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ツイ廃、異世界にツイッターをつくる  作者: ブーブママ


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ツイ廃と神子

「さあトワ様、こちらです!」


 ヴァリア家の末姫、メリッサ・ヴァリアが無邪気にトワの手を引いてテラスに案内する。護衛の騎士たちは、呆れたような微笑ましいような顔。


「おお、これはすごく見晴らしがいいでありますね」

「そうでしょう。大神殿も見えますし、そちらに続く大通りも見えますのよ」


 きゃっきゃ、と二人並んで街並みを見下ろしながら盛り上がる。


 ──ここはナイアットの西部中央に位置するヤコク領。ナイアットでも最も歴史ある土地で、代々の神子が住まう大神殿のある所……というだけあって、街並みは古めかしくも静謐な感じがあった。このヴァリア家の別荘も、それは立派な屋敷だったよ。……一等地っぽいのに、普段使ってないってマジ?


「これさあ、まだ続くんだっけ? その……」


 トワから離れられない俺は、二人の隣でつぶやく。


「神子様の代替わり式……ってやつ?」


 季節は秋。


 ナイアットの教会の頂点に立つ神子の一族。その神子の称号を持つ男が高齢のため、次の代へ替わるという式典が行われることになった。


 かつてナイアットを支配していた一族は、今でも民衆から畏敬の念を集めており、絶大な軍事力を誇るヴァリア家といえど無視できない存在らしい。そこでナイアットの各領地から、領主やその名代がここヤコクに集まり、この神事に参加するのが習わしだとか。


 ということでヴァリア家からは末姫のリサが。エスリッジ家からはロナン兄様の名代としてトワが、式典に参加することになった。リサの誘いで道中を一緒に進むこととなり、その間に二人はずいぶん仲良くなったし、俺も砕けて話せるぐらいにはなった。


 まあちょっと……湧き水が流れてるのを見つけて「うまそうだな」って言っちゃって、「地面を這った水を……!?」って狂人扱いされかけたけど……それぐらいだよトラブルは、うん。うまくごまかしたし。


「あら、ヤスキチ様は退屈でして? わたくしは初めて参加しましたが、想像以上に荘厳な式典で感動しましたわ」

「まあ、初めて見るものではあったよ」


 でも初めてだから退屈しないか、って言われたら違うだろ? 興味ないものや理解できないものを見せられてもなあ……しかも式典の間、不審な動きをしないためにジラッター禁止されたし……。


「……でもリアルタイムで体験するのは、ちょっときつかったな。なんかこう、記事とかでまとまってるならいいんだけど。言ってることもよく分かんなかったし、立って礼して座っての繰り返しだったし……」

「ああ。ヤスキチ様はナイアットの神事について詳しくないのでしたね」


 異国から流れてきた設定、継続中。どこの? と詰問されないのは優しさか余裕か、どっちだろうな。


「それでは仕方ないかもしれませんわ。神事に対する教養がないと、難しい言い回しが多かったですから」

「でありますね。自分も結構ギリギリでありました」


 言葉は分かるんだよ、情報魔法で翻訳されてるから。じゃあ日本語で書かれた相対性理論を読んだら理解できる? って言われたらできないし、異世界の宗教儀式もそういうことだよ。いや、実体があったら寝てたね、確実に。


「ジーラはどうだ?」

「さっぱりだったのじゃ」


 だよな。完全にジラッター見てる動きしてたもん。でも誰も指摘しなかった。人知を超えた存在だからかな……いいよな……小心者の俺には無理だよ。


「では、ここからは面白いかもしれませんよ。この後は神子様が神殿の前に出てこられて、民衆に初めてそのご尊顔をあらわにして語り掛けられるお披露目の儀。誰でもわかりやすいお言葉を使われると聞いていますから、ヤスキチ様にも理解していただけるかと」

