ツイ廃「24/7働けますが」
@トーマス・フォルド
クーフの山頂から東側に住んでいる者は今すぐ家を捨てて避難せよ。バレイ領内の城は避難民を受け入れるように。 #クーフ山噴火
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@アイリ・フォルド
承知しました、父上。
@たぬき顔
迷いの森が燃えてる……
@川渡しのジョン
なんだあの山から溢れてる光っている川……?
@キャベツ頭
世界の終わりだ
@薬湯のボブ
石が降ってくるんだけど!?
@粘土マン
落ち着いて急いで避難を。光っている川には近づかないように。頑丈な建物の中へ。 #クーフ山噴火
@ロバート・パウダー
教会も避難民を受け入れています。近くの教会へ避難を!#クーフ山噴火
@麦スープ
お城に何とか辿りついた……助かった……?
@ガマガエル
家で神子様の交代式を見ていて正解だった。森に行ってたら危なかったな……
@アイリ・フォルド
救援を求めるものはとにかくジラッター、そして情報魔法で知人に連絡を。諦めるな、トワネットが通じていれば必ず助けが来る!
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@畦直しのプラム
今日も灰が降ってるねえ。空もくすんでるし嫌な感じ
@アビー
雨漏りするから何かなと思ったら屋根に穴が開いてた。クーフ山から飛んできた石のせい……? こんなところまで? #クーフ山噴火
@ヤコク大神殿公式
このような時世ではありますが、ジラドキュに聖書を公開いたしました。避難生活の間の手慰みとしてお楽しみください。みなさまの神への理解が深まりますよう。
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@月光
すごい! 無料で!? ありがとうございます! 神子様に感謝を!
@レントーカ領広報
アイビー家よりレントーカの皆様へお知らせです。クーフ山の灰は吸い込まないよう、外出時はマスクをしてください。マスクの作り方はこちら。 #クーフ山噴火 #降灰対策 #マスク #レントーカ
[ジラビデオのリンク]
@麦スープ
ようやく家に帰ったら燃えてた。泣きたい。銀行にお金を預けてたことだけが救いか……
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@中通りの男
命あっての物種ですよ
@アイリ・フォルド
今回は神子様の交代式の最中の不幸だったが、トワネットのおかげで連絡が滞りなくできて助かった。常なら領主が直接出向いていた領は、混乱していたことだろう。
@アイリ・フォルド
トワネットのおかげで常なら見つかるはずのない、崩れた家屋の下に取り残された親子も助けることができた。今後は各集落、もれなく基地局を置かねばな。
@クーフ山の被害に遭った方にお金を支給します
今回の災害で被害を受けた方、申請をいただければお金をお支払いします。ご連絡ください #クーフ山噴火 #被災者支援 #拡散希望
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@玉ねぎ丸かじり
注意! こちら絶対に連絡しないでください。手続きのため少額のお金を払うように連絡されます。支払っても救済金は振り込まれません。詐欺です。騙されないで! すでに通報はしましたので、ブロック推奨!
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@赤のジョック
すでに評価真っ赤で言われるまでもなかった
@ジモーノ領広報
田んぼに灰が残っていると翌年の麦の状態に影響があると、教会より情報の提供がありました。灰が少量の地域は水を入れて流してください。それができない場合は被害状況が分かる写真と一緒に報告をしてください。#クーフ山噴火 #降灰対策 #ジモーノ
@種まきのボブ
クーフのお山が燃えたけど、収穫の後だったことだけは救いだなあ
@クーフ山の噴火は火の神の怒り
クーフ山から降り注ぐ灰こそ火の神からの恵み。マスクをしろというのはその力を取り込ませまいとする陰謀です。灰を浴びて火の神からの力を受け取り、己の生活を振り返って反省しましょう。
@牛飼いモリー
家が燃えたから保険金を貰おうと思ったんだけど、いろいろ言われてもらえなかった。トゥド銀行の保険って詐欺だったの? #保険 #トゥド銀行
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@ヴィクター
トゥド銀行? ヴァリア中央銀行じゃなくてですか?
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@ねじりブリッジ
それはおそらく詐欺団体のものと思われます。ヴァリア中央銀行の保険はきちんと手続きされてますよ。お役所に相談したほうが良いかと。
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@草の根太郎
保険って仕組み的にヴァリア家みたいにお金持ってるところじゃないとできないんだよなあ。マネして保険を売り始めた商会がいくつかあるけど、中央銀行以外は支払い能力ないと思う。今回の件に対応できない時点で……。
@ピカピカ
今回のクーフ山の噴火を海越しに撮影した貴重な写真です。恐ろしくも美しさを感じられるものが撮れたんじゃないかなと思います。いいね&リツイートお願いします! #クーフ山噴火 #衝撃の瞬間
[写真:クーフ山の噴火の瞬間を海岸からとらえたもの]
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@でか猫
それあなたの撮影した写真じゃないですよね?
