花開き、風が舞う
前回投稿させていただいた流れから、最後の方が別の流れに分岐しています。
「どお?少しは落ち着いた?」
「うん。ありがとう」
差し出したホットミルクの入ったコップを受取ると、ユイナはふっと短く息を吐いた。
(なんとも、不思議な気分だわ…)
こうして、改めて見てみると、本当に不思議。
目の前にいるのは、あちらの世界で見慣れた黒い瞳、それに肩程まである黒髪の女の子。ヴィヴィアンのように、物語のヒロインではなく、本当に普通の女の子だった。
この子は多分、あっちの私より下のように見えるのだけど、身内やメイドちゃんたち以外の同性と話すのは本当に久しぶりで、なんだか緊張してしまう。
「えっと、あなたいくつ?」
「じ…17歳」
「てことは、女子高生?」
「‥‥あなたは?」
「…22歳、大学生」
ただいま、アードラとノエルの二人は彼女の衣服を調達しに行ってもらっている。
別に彼らに後ろめたいことがあるわけでもないが、なんとなく言いづらいものである。私は声を潜めてこっそりと教えた。
「ええと、一応マリカという名前よ。…他の人には内緒ね」
「じゃあ、マリカさんも‥あたしと同じところから?」
「かもしれないわね」
お互い顔を見合わせ、苦笑いをしてしまう。
彼女がいたのは、私と同じ世界かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でも、もしかしたら、街ですれ違ったり、同じ時を過ごしていたかもしれないと思うと、なんとも複雑に感じてしまう。
「ねえ、いったい何がどうしてこうなったの?‥カシルのパーティーにいたのはあなたよね?」
「‥うん。でも、あの後すぐにあの女‥ヴィヴィアンに会って それで。剣で、刺されて‥死んだ、と思ったのに」
それだけ言うと、少し震えるように俯いた。
「剣で‥刺された?!」
ヴィヴィアンに会ったというのは‥もしかしなくても、あの夜空の瞳のヴィヴィアンのことだろうか。
(ということは、ラヴィと彼女は一緒?にしても、剣‥だなんて。一体目的は何なの?)
耳を疑うような出来事に寒気を覚えつつも、私は話をつづけた。
「崎本さん、あなたの手紙、見たよ。…私に何を伝えたかったの?」
「…本当は助けて、って‥言おうと思っていたの」
「助けて?」
シーツ越しでもわかるくらい、この子の身体は震えていた。
‥強く握る手も、少し冷たいみたい。
「最近、毎晩のようにヴィヴィアンが夢に出てきて…あたしに囁くの。あたしは、この世界に不要な存在だと。…だから、どんどん眠れなくなって。」
「崎本さん‥」
涙をぽろぽろ流しながら、結奈は一生懸命色々話してくれた。
「あたしは…やっぱりこの世界に居場所がないの‥!みんな優しくしてくれるけど、それはあたしがヒロインの姿だから‥でも、ヒロインじゃなくなったあたしは、本当にただの崎本結奈だから‥それが急に恐ろしくなって」
「‥‥うん」
「レイヴンのこととか、いろんなものが怖くなってきて」
確かにどう見たって、一時期レイヴンやレアルドの様子はおかしかった。
それをたった10代の女の子一人で受け止めろなんて、酷な話しだ。
「ねえ、あたし‥どうなっちゃうの?もうヤダ、怖いよ…!」
どうなるか、なんて。
私からこの子に正しい答えなんて教えてあげられない。
(でも‥なんかだんだん腹立ってきた。大いなる意志だか何だか知らないけど、なんなのよ、もう)
この子がどういいきさつでこの世界に招かれたのかは分からないが、人ひとりの人生を壊して、それをさも当然のように不要な存在、と言い放つなんて。
「大丈夫よ…!今、あなたはここにいるじゃない!」
「‥え?」
「あの子が不要だのなんだの言ったところで、それが何よ!!」
「カ、カサンドラ」
「少なくとも、不要だとか必要だとか、誰かが独断で決めることじゃない!!」
私の力説に目を丸くして驚いていた結奈だったが、やがて少しだけ顔が綻んだ。
「‥あなたって、強い。でも、私は」
けれども、再びしゅん、とうなだれる結奈に私は慌ててしまう。
どーしてこう私は言い方というか、慰め方というかがこんなにへたくそなの?!どうしよう!!
「あ いや、えっと!あの‥」
「サンドラ」
すると、タイミングよく、ノエルの声がドアの外から聞こえてきた。
「!!」
天の助けか!ドアの隙間からそっと紙袋のようなものが差し出された。
「これ、服とか色々、着替えさせてあげて?」
「ありがとう!ノエル!‥あ 覗かないでよ?」
「大丈夫。君以外の女性に浮気なんてしないよ?」
「…袋、もらうわね」
本当にノエルは口がうまいというかなんというか。
それにしても、なんということだろう。
袋の中を見ると、上から下から中まで全部きっちり一式そろっている。
‥あまり考えたくないけど、この下着やら何やら上から下まで揃えられるってどういうことよ。いや、頼んだのは私なんだけど。
「ああ、一度見たら女性のサイズは大体わかるし‥バルクに頼んだんだ」
「バルク?!」
「!」
絶妙なタイミングでノエルが壁越しの返答をくれた。
ていうか、見たのか、こいつ。
それにしても私は何も口に出していなんだけどね?!会話が成立するのはなぜかしら?!
見れば、バルクの名前が出た途端、結奈の顔がみるみる真っ赤になっていく。
「~こ これ バルクがっ‥?サイズも…不気味なくらいぴったり‥」
「あ?!いやいや違うわ!きっとマダムベルヴォンよ!ね??ほら でも一応彼もデザイナーなわけだし!!」あ、まずい、フォローになっていないかも。
「う うんっ‥」
「あ‥あの!そこに居るのは‥だれ ですか?」
「!!!」
聞こえる筈のない声に動揺し、私はついドアの隙間から顔を出してしまった。
「げ なんだよ、カサンドラかよ。」
「バルク!!なんであなたがここに?!」
お前もいるんかーい!!と、叫びだしそうになるのをこらえた。
ちょっとどういうことよ?とノエルとアードラをぎっとみるが、二人は素知らぬ顔をしてあっさり答えた。
「害なさそうだし、いいんじゃない?」と、アードラ。
「いや、ほら、店に行ったら、こいつの頭の中、ヴィヴィアンのことでいっぱいだったし」ノエルに至っては、何か問題でも?と言わんばかりである。
「の ノエル・シュヴァル!!おれの頭の中を勝手に想像するなッ!!」
「想像じゃなくて事実だろ?」
「う、うるさい!!お、おれは帰る!」
あれ?
バルクってば、実は本当にヴィヴィアンのこと好きだったのだろうか。
なんだか、心身ともに病んでいたレイヴンやレアルドