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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第6章 二人の主人公

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内緒の話

ステンドグラスであしらわれたランプシェードの光は、ゆらゆらと揺れて色とりどりの影を作る。部屋いっぱいに広がった鮮やかな灯りを見ながら、かつて夢で見たヴィヴィアンの横顔を思い出した。


「…自分をやり直すため、か…」私が呟くと、ユイナは目を伏せた。


「ヴィヴィアンは…‥どうして私を通して物語を進めていたんだろう」

「‥もしかしたら、だけど。ユイナをこの世界に呼んだのはヴィヴィアンじゃなくて‥全く別の、ヴィヴィアンさえ利用してようとしている人がいたんじゃないかな」

「さっき言っていた、行動に何も疑問を持たないように設定されてたってこと?」


きっともう、元のゲームとは全く違う流れになっている。

イレギュラーばかりで、以前ラヴィにもらった攻略本とだって、今は全くの白紙だった。


「ユイナは今も、元の場所に帰りたい?」

「…マリカさんは?」

「…白状すると、自分はどこか他人ごとで、例えば今すぐ何かがあって、これでお前の人生は終わりだって。そう言われたら‥すんなり受け入れると思ってた。」


そう、私は自分の未来に悲観的だった。

橋本真梨香としてだって、元々大した良い人生だったわけでもない。

今私がいるこの世界とは天と地ほどの差がある。だからだろうか?いまだにどこか全体的に夢を見ているよう。

でもそうじゃないんだってことに気が付いた。


「‥今は思わない。一人じゃないって気が付いたから」


今日みたいに…例えば同性の友達を連れてきただけで喜んでくれるような、そんな人達に囲まれているというのは、なんて幸せなことなんだろう。


「あたしも、ずっと怖くて帰りたい、って思ってたけど…いざ冷静になると、もうわかんなくなった。でも、マリカさんなら、きっともし自身以外の奴に自分を乗っ取られたら、抵抗すると思うよ。あたしがそうだったから」

「…言われてみれば、確かにそうなるかも」

「‥マリカさんには、あっちで待ってくれる人とか、恋人とかいないの?」


ユイナの言葉に、私は苦笑いをして頷いた。


「残念ながら。こっちの方が、よっぽど心配してくれる人がたくさんいるよ」


それが例え、私が作りあげた関係じゃないにしても、それを引き継ぐべきなんだろう。

今は純粋にそう思える。


「ユイナは?」

「あたしは‥母がいる。彼氏とか、まあ最近別れたばっかだし‥あたしのことなんてもう忘れちゃったよ、きっと」

「そ、そういうもんなのね‥」

「マリカさんこそ、こっちでの本命はだーれ?人気者じゃない」


くすくすとユイナは笑って、ベッドに横になった。


「に、人気者、ねえ。みんな異次元的なイケメンばかりで目がちかちかするわ‥。お母さんとは?」

「…‥母さんとは仲が良くなくて。うつ病がちだから心配だけど、案外離れた方がお互いうまくやっていけるかも。」

「離れた方が?」

「うん。一緒にいると、お互いが共依存‥っていうのかな、そうなっちゃう。離れてみて、ほっとしたっていうのが、実は本音なんだ」


ホントは苦しかった。

ユイナはそう、ぽつりと呟いた。彼女の心の奥まで、私は計り知れない。

でも、きっと、一つの答えを見つけたのかもしれない。


「マリカさんも言ってくれたよね。自分の必要性を決めつけるなって。今は‥こっちにこうやっているのにも理由があるかもしれないから、それを探したい」

「‥‥うん」

「とか言って、なんにもないかもしれないけど」


そう言って、ほほ笑むユイナは、どこかすっきりしたようにも見える。


「結局どんな場所であれ、死んでいない限り生きていかなきゃいけないんだから」

「ほんと、その通りだね。…ユイナ、こうやって話せて嬉しかった。…また話そう?」


私が差し出した手を、ユイナも力強く握った。


「うん。‥あたしも、これからよろしくね!」




「ん…」


夜も更け、皆が寝静まった刻。

私はなんとなく寝つけられず、布団の中でうたた寝と目ざめとを何度も繰り返していた。

隣では、すやすやと静かな寝息を立ててユイナが眠っている。


(…疲れてるんだろうな。ゆっくり休んでね)


