第四十四話 さらばシンジュク
黒崎病院に到着した。
「お邪魔しまーすってっええっ!?」
中に入るとある人物が真っ先に視界に映り俺は驚いた。
「エ、エミじゃねぇか!?」
エミは1人の患者を治癒していた。
「あっ……」
エミは俺が来たことに気付き、こっちに向かって歩いてきた。
エミはいつものブカブカのパーカーを着ていた。
ん?よく見ると首に何かかかっているかな?
まぁ、別に気にすることではないが。
するとエミは俺の前に立ちこう言った。
「その……あんたにも迷惑かけたね。ごめんなさい。そして、ありがとう」
エミは俺に頭を下げた。
「い、いやそれは別にいいんだけど…お前、もう大丈夫なのか?」
エミはタツヒコを亡くしたショックでずっと自室にこもっていた。
とても1日で立ち直れる様子ではなかったが…
「う〜ん…まだ大丈夫ではないかな。でも今は私のために怪我をした人の治療もあるし、それに………」
エミは少し黙り込み、
「タツヒコの願いも叶えなきゃいけないからね」
エミは微笑みながら言った。
「確かにそれは叶えてやらなきゃいけないな。…ちなみに願いって?」
「それは言えないかな」
「ふ〜ん。まぁ別にいいけど」
今はエミが前に進んでくれたことだけで十分だ。
すると、2階から貞郎が降りてきた。
左手にはバケツが持たれており、バケツには雑巾がかかっている。
掃除でもしてたんだろうか。
「おっ永輔。もう来たのか」
「あぁ。昼には出発したいからな」
俺は宿代がもう無いため今日シンジュクを去ることにした。
それに白火と咲夜が俺の帰りを待っているからな!
たぶん………
「ねぇ。もう知っていると思うけど…ほんとに貞郎はここに残るの?」
エミが俺に聞いてきた。
エミの言う通り貞郎はシンジュクに残るというよりこの病院でエミの手助けをするとのことだ。
〜昨日の出来事〜
「お願いがあるんだが、俺はここでエミの力になってやりたい」
貞郎は真剣な眼差しで言った。
「……それってエミのことが好きだからか?」
「そうだ」
「でも、振られたんだろお前。それってストーカーとかと同じ類いになると思うんだが」
「ふっ、確かにな。だからエミが拒絶したらこのことは諦める」
「はあ。でもエミにはいつそのことを言うんだ?正直、エミはまだ部屋から出てこないだろ」
「俺はいくらでも待つよ。それにあまりにも出てこなかったら俺が無理矢理外にだす」
「そうか…まぁ、とりあえず俺はお前がエミと話をするまでまだシンジュクにいなければならないんだな」
宿代もないし明日から日雇いバイトとか探してみるか。
あったらいいけど……
なかったら野宿だな。
「それだと悪いし、永輔は白火たちのところに先に帰っていいよ」
「いや、そうしたらエミに拒絶されたとき困るだろ。貞郎は白火の家がある場所知らないんだし」
「あぁ。だからそうなったら俺は別行動で玉を集める。そして、エミに拒絶されなかったら俺はシンジュクに残る。白火には悪いがそう伝えといてくれ」
「あいつ絶対文句言いそうなんだけど」
白火は俺が五郎たちに勧誘されたとき必死になって止めるくらい仲間思いのやつだからな。
「俺はお前と違って付き合いは短いからそんなことはないと思うぞ」
「それは関係ないと思うんだけど…まぁ、それだったら俺は明日にはここを去るわ。もう宿に泊める金がないし。エミが立ち直っていないことだけがが心残りだが…」
「大丈夫。エミはいつか必ず前に進むさ」
「…それもそうだな。それじゃあ帰りますかね。明日、帰る前にもう一度ここに寄るよ」
「おう、じゃあな」
「おぉ」
そして、俺は病院を出て言った。
〜〜〜〜〜
「何だ。貞郎からその話はもう聞いてるんだ」
「うん」
エミは頷いた。
「まぁ、本人がそう言っているからな。ちなみに貞郎はここに残って大丈夫なのか?」
「とりあえずね。実際1人だけだと大変なこともあるし。あまりにも私に対して下心丸出しだったら追い出すけど」
エミは呆れた様子で話した。
「ははっ!気をつけろよ貞郎」
「わかっている」
その後は顔馴染みの患者たちに別れの挨拶をした。
「それじゃあ、もう行くわ」
挨拶を一通り済ませた俺は病院を出ようとした。
「あっ永輔、ちょっと待ってて」
エミはそう言うと慌てて2階へ向かった。
いったいどうしたんだろう?
