第三十七話 無口な2人
前回のあらすじ!!
なんと西園寺紫は生前、殺し屋だったのだ!!
「殺し屋って……マジで存在していたのかよ」
「………正確には殺し屋ではない。私の家は代々、忍びの家系。忍びの仕事として殺しをしていただけ」
「ということは、西園寺はくノ一なのか」
西園寺は頷いた。
おいおい、さっきから耳を疑うようなことばかり聞いているぞ。
だんだん西園寺には虚言癖があるんじゃないかと思えてきた。
「手裏剣とかも使えるのか?」
「………使ったことがない。銃で補えるから」
「へ〜」
忍びも進化しているってことか。
その後、西園寺から忍びについて色々話を聞いた。
男の子だったら一度は憧れる忍者。
全ての話が面白い……っていうわけでもなかった。
修行や仕事の内容、西園寺の体験談は聞いていて辛くなる話ばかりだった。
おそらく、西園寺があまり喜怒哀楽がないように感じるのはそのような体験が原因だろう。
「……もう終わりでいい?」
西園寺が首を傾げて聞いてきた。
「え、あぁ。帰るのか?」
西園寺は頷きこう言った
「……水やりしないといけないから」
意外…花とか育てているんだな。
「そうか」
西園寺は席から立ち上がった。
「あれ?紫ちゃん帰るの?」
ずっと作業をしていたお姉さんが立ち上がった西園寺を見て言った。
西園寺は頷く。
「ちょっと待ってね」
お姉さんが西園寺の方へ歩き出したが俺の前に止まった。
そして、俺の耳元に顔を近づけてこう耳打ちした。
「あなた、送ってやりなさいよ」
お姉さんは先ほどまでと一変してフランクに話かけてきた。
「西園寺をですか?」
「そうよ。あんなに話している紫ちゃん初めて見たわ。私、あれは脈ありだと思うよ」
「…そんなことないと思うんですが」
「それでも女の子を1人で帰らせないの。ほら」
お姉さんはそう言い俺の背中を叩いた。
まぁ、別にいっか。
暇だし。
「お代は?」
俺は立ち上がってお姉さんに聞いた。
「特別に初回サービスで無料にしてあげる。紫ちゃん!このお兄さんが家まで送ってくれるって。あと、紫ちゃんもお代はいらないから」
「………そう」
西園寺は相変わらず感情のない声で答えた。
「ありがとうございます。ご馳走様です」
「またの起こしをお待ちしております」
再びお姉さんが礼儀正しくなった。
そして俺は西園寺と一緒に店を出た。
ーーー
「さて、家はどの辺なんだ?」
「……端の方」
うん、それだけの情報だとわからないね。
すると、西園寺は歩き始めた。
とりあえず、ついていけばいいか。
俺は西園寺の横に並び歩いた。
「店員さんと仲がいいんだな」
「…………わからない」
わからないって可哀想なこと言ってやるなよ。
しょうがないか。
西園寺の話を聞いた感じ生前、仲のいい友達はいなかったのだろう。
「まぁ、大切にしてやれよ」
西園寺は頷いた。
その後、お互い無言のまま歩き続けた。
バーのお姉さんは「紫ちゃんがあんなに話しているの初めて見た」と言っていたが俺が一方的に質問していただけなんだよな。
要するに絶対脈なしってことだ。
そもそも会ってばっかの西園寺とそういう関係になるつもりないし。
でもやっぱり、会話がないのは気まずいな。
「ところで、西園寺の住んでいるところってやっぱり豪邸とかなんか?」
「……なぜ?」
西園寺は首を傾げる。
「だってコロシアムで稼ぎまくっているんだろ」
「……私は毎回金貨一枚しか受け取っていない」
「え?それ騙されてるんじゃねぇか?」
本来なら西園寺は毎試合、金貨50枚くらいは稼いでいるはずだ。
すると、西園寺は首を横に振った。
そして
「……たくさんあっても使い道がない」
と言った。
「そうか。まぁ、西園寺がいいって言うんだったらいいんだけど…ってあれ?」
隣を歩いてたはずの西園寺がいつのまにかいなくなっている。
俺は後ろを振り返った。
振り返った先には西園寺がしゃがんでいた。
西園寺の目の間には路上販売の店があった。
