ツイ廃、サポセンをする
【ジラッター起動時チュートリアル その3】
『ジラッターの案内人、ダイモクジラのジーラじゃぞ!』
藍色の髪をツインテールにした少女がポーズを決めて出てくる。
『ジラッターの利用者も、だいぶ増えてきたのう! しかし人が増えればいざこざもあるというもの。今日はそんな時のための新機能の紹介じゃ! 「ブロック」「ミュート」「評価」──どれもアカウントに対して行うアクションじゃぞ!』
ジーラはアカウントに対してそれらの選択肢が出た画像を表示する。
『ブロックとミュートは、ほれ、アレじゃ。お主らも普段よく使っているであろう? 気に入らない相手の情報魔法を無視することを。あれのジラッター版じゃな』
腕を組んでウンウンと頷く。
『ミュートは相手のツイートを非表示にするだけじゃが、ブロックは相手からも自分のツイートが見れなくなるのじゃ。縁を切りたい時に使える機能じゃな! ま、許す気持ちがあるのなら、期限付きで設定するとよいぞ! ──ちなみにの?』
ジーラはこそ、と近寄って囁くように言う。
『これは特定のアカウントに対して行うアクションじゃが、影響を及ぼすのはそのアカウント所有者が作ったアカウントすべてじゃ。いくつもアカウントを作って悪さはできぬからの?』
気を付けるんじゃぞ、とジーラは言って、姿勢を正す。
『最後に「評価」じゃな。これは、特定のアカウントに対しての信頼度を評価できるぞ。テキトーなことばかり言ってる輩は評価を下げたり、有益な情報を発信している者には評価を上げたりの。何に影響があるのかというと、あったじゃろ、あのツイートの注釈。注釈をつけた者の評価を内緒で計算して、ツイートに警告を表示したりするんじゃな。ま、詳しいことはヘルプを見るのじゃ。ああ、自分に下された評価は分からぬし、逆に誰をどう評価しているかもバレんから安心せい。そこはプライバシーってやつじゃの』
さて、とジーラは話題を変える。
『今回は以上じゃが、次回の新機能を予告しておくのじゃ。次に来るのはのう、フォローを整理するリスト、非公開アカウント、着信管理、ダイレクトメッセージ、そしてグループチャット機能じゃ。盛りだくさんじゃの? まて次回! それではよきジラッターライフを!』
◇ ◇ ◇
@1-4-もぐら06
to @ジラッターサポート公式
私がフォローしてもフォロワー数の増えないアカウントがあるのですが、なぜですか?
「おっ、ジラッターを使いこなしているんだな!」
ジラッターから通知が来たのでチェックすると、フォロー数に関しての質問がきていた。ヘルプを見れば分かることなんだが、まだこの世界ではヘルプを見るという習慣が根付いていない。こうして公式に質問を投げかけてくれるだけマシってところだろう。
@ジラッターサポート公式
to @1-4-もぐら06
それはあなたが別のアカウントでそのアカウントをフォロー済みだからです。フォロワー数はアカウント数ではなく、実際の人数を表示するという仕様になっています。詳しくはヘルプをご確認ください。
というわけで迷えるジラ廃には即レスをつける。ついでに一連の流れもリツイートして、公式なんかをフォローしている律儀な人間に情報を共有。
「いやー、情報魔法の本人確認ってズルいよなあ」
「何がズルいのでありますか?」
リアルでつぶやくと、トワがリプライを送って……話しかけてきた。
「俺の世界ではインターネット越しの本人確認って難しいんだよ」
魔法の世界の住民には分からないかもしれないが。
「果たしてネット越しに申し込んできたのが、名乗っている本人なのかどうか? 保険証とか免許証とか、戸籍と結びついたものを提出してもらうって方法もあるけど、面倒だし、個人情報の保護とかもうるさかったからな。だからそこまで重要じゃないサービスは、本人確認せずに利用できるようになってた」
ま、他人の名前と免許証とか使われると防ぎようがないけどな。完璧にやろうと思ったら対面で契約……も抜け穴があるしなあ? とにかく、そこまでコストをかけられないって意見も分からなくはない。
だがそんな不条理を払拭するのが情報魔法だ。
「トワネットを通じてジーラにアクセスした人間は、ジーラが情報魔法ですべて識別できる。戸籍とか関係なく、これはこの人間だ、と特定できるわけだ」
「おう、当然じゃろ?」
横でタイムラインを眺めて過ごしていたジーラが、名前を聞いてニーッと笑う。
「己がどこの誰かなど、魂が知っておるのじゃから」
「科学技術しか知らない身からすると、当然とは思えないよ。ズルだズル」
だからジラッターの利用には、パスワードがいらない。顔認証も指紋認証もいらない。情報魔法による個人の識別、完璧なセキュリティだ。
「ま、そのズルを知ってジラッターには、俺の世界では実現できないような新機能を盛り込んでるんだが」
「そうなのでありますか?」
「例えばフォロワー数の表示だな。魔法なしの世界じゃアカウント数で表示するしかないが、そうするとたくさんアカウントを作ってフォロワー数を水増しされてしまう」
フォロワー数がパワーみたいなところがあるから、アカウントを作ってフォローする業者なんてのもいた。