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@ピカピカ
は? 急に何ですか?
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@でか猫
写真の撮影者って写真の情報を見れば出てくるんですよ。映像や楽曲もですけど。
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@ピカピカ
私は写真の紹介をしただけなんですけど? 言いがかりはやめてほしいですね
@でか猫
ブロックされたんだが
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@川釣り名人
お疲れ様……世の中にはいろんな人がいるよね……
@ティム・ビーバー
ジラッターとトワネットのおかげで救助活動が捗った。改めて便利さを感じたな
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@ブラッド・クーパー
災害が起きてもトワネットが断絶しないように、基地局を増やした方がよさそうだよね
@林檎爺
今回の災害を機に、家族と連絡を取るために始めた。心の声だけだと忘れてしまうが、履歴が残るから便利だな。早く始めればよかった。
@クーフ山に行きたい
浜辺に石が打ち寄せられてる。なんだろう、怖い #謎の物体
[石が浮かび、黒くなっている波打ち際の写真]
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@ささくれ剥き名人
なんで石が浮いてんの?
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@アラン・カルディ
こちらは先日のクーフ山の噴火で飛んだ石でしょうね。火山から飛び出た石というのは多孔質のものが多く、比率が水よりも軽いために浮きます。あの火山の中には石になる成分と蒸発してしまう成分が含まれていて、飛び出した後に成分が蒸発して穴として残るのです。
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@ささくれ剥き名人
急に誰?
@コーパ
評価のおかげで怪しい話にひっかからないで済んでる。なんだこの機能って思ってたけど、すげー。そしてなんでそんな機能用意しておいたんだすげー……
@メリッサ・ヴァリア
被災地の皆様へ #クーフ山噴火
[ジラビデオへのリンク]
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@うどんダブル
ありがとうございます!
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@木登りカイル
心強いです
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@麦スープ
元気が出ました。復興に向けて頑張ります!
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@キャベツ頭
貴族様が水路を水魔法で押し流してくれた! これで水が流れるようになったぞ!
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@ダニー
これで来年も麦が育てられるねえ
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@水車職人のジョー
さすがグレッグ様、魔力量が違う! ここの領民で良かった
@クーフ山災害支援金本部
クーフ山災害支援金の申請は済ませましたか? 教会では今回の災害に遭われた方を支援しています。噴火による家屋の損傷は、支援金の対象になる場合があります。以下のジラサイトより手続きを。 #クーフ山噴火 #災害支援金
[ジラサイトのリンク]
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@青の右手
これは詐欺じゃない?
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@中通りの男
公認マークついてますし、教会主導のものなので大丈夫だと思います。
@猫三匹の母
洗濯物が灰で汚れる……
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@洗濯屋ホワイト公式
当店では風魔法を使った室内乾燥も行っています! 現在割引中ですのでぜひ!
@肩幅三世
今日の炊き出しの情報を更新しました。 #クーフ山噴火 #炊き出し
[ジラサイトのリンク]
@麦刈名人
神守のステイン様直々の災害対応。ルーテ川に向かって灰を一気に押し流す! 凄まじい水流! #クーフ山噴火 #ヴァリア家
[ジラビデオのリンク]
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@アサガオマスター
うおおおおおおお!
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@ミルクパン
すごい。桁違いだ……これがヴァリア家の当主様……
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@水切り名人
これが魔法? 大雨の濁流とかじゃなくて? すっごい……
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@水車職人のジョー
え……
@若様の仲良し
今日は頑張っていました
@林継ぎし者
ミカリオからレントーカへの道、復旧しました。海岸沿いのルートを使ってください。レイネの山への道はまだ通行禁止です! #ミカリオ #レントーカ
@コディ
聞いて! 今日何と神子様が来てくださったの! そして魔法で灰を全部吹き飛ばしてくれて……もう感激です……! #神子様
[ジラビデオのリンク]
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@どんぐりバースト
これが神子様の魔法……生きているうちにお目にかかれるとは
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@イワシヘッド
これぞ神風。風の神の加護を感じる
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@ダイヤモンドこぶし
ありがたや
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@ベイリー
嵐なんて比較にならない。これが風魔法……!?
@ロニー・ヴェネギン
困ったことがあれば教会に言ってね。オジサン、がんばって行っちゃうよ!
