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ツイ廃、異世界にツイッターをつくる  作者: ブーブママ


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ツイ廃、魔改造をはじめる

【ジラッター起動時チュートリアル その2】


『ジラッターの案内人、ダイモクジラのジーラじゃぞ!』


 藍色の髪をツインテールにした少女が両手を上げて飛び出る。


『今回は新機能の紹介じゃ。よく聞くんじゃぞ? ま、ヘルプメニューからもう一度見れるがの!』


 UIのヘルプメニューを指しながら、ジーラはギザギザの歯を見せて笑う。


『今回追加した新機能は、「いいね」「リツイート」「ブックマーク」「注釈」じゃ! どれもツイートに対して行うアクションじゃぞ! なあに、簡単じゃ。そのツイートが良いと思えば「いいね」を押して褒めればよいし、「リツイート」で自分のフォロワーに知らせても良いし、「ブックマーク」で後から見れるようにしてもよい』


 実際にUIを操作して見せるジーラ。


『最後の注釈は、ツイートに対するそれ以外の反応じゃな! リプライで会話をするのではなく、あくまでそのツイートに対して、例えば「間違っている」とか「根拠がない」といった注釈をつけるのじゃ。これはツイートした本人にも、他の人にも見れない注釈じゃが……お主が信頼するフォロワーがどのような意見を持っているか、統計として見れるようになるのじゃ。ま、詳しい内容はヘルプを見てくれい!』


 ジーラは操作をしながら説明したが、最後になってぽいっと投げて消す。


『以上が、今回の新機能じゃ。よいツイートに巡り合ったら、いいね&リツイートじゃぞ! ちなみに、今日もっとも「いいね」されたツイートは……これじゃな!』


 ぽん、と表示されるのは、トワがメガネをしてダサいプリントTシャツを着た写真を投稿したもの。


『それではよきジラッターライフを!』



 ◇ ◇ ◇



「やってくれましたなあ」


 会談をしたいと申し込んできたグゲン商会の大旦那、ハイラムと城内の一室で会うと、開口一番で恨み言を言われた。


「何の話だ?」

「トワイラ様のツイートですよ。あれのおかげでメガネとプリントTシャツの注文が大量に入りまして」


 あのツイートか。めっちゃ伸びてるよな。初バズじゃないか? あれを見たい、という理由だけでジラッターを始めたユーザーもいるらしい。


「さすがマツニオン領の姫だよな」

「いやあ、照れるのであります」

「注文が入ったなら、いいことじゃろ? 何を怒っとるんじゃ」


 ジーラが首を傾げると、ハイラムは少し身構えながら返す。


「予定以上の売れ行きだからといって、急に商品が用意できるわけじゃありません。増産体制を整えないといけませんが、それまでは物がないと文句を言われ、いざ準備が整った時には流行が去っているかもしれない。そうしたら負債を抱えることになるわけですよ」


 人と物の問題か。


「メガネに至っては、あれが視力を改善するための道具ではなく、ファッションの道具だと思われている。おかげで本当に必要な人に行き渡らないという問題も」

「あー……それは想定外だったな」


 固定できないメガネはすでにあるから、説明要らないと思ってた。後でトワにツイートしてもらおう。


「とりあえず、ファッション目的なら度が入ってないガラス……もいらないか。フレームだけで売ったら?」

「一時の流行でフレームだけ増産できるようにしても、レンズが入らなければ意味がないでしょう」

「ファッション性が受け入れられてるんだろ? 今はレンズとフレームを1対1で作ってるけど、先にフレームだけいろんなデザインで作って売って、レンズは後で入れればいいんじゃね? そもそもレンズって使う人の視力に合わせて作るべきだしさ」


