からサングラスを取り出す。空港で買ったものなのか、フレームに富士山がくっついている。

「何ですかこのだっさいの」

「これをつけろ、つけないと失明するぞ」

 私は慌ててサングラスをかける。いつの間にか久我先生とリン先輩の二人もサングラスをしている。私のものと違ってちゃんとしたものだ。

 久我先生は懐中時計を開いて何やら設定をいじった。やがて、三人が懐中時計を握る。

「さて、今度こそ、時を巻き戻そう」

 懐中時計の天辺についたつまみを押す。

 次の瞬間、辺りをエレベーターに乗った時の様な感覚が包み込む。だんだんと懐中時計からカチカチといった音が速まっていくと同時に、周りの景色が屈曲していく。

「何ですかこれ」

「時計を離すな。離すと戻って来れなくなる」

 私は力強く時計を握る。

 既に時計の周囲は真っ暗だった。私達の他にはもう何も見えないし、何も聞こえない。あれほど騒がしかった飛行機の音も全く聞こえない。周囲が闇に包まれているのとは裏腹に、周囲はまるで真夏の炎天下にいるような感覚を覚えた。暑いという訳ではなく、肌がじりじりと日光に照らされている感覚に似ている。

 やがてカチカチという音がゆっくりとなり、周りの景色が戻って来る。

「もうサングラスをとってもいいぞ」

 私はサングラスを外す。空を見ると、先ほどまで空は夕焼けだったのに対し、空にはまだ日が昇っていた。

 携帯の時計を見る。時刻は1998-05-15-16:30を示していた。続けて腕時計を見る。同じく針は1998-05-15-16:30を指し示していた。

「さてもうすぐ誠二が空港に到着するぞ」

「まっまさか、本当に時を戻したんですか⁉」

「信じたくなければ信じなければいい。だが今起こっていることは現実だ。

 今起きている事を信じざるを得ない。どこの時計を見ても時刻は16時を示しているし、空は青い。目に映る全ての情報がこの時間が16:30であると示している。

「何度もこういう事をしてきたんですか」

「ああ。何度もな」

 その何度もという言葉が何重にも重なっているように感じる。

「この時間はまだ下日誠二は飛行機に乗っていない。ここで下日誠二が飛行機に乗ることを阻止できれば、犯人から直接動機を聞くことが出来る」

私達は空港の入り口まで向かった。てっきり、この時間から誠二を探すのかと思ったが、違うようだ。久我先生は「あと5分待て」と言う。

言われた通り待っていると、やがて先生が予告した通り、ちょうど5分経って入り口から何も知らない下日誠二が入って来た。

「お前っ、あの時の探偵!」

「下日誠二、飛行機はキャンセルしておいたよ」

「何を——」

 次の瞬間、久我先生は誠二の腹に拳を叩きこんだ。誠二は人形のように力を失い、久我先生に凭れ掛った。

「よし、行くぞ」

「えっ⁉ えっ⁉」

目の前でさらりと行われた暴力行為に私はただ唖然としていた。私だけではなく、周りの旅行客も目撃していたようで、皆唖然としていた。

久我先生は誠二を軽々と担ぐと、そのまま屋上まで運んでいった。屋上に到着すると、誠二を縛り上げ、人目につかないところに隠した。

あれほど苦労しても取り逃がした誠二をこうもあっさり捕まえてしまうとは、やはりタイムマシンの力は本物だ。

「これでこの時間でやる事は全て完了した」

「どうして誠二の場所が分かったんですか?」

「防犯カメラを見してもらった」

「そんなこと出来たんですか⁉」

 私が空港の職員に協力してもらおうとしても、断られたのに。

「こいつを使えばな」

 そう言うと、久我先生は警察手帳を取り出した。警部補。久我結士郎とある。

「警察だったんですか⁉」

「昔、ちょっとな……」

 久我先生は意味ありげな表所を見せる。

「今はもう、そんな事はどうでもいい……」

 久我先生は再び懐中時計を取り出し、つまみを押す。

 次の瞬間、再び先ほどの感覚が戻ってくる——。


1998-05-15-18:35


 気が付くと空は夕焼けだった。時を巻き戻す前と何一つ変わらない風景。ただ一つだけ違う点があった。それは目の前に縛られた誠二がいる事だ。誠二はまだ眠っている。

「おい、起きろ」

 パチンと心地よい音が鳴り響く。久我先生に平手打ちにされた誠二は飛び起きる。

「なっなんなんだお前! いきなり人を殴って! 警察に突き出してやる!」

 目を覚ました誠二は久我先生に吠える。まるで打ち捨てられた犬かと思うほどに情けない声に、こんな情けない男が幸子を殺したのかという怒りを感じる反面、悲しみすら感じる。