RT: @コディ
@ふくらはぎ硬め
神子様もすごかったけども、山火事に追われて降りてきた熊を斬った女騎士様もすごかった。これ、一太刀でやったんだぞ。
[画像:真っ二つになっている巨大な熊と、その横で無表情に虚空を見つめている女騎士]
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@毛抜きのティム
こっちもこっちで人間業じゃねえ……
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@右斜め前
こんな色の熊いる? でかすぎるし、もしかして魔獣だったんじゃ……
◇ ◇ ◇
「おお、すっげーな」
ジラッターに投稿されていた動画を再生すると、神子のオッサンが風で村全体の灰をぶっ飛ばすところが映っていた。いやすごい、突風か竜巻か、灰が目に見える塊になって吹き飛んでいく。それでいて家屋は倒していないのが意味がわからない。
「さすが神子様といったところであります。並の風魔法使いではこんなに広範囲に風をやるどころか、灰以外のものも飛ばしてしまうでしょう」
トワがベッドの上に座りながら頷く。いや~魔法ってすごいな~……理解できん。
──クーフ山が噴火してから約2週間。
火口から噴出した溶岩は麓の森を燃やし、噴石は近くの家屋に被害を与え、未だに降ってくる灰は山から東側の広範囲の地域に被害をもたらしていた。ここ、トゥド領のエスリッジ家の屋敷も例外ではない。メイドのロレッタも毎日掃除が面倒だとこぼしていた。
が、ナイアット最大の山が噴火した──という字面の割には、被害はそこまでひどくないという印象だ。
避難は迅速に行われ、被害に遭ったものには手厚い支援がなされている。ヴァリア中央銀行が始めた保険事業も、加入者への保険金の支払いを滞りなく行っていた。ナイアットで初めて行われる保険事業は、今回の件で多くの人に認識されて、加入者を増やしているという。
しかし俺にとって何より印象的なのは──貴族たちの魔法だ。
「ヴァリア家の方もすごいよな。川が生まれたんじゃないかってぐらいの水量があるし」
「ヴァリア家は水魔法の大家ですから。トゥド周辺の平地を走る川も、ヴァリア家が魔法を使って治水工事を行って、多くの土地を住めるようにしたのであります」
ヴァリア家を筆頭に、各地の貴族たちが灰の処理に魔法をもってあたっている。水魔法の使い手は水で流し、風魔法の使い手は吹き飛ばす。俺の世界の重機にも劣らない活躍で復興が進んでいた。
「でも神子様も同程度の水魔法は使えるはずでありますよ」
「あのオッサンすごいんだな」
信じられん。だってジラッターじゃクソリプ送り合う仲なんだぜ。いや、一応別アカウントでな?
「ところで、火魔法使いはどういう作業をしてるんだ?」
「戦向きの魔法なので……巨木を切る時などには重宝するのでありますが……あと、薪が使えないときの……船での調理とか……」
シスコン兄貴などの火魔法使いは、今回の災害復興ではあまり出番がないらしい。そういう家から復興依頼を受けてヴァリア家や神子が動いている感じか。
「しかし、ジラッターを見てる限り復興がスムーズに進んでるようでよかったよ。教会からいろいろ情報提供があったんだよな?」
「であります。まさか前回の噴火の記録が残っていたとは」
今から1000年以上前の噴火の際の記録が残っていたらしく、それを元に灰への対策は速やかに進められた。さすが歴史ある組織は違う。俺が現代知識で無双する、とかそういうこともなく、この世界の力ですべて回っていた。
「ですがやはり、トワネットとジラッターの貢献こそ大きいと思うのであります! 速やかに避難をし、効率的に連携して作業が行え、民衆に正しい情報を届けられるのも、ヤス殿の功績あってこそでありますよ!」
「俺は別に……Twitterがしたくてやったことだし」
トワネットもジラッターも、ただの場所で道具だ。この世界の人たちがうまく使っているから良い効果が起きているだけ。ひとつボタンを掛け違えれば、デマと怒りの渦巻く地獄が現れる。
今のところ……3.11と比べると、それほどデマッター化していない感じはある。スパムアカウントが無限増殖したり、詐欺や犯罪に使われるということも少ない。おそらくブロックするとその人の他のアカウントも全部ブロックできる仕様が、慎重な使い方を促しているんだろう。加えてデマを指摘できる注釈機能や、信頼度を計れる評価機能が功を奏しているかもしれない。
いやあ、このジラッターを見たら向こうの俺も羨ましがるんじゃないかな? ツイートもコンテンツもだいぶ増えてきたし。情報保存できる場所がジーラの中にしかないから、コンテンツツリーも完全なものが実装出来て、パクリとかパクツイだとかとは無縁の環境もできているし。
……まあ、だからといって俺の世界のインターネットが実名登録制度だったら平和だろう、とは思わないけどな。こっちだってサービス提供側……俺たちが舵取りを誤れば一気に言論統制とかに進んじゃうだろうし。
「しかしリサ様に聞いたところによると、自分とヤス殿にヴァリア家から褒賞をという話が検討されているとか」
「俺を褒めるよりは使い手を褒めた方がいいぞ」
「ヤス殿は常々、ジラッターを見てだらだら過ごしたいと言ってはおられますが」
トワは食い下がる。
「ジラッターやトワネットの公式ジラッターアカウントとしてユーザーサポートもしていますし、今回の災害についてもいろいろなサイトの立ち上げに助言されています。褒められるべき立派な働きだと思うのであります」
「社畜の魂百までってところで、なんかやってないと落ち着かないだけだよ。睡眠時間がないから暇を持て余してるしな」
24/7働けますか? 余裕ですが?