「なるほどね」


 まだ続くのかあ。


「近年、ナイアットは様々な困難にさらされてきました。最近では、水の神と風の神のお怒りによる嵐が続き、土砂崩れや洪水などの被害が各地でありました。ですがきっと、この式典を境に良くなっていくに違いありませんわ」


 確かに嵐はひどかった。上空から見たわけじゃないから分からないけど、何度かは台風っぽかった気もする。ヤコクに来るまでの間の陸路もかなりぐちゃぐちゃだったし、橋が落ちたりもしていた。


「……あっ、もちろん、ジラッターのおかげもあると思います。みなさんが被害状況を共有することで、助かった人たちもずいぶんいるとか」

「フフン、そうじゃろ?」


 ジーラが胸を張る。まあ実際そういうところはあるんだろうけど、リサの言ってる『良くなる』ってのは雰囲気、オカルトとしての話だからな……だよな?


『え、神子ってそういう力もあるの?』

『一般的には、神子様が代替わりすることでナイアットに授けられた神の加護の力が新しくなる……と考えられていますが、関連性はなさそうだというのが歴史書を見ての自分の結論であります』


 トワの科学的な言葉にちょっとホッとする。


「そう、ジラッターといえば! 神子様はジラッターでもお言葉を発せられるそうですわ!」

「あ……そうなの」

「あら、驚かれませんね?」

「あー……まあね」


 寝なかったから貴族向け? に行われた大神殿の中での儀式は、ちゃんと一部始終は見てたんだよ。


 だから、知ってるんだよな……。


「あ、始まりますよ!」

「おお、すごい歓声であります」


 神殿側に動きがあり、神官たちが出てきて配置につく。通りに押し掛けた、周囲の家の窓から顔を出した人々が騒ぎ出す。そして最後に神殿から出てきたのは──


「わ、神子様の姿が空に並んで!」

「おお~、これはみんな見やすくて良さそうであります」

「トワネットで情報魔法の距離の制約がなくなったからこそ、できることですわ!」


 ──変な模様の布を顔の前に垂らしたオッサンだった。ちらりと覗く顎には、髭。かつてお忍びでマツニオンまでやってきて、ゼインの動乱に陰から介入したと考えられる人物──


「……ひげマスクマンだよなあ」

「じゃなあ」


 やっぱヤバい相手だったじゃん?



 ◇ ◇ ◇



『ナイアットの民よ』


 それは事前によく準備されていたのだろう。通りに沿って立ち並ぶオッサンの映像が、神殿前のオッサンに合わせて動き、声が伝わってくる。人の集まるところからの見やすさや、装飾や照明も考え抜かれた演出。さすがナイアット一の魔法使い一族だけあって、距離の制限から解放された情報魔法も使いこなしてみせるというところだろうか。


 オッサンは呼びかけの後、つらつらと語り始めた。神子の一族はナイアットの民に、神から授けられた力の使い方を教え示すものだとかなんとか……神話と現実の間にいるような役職かな?


『ナイアットから戦が消えて200年余り。これほど長きにわたる平和は、ナイアットの長い歴史を見ても初めてのこと』


 神話の話から、だいぶ現実に近づいてきた。ここからが所信表明ってやつかな?


『平和になれば戦のために費やす時間は減り、人が増え、余裕が生まれる。この200年で様々な文化が民の間で花開くところを見てきた。ナイアットは間違いなく平和のおかげで繁栄をしていると言えよう』


「ヴァリア家のおかげってやつ?」

「諸国の協力あってこそですわ」


 ナイアット全土を平定したヴァリア家の姫、リサは生真面目な顔をして言う。


 確かに協力なくして平和は続かないと思うけど、それはヴァリア家がうまく運営していて不満を感じさせていないからじゃないかな。……反抗できる武力を徹底的に削いでいるのかもしれないけど、どうしても不満があるなら200年も黙ってはいないと思うし。


『しかし近年、ナイアットは試練にさらされていた。ダイモクジラにより内海の水運を封じられ、度重なる嵐に田畑は荒れ、北では雪に閉じ込められる村もあった。その惨状には心が痛む』


