第三十五話 辛いときは…
エミはタツヒコのことが好きだ。
LIKEではなくLOVEだ。
その気持ちがタツヒコにバレてしまった。
そしてタツヒコはその気持ちに答えなかった。
「嘘……なんでいるの」
エミは明らかに動揺している。
「ここが私の住まいだからだ」
「そんなの知ってるわよ………それよりお断りって……」
エミの目には涙が浮かんでいた。
「そのまんまの意味だ。私はお前と夫婦…そもそも恋仲になることもお断りだ」
「……前から私が好意を寄せていることは気付いていたよね」
エミは立ち上がりタツヒコの目の前に移動し言った。
「あぁ」
タツヒコが答えた。
実はエミは何年も前からタツヒコに対して好意をアピールしていた。
ただ、自分から告白する勇気は持っていなかった。
だからずっと待っていたのだ。タツヒコから告白してくることを。
「じゃあなんでずっと一緒にいてくれたの!」
「……悪いか?」
「最低っ!!」
エミはそう言い残し階段を降りそのまま病院を出ていった。
……この状況をつくったのって俺だよな。
俺があんな話をしたから………エミには悪いことをしたな。
俺が罪悪感を感じている中タツヒコが俺に向かってこう言った。
「追いかけてやってくれ」
「え?」
「エミのことを堕とすなら傷心している今がチャンスだ。慰めてやってくれ」
何言ってんだこいつ?
「…俺別にエミのこと好きじゃないんですけど」
「あんなに可愛いのにか?」
「確かに可愛いけど…というよりそんなこと言うんだったらなんでエミを振った
「だったら俺が行っていいか?」
俺が発言を1人の男が遮った。
リハビリを終えた貞郎だ。
「え、貞郎。お前、エミのこと好きだったの?」
「ゾッコンだ」
貞郎は目を逸らさずに言った。
「でもお前お姉さん系がタイプじゃなかったっけ?」
実際、貞郎は人形屋の受付嬢の中で色気たっぷりなお姉さんがタイプだと言っていた。
「そういう人がタイプってだけだ」
「ふーん」
でもなんでエミのことを好きになったんだろう、貞郎は。
よし、聞いてみるか。
しかし、その前にタツヒコが貞郎に対してこう言った。
「だったら今すぐエミのことを追いかけてやってくれ。病院の裏側に行くとうっすら一本木が見えるはずだ。多分、そこにエミはいる」
「わかった。じゃあ、行ってくる」
貞郎はまだ完治していない右腕を垂らしながらエミのことを追いかけに行った。
「あれ、腕がまだ完治してないけど大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、もう千切れることはない。負荷がかかったらもう少し入院してもらうことになるが」
「マジっすか…」
そうなったらシンジュクの滞在期間が延びるな。
それは嫌だな。
正直もうボロい宿で寝泊まりしたくない。
変な虫出るし。
「…エミのこと嫌いなのか?」
「………そんなわけないだろ」
「じゃあ、なんでエミを振ったんだ?」
「………人の金を盗むような奴だからな」
「でもそれは先生のためでもあり、十文字組とかいう奴らから解放されるためなんだろ」
「あぁ…だからエミに辞めろとも言えない。困ったもんだ」
タツヒコはポケットからタバコを取り出し吸い始めた。
この世界タバコあるんだ…
「それで…なんでエミと俺たちをくっつけようとしてるんだ?」
「エミには私以外に心の支えとなる人物が必要なんだ」
「先生だけで十分だろ」
「残念だがそれではダメなんだ」
「なんで?」
「……私は今持っている金がなくなったら、十文字組の組長を道連れにして死ぬつもりだ」
「え?」
「そうなったらエミは立ち直ることができないだろう。だから必要なんだ」
タツヒコ…それはおかしいんじゃないか?
うん。絶対におかしい!
