第三十四話 シンジュクの闇
白火と咲夜が帰ってから早二週間がたった。
貞郎の腕の治療は快調に進んでいる。
朝と夜にそれぞれ1回ずつエミの治癒能力で治療している。
理由は聞いていないがこのインターバルが重要らしい。
一方、俺はというと白火から金貨3枚だけもらい、一泊の料金が銀貨1枚のボロい宿で寝泊まりをしていた。
日中は貞郎の様子を見に行きそこで入院している患者たちと雑談したり、シンジュクをぶらぶらしたりしていた。
もちろんトレーニングもしている。
人気のないところで素振りと筋トレをしているだけだが。
ちなみに俺の能力の二次成長である棒に炎を纏わせることは初めてできた以降、難なくできた。
次は三次成長だ!…といきたいところだがそんなのはない。(注:白火は三次成長のことをまだ永輔に教えていない)
とりあえず今はコツコツと努力するだけだ。
一度だけお金を稼ぎに週に一度開催されているコロシアムの参加も考えた。
しかし、西園寺と対峙することになったら死ぬ恐れがあるので参加を諦めた。
そして今現在は貞郎のリハビリをエミと2人で見ている。
リハビリはちょうど3日前から始めている。
ちなみにリハビリは黒崎病院の2階ですることができる。
黒崎病院の2階にはタツヒコの部屋とエミの部屋そして、リハビリルームの3部屋があるのだ。
リハビリのメニューは2つ。
一つ目はダンベルを3回持ちあげる。
3回持ちあげるごとに重さを段々と重くしていくのだ。
二つ目は皿にのっている豆を箸でつかみ別の皿に移す作業だ。
いわゆる『豆つかみゲーム』だ。
エミは現在、貞郎のリハビリの進捗具合を紙に記録している。
生意気そうなロリッ子が真面目に仕事をしているとギャップを感じるな。
ちなみにエミは白火にも引けを取らない可愛らしい容姿をしている。
アホ毛が目立つ朱色のショートカットでジト目。
ブカブカのパーカーを着ており露出している太ももからは少しエロスを感じる。
「何ジロジロ見てんの?気持ち悪いんだけど」
エミが嫌な顔をしている。
しまった。
いやらしい視線に気づいたか。
急いでジロジロ見ていた理由を言わなきゃ。
「いや、ただ単に毎回そんな風に記録しているのかなって思って」
よし、いい感じの言い訳だ。
「…毎回はやってないわ。タツヒコに用事があって頼まれたときだけ」
「ふ〜ん」
タツヒコは現在出掛けている。
つまり、普段タツヒコがしていることをタツヒコが不在のときに、エミが代わりにやっているというわけか。
思い返すと俺が病院を訪れた際、タツヒコが不在なのは今日が初めてだな。
「じゃあ、お前は患者を治癒し終わったら基本暇なんだな」
「確かに暇だけど…何…もしかして私を遊びにでも誘おうとしているわけ?悪いけどお断りよ」
エミがそっぽを向いた。
なんでそういう風になるの?
自意識過剰なんじゃないのこの子?
それになんか俺振られたみたいになってるし。
エミに対して少しイラッとしたとき、俺はふとあることを思い出した。
「そういえばお前。なんでスリなんかしてるんだ?」
「それを盾にして私と遊びに行けるとでも思ってるの?」
そういうつもりで聞いたわけではないのですが…
「はぁ…そもそも俺はお前と遊びたいだなんて思ってねえよ。単純に知りたいんだよ。好きでそんなことしているわけじゃねぇんだろ」
「…なんで、好きでやってるわけじゃないって知っているわけ?」
「お前が俺の財布を盗んだ店のお姉さんから聞いた」
「そういうことね。…いいわ、あんたの財布には結構お金が入っていたから特別に教えてあげるわ」
「ど、どうも」
エミはバインダーを床に置き体育座りをした。
いまさらだけど俺から盗んだ金を返す気はないのね。
「別に好きでやってるわけじゃないと言っても盗みを正当化する理由はないけどね。ただ私にお金が必要なだけ」
「何か欲しいものでもあるのか?」
「そういうのではないよ。……『十文字組』って知ってる?」
十文字組……どこかで聞いたことがあるぞ。
そうだ!