「でもジラッターは魔法でアカウントの中身を完全に把握してるから、別アカウントでフォローしてもフォロワー数は増えないようにした」
俺がどんなにたくさんアカウントを作ってトワをフォローしても、フォロワー数は1しか増えないわけだ。
「さらにブロックも別アカウントを巻き込むようにしたから、無限に増える業者アカウントと戦う必要もない!」
ブロックした人が作っているすべてのアカウントをブロックできるわけだ。便利すぎる。
「そうすると、ブロックされた人は二度とジラッターで交流できないのでありますか」
「悪いことするのが悪い……と言いたいが、人は過ちを重ねながら成長するものだからな。一応、ブロックした後に作ったアカウントからのフォロー申請は、『以前ブロックした人の別アカウント』であることを通知しつつ、許可するかどうか選べるようになってる」
まあ9割許可しないと思うけど、一応な。リアルの知り合いだったら顔合わせて解決すればいいと思うけど、トワネット越しのみのコミュニケーションも今後増えていくだろうし。
あ、ちなみに共同管理アカウントは別な。あれは中身が複数人いるから、巻き込みブロックはされない。こっちで被ブロック率を見て、新規アカウントの発行を拒否するって感じだな。有料だしとりあえず大丈夫だろう。
というわけで、俺がいくら@ブッキーでうんこと呟いても、@トワネットサポート公式と@ジラッターサポート公式はブロックされないのだ。……いやそもそも、この2アカウントは絶対にブロックできないようにしてるんだけどな。嫌ならミュートで頼む。はっはっは。
「それにしても、サポートにフォロワー数に関する質問が来るようになるとはなあ。別アカウントを使いこなす人たちが現れてきたってことだろ? いやー、ジラッターもいい感じに発展してきてるな!」
◇ ◇ ◇
「その質問をしたのは、おそらくゼイン様の派閥の騎士だと思います」
なんて俺が機嫌よく騎士のフリードに自慢したら、あんまり嬉しくない答えが返ってきた。
「叔父様でありますか?」
執務机に向かって書類を見ていたトワが、眼鏡の奥で眉をひそめる。
トワネットの敷設事業の監督や、ジラッターの運営をすべてトワの私室で行うのは都合が悪いため、城内の空き部屋に仕事部屋を設けた。体格にあわない机にトワが向かい、それと離れられない俺とジーラは隣に座っている。
「叔父様派閥の騎士に、ジラ廃がいるってことか?」
「いえ、その、そういうことではなく」
トワの警護を任されているフリードは、歯切れ悪く言う。
「ジラッター上のゼイン様のフォロワー数が、その……トワイラ様のものと比べると……」
「ああ、全然フォローされてないよな」
俺もしてない。いやだってさ、こういうツイートばっかりなんだもん。
@ゼイン・エスリッジ
領地を守るためには精強な騎士団が必要である。しかしそのための予算には限りがある。戦備えの出来ぬ者、魔力量の劣る者などは、あえて身を引く形で貢献する道もあるのではないか。
@ゼイン・エスリッジ
選択と集中が不景気から脱却するには必要だ。急ぎ必要ではない事業は手を止める道もあるのではないか。
@ゼイン・エスリッジ
不景気の中でこそ人心は荒れ、農民は野盗に堕ちる。善良な領民を守るためにも、騎士団は一層奮起しなければならない。そのための訓練である。
単純に内容がつまんないんだよな。あと、トワを下げてるのが見え見えって感じだし。なんでこんなツイートに毎度に結構な数の「いいね」がつくのかと思ってたんだけど……。
「つまり、ジラッター上でも権力争いしてるってわけ? トワにフォロワー数で負けてるのが嫌だって?」
「ええまあ……領内の騎士やその家族には、ゼイン様をフォローするようにと命令が」
うわぁ、引くわぁ。別にジラッターで政治的な活動をするなとは言わないけどさあ。
「じゃあフリードさんもフォローしてんの? ゼイン叔父様」
「私は、トワイラ様の専属の騎士となりましたので」
フリードは顔を引き締める。
「……フォローはしても、『いいね』だけは断固として拒否を」
「フォローしてんのかい」
いいねした人が誰かは非公開にしてるからな。いいね欄を非公開にすればバレない。
「まあまあ。自分の専属とは言っても、マツニオン領の騎士を統括するのは領主、そして今叔父様は領主代行ですから」
上司ではある、ということか。フリードも世知辛いな。
「それで複アカで水増しねえ……どの世界の人間も似たようなこと考えるもんだな」
ジラッターでは通用しないがな、はっはっは。
「フォローってのはさ、その人のことを知りたいとか、面白いとか、有益だからするもんなんだよ。フォローを強制するなんて分かってないね。ジラッターってのは、もっと自由であるべきなんだ」
「しかしそうは言っても、実際のところは難しいでしょうねえ」
トワは腕を組んで唇を尖らせる。
「そのうち、領民は叔父様のアカウントをフォローすべしとのお触れを出すかもしれません」
「ええ……領主フォローの令……? 引くわあ」
そんなの制定されたら、この世界の天下の悪法に決定だわ。
