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ツイ廃、異世界にツイッターをつくる  作者: ブーブママ


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ナナさんの優雅な一日

【ナナ・バズデリックの記録】


 からーん、からーん、と教会の鐘が鳴る。


 のを認識した瞬間。


『おはよう、ジーラじゃぞ! 朝6時じゃぞ! 起きるのじゃ! おはよう、ジーラじゃぞ! 朝6時じゃぞ! 起きるのじゃ! おはよう、ジーラじゃぞ……──』


「はあい、起きまあす!」


 がばり! 私は布団をはねのけて起きる。


「姉ちゃんうるさいよ……」

「起きたからいいじゃない」


 弟が文句を言うけど、気にならない。


 ジーラちゃん。ジラッターのマスコットにしてアイドル。彼女に毎朝起こしてもらえるなんて、ジラアラームは神アプリかな? できれば単独で動いてほしいんだけどなあ、少しは目を覚まさないと情報魔法が通じないから……いやでも、おかげで目覚めはばっちり!


 @ジーラちゃんファン七号

 起きた~ #おはようマツニオン


 ジラッターに書き込む。何気ない日常をつぶやくのって楽しい。他の人のつぶやきも続々流れてくる。ナイアットが起き始めたって感じ。


 トイレに行って、顔を洗って、朝食の準備。


「おや、ナナ。そんな練り方でいいのかい?」

「うん。ジラッターで紹介されてた練り方なの」


 パンの焼き方も、けっこう家によって違うみたいなんだよね。今日はおいしそうな写真を載せていた人のジラッターを参考に練って焼く。水の分量とか生地を寝かせる時間とか、いろいろ違うものだね。


「いただきまーす」


 今日もパンと野菜スープ。うん、このパンおいしい。いつものより柔らかい感じがする。


「夜はお魚がいいな。おいしそうなレシピ見つけたから」

「そうかい。後で送っておいておくれ」


 お母さんにリクエストする。魔獣も調伏されて、新しい領主様になって、マツニオンは今景気がいい。私の稼ぎも増えたし、お魚ぐらいなら毎日だって食べられるのだ。


「ごちそうさまあ」


 食べ終わったら私は──布団に寝転がる。


「その態度はどうかと思うわよ?」

「いいんだも~ん」


 ごろごろ。


「姉ちゃんずるい」

「私は仕事をしてるんだから。さっさと教会に行っておいで」


 不満げな顔をする弟を追い払って、布団の上で私は仕事を始める。


 ジラッターを開いて、グループチャットの方を覗く。取引先からのメッセージですでに何件も注文が入っていた。


「ふんふん……」


 お店の在庫を管理しているジラシートを開く。注文と在庫を照らし合わせて、商品を確保していく。


 ##ブラン家発注用グループチャット

 @ナナ(グゲン商会トナミナウ本店)

 おはようございます! ご注文いただいた商品、在庫ございます! お値段は合わせて……──


 @クワミ(ブラン家)

 予算からちょっとオーバーするな。どうにからならない?


 むむ、交渉だ。こういうことも権限のない私は、昔だったら「帰って相談します」って感じだったんだけど、今ならお店のグループチャットで相談できる。上の人に価格調整をしてもらって提示。よし、承諾してもらった。


 ##ヒル家発注用グループチャット

 @トミー(ヒル家)

 鶏肉がどうしても欲しいんだけど、都合つかないかな?


 @ナナ(グゲン商会トナミナウ本店)

 お探ししますね!


 お店のグループチャットで相談。農家担当者が探してくれることに。


 うーん、便利! 特に在庫をいちいち紙に書かなくてよくなったのが、とっても便利! 在庫専門の管理者を別に雇ったから、私はジラシートを動かすだけでいいし、いくつ減っていくつ残ってるのかは勝手に計算して記録してくれる。


 街の中を行ったり来たりして午前中いっぱいかかっていた御用聞きが、もう終わってしまう。あくびして、ジラミュージックで音楽を聴きながら店舗に行くと、もう各家に配達予定の商品がまとまっていた。