確か白火がこの前………
〜〜〜貞郎の手術が終え宿に帰り、白火に事情を説明した後の回想〜〜〜
「ところで白火は今日、何してたんだ?」
貞郎と同様に白火も「行きたいところがある」と言って別行動をしていた。
「私?私はね〜、十文字組の根城に潜入してたよ」
潜入か。
まぁ白火なら能力を使えばお手にものだろう。
だが気になるのは
「十文字組?なんだそれ?」
「う〜ん…一応シンジュクで一番強い組織かな」
「確か危ない人たちの集まりだと聞いていますが…」
咲夜が話に入る。
「危ない人たちって?」
「ヤ◯ザだよ」
白火がおっかない言葉を発した。
え、何それ。怖いんだけど。
まさか今後戦うとか言わないよな。
「なんでそんな危険な場所に潜入したのですか?」
「最近、勢力を上げてるらしくて…一応ね」
「今後戦うとか言うんじゃねぇだろうな」
「十文字組が玉を入手したらあり得るね」
つまり、今現在ではないということね。
「それでなんか潜入した甲斐はあったのか?」
「特になかったかな。でも、お金がいっぱいあった」
違法なお薬とかの売買で稼いだのかな?
「ずっと潜入していたのですか?」
「いや。そのあとはスイーツ巡りしてた。またシンジュクに来たら咲夜も一緒に行こ」
「それは楽しみですね」
〜〜〜回想終わり〜〜〜
「あぁ、知ってるぞ。ヤ◯ザだろ」
「ヤ◯ザって…間違いではないけど…」
「そんで、結局なんで金が必要なんだ」
エミはため息をついて、こう述べた。
「…十文字組の組長が私と婚約したいのよ」
婚約?
金が必要という理由に結びつかないんだが…
もしかして結婚資金のために金が必要とか言うんじゃねぇだろうな。
いや、それはありえないか。
十文字組の資産はとんでもないって白火が言っていたし。
「なんでそいつと婚約するのに金が必要なんだ?」
「私自身の身を守るためよ」
「どういうことだ?」
「私は婚約なんてしたくないのよ。だから定期的に十文字組にお金を払って婚約を免れているってわけ」
「へ〜…すまん。意味がわからないんだけど」
「だろうね」
「だろうねって……まずお前と組長は婚約以前に付き合ってすらいねぇのか?」
するとエミの表情が少し怖くなり
「誰があんな奴と」
と吐き捨てた。
「そうか…それでなんで金なんかいちいち払うんだ。無視すりゃいいだろ」
「人質を取られているのよ」
「誰が?」
「知らない人」
「…………一から全部説明してくれませんか?」
「はぁ…めんどくさいわねぇ」
そんな嫌そうな顔しないでくれよ。
すげぇ気になるんだけど。
「まず、十文字組はシンジュクをいくつかの区画に分けているの。どういう風に分けているのかはわからないけど組長が婚約したい子の数だけ区画があるわ」
「ん?ていうことは婚約者はお前だけじゃねぇのかよ」
「もぉ、そんなこと聞いてたらわかるでしょ。一通り説明してから質問して」
「…うす」
エミの説明は続く。
「その婚約者たちは望んでもいない婚約を月初めにお金を払って回避してるの。それで仮にお金が払えなかったら組長の婚約者になる。それも断ったらその子がいる区画の誰かが殺されるの。ちなみに過去にシンジュクからどこかへ逃げた子もいるけどそのときはその区画の住民全員が殺されたわ。…要するに私は婚約はしたくないけど見ず知らずの人が私のせいで死んじゃうのはもっと嫌だからお金が必要なの。でもこの病院ではお金を取っていない。だから盗みをしてそれで得た金をコロシアムで増やしているの。はい、質問は?」
説明を終え、エミが俺に向けて手のひらを上に向け差し出した。
俺は言われた通り気になる点を一つ一つ質問していった。
Q.シンジュクの住民全員で十文字組を倒そうとかなかったのか?