「言いづらいことですが……実はトワイラ様にゼイン様をフォローするよう働きかけよ、という命令も受けていまして……」
トワもしてないのか、フォロー。
「無視したらいいんじゃないか?」
「いえ、自分は別に叔父様と対立したいわけではありません。これでも血のつながった親族ですから……気は進まないのですが、フォローするぐらいは構わないのであります」
気は進まないんだな。気持ちは分かる。フォローしてるって、その人を認めてるって思われがちだし。
「あとは、角が立たないように叔父様のアカウントを皆に紹介したらいいでしょうか?」
「ありがとうございます。それでゼイン様の溜飲も下がるかと」
あ、怒ってるんだゼイン叔父様。そりゃフォローしておいた方がよさそうだなあ……。
◇ ◇ ◇
@トワイラ・エスリッジ
最近、どんどんジラッターを使う人が増えて嬉しいのであります。なんと、私の叔父様、マツニオン領の領主代行、ゼイン・エスリッジ様もジラッターを始めてくれたのであります! 叔父様にはトワネット事業でいろいろ便宜を図ってもらって感謝しているのでありますよ。ジラッター上でもよろしくお願いするのであります。to @ゼイン・エスリッジ
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@アサガオアプレンティス
そうだったんですね
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@うどんダブル
ジラッター、広がってますね!
@ゼイン・エスリッジ
本日の訓練中、牛を引く農民が通行を邪魔し、行軍に遅れが出るということがあった。馬とは繊細な生き物である。負荷に強い牛ならばこそ、道をよけて待つなどの協力をするべきであろう。
@ひげマスクマン
#初めてのツイート
@お酒大好き
トワ様は懐がふけぇなあ
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@中通りの男
さすがダイモクジラを調伏された英雄。ネモ様のお子ですよ
@クーフ山に行きたい
それに比べてなあ……
@傘職人一年目
ていうかトワ様と相互フォローじゃないんだ。ええ……?
@三番目
いや避けろって……あんな狭い道で……藪に突っ込んだら良かったんか? 牛だって傷付けば弱るんだけども
@ゼイン・エスリッジ
貴族の義務とは家を守り、領地を守ること。そのためには魔力量の高い子孫を残すことが肝要である。女子は産まぬのであれば貴族とは言えぬ。各家は良縁を探し、娘を領地に貢献させるべきであろう。
@クーフ山に行きたい
えぇ……
@軒下さん
貴族ってのはそういうものなのかしらね。嫌な感じ
@俺であります
トワイラ様は立派な方だと思う。ミカリオのクレア様って前例もあるし、英雄であるトワイラ様が次の領主になられてもいいのでは?
@イワシヘッド
エリカ様みたいな武勇に優れた騎士もいるよね
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@俺であります
エリカ様もいましたね。しかも氷の花ような美人とか。実物を見て見たいものです
@豆隠し
トワ様への嫉妬か?
RT: @ゼイン・エスリッジ 貴族の義務とは家を守り、領地を守ること。そのためには魔力量の高……
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@ゼイン・エスリッジ
名を名乗れ
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@ゼイン・エスリッジ
貴様、名を名乗れと言っているのだ。貴族の義務もわからぬ庶民が。
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@ゼイン・エスリッジ
女は子供を産むのが仕事、それに何の間違いがある? 戦の役に立ちたければ子を産み育てよ。
@ゼイン・エスリッジ
魔力量に秀でていようと女は女。戦場に出るのではなく次の世代につなげることこそ、家への最大の貢献であることは自明。またそれができぬ者は咎を受けて当然であろう。
@クーフ山に行きたい
魔力量が低いことは罪だというなら、僕ら庶民は何なんだろう
@中通りの男
ネモ様はこれを許されるのか?
@軒下さん
女も男と変わらずに働いていると思うけど、貴族様は違うのかしらね
@咎人
騎士として今回のゼイン様の発言は許しがたい
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@ゼイン・エスリッジ
名を名乗れ。匿名で貴族を騙るのならば重罪ぞ
@クーフ山に行きたい
うわ怖。検索してるのか?
@ひげマスクマン
へえー、なるほどねえ
@ゼイン・エスリッジ
どうやら騎士が領地を守っていることが理解できない者がいるようだ。意見があるなら城まで持ってくるがいい。この身自ら答えてやろうではないか。
◇ ◇ ◇
──って燃えてるじゃねーか!?
明日も更新します。




