第二十九話 二度目のシンジュク
「そういえば永輔。咲夜から聞いたんだけど鉄を斬ったんだって?」
俺の前の座席に座っている白火が椅子から顔を出し聞いてきた。
現在の時間帯は夜。
五郎と健と別れた俺たちはバスに乗っている。
俺たち以外に乗客は3人しかいない。
俺の前の席には白火と咲夜が、俺の隣には貞郎が座っている。
貞郎は俺の太ももを枕がわりにして寝ているが……
咲夜も寝ていたが彼女は隣にいる白火に迷惑をかけず、窓に寄りかかりながら寝ている。
貞郎さんもそのようにして寝て欲しい。
バスに乗るのは死んで以降、三度目だ。
一度目はミシタツに向かったとき。
二度目はミシタツで出会った美少女、俺の師匠である白火の家に向かったとき。
そして三度目の今回は東京の中心地、シンジュクに向かっている。
アント村から二日ほどかけて南西に歩いたところに『ハカータ』という街がある。
そのハカータにはシンジュク行きのバスが出ている。
要するに、俺たちは今現在そのバスに乗っているというわけだ。
バスは初めて乗ったものと変わらず、2匹の足長犬が引いている。
違う点があるとしたら2匹は防寒着を着ている。
フード付きのドッグウェアを着ており、露出している長い足にはモコモコのソックスが履かれていた。
足長犬は寒さに弱いからね。
2匹の足長犬を見た白火は少し泣いていた。
いい加減ナナとジローの別れから立ち直って欲しいものだ。
……というよりナナとジローにも防寒着を着せてやったら別れる必要がなく一緒にマウジに行けたのではないか?
まぁ防寒着があったとしても長い間寒いところにいるのは辛いか。
それより話を戻そう。
俺は最強企業『オルスト』との戦いで咲夜と一緒にNo.4の柳悠太の相手をした。
おそらく柳が出した鉄を斬ったときの話だろう。
「う〜ん…斬ったというより溶かしただな」
「溶かした?」
「そう。生成した棒に炎を纏いさせて……っていうより白火!これ、俺の二次成長!」
白火は以前、二次成長は一次成長の上位互換つまり関連性があり今回の俺のような成長はあり得ない、というより見たことがないと言っていた。
でも俺は
「白火は見たことないって言っていたが俺、できちゃいました!」
白火に向かってドヤ顔をした。
それに対して白火は
「…………」
無視である。ましてや俺の方を見てすらいない。
「あの〜……弟子の成長にお褒めの言葉があっても……」
「……あぁ…おめでとう」
なんだか声のトーンが低く、椅子の横からは先ほどの可愛いフェイスではなく手を出して答えた。
全く、弟子の成長が嬉しくないのかねぇ、このお師匠さんは。
その後、白火は黙り込み何か考え事をしていそうだったので俺は寝た。
ーーー
ハカータを出て5日目の夕方。
目的地のシンジュクに到着した。
移動中、寝るときはバスの座席で寝ていたため身体中が痛かった。
いま思い出すとマウジに行く時に利用した人形4体が引く車は布団付きで快適だったな……
その日の晩は泊まった宿で泥のように寝た。
ーーー
午前10時…
宿のチェックアウトをし、外に出た。
シンジュクは初めて訪れたときと変わらず大勢の人で賑わっていた。
「ここからは何に乗って帰るんだ?」
俺は白火に聞いた。
「一応車を借りようと思っているけど……よくよく考えたら私の家に4人も住めないんだよね」
白火の言う通りあの家というより山小屋に4人住むのは正直きつい。
現に俺はリビングの一角で寝ているし……
すると俺の隣にいる貞郎が
「一度家に帰るだけですぐ玉集めの旅に出るんだろ?少しの間だったら俺は野宿でも構わないぜ」
と言い出した。
俺は少しの間でも野宿は嫌だ!