「先生…ふざけたこと言うなよ」
「ふざけてなどいない。十文字組を相手にするのは無理だが組長1人だけなら問題ない」
「そういうこと言ってるんじゃねぇよ!そんなことしてエミが救われると思っているなら
「うるせぇ!」
部屋中にタツヒコの声が響いた。
「部外者がいちいち首を突っ込んでくるな」
そう言いタツヒコは自室前に移動しドアノブに手をかけた。
「このことはエミには言うなよ」
「…言うに決まっているだろ。そんで先生の計画を
「貞郎くんの腕を治してやったのは誰だ?」
俺は何も言い返せなかった。
「すまんな」
タツヒコはそう言い、自室へ入っていった。
「クソッ!」
俺は壁に拳を打ちつけた。
ーーー貞郎視点ーーー
最初はただの治癒能力を持った女の子として見ていた。
彼女は毎日朝と夜に2回、笑顔で俺を治癒してくれた。
もちろん俺以外の患者全員にだ。
たとえそれが営業スマイルだったとしても俺はその笑顔に強く惹かれた。
そして日が経つにつれ俺はエミのことが好きになっていった。
リハビリ中、永輔とエミの話し声がうっすら聞こえてきた。
彼女が現在置かれている状況を聞き十文字組に対して憤りを感じた。
彼女に好きな人いることを聞き落胆した。
彼女が振られて悲しんでいるにも関わらず俺にもまだチャンスがあると少し喜んだ。
正直言って自分でも最悪なやつだと思っている…
病院の裏から見えていた一本木に着いた。
一本木は丘の上にあった。
そこにはタツヒコが言っていた通りエミがいた。
エミは木に寄りかかって座っており、夕日を見ていた。
「綺麗な夕日だな」
俺はエミのそばにいき言った。
エミが俺に気付き俺の方を見る。
目は少し赤くなっていた。
「……何しにきたの?」
「慰めに」
「何?もしかして聞いてたの?最悪…」
エミは抱えてた膝に顔をうずめた。
「…悪かったな」
「………なんであんたが来たの」
「好きだからだ」
エミは顔を上げ俺の方を再び見た。
表情は無表情だ。
「だろうね」
「え?もしかして前から気づいてた?」
急に恥ずかしくなってきて体温が急激に上がっていくのを感じた。
「ううん。ただ、関係ないあんたが慰めに来るってことはそういうことでしょ」
「お、おう」
それだけ好きだと断定できるか?
実際、事実だからどうでもいいけど。
「…ごめん。私はタツヒコが好き。振られたけどこの気持ちは変わらないわ」
「……そうか」
振られるのはわかってはいたがこう面と向かって言われるとショックだ。
「それで……どういう風に慰めてくれるの?」
エミの口角が少し上がった。
「どういう風にって……」
俺は甲子園のスーパースターだ。
当然、生前はすごいモテた。
しかし思い返してみれば、女の子を慰めたことなんて一度もなかった。
「くす…かっこわる。いいよ、そばに誰かいるだけでなんか楽になるよ」
「それはよかった」
俺はエミの隣に座った。
エミから微かにいい匂いがした。
「辛いことがあったら毎回ここに来るの」
「……」
「初めて患者さんが亡くなったときにタツヒコが教えてくれたんだ」
〜回想〜
「いいか、エミ。辛いことがあっても立ち止まってはいけない。立ち止まることは自分の中の時計が止まることと一緒だ」
「時計が止まる?」
「あぁ。時計が止まると困るだろ。未来が来ないんだ。そんなことはあってはいけない。だからこういうときは時の進みを実際に見るんだ。私は夕日を見ることで時の進みを実感する。段々と沈んでいきあたりが暗くなっていく過程をな。……どうだ綺麗だろ?」
タツヒコは笑顔で言った。
「そうだね」
〜〜〜
「そうか…いい場所だな」
「うん…」
標高が少し高いところだからだろうか、そよ風が気持ちいい。
「気になったことがあるんだが、タツヒコとはどれくらい一緒にいるんだ?」
「え〜と…私が死んでからだから10年くらい一緒にいるかな」
「この世界にきてすぐにタツヒコと出会ったのか?」
「うん。私がここで初めて会った人。懐かしいな…そのときのタツヒコったら変なことばかり聞いてきて。それから一緒に病院で…………
その後、エミは自身の昔話を話してくれた。
タツヒコと一緒に過ごした日々のこと。
今まであってきた患者のこと。
十文字組の組長に目をつけられたこと。
その他いろいろ……
好きな子の話だ。
俺はずっと真剣に聞いていた。
そして一通り話を終えエミは立ち上がった。
「ありがとね。自分語りみたいなのを聞いてくれて」
「面白かったぜ」
「そう……帰ろっか」
「あぁ」
帰ることになったので俺も立ち上がった。
ただ一つ心残りがあった。
帰り道、エミの表情は終始、少し曇って見えたのだった。