待っていると貞郎が俺にこんなことを言ってきた。
「そういえば永輔。せっかくだし俺のサインでもいるか?」
どうやら貞郎はまだ俺が貞郎のファンだと思っているらしい。
いや、まぁ確かに初めて会ったとき建前でそう言いはしたが。
「え〜っと…その言っちゃ悪いが別に俺、貞郎のことを生前知っていただけで別にファンでは無いんだよね」
それを聞いた貞郎は少し驚いた表情をした。
「え、でもお前初めて会ったとき「俺のファンです」みたいなこと言ってなかったか?」
「あれは嘘だ」
「何だよ〜。ちょっと嬉しかったのに…あぁ〜なんかそれ知ったら急に恥ずかしくなってきた。この野郎!」
貞郎は軽く俺の尻に蹴りを入れた。
「悪かったな」
「全くだ」
貞郎とそんな話をしているとエミが1階に戻ってきた。
そして俺の目の前まできて
「はい。これ返すよ」
俺に何かを渡してきた。
「ん、何だこれって!?これ俺の財布じゃねぇか!?」
「そうよ。安心して中身はそのまんまだから」
あの〜まるでエミさんが俺の財布を保護してたみたいな言い方やめてくれます?
あなた一応盗んでいるんですよ。
別にいいけど。
「お、おう。ありがとう」
「今度は盗まれることがないようにね」
「……お前が盗んでこなかったら大丈夫さっ」
「あぅ」
俺はエミのデコピンをした。
「いった〜、ちょっと何すんのよ!」
エミはおでこを抑えていた。
「やっぱり人の物を盗んだ罰は受けないとな」
「うぅぅ…」
エミは何も言い返せなかった。
「さて、財布も戻ってきたことだし行きますか」
「そうか…短い間だったけどやっぱり少し寂しいな」
貞郎は沈んだ表情をして言った。
「ふっ、同感だ」
「また、シンジュクに来たら絶対に顔出せよ」
貞郎は俺の胸に拳を当てた。
「貞郎がまだここに残れていたらな。ちなみにエミ。お前と貞郎が恋仲になる確率ってどれくらいなの?」
「はっ!?お前なんでそんなこと聞くん
「1%もないかな」
俺の発言を聞き、貞郎が口調を強くして言ったが、エミは貞郎が喋っている途中で答えた。
「はは、よかったな貞郎。0じゃなくて」
「…俺、いまお前のこと嫌いになったわ」
「ごめんごめん。悪かったよ」
「ふふ」
俺たちの様子を見てエミは小さく笑っていた。
「それじゃあ、またな」
俺はそう言い病院を後にした。
「さて、俺は掃除の続きでもするか」
永輔の姿が見えなくなり貞郎が言った。
「私は治療も一通り終わったし寝ようかな」
「え?朝から寝るのか?」
「昨日寝れなかったからね」
エミは欠伸をしながら言った。
そして病院の中に戻った。
「……そうか。なぁ、もう本当に大丈夫なのか?」
エミは貞郎から背中越しに話しかけられた。
貞郎はエミがまだ立ち直れていないと思っている。
「何?心配してくれるの」
「当たり前だろ」
エミはとびきりの笑顔で振り返った。
「ふふ、ありがと」
ーーー
永輔はシンジュクのバスターミナルに向かっていた。
思い返してみればこの1ヶ月間色々あったな。
咲夜とデートしたり、貞郎が西園寺に殺されかけたり……って西園寺!!
せっかく仲良くなったんだ。
あいつにも別れの挨拶をしておこう。
俺は西園寺の住む建物に走って向かった。
確かこの道に西園寺と会ったバーがあって……
あったあった。
そしてこの道をずっと…………………
うろ覚えであったが西園寺が住んでいるアパートみたいな建物に無事着いた。
俺はアパートの2階に登り、一番端の扉にノックをした。
「西園寺?いるかー」
すると扉の向こうから何か物音が聞こえ、少し経つと扉が開いた。
そしてそこにはマフラーで口を隠している可愛らしい少女、西園寺がいた。
西園寺は俺がプレゼントした青い花のヘアピンをつけていた。
なんだろう…ものすごく嬉しい。
「………どうしたの?」
相変わらず小さい声で西園寺が喋った。
「もうシンジュクを出るから一声かけておこうと思って」
「………そう」
西園寺の視線が少しだけ下がった。
一方、俺の視線はあるものに向けられていた。
「もしかしてその花。ヘアピンのやつと同じか?」
扉のすぐ側には青い花が飾られていた。
すると西園寺は頷きこう言った。
「…………一番好きな花。だからこれ、嬉しかった」
西園寺はつけているヘアピンに指を指した。
嬉しかったと言ってはいるが表情は相変わらず無表情だった。
「それだったらプレゼントした甲斐があったよ。ところでそれ、何ていう花なんだ?」
「…………イルミナ」
「へ〜…聞いたこたないな」
そもそも俺は花についてはタンポポやチューリップなどの有名な花しか知らないが。
それにこの世界でしか咲かない花の可能性もあるしな。
「………そう」
ゴ〜ン……………
するとシンジュクで正午を迎えた時になる鐘が鳴った。
「お、もう正午か。それじゃあもう行くわ」
「………また会える?」
「え?」
少し、驚いた。
あの西園寺からそんなこと言われるとは。
「………いや?」
西園寺が顔色変えずに首を傾げた。
「そんなことないだろ。また、シンジュクに来たときはここを訪れるよ」
「……そう」
その後、俺はアパートの階段を降り、西園寺に向かって手を振った。
西園寺も扉の前で小さく手を振っていた。
ーーー
バスターミナルに着いた。
当然だがたくさんの乗り物及びそれを引っ張る『足長犬』が視界に映った。
白火の家はシンジュクから南の方角にある。
とりあえず俺は南に向かうバスを探し始めた。
とはいえすぐには見つかりそうにないので、偶然視界に入った車に寄りかかっているハットを被っているお兄さんに聞いた。
「あの〜すいません」
「ん?なんだ?」
声をかけられたハット男は俺を少し睨んだ。
少し機嫌が悪かったのだろうか?
「南に行くバスを探してまして、どこにあるかわかりますか?」
「南ぃ?…何日くらい乗るつもりだ?」
行きに3日かかったから帰りも3日だろう。
「え〜っと、確か3日くらいです」
「3日かぁ〜…よし。だったら俺が乗っけてやろう」
「ほんとですか?」
「あぁ。だがしっかり金は取るぞ。お前、いまいくら持っている?」
はて?そういえば俺はいまいくら持っているんだろう?
エミから財布を返してもらってからまだ中身を確認していない。
「ちょっと待ってて下さいね」
俺は財布の中を確認した。
そこには金貨が8枚と銀貨が数枚入っていた。
「え〜とりあえず金貨は8枚あります」
「そうか。じゃあ、その金貨8枚で乗っけてやるよ」
「は?ちょっと高すぎません、それ」
相場はわからないがハカータからシンジュクまでの移動費は五日間で1人あたり金貨2枚だった。
それに比べたら明らかに高すぎる。
「バスと比べたらな。でも、バスだと寝泊まりがきついだろ」
確かにハット男の言う通り、その時のバスでの移動はちょっとした地獄だった。
ハット男が続けていう。
「それに比べて俺の車はベット付き。それに『サウザー』が引っ張るから3日間かかるところを明日の夕方くらいには着くぜ」
サウザーとはハット男が寄りかかっている車のそばで座っている2匹の動物のことだろうか?
見た目は耳がウサギみたいに長いチーターだ。
足長犬や人形以外にも車は引っ張る動物がいたんだな。
それより値段についてだ。
まぁでも、シンジュクを出たらお金を使うことなんてそう無いだろう別にいっか。
「わかりました。あなたの車に乗ることにしましょう」
「よしきた!それでどこまで行くんだい?」
「タマ村までお願いします」
タマ村とは白火の家があるところから少し北にある村のことだ。
「タマ村?どこだそれは?」
「え?知らないんですか?」
「あぁ」
ハット男は答えた。
それは困ったな。
やっぱり別の車かバスを探すか?
うん、そうしよう。
「それでしたらやっぱり他の車を探します。ありが
「待て待て待て待て待て!」
俺が断っている途中でハット男が割り込んだ。
そしてこう言った。
「タマ村って名前からして村なんだろう?だったらここにある乗り物全部そこには行かねえよ」
「え、そうなの?」
確かに思い出してみればタマ村からバスが出ているのは見たことないな。
「あぁそうだ。だからここから一番南の街だと……『カジマ』だな。知っているか?」
「いや、知りませんが…」
するとハット男はニヤリと笑いこう言った。
「ははは、知らないか。でもそこからだったら確実にお前が行きたいタマ村にも近いはずだ」
近いはずだ、だと困るんだけどなぁ……
まぁ、どのみちタマ村までは行けないんだ。
とりあえずそのカジマというところまで行こう。
でも、それだったらそこからの交通費に困るな。
「あの〜それだったら金貨7枚にまけてくれませんか?」
金貨1枚と銀貨数枚あれば十分だろう。
「あ?…しょうがねぇな。特別だぞ」
「ありがとうございます」
こうしてとりあえず俺はカジマという街に向かうことになった。
第三章 シンジュク編 ー完ー