「それは此方の台詞と言いたいところだが、お前を警察に連れて行くという事はしない。お前が馬締幸子の殺害動機を正直に話すのならば」

「何を……俺は幸子を殺してなんか……いや俺は……」

 誠二は動機を話すのを躊躇していたが、縛られた状況で、更に大の大人を一撃で二時間も気絶させられる人物がいるとなり、諦めて動機を話し始めた。それはあまりに身勝手で許しがたい動機だった。

「そうだ。俺が幸子を殺した。なぜ殺したからって? それは瑠美。お前が欲しかったからだ」

「何を言って……?」

 心臓の鼓動が速まっていくのが感じる。理解できない。なぜ私が欲しいから幸子を殺したのだろう。誠二を殴りつけたい気持ちを抑え、話の続きを聞く。

「お前と別れた後、俺はなぜ振られたのか考えた。俺のどこがいけなかったのか、どこが気に食わなかったのか、どうすればよかったのか。またあの関係に戻る為に俺は考えた。考えに考え抜いた。そうして出た結論、それが『幸子が存在しているから俺が瑠美の特別な存在になれない』だった。つまり、幸子がいなくなれば……幸子を殺せば瑠美は俺を好いてくれるということだ。なあ瑠美、お前学生のときから幸子にべったりだったよな。休み時間も一緒にいて、帰り道も一緒、おまけに同じ家に寝泊まりしているときた。俺は羨ましかった。どうすれば瑠美の横にいるのが幸子ではなく俺になるのかって」

 誠二は大あくびをかく。

「どうすれば瑠美にバレずに幸子を殺せるか、ずっと考えていた。なんせお前らは同じ職場、同じ帰り道、同じ家ときた。一向に一人になろうとしない。瑠美に幸子を殺した事が分かれば全てオジャンだ。だからずっと一人になる時を探っていた。そしてついにその時がきた。瑠美の母親が危篤で病院に行くと。この時ばかりは神に感謝したね、ようやく瑠美と一緒になれると。飲み会が終わった後、金和を家まで送るという拙いアリバイをつくり——なんせ急だったからね。俺の人を殺すことしか思いつけない、ちっぽけな脳みそではこういう事しか思いつかなかった。だがそんなアリバイでも、運が良かったのか、俺よりもちっぽけな脳みそを持つ警察に捕まらずに今日までいれた。お前には隠せなかったがな。そうして金和を公園に捨てて、お前の家に行った。幸子は俺の事を快く家に入れたよ。瑠美の事を話たいと言ったらすぐにね。そうしてお前の家に入り、お前のプレゼントであるベルトで幸子を絞めた。最期の言葉は『瑠美』だったよ。こいつは最期まで瑠美を思っていたんだな。その関係を引き裂いた自分が誇らしかった。こうして瑠美は俺のものになると。幸子を殺す時よりも、その後が大変だった。葬式でも嘘の涙を絞り出すのに苦労したし、口先だけの幸子の死を悲しむ言葉を言う時は吐き気もした。そしてなにより、これで瑠美が俺のものになるという快感に笑顔が溢れそうだった。だけど、そうまでしても、当然といえば当然、お前は俺に興味など持たなかった」

 誠二は舌をちろりと出す。舌に穿たれたピアスが不気味に光り輝いていた。

「お前は」

 私は誠二の胸倉を掴む。誠二は抵抗をしなかった。

「お前は……」

 そこから先は何も言えなかった。言葉が続かない。言葉の代わりに涙が溢れる。泣き崩れた私はそれ以上何も、喋れなかった。

タイムマシンを使うシーンは元ネタあるんだけど、分かる人いる? いたら君とは仲良くなれる気がする

そういえば途中で映画ネタいれたけど、そっちの元ネタは分かった?

やっぱ映画っていいよね⁉

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