……付き合わされるケイス君たち開発チームには悪いと思ってるよ、うん。でもまあ、最近はあんまり無茶振りしてないし、非常時ぐらいはね?
「もし褒賞が出るって話になったら、辞退してその分復興に回してもらおう」
「ヤス殿がそう言うなら……」
「金があれば貴族をもっといろんなところに派遣できるだろ? 俺がもらったって何にもならないし、どんどん配って魔法でズルして復興していこうぜ」
人々の生活が戻るなら、細かい理屈なんてなんだっていいんだ。
「ヤスキチヤスキチ! わしもな~、あれぐらい簡単にできるのじゃぞ。ドーッとな、押し流してきれいさっぱりにしてやろうか?」
「きれいさっぱり何もかもなくなりそうだからやめておこう。ジーラはインフラとして、ちゃんと役に立ってるよ」
「そうかの~?」
ジーラは抱きついて、ニーッとこちらを見上げてくる。……頭撫でておくか。うん。
「むう」
「あー、ところでさ」
トワが少し頬を膨らませる……のとは関係なく俺は話を変える。
「ヴァリア家と神子って、仲悪いの?」
「おお? どうしてそう思われるのですか?」
「いや、なんとなくなんだけどさ」
歴史的には、神子が支配していたナイアットを、ヴァリア家が統一して実質的な支配権を奪ったみたいな感じらしいし、対立はしているだろう。
「ヴァリア家は民衆を従えていく立場だけど、神子や教会は民衆に寄り添っているっていうか……交代式の時のスピーチでも、民の発言が力を持つみたいな持ち上げ方をしてたろ? なんか、民衆の支持を得ようとしてるみたいな動きをしてるっていうかさ……」
「なるほど。ヤス殿はなかなか鋭いのであります」
トワは眼鏡をクイッと上げる。
「今のナイアットの中心はヴァリア家でありますが、神子様を支持する人たちも多いのであります。民衆の力を借りて再び神子様の影響力を高めて、教会がナイアットの主導権を握ろうとする……というのは、考えられる動きでありますよ」
なるほど。まあ好き好んでトップから降りたい権力者なんていないだろうしな。
「ヤス殿は……神子様が言ったとおりになると思いますか?」
「ん?」
トワはベッドの上で姿勢を崩して、こちらを見上げる。
「神子様は誰の言葉もジラッターで等しく価値を持ち、民が政治を動かすようになるという趣旨のことを言っていました。そうなるでしょうか?」
「これまで表に出てこなかった民衆の声が、政治を動かすようにはなると思うよ」
選挙はやってないらしいが、デモや暴動はあるはずだ。数の力は侮れないし、教会のように貴族たちも民衆の支持を今まで以上に気にするようになるだろう。ただ、その辺りはヴァリア家も気づいているようだから、教会が思い描いていたほどの差はつかないだろうな。
「でも誰の言葉も等しく価値がある、ってのは幻想だね。結局、言葉ってのは誰が言ったかってのが重要だよ」
言葉の出てきた背景というのが重要だ。俺がうんこと書き込んだところで誰も何も反応しないが、神子が書き込めば大騒ぎだろう……あのオッサンならやりかねないけど。
「その辺はヴァリア家の方がよく分かってるよ。ジラッターで人気のリサに被災地へのメッセージを発信させているし」
「なるほど。あ、そういえばリサ様から今度一緒に被災地向けの動画を撮ろうとお誘いをいただいているのであります」
「あ~……そうなると、俺とジーラも映り込むだろ? ややこしくなるし、やめておいた方がいいんじゃないか?」
「ああ、確かに。それもそうでありますね」
「トワはトワで、別にメッセージを発信していこうぜ。みんな楽しみにしてるからさ」
「過分な反応をいただいているようで、毎度照れるでのあります」
いやー、もう立派なインフルエンサーだよ。だからこそヴァリア家もリサ姫を通して接触してきてるんだろうけど……。
「トワネットの拡大も順調で、ジラッターを使ってみんなが連携を取って復興を進めている。常なら野盗が出るような災害なのに、そういう混乱も少ない。ナイアットはこれまでにない一体感を持っているのであります」
トワはこちらを見て、穏やかな笑みを浮かべた。
「これから先は、きっともっと世の中平和になっていくでありますね!」
◇ ◇ ◇
『なんとかうまくごまかしたのう?』
『なんのことだか』
トワがベッドの中に潜り込み、照明の落ちた部屋で。俺とジーラは並んでジラッターを眺めながら、心の声で会話する。
『ヤスキチはやさしい、という話じゃ』
『……迷惑をかけてるんだから、これぐらい当然だろ』
『そういうところ、わしは好きじゃぞ?』
『アニメが見たいならそう言えばいいと思うぞ』
『つれないの~。じゃが、見たい!』
そろそろ記憶のストックもないんだよなあ。新しい仕入れ先は当然ないし……この世界でアニメ的なものって、いつになったらできるんだろう?