「お嬢ちゃん。何か買うのか…ってお前、西園寺紫じゃないか!?」
路上販売をしている男は西園寺を見て驚いていたというよりは怯えていた。
男が怯えるのも無理はない。
西園寺はコロシアムで人を殺しまくっているからだ。
ちなみに俺はもう西園寺に対して恐怖心のかけらもない。
見た目は女の子だし、それに西園寺の過去を知ったからな。
でも、人を殺すのはいつかやめて欲しいな。
西園寺は男の反応を見て立ち上がり俺の方へと歩いてきた。
「買わないのか?」
西園寺は頷いた。
普段、喜怒哀楽を表に出さない彼女だが今回は少し哀を出しているように感じた。
俺の勘違いかもしれないが。
それでも、
「ちょっと待ってろ」
俺は路上販売の方へ走って向かった。
「なな、何かご、誤用でふか」
男はまだ怯えている。
どうやら西園寺と一緒にいた俺も恐怖対象になったようだ。
「はぁ…あの子は何を見ていたんだ?」
俺はため息をつき聞いた。
「え、え……多分、これかと」
男は青い花のヘアピンを指差した。
「いくらだ?」
「ど、銅貨5枚です」
俺は銀貨1枚を差し出した。
「ま、まいど…」
俺は男からおつりの銅貨5枚と置いてあった青い花のヘアピンを手に取り西園寺の方へと向かった。
そして
「これが欲しかったのか?」
ヘアピンを西園寺に見せた。
「………ありがと。……あ、お金」
「別にいいよ」
「……そう」
西園寺は俺からヘアピンを受け取った。
だが、それを手のひらの上に乗せ俺に差し出してきてこう言った。
「……つけて」
「え?お、おう…」
俺はヘアピンを受け取った。
ヘアピンってどうつけたらいいんだ?
適当に髪に刺しとけば……とりあえず隠れている目は見えるようにするか。
俺は少しかかんで西園寺にヘアピンをつけた。
西園寺の目があらわになる。
前髪とマフラーのせいで気づかなかったが西園寺は可愛い顔をしていた。
ーーー
西園寺の住まいに着いた。
そこは2階建の建物だった。
おそらくアパートかな?
「………ありがと。ここでいい」
「そうか」
西園寺は頷いて階段を登っていった。
そして階段から一番遠い扉の前に立ち、俺に手を振った。
その姿は非常に可愛らしかった。
ーーー
西園寺を送ったあと俺はもはや日課となっている貞郎の様子を見に行こうととした。
しかし、俺は道に迷ってしまった。
シンジュクには1ヶ月滞在しているが当然、通ったことない道は沢山ある。
迷うのも仕方がないか……
それよりでっかいお屋敷だな。
俺の左側はずっと壁が続いており、壁の向こうにはお屋敷の上の部分が見えていた。
いったいどんなやつが住んでいるん……おっ。
このお屋敷の入り口と思われる木製の門扉があった。
門扉の横には木札が貼られていて、木札には『十文字』と書かれていた。
へ〜…ここは十文字組のお屋敷だったのか。
つまり、白火はこの中に潜入したのか。
……このデカさだったら組員もたくさん住んでいるんだろうな。
やっぱり1人で十文字の組長を倒すのは無理かな。
そんなことを考えながら門扉の前で立っていると道の向こうから黒いスーツを着た団体がこちらに向かって歩いてきていた。
十文字組の組員かな?
もしそうだとしたら困るな。
十文字組の門扉の前に立ち続けている俺は奴らにとって明らかに怪しい人物だ。
今すぐ立ち去ろうとしても、もう遅いな。
だってもう俺の側にいるんだもん。
「お前。そこで何をしている」
団体の先頭を歩いていた男が俺に言った。
男は長髪を後ろで結んでいて、右目には黒い眼帯をつけていた。
「いや〜観光がてら十文字組のお屋敷を拝見しようと思いまして」
俺はそれっぽい言い訳を言った。
「……邪魔だ」
「はい」
どうやら見逃してもらえるようだ。
俺は頭を少し下げながら団体の横を歩いた。
スーツの男たちは着物を着た女の人を囲い込むように並んでいた。
着物なんてあるんだな。
どんな人が着ているんだろう。
美人さんかな?