ほれ、見てみろ。さっきから咲夜が、ありえない!って表情で首を横に振っているぞ。
まぁ、野宿するのは咲夜ではなくて俺と貞郎になると思うけど。
「…?別にすぐに旅には出ないよ」
「マジ!?…………じゃあ住まいは必要だな」
どうやら野宿する恐れはないようだ。
「だから帰る前に増築してもらうために人形屋にいこう!」
白火は腕を上げて歩き出した。
俺たちはとりあえずついていけばいいのだな。
それにしても人形屋か……どんなところか少しワクワクするな。
ーーー
この世界の建物はほぼ全て人形が建てている。
おそらくこの立派な店を建てたのも人形なんだろう。
人形屋はイメージとして市役所くらい大きな建物だった。
ん〜、こんなの建てるなんて相変わらずすんごい人形。
俺たちは店の中に入った。
そこには受付が少なくとも30ヶ所以上あった。
しかも受付嬢はみんな美人だ。
「じゃあ私申請してくるから。確か2階にカフェがあったはずだからそこで待っといて」
白火が空いている受付に向かった。
「なぁ永輔はあの中だったらどの娘がタイプよぉ?ちなみに俺は右から4番目の色気たっぷりなお姉さんかな」
貞郎が俺の肩に腕を回して聞いてきた。
おそらく受付嬢のことだろう。
このような会話はなんだか懐かしさを感じる。
学生時代、男友達とクラスの女の子に対しても同じようなことをしたな〜。
「え〜そうだな〜………あの右から………」
横からすごい視線を感じる。
咲夜がすました顔でじーっと俺たちを見ていた。
「…誰なんですか?」
あれ?咲夜さんも興味あるの?
もしかして咲夜さんは女の子が好きなタイプの人!?
なるほど。
これで、白火ともやたら仲がいいのも納得だ。
百合はいいぞ!
「右から…というより中央付近にいるショートカットの明るそうな子かな」
「へ〜…かわいい系が好きなんだな」
「まあな……咲夜はどの娘がタイプなんだ?」
俺は咲夜に聞いた。
咲夜は自分の長く伸びている髪を手に取り眺めていた。
「……え?あぁ私ですか……ってタイプな子なんていません!ほら、さっさとカフェの方に行きましょう」
咲夜は階段に向かっていった。
どうやら別にレズビアンってことではないようだ。
2階には白火の言う通りカフェがあった。
ちなみにカフェといってもこの世界にはコーヒーがない。
そもそもコーヒー豆が存在しないのだ。
俺の知る限りの話ではあるが……
この店のメニューは『ドールドリンク』という飲み物しかなかった。
まぁこの世界には空腹はないからメニューが一つだけでもしょうがないか。
俺たち3人はその飲み物を頼みテーブルについた。
ドールドリンクの味はミルクティーに似た味がした。
いったいどうやってつくっているのだろう。
「これ、すごく美味しいですね」
よほど美味しかったのか咲夜は思わず口に出した。
「『あの手綱匠も絶賛!!』らしいからな」
貞郎の言う通り、カフェの前にある立て看板にそう書いてあった。
手綱匠が絶賛したから何なんだとは思うが…
「そういえばこの建物の最上階とかに手綱匠がいるのかな?」
俺は2人に聞いた。
手綱匠、人形の生産者だ。
「さぁどうなんでしょう?人形屋は4つの大陸全てにあると聞きますしここにはいないかもしれませんね」
つまり手綱はこの世界全土から収入があるのか………
この世界で一番の大富豪。
さぞ第二の人生を満喫しているのだろう。
「それにしても、いったいどんな死に方したら人形を生成する能力になるんだよ」
「人形に呪い殺されでもしたんだろ。てか、それを言うなら白火にだって言えることだぜ。マジで気になるわー……実は咲夜とかは聞いてたりして。仲良いし」
貞郎はそう言い咲夜の方を見た。
「私も知りませんし仮に聞いていたとしても教えるつもりはありません。…おそらく辛い死に方をしたのでしょう」
「……それもそうだな」
貞郎の表情が少し曇った。
貞郎の死因は当時ニュースで飛び交っていたが胸糞悪い死に方だ。
おそらく当時のことでも思い出したのだろう。
その後は話を切り替え、たわいのない話をした。
30分くらい経って白火が俺たちのところに来た。
白火の右手には『ドールドリンク』が持たれていた。
そして、白火は俺たちに今後の予定を説明した。
要約すると明日の朝、人形が引く車に乗って帰るとのことだ。
そのままその人形が家の増築をするらしい。
何度も言おう。ハイスペックすぎないか?
「とりあえず今日はもう自由時間にしよっか。せっかくのシンジュクだし」
それを聞いて貞郎はすぐに人形屋を出た。
そんなに行きたいところがあったのかな?
「私もちょっと1人で行きたいところがあるから行ってくるね」
貞郎に続いて白火もいなくなった。
残ったのは俺と咲夜の2人。
「……咲夜はどうするんだ?」
「私は……特に行くところはないですね」
「じゃあ……一緒に街でもまわる?」
「……別に構いませんけど」
咲夜はそっぽを向いて髪をいじっていた。
こうして咲夜とのデートが決まった。