「うん、うん、問題なし。よし、いきましょう」


 荷運びの男の人と一緒に回る。ジラッターであらかじめ到着を知らせておけばスムーズに物事も運ぶ。


「いつもご苦労さん。はい、お代」

「ありがとうございます!」


 事前に商品画像も共有してるから、商品のチェックも最低限で済む。


「いやあ、便利になったけどナナちゃんの顔を見る時間が減ったのは寂しいねえ」

「もー、そんなこと言っても、私だって忙しいんですよ~」


 ジラッターが始まってまだ日が浅い。グゲン商会はマツニオンの姫様──トワイラ様と付き合いが深く、トワネット事業にも関わっているから、全面的に活用するようハイラムさんから通達があっていろいろやっているけど、昔のやり方を好む人もいる。


 いる、けど、どう考えても便利なんだから合わせて欲しいよね。そういう面倒なところは、ハイラムさんが直接話しに行って解決してくれたけど。


 ということで配達終了。持ち運ぶ硬貨袋の大きさを見ると、景気が良くなったことを肌で感じるよね。というか、扱うお金が多くなりすぎて、ちょっと移動が怖い。詰所への通報がトワネット経由でできるようになって、泥棒や強盗の被害が減ったとはいえ……どうにかならないかなあ?


「ただいまあ」


 お昼は一度家に帰って食事。いやー、これまで私だけ忙しくて家で食べれなかったからね。野菜スープを飲めて嬉しい。パンも柔らかい!


「それじゃ行ってきます」


 ご飯が終わってジラッターを巡回して、しばらくしたらまた出勤。今度は店舗のお手伝いと、新しい仕事の勉強だ。先達がまとめてくれた文書をジラドキュで読んで、質問点をグループチャットに書いておく。うーん、そろそろ私も発注の仕事やってみたいなあ。


 @ミュー・ブロッケン

 ナナ君、ちょっと相談に乗ってくれないかな?


 あっ、ダイレクトメッセージだ。研究所でトワネット関係の研究をしている貴族様で、何度か話したことがあるけど独特の感性を持っている方だ。


 @ナナ

 はい、なんでしょう?


 @ミュー・ブロッケン

 牛か豚の肉が欲しいんだけど、都合がつかないかな?


 @ナナ

 仕入れ担当に聞いてみます。でも、どうしてお肉を? お食事の希望なら、大旦那様の料理人に伝えたほうが。


 @ミュー・ブロッケン

 いやあ、そこだよナナ君。ハイラム君の料理人は、ハイラム君を甘やかしているからねえ……この世にはもっとおいしい食材があるというのに、食卓に出さないんだ。だからハイラム君はずっと苦手を抱えたままでね。


 @ナナ

 そうなんですか。意外~


 @ミュー・ブロッケン

 ところが今、ちょっとした実験をすることになってね、ハイラム君に食べさせられそうなんだ。それでジラッターで見た、苦手な人でも食べやすいというレシピを作ってやろうと思ってねえ。そのために肉が欲しいんだよ。今すぐに。


 えっ、ミュー様がハイラムさんに手料理を? それって? やだ、ドキドキしてきた。肉! 肉はどこ!? 在庫チェック! 各所問い合わせ!


 @ナナ

 ……すいません。肉はすぐには……魚なら何とか用意できるんですが。


 @ミュー・ブロッケン

 うーん、レシピを変えて成功する気はしないな。料理ってのは科学だからね。うん、仕方ない、今回は丸焼きでいこう。相談に乗ってくれてありがとう!


 @ナナ

 お力になれず申し訳ありません。またお声がけください!


 うーん、あの美人なミュー様がハイラムさんと……意外とお似合いかも? ハイラムさん、ナイム商会から独立したからもう結婚も自由にしていいわけだし……うん、応援したいな。


 なんて考えている間にも、仕事は待ってくれない。追加注文の依頼がジラッターで送られてきてその対応、午後の配達。


「おばあちゃん、届けに来たよ~」

「おお、ナナちゃん。ありがとうねえ」


 最近は貴族の家だけでなく、こういう足の悪いお年寄りからの注文も受け付けて配達してる。っていうか、庶民向けの配達の需要がすごく伸びてるんだよね。うーん、配送専門の人も欲しいなあ。


 街の中を行ったり来たり。配達が終わってようやく、引継ぎをして店舗を後にする。


「ふんふ~ん」


 さあ自由時間。通りの屋台を見て、おいしそうなのを見つけたら写真を撮ってジラッターに投稿。食べたい気持ちをシェアだ。お小遣いが増えたら、買って食べたいなあ。


 吟遊詩人の出し物も、最近はすごく手が込んでる。ジラフォトに保存している鮮明な映像を流しながら弾き語りをしているから、クオリティが高いよね。以前はその場で生成してたから、ぼやけてよく見えないところとかあったし。


 友達とおしゃべりも、待ち合わせるのがジラッターのおかげで楽になった。連絡がいつでもどこでも取れて、記録が残るのがとても助かるよね……ド忘れしたときとか喧嘩になるもん。


 ##バズデリック家のグループチャット

 @フォウ

 今日はハチとお風呂屋さんに行ってくれるかい?


 @ナナ

 あ、はーい。じゃあ@ハチ、お風呂屋さんの前でね。


 お金は……うん、持ってる。回れ右してお風呂屋さんへ。前で待っていた弟と合流。うーん、移動距離が少なくて助かる!


「上がるときは連絡してね」

「うん」


 弟を男湯に送り出して、私は女湯へ。いや~、出るタイミングも合わせられるからじっくり入れるよ。ジラッターも見ちゃう。


『姉ちゃん、上がる』

『あ、はいはい、了解』


 ちょっとのぼせかけてた。弟、長風呂だよね……やっぱ先に上がってた方がいいかな。


「ただいまあ」

「おかえり、晩御飯準備できてるわよ。今日は魚と芋の炒め物だよ」

「やった、おいしそう!」


 さっそく一口。うーん、おいしい。魚の脂が芋に染みて、パンが進む~! このレシピは当たりだね。ブックマークたどっていいねしておこうっと。


 夜はあっという間に暗くなる。でも、もう夜は怖くない。ランタンなんてすぐ消しちゃっても問題ない。なんたって、ジラッターは暗闇でも見えるからね!


 新しく始まったジラノベルにアクセスする。ジラッターでも連続ツイートで物語を書く人がいたけど、この新サービスはそれ専用にデザインされたものだ。読みやすいし、好みのものも探しやすい。


 @ジーラちゃんファン七号

 みんな色々書いてるんだね~ #ジラノベル


 あ、プライベートのつぶやきはもちろん匿名アカウントだよ。この間領主代行が起こした事件で、匿名アカウントの大事さを思い知ったからね!


 ジラッター……というか、情報を手軽に知ることができるってことは、その逆もしかり。本人アカウントで領主様への文句なんて書いたら、捕まっちゃうかもしれないし。いや、今の領主のロナン様は、そんなことしないよ~ってジラッターで言ってるけど……万が一ってこともあるじゃない?


 なのでマツニオンの民は、匿名アカウントでうまくジラッターを楽しもうねってことを新規ユーザーに啓蒙してる。特にねえ、最近トワネットの範囲に入ったトゥド領の人たちは、ちょっとやんちゃがすぎるかなってジラッターを見てて思う。痛い目を見る前に、私たちの事件から教訓を得て欲しいな。


『……あれ、まだ起きてるんだ。何してるの?』

『勉強だよ』


 弟が布団の上に座ってたから思わず声をかけたら、予想外の返事。ええ……勉強?


『私塾の人が、ジラドキュで講義内容を公開してくれてるから、それを読んでるんだ』

『そ、そうなんだ』


 あんなに勉強が嫌いって言ってたのに、何があったんだろう? 本当に学者になるつもりなのかな?


『あと、ジラサイトの作り方とかも勉強してる。すごく面白いんだ』

『う、うん……そうなんだ。がんばってね』


 司祭様、弟をどうやって炊きつけたんだろう。勉強熱心すぎない?


 @ジーラちゃんファン七号

 いいんだ……私はジラブログ書くから……


 一日の終わりには、ジラブログでその日あったことを書き留めるのが日課になった。日記ってお金のかかる趣味だったけど、ジラブログならタダだもんね。あ、もちろん知り合いにしか共有してないよ。


 それにしても、ジラッターが始まってから生活がどんどん変わっていく。


 だって、昨日と同じ明日が来る気がしない。明日は一体どうなるんだろう、何か新しいサービスが始まるかな? ワクワクする。ジーラちゃんの新規映像も来ますように……。

明日も更新します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一足飛びに実現&適応したから現実よりレベルの高いIT生活してて笑う やはり参加者の導入コストも維持コストも0だと違うなあ
[一言] この世界が変わっていく感じとても良いですね
[一言] うーん、さすが最先端にいるグゲン商会のメンバーよ… ナナさんの平凡な1日からのこの文明開化ぐあい情報量の津波を乗り切る曲者感よ @ジーラちゃんファン七号さんぜったいインフルエンサーよフ…
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