背は小さいな。
そして、朱色の髪でてっぺんにはアホ毛がビヨンビヨンと揺れてい………
「っておい!エミじゃねぇか」
いつものサイズが合っていないパーカーを着ていないから、それがエミだと瞬時には気づかなかった。
エミは俺の方を見向きもしない。
エミのやつ、そんな格好してなんでここに…ってまさか!
「お前!先生はこのこと知ってんのか!?」
おそらくエミは十文字組の組長と婚約しようとしているのだ。
それだったら今の状況全てに合点がいく。
エミは相変わらず俺を無視している。
「何騒いんでんだよテメェ!」
エミを囲っている組員の1人がそう言い、俺の胴体に蹴りを入れた。
俺は咄嗟にガードをしたが蹴られた拍子でその場から一歩下がった。
「おい、やめろ!」
先頭を歩いていた眼帯の男が組員を止めた。
こいつが組長なんだろうか?
「エミ様。あちらの男性はお知り合いですか?」
眼帯の男がエミに聞いた。
エミに対しての口調から組長ではなさそうだ。
すると、エミは小さく頷いた。
その様子を見て眼帯の男は俺にこう言った。
「そこの男。特別に見逃してやる。さっさと失せろ」
しかし俺はそれを無視し
「エミ!自分が何をやろうとしているのかわかっているのか!こんなこと先生は
「うるさい!」
俺が話している途中でエミの口が初めて開いた。
「うるさいって…よし決めた。ここにいるやつ全員ぶっ飛ばして今すぐお前を連れ帰る」
ここにいる相手は全員で…7人。
実力はわからないが『オルスト』みたいに全員が強いってことはないだろう。
「なんだ?やんのかお前ぇ」
「光人さん。殺しても言い出すか?」
組員が次々と喋り出した。
光人はおそらく眼帯の男の名前だろう。
「…エミ様。あの方は殺しても?」
光人が再びエミに聞いた。
「……それはやめて」
「かしこまりました。お前ら。殺しはダメだ。地下牢にでも入れとけ。…ささ、エミ様いきましょう」
光人はエミを連れて門扉を開いた。
「おい!ちょっと待て!」
俺は2人を追いかけようとしたが目の前には6人の組員が立ちはばかった。
「ぼくちゃん。大人しくしましょうね〜」
組員の1人がそう言ったその時、俺の背後から何か気配を感じた。
振り返ると男が1人俺にむかってダイブしてきた。
俺はそれを避けたがそれで終わりではなかった。
その男に続いて次々と人が俺にむかってダイブしてきたのだ。
前からも後ろからも。
大人数でこられると避けることができない。
なぜ、「避けることしかしないのか?」だって?
俺はそいつらに攻撃することができないからだ。
ダイブしてくる人達はスーツを着ていない一般人だった。
そして俺は1人の男に捕まりその上にどんどんと人が被さっていった。
俺はうつ伏せの状態でいた。
「すまねぇな。でも十文字組と騒ぎを起こすのはやめてくれ!」
俺の上に乗っている男が言った。
「く…邪魔だ…どいてくれ」
いったい何人乗っているんだ。
だんだんと苦しくなってきた。
「そのままでいい!どいたらわかっているんだろうな」
組員の1人がそう言った。
そしてそいつは俺の顔の前にしゃがんだ。
「悪いなぼくちゃん。シンジュクの住民はみーんな俺たちの仲間なんだ。だからな、俺たち十文字組の組員の誰かがやられたらな、守れなかった責任は住民のせいでもあるんだよ。そんでその責任は連帯責任で住民の皆さんが負うことになっているんだ」
そういうことか。
要するに今俺の上に乗っている奴らはそうしないとなんらかの罰を受けるんだな。
「最低だな、お前ら」
「くくく…さて、ぼくちゃん。光人さんから「地下牢に入れとけ」と言われているんだ。ちょっと眠っててもらうぜ」
男はそう言い青の魔法石取り出しを俺の顔の前に持ってきた。
そして青の魔法石が光出した。
するとだんだんと俺に眠気が襲ってきた。
「そんなこともできるのかよ………」
俺は眠ってしまった。