 ジラッターをチラ見すると、同意する意見がたくさん流れていた。ジラビデオの中継を見て実際にその被害に遭った人たちがつぶやいていると、何とも言えないリアリティがある。


『しかし、ナイアットの民は強い。この試練のさなかに、主神がこの世界に遺した恩恵を、我々はまたひとつ見つけ出した』


 ゆっくりとオッサンが手を振る。するとトワネット上で展開される、さまざまなサービスのロゴが宙に投映された。


『それは幻惑石の真の特性を明らかにし、情報魔法を拡張したこと。そうして作り上げられたトワイラネットワークの隆盛、距離という制約から解放された情報魔法の活用には、主神も喜ばれていることだろう』


 おお、ベタぼめだな。不意打ちのお言葉に、トワは恐縮して頭を掻いている。


『そして、神獣としての使命に目覚めたダイモクジラによる、ジラッターをはじめとした各種のサービス』


「おっ、ヤスキチ、わしじゃぞ!」

「使命に目覚めたことにされたな」

「わしは別のものに目覚めたはずなんじゃがの~? もっと胸の高鳴るやつじゃぞ? 知りたいかの、ヤスキチ?」

「え、あ、いや……あッ、後でな」


 と、とにかく。これが教会の出す神獣認定というやつだろう。全国に貴族とは別に力を持つ教会がジーラの後ろ盾になった瞬間だ。これでジーラをどうにかしようという人間は少なくなるはず。あとは被害者の遺族年金を開始すれば万全かな。


『またトワネット決済サービスは民の通行をより安全なものとした。これからもトワイラネットワーク、そしてジラッターや各種サービスが、神の与えた情報魔法という恩恵をより深め、経済を活性化していくことを期待している』


 スリとか強盗の被害が激減した、というのは聞いている。110番も顔負けの騎士詰め所への通報システムも構築されているし、旅は格段に安全になったと、道中で何度も耳にする機会があった。


『トワイラネットワークとジラッターは、この平和なナイアットにさらなる安全と利便性をもたらした。しかし、私がこの二つから感じるものはまた別にある。それは──垣根のない世界だ』


「ん?」


 なんか言い始めたぞこのオッサン。近くの護衛の騎士たちもそわそわし始めたし、見下ろしている通りにぎっしり詰まっている見物客たちにも戸惑いが見えた。


 けれどオッサンはそういったものを一切気にせず、大きく手を振って話し続ける。


『ジラッターでは誰もが同じようにつぶやき、意見を表明する。交流し、助け合い、知識の交換をする。貴族や平民といった立場の違いなく、すべての言葉が同じように評価される時代。これまでの社会では起きえなかったことが、ナイアットにさらなる発展をもたらすと確信している』


 うーん……オッサンはそう思ってるのか。おおむね同意だが、違う部分もあるな。


『これからはジラッターが、我々を等しくひとりのナイアットの民として自覚させ、行動を促すことだろう』


「あやつ、何を言っておるのじゃ?」

「ジラッターではみんな平等だよ、って言ってくれてるんじゃないか?」


 そこに関してはありがたい。ジラッターでの上司のフォロー&いいね強制とかいう文化は、ちょっと嫌だったし。


「神子様は……時代が変わる話をしていらっしゃるのだと思いますわ」

「時代が?」

「はい。これからは民の言葉がジラッターで広く届けられるようになる。つまり貴族の意見だけでなく、それよりもっと数の多い庶民の意見が重要になってくるのだ……と」


 なるほど。権力構造の変化の予見か。そういえばオッサン、ジラッターを見て「時代が変わる」とか言ってたっけ。確かに俺のいた世界でもそういうところはあったな。ひとりひとりが発信者になることで、ドマイナーなものが発掘されたり、政治を動かしたり……。