 ハイラムは──パチンと扇子を閉じる。


「なるほど。すべてをオーダーメイドにしなくてもよい」

「どうせトワネットが広がっていけば距離を関係なく商品が注文できるようになるし、今から増産できるようにしておいてもいいんじゃないか?」

「……フレームだけなら安価に……物流も整備しませんと……ふむ」


 ハイラムは目を細めて頷く。俺には具体的なことはさっぱり分からないが、何らかの勝算が立ったのだろう。


「儲かりそうで何よりだよ。ジラッター本体の売り上げはあまりないだろうから気にしてたんだ」

「そうですなあ、まだジラッターの力に気づいている人は少ないようで」


 ハイラムは扇子を広げて口元を隠す。


「特に可視化される『フォロワー』、『いいね』、『リツイート』の数なんて……恐ろしいと思いますけどねえ」


 ポジティブな数字は承認欲求をくすぐるからな。おかげでTwitterにはモンスターみたいなツイ廃がたくさんいたし、よく燃えていた。


 ちなみに『いいね』にするか『ふぁぼ』にするかは最後まで悩んだんだが、ブックマークを最初から入れたんだから褒め目的の言葉が強い『いいね』にしておいた。デフォルトはハートマークだけど、ちゃんとオプションで他のマークにも変えられるぞ。喜べフォロワー!


「それでもぼちぼち他の商会や組織から、組織アカウントの申し込みはありますよ。実は今日城に参上したのも、それ関連でして」

「ああ。ジラッターじゃなくて直接話したいって、いったい何事だよ?」

「判断に困りましてね」


 ハイラムは目を細める。


「……ゼイン・エスリッジ様が、実名アカウントを開設したい、と」

「へ? 叔父様が?」


 マジか。あのガタイのいいどう見ても体育会系のおっさんが。Twi……ジラッターしたい、と?


『意外と頭が柔らかいんだな。ちょっと好感持ったわ』

『いえ……おそらく、自分がジラッターで領民の人気を集めているので……その対抗かと』

『え、不純な動機』


 直接トワに頼まないでハイラム経由ってのもそういう理由?


『別にトワが人気でも関係なくない?』

『複雑な話なのですが、叔父様は兄様に領地を継いでほしく……』


 トワが俺にだけ家系図を見せてくれる、が……うわあ複雑でめんどくさ。おおまかにまとめるとネモ父様の側室はゼイン叔父様の方の家系に近くて、さらにその親戚がロナン兄様と許嫁をやってると。


『でも兄ちゃんじゃなくて叔父様なんだな、アカウント取るの』

『兄様は自分に甘いので』


 シスコン、バレてるのか。


「ふーん、トワの叔父様が実名アカウントを作りたくなるぐらいには流行ってきたってことか」

「そういうことですなあ、今や城下でジラッターをしていないものはいませんよ」


 ハイラムは扇子の奥で言う。


 確かにユーザー数は増えたんだけど、まだツイート数が少ないんだよな。まだまだおっかなびっくりというか……もっと軽率に書き込んでほしいものだ。


「他の領でも、トワネットやジラッターのことは噂になっている様子。これは近々、ヴァリア家からお声がかかるかもしれません」

「マツニオン領からトゥド領への街道にも、基地局を整備していかないとな」


 その区間の管理義務はマツニオン領にあるらしいので、基地局の設置は可能だ。だが、他の街道は別の領の管轄になっている。


「そろそろ基地局の設計図を公開する準備をしないといけないな」

「前にもその話はしましたが、本当にその方向で? 技術を独占すれば、敷設事業で儲け続けられますよ?」

「いいんだよ。だってこの基地局って適当に置いていいからさ」


 これが科学技術によるインターネット網なら、勝手に回線を引いたりルーターを設定されたりしたら大問題だが、これは魔法によるトワネット網。適当に配置しても幻惑石がいい感じに経路を設定してくれるという、まさに魔法の力がある。


「だったら基地局を作れるようにして、勝手に範囲を広げてもらった方がいいだろ?」


 もちろん作るのにはいろいろ手間がかかるから、依頼されれば金をとって設置することで仕事にはなる。だが。


「誰も住んでいないような山奥とか、山頂とか、独占して金をとってたら絶対設置しないじゃん。そしたらさ……そういう秘境の写真とか、誰も投稿できないだろ」


 スマホだったら、別に電波に繋がってなくたって写真や動画は撮れる。しかし、この世界のまともな記憶媒体はトワネットで接続されたダイモクジラというクラウドストレージしかない。だから、どこでも接続できるようにしておくべきなんだ。