今日一日で、色々な事があった。

ヒューベルトに会って、ユイナに会って。

一日しかたっていないのに、すごく長い時間を過ごしたように思える。私はベッドをそっと抜け出して、なんとなく窓辺に立ち空を見上げた。


「今日は月がかけてる‥半月より少し足りない位?」

「…サンドラは、新月と満月、どっちが好き?」


ベランダに出た瞬間、聞きなれた声が聞こえて、私は思わず立ち止まった。

この声‥彼と同じだけど、間違えるわけがない。


「こんばんは。‥いい夜だね」

「…ら ら ラヴィ…っ」


くそう、思わず目の前がぼやけて見えなくなってしまう。

つい、夢なんじゃないかと疑って、目の前にいるこの白くて背の高い燕尾服の男性の腕をガシッ!と握りしめた。‥見間違えるはずがない。


「い、痛いんだけど‥」

「ゆ ゆ 夢じゃないぃ~~っも――――どこで何してたのよ!!!」


掴んだ腕をぶんぶんと上下に振りながら、私は年甲斐もなくボロボロ涙をこぼしてしまった。

そこへ私の顔にめがけて白いハンカチが押し付けられる。


「ああ、もうほら、泣かないで」


押し付けられたのは、なんだか甘くていい香りがする、上品なハンカチだった。


「‥なによ、どうせまたすぐにどっかに行っちゃうんでしょ?何しに来たのよ!!」

「えぇ…、怒るか喜ぶかどっちかにしてよ、サンドラ。‥せっかく会いに来たんだから、怒らないで」

「こんなところに来たら、ヒューベルトが困るじゃない」

「‥今は、彼との合意の上、だよ。一度、ちゃんと報告したくて」

「報告?」

「僕は僕で、彼は彼だってことを、君に伝えたかった」


合意の上…と、言うことは、この二人は本当に共存しているってことなのだろうか。

二重人格…?みたいな、不思議な関係だ。


「そんなの、とっくに知ってるわよ。…ヒューベルトが、アードラを攻撃したのだって、理由があるんでしょ?」

「…うん、彼も苦しんでいる」

「…なら、ヒューベルトにお礼を言っておいて。貴方のお陰で、ユイナと会えた。昼間言っていたこと、信じるって」


私がそう言うと、ラヴィはどことなくむっとしたような表情を見せた。


「…せっかく僕が会いに来たのに、彼のことばかり」

「だって、昼間に会ったのも、元はラヴィじゃない」

「でも、今は僕だ」


や、ややこしい。

そりゃあ、私だって久しぶりにラヴィに会えたのは嬉しい。けども。


「‥ラヴィは、はじめの頃も思っていたけど‥どんどん人間らしくなるよね」

「人間らしく?」

「そう、前はなんていうか。生まれたばっかりの子供みたいだった。ねえ、今は少しか気持ちの整理がついた?」


ラヴィが飛び出してしまったのは、私が無責任に発言した言葉のせいだ。

するとラヴィは困ったように微笑んで、頷いた。


「…うん、結局、僕は僕で…どんなに格好つけたって、願いは一つなんだ」

「‥‥願い?それはどんなもの?」

「それは教えない」


すっと人差し指を立て、ラヴィは教えてくれなかった。


「…ヒューベルトもだけど、隠し事が多い。‥まあ、しょうがないけど。いつかちゃんと話してね」


私はつい思ったことを口に出してしまったのだけど、ラヴィは再びむっとしたような表情をして、拗ねたみたいにそっぽを向いた。


「‥また、僕意外の話‥」

「ちょ、ちょっと今日はほんとどうしたの?」


なんだか今日のラヴィはいつにもまして、すねてみたり頑固だったり。本当に子供だ。

なんだろう、中学生くらい??


「僕は君に逢いたかった」

「!」


そう、短く言うと、急に私の身体はラヴィに抱き寄せられた。

抵抗する理由もないので、私はどうしたらいいのか分からず…ただ、ラヴィの心臓の音を聞いていた。


「これから、色々起きると思うけど、…()()()は絶対に君を傷つけないし、絶対に護る‥信じてて」

「ラヴィ…、色々起きるってどう‥」


ふと、今の彼がヒューベルトなのか、ラヴィなのか分からなくなってしまう。


「‥カサンドラ。フラグは、不変と変化、0か1か、だ」

「‥…0か1」

「君が動けば、未来も世界も、無限に変わる。‥忘れないで」


それだけ言うと、彼は私の身体をそっと引き離した。

瞬間、目が合う。

月の光のせいか、彼の瞳は赤い光を帯びた金色だった。


(あれ?ラヴィの瞳の色が‥また違う)


それがだんだんと近づいてきて、ふっと柔らかいものが唇に触れた。


「…また、逢いに来るから。僕は‥君のものだから」


熱っぽく彼が耳元でそう囁く。

私はうっかりぼーっとしてしまい、腰を抜かしたように地面に座り込んでしまった。

ひゅうっと、湿り気を含んだ風が頬をなぞると、一羽の鳥が月の向こうへ飛び立っていく。


(…今、私に)


ひらひらと風切り羽が落ちてきた。

それが地面に落ちる頃、色々な物が一気に思い出され、赤面する。


「な、なななな‥ッ」


いま、あいつ私に何をしたの?!!


綺麗な色の目と顔が近付いてって…!


「お 落ち着いて、落ち着け私!!」


からからに乾いた喉から辛うじて出た言葉で何とか正気を保つ。

叫びだしたいやら、転がり回りたい衝動を何とか我慢して、ゆっくりと深呼吸をした。

でも、恥ずかしいものはどれだけ頑張っても恥ずかしいものなのだ。


(恥かしくて死ぬ!!ないよあれ!今のアレは何よ!!!ラヴィのバカぁああっ!!)


心臓がバクバク言ってる。

その音があまりにうるさい上に全然鳴りやんでくれない。行き場のない名称不明の想いを拳に込めて、ガシガシと地面をたたいた。

だめだ。今日はもう、眠れないかもしれない。

別の意味で夜風が身に染みた。

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