A.何年か前にそういう計画はあったけど大勢の死者が予想されたからなくなっちゃった。
Q.エミは何年間十文字組に金を払っているんだ?
A.少なくとも5年は払っているわね。
Q.つまり、5年間は盗っ人をしているのか?
A.盗みは2年前くらいから。そもそも私はいまだにお金を払っていないし。
Q.払っていないってじゃあ誰が払っているんだよ。
A.…タツヒコ。
Q.あの人聖人すぎるだろ。ていうか、それだったら盗みなんてするなよ。
A.もうそろそろお金が尽きてもおかしくないわ。
Q.真っ当に働いてお金を稼ぐ気はないのか?
A.仕事で収入を得たら収入の3割を十文字組に納めなきゃいけないの。そんなことしていたらいつまでたってもお金がたまらないわ。
Q.別に月初めに用意できたらいいんだろ。貯める必要ないんじゃないか?
A.言い忘れていたけど金貨1万枚を一括で払ったら婚約から解放されるのよ。だから貯める必要があるの。
Q.少し話が戻るけど仕事で収入を得たら収入の3割を十文字組に納めるってもうみんなシンジュクから立ち去れよって俺は思うんだが?
A.シンジュクで得るお金ってほとんどが商売での収入なの。そしてシンジュクには商売が好きな人たちが集まっている。商売する人にとっては人がたくさん集まるシンジュクは商売にもってこいの街なの。だからみんな立ち去らない。
Q.ところでなんで先生はお金を払えるんだ。治療費取ってないんだろ。どこからそんな金が…
A.この世界に来た際一緒にテレビがついてきたんだって。それでそれをある施設に売って大金をゲットしたみたい。
Q.もしかしてそのテレビって『TIME TRAVELER』にあったやつか?
A.当たり。
Q.いったいどういう状況で死んだんだ、先生は。
A.テレビを家電屋で購入して配送料がもったいないからって持ち歩いて帰宅しているところを車に轢かれたんだって。
「それは災難だったな」
おそらくタツヒコは生前でも聖人であっただろう。
神様はなぜそんな人を不幸な目に遭わせるのだろう。
「質問は終わりでいい?」
「あぁ、よくわかったよお前が置かれている状況。……いや最後にもう一つ。お前と先生ってどういう関係なんだ。話を聞いている限り5年以上は一緒にいるみたいだが……もしかして夫婦だったりするのか?」
俺はニヤニヤしながら聞いた。
するとエミは顔を赤らめ
「ち、違うよ!…ただの仕事仲間だよ……」
おっと、この反応は…
「え?何?好きなの先生のこと」
「なんであんたにそんなこと言わなきゃいけないの!」
それはもう好きだと言っているもんだと思うが。
でも面白いからもう少し突っ込んでみよ。
「何年前くらいから好きになったんだ?」
「だから!なんで好きってことになっているのよ!」
「違うの?」
「違っ……くわないけど………」
エミの顔が熱があるんじゃないかと思うくらい赤くなっている。
非常に可愛い。
「あーそうよ!大好きよ!」
とうとうエミが開き直った。
「お〜。そんでゆくゆくは夫婦に〜?」
「…なりたい……くぅ〜…なんであんたの前でこんなこと」
「悪いがお断りだ」
いきなり第三者の声が聞こえた。
リハビリを終えた貞郎か?
いや違う。
俺とエミは声がする方へと振り向いた。
そこにはタツヒコがいた。