「次に公開する新しいサービスは、写真保管サービスの『ジラフォト』だ。すでに写真を保管できないか、って問い合わせを@ジラッターサポート公式でも受けてるしな。需要があるはずだ」


 その場で撮ってジラッターに投稿、っていうのが今の仕組みだが、写真を撮るだけ撮っておきたいっていう要望もある。ジーラとしては暇つぶしのデータが増えるのでドンとこいというところだ。


「旅の途中で見た光景を、ジラフォトに保存しておいて、後でジラッターに投稿する。そういうことが日常になるはずだ。トワネットが世界をどんどん便利にするぞ。そして、ジラッターがその中心になるんだ」

「確かに便利になったと思います。しかし悩みもありますなあ」


 悩み。


「悩みってなんだ?」


 反射的に聞いてしまった。サポセンで染みついた癖だな……丁寧語までは出なかったけど。


「マツニオン領内では主要な街には基地局を設置し終わりましたでしょ? おかげさまで別の街からでも商会の人員の心の声が届くんですが、やりとりの量が増えて手が空かなくなることも多く」


 これまでは近くにしか届かないから相手の状況を見て話しかけられたが、遠隔地になるとそうはいかないか。


「この時間は商談中だから話しかけるな、と言いましても、伝えそびれている者がいれば不意に話しかけられまして。その場は無視しても、さて誰から話しかけられたか、そもそも要件は何だったか……ジラッターを活用することも考えたのですが、商売の内容を全世界に向けて書くわけにもいかないですから」

「……なるほど」


 確かに困ったな。鍵アカ……プライベートアカウント化できるようにして仕事用アカウントを作ってもらうとか……予定を前倒ししてダイレクトメッセージ機能を解放するか?


「ヤス殿、何かいい方法はありますか?」

「うーん……無理矢理ジラッターのDMを使うより、新しいアプリを作ったほうがよさそうなんだが……」


 ヤなんだよな。情報というか、ツールがバラバラになるの。


 TwitterとInstagramとFacebookとmixiとDiscordとSlackとTeamsとChatworkとLINEと……なんて複数のSNS、メッセージアプリを見るようになるのは不便なんだよ。ちょっとずつ相手がかぶってたりすると、あれ、さっきの話の続きどこでやるんだっけ? ってなるし。


 でもなあ、商売というか仕事の連絡用で使うなら、Twitterは向いていないんだよなあ……。


「ヤスキチは何を悩んどるんじゃ?」

「利便性、ユーザビリティ、それと俺の理想のせめぎ合いってところかな」

「人間は難しいの~」


 ジーラはあぐらをかいてゆらゆら揺れる。


「ヤスキチが作るものなんじゃし、ヤスキチの好きにしたらどうじゃ? わしの情報魔法ならできないことは何もないのじゃ!」


 俺の好きにかぁ……。


 ──俺の好きにか。


 そっか。俺が作ってるんだもんな?


「……別に、プラットフォームを分ける必要はないな」


 欲しいのはグループチャット機能。別にアプリやアカウントを分ける必要もない。サービスを統合して提供してしまえばいいんだ。TwitterにもグループDMとかあったけど、そうじゃなくもっと普通のチャットツールみたいな機能で実装すればいい。


「そうか。そうだよな。別に、この世界でTwitterの完璧な再現をする必要はないんだ」


 ちょっとした新機能の追加だけに留めるつもりだったが、もっとはっちゃけていい。なんなら、そうだ。


「ここにTwitter2を作ってもいいんだ!」


 別のチャットツールにTwitter2なんて名前を付けて遊ぶんじゃなく。


 ここに、新しいTwitterの形を!


 ──すべての中心がジラッターになる、トワネットを!