◇ ◇ ◇
【姫とメイドの会話】
『姫様』
『おお、なんでありますかロレッタ。直接の心の声とは少しびっくりしたのであります』
ベッドの中で、トワは身動きしないように気を付けながらロレッタからの通信に応じる。最近は着信を管理できるジラッターのメッセージ機能を使うことが一般的なマナーとなっていて、面と向かわずに心の声を使うことは減っていた。
『申し訳ありません。どうしてもジラッターを使うとダイモクジラに覗かれている気がして……』
『仕組み的にはそうでありますね。ジーラ殿はちゃんとヤス殿との約束を守っているようですし、自分はもう気にしていないですが』
『アレが来てから二人きりでお話しすることもできなくて、つい』
『構わないのであります』
トワが大学に行く前から、姉のように世話をしてくれていたロレッタ。家族よりも付き合いの長い彼女との久しぶりの密談を、トワは純粋に楽しむ。
『……しかし、やはり気に食わない』
しばらくたわいもない話で盛り上がった後。ロレッタは短くこぼす。
『アレさえいなければ、姫様と顔を合わせて話せますのに』
『ヤス殿はいい人ですよ? 気にせず話してくれても』
『ここまで来たら、いい人であることは否定しませんが──しかし、もどかしい……煮え切らない人間です』
ロレッタの思念にため息が混じる。
『態度からも施策からも、その意図は十分にくみ取れるのに、それを伝えようとしない。姫様をもてあそんでいるとしか思えません』
『も、もてあそぶなんて』
『でなければなぜ隠すのです?』
もごもごとするトワに、ロレッタの思念が詰め寄る。
『トワネットとそれに付随するサービスは、もはや民の生活になくてはならないもの。それどころか、行政にとっても重要性は増すばかり。つまり今やナイアットの覇権を争っているのは、ヴァリア家と神子様だけではなく、姫様も含まれるのです』
『いやあ……自分はそんな』
『姫様にその気がなくても、です。ダイモクジラを調伏した姫様は、その気になれば全てを止められる……と、外部からは考えられている』
止めるまでいかなくても、無料サービスの有料化だけでも大混乱だろう。
『特にヴァリア家は、トゥド領へ領主やその代行を留める理由が減ってしまったことが大きい』
『会議も何もかも、直接出向かなくてもできるようになりましたからねえ』
政治をスムーズに運ぶため、という理由で各地の領主、またはその代行者をトゥド領に駐在するようにしてきたトゥド家だが、トワネットがリモートワークを可能にしてしまったためにその必要性が薄れている。トゥドと領地との往復で出費を強いる……という、地方に力をつけすぎさせない工夫も、今後は転換が必要だろう。
『姫様のナイアットにおける重要性は増すばかり。だからあの男は、姫様がヴァリア家や教会に過剰に取り込まれないように、民衆から支持を得るように立ち回らせている』
第三勢力として、独立性を保とうとしている。
『すべては姫様のために。だというのに……煮え切らない態度をとる。やはり気に入りません』
『ロレッタは、その……』
トワは、忍び寄る眠気に耐えながら訊く。
『……ヤス殿がハッキリしてくれたら、認めてくれるのでありますか?』
返答はなかった。トワは待ち続けて、やがて眠気に耐えきれなくなって意識を落とし。
『……やはり、気に食わない男です』
そのロレッタの心の声は、ログには残らなかった。
明日も更新します。