 しかしこれだけの発言でそこまで汲み取れるとか、やっぱりナイアットを実質支配している家の姫は教育が違うな。ジラッターでポワポワした投稿してるだけじゃないんだなあ。


『ジラッターの下に、ナイアットの民として。私も貢献することをここに誓おう』


 ジラッターのUIがオッサンの隣に表示される。


『神の加護を受けた、この美しいナイアットに』


 オッサンが両手を広げると、空にいくつもの映像が映し出される。川や海や山、美しく特異な自然の風景。


「おお、すごいな」

「各地の名所でありますね。ジラッターで見たのであります」

「リアルタイムの映像のようですね……」


 現地に中継する人間を派遣しているわけだ。神子の一族の組織力を見せつけてる……と穿った見方をしてしまうが、純粋に美しい光景が並んでいる様は壮観だ。見物客は感動の声を上げ、ジラッター民はすごいすごいとつぶやいている。


『このロニー・ヴェネギンが神子の交代を告げ、ジラッターにも投稿することで、新時代を迎えよう』


 オッサンはジラッターのUIを拡大する。お、アカウント検索しよ。本名アカウントだな。フォローっと。


『さあ』


 オッサン……ロニー・ヴェネギンが顔の前の布に手をかけて──



 ズン……!



「えっ?」

「なっ、なんでありますか!?」

「爆発……テロか?」


 重低音。通りを見渡すが──どこからも煙は上がっていない。それどころか、見物客たちは音源を求めててんでバラバラな方向を見ていた。何が起きてる……?


「クーフ山が!」


 ──通りから誰かの叫び声が、妙にはっきりと聞こえた。


 見物客が顔を上げ、空を見る。たくさんの映像の中の一つ、ナイアット一高い山、クーフの山の映像。雄大な姿を中継していたそれは今──炎と煙を映し出している。


「あっ」


 小さな地震が起きる。普段なら誰もが無視するような揺れ。しかしそれがこの場の全員に、映像を実感させた。


「クーフの山が燃えた!?」

「どういうこと!?」

「火の神様の怒りだ!」


 悲鳴と叫び。混乱の中、映像はクーフ山の様子を映し続ける。噴き上がる溶岩、黒い噴煙。ジラッターを見れば、そんなクーフ山の写真が、様々な角度と距離で投稿されている。


「と、トワ様、ヤスキチ様、これは……」

「クーフ山が噴火したんだな。火山だとは知らなかった」

「伝承では火の神様によって作られた山だと伝えられていましたが、まさか爆発するとは思わなかったのであります。大学でも記録をみたことがありませんし……」


 リサが青ざめた顔をし、トワがうろたえながらも応える。


「火山灰とかの被害が今後ひどそうだけど……とりあえず麓の人たちを避難させた方がいいと思うぞ」

「そ、そうですわね。ええと、ええと」


『……あー』


 混乱のさなか。間延びしたオッサンの声が、その場に響いた。


 騒いでいた見物客たちは、ハッとなってオッサンの姿を見上げる。


『さて、ね』


 パン、と。これまでの厳かな雰囲気を台無しにして手を叩く。


『今。()()()()ね。今! 神子を私、ロニー・ヴェネギンが引き継ぎました』


 今、を強調して、顔の前の布を取る──なかなか整った顔のイケオジが、明るく軽くわざとらしい笑顔を作っていた。


『ということで! ナイアットのみんな、一丸となってこの災害に立ち向かおう! ね!』



 ◇ ◇ ◇



 @ロニー・ヴェネギン

 はい、今神子に就任しました。クーフ山近隣の皆さん、慌てず指示系統に従って避難を開始しましょう!

  |

  @ブッキー

  そうだな。今交代したんだもんな。これからいい世の中になるよな。

   |

   @ロニー・ヴェネギン

   厳しいな、ヤスチャン。オジサン、泣いちゃうよ!(笑)



 特定されてるじゃん。神子の情報網こっわ。

明日も更新します。

それから、来週日曜で最終回になります。最後までよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しみにしています。もうすぐ完結ということで少し寂しいですが最後まで応援しています。
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