 

「よし。ダイレクトメッセージとグループチャットの機能は早めに実装する。聞いておしまいの心の声よりも、文字でログが残る方が便利だろう? 着信や履歴も管理できるようにするか。うん、今後は遠隔での連絡はジラッター経由がメインになるぞ!」

「記録が残るのはありがたいですなあ」

「あとはカレンダー、スケジュールアプリも必要だな。そんなに難しくない概念だし、これはミューさんも巻き込むか」


 別のアプリの開発を頼んでるけど、連動とか考えたら最低でも開発に関わっといた方がいいし。正確な時刻表示も計画してるから、合わせてスケジュールアプリ……うん、いいな。


「ああ、そうでした。その……ミュー様をこの城に置くことはできませんか?」

「え?」


 なんて考えていると、ハイラムが不意に疲れた声で言った。


「ミューさんをこの城に? 今ってハイラムさんの屋敷に住んでるんだよな?」

「えっと……空き部屋はありますが、師匠が望むかどうか。研究所の近くにいる今の状況は、すごく楽しいと聞いているのであります」

「そもそもハイラムさんが招待したんだろ。研究開発の便宜を図るって」


 ミューはハイジェンス大学の教授をやっているだけあって、情報魔法以外の知識にも明るい。基地局の設計だけでなく、プリントTシャツ用のインクの開発など、グゲン商会が必要なものの開発に携わっている。トワが様子を聞いた限りでは、現場に近い今の寝処をずいぶん気に入っているようだ。


「それは、助かっているのですが……いかんせん、話が長く……先ほど言った心の声での連絡も、実はミュー様が一番多くて……」

「あー」


 オタクあるあるだな。ハイラムも気分よく研究してもらうために、いい顔して聞いてるんだろう。そんなことをすればますます懐いて話が長くなる一方だろうに。


 ……ま、ハイラムがミューを近くに置きたかった理由はそれだけじゃなくて……俺の情報を探るって目的もあっただろうな。ミューには俺の世界のアニメを見せたことがあるし、いろいろヒントは持っている。


 結論。自業自得だ。


「ミューさんも話相手ができて嬉しいんだろう。そう邪険にするなよ」

「……はは」


 ハイラムは乾いた笑いをするのだった。



 ◇ ◇ ◇



 @中通りの男

 魚がこの値段で食べれる、本当にトワイラ様のおかげですね

 [画像:魚]


 @健脚さん

 これからマツニオンの景気はどんどんよくなるな


 @軒下さん

 旦那がなかなか帰ってこないんだけどどこをほっつき歩いてるのかしら


 @カチカチじじい

 幻惑石を溶かせなんて言ってきた日には、ついに旦那もおかしくなったかと思ったが、こりゃひょっとするとグゲン商会が天下を取る日も近ぇかもしれねぇなあ


 @三番目

 あ


 @綱引きマン

 港から船が荷物をいっぱいに積んで出て行くのを見ると安心する

 [画像:海の上に並ぶ船]


 @のっぽ

 ジラッターを教わってる


 @コーパ

 これすごいよ。情報魔法で「今どこにいる?」って訊けるの新鮮すぎる。トワネットすごい!


 @のっぽ

 おすすめアカウントって毎日教えてくれるの?

  |

  @中通りの男

  そういえばあれ、初回の映像の時だけですね。今日のってことは毎日違うんですかね? 自分の時はうんこって書き込んでるアカウントだったんですけど。

   |

   @のっぽ

   なんだそれ


 @ゼイン・エスリッジ

 ゼイン・エスリッジである。


 @ゼイン・エスリッジ

 これまで領民に声を届ける手段が乏しかったが、このジラッターを通じて領民に我が領の取り組みについて発信していくゆえ、見逃さぬように。


 @ゼイン・エスリッジ

 まずは近年の不景気、その影響から脱することが肝要である。


 @ブッキー

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおツイッター2!


 @ゼイン・エスリッジ

 マツニオン領の発展のため、領民にはこれまで以上の働きを期待する。

明日も更新します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 叔父上燃えそう…燃える(確信) 誰が最初の人柱もとい反面教師になるんだろうと思ってたけど盛り上がってまいりました
[一言] 叔父さまTwitter向いてないなあ・・・
[良い点] 主人公が率先してクソツイ投下してる件 [一言] 最高に面白くなって参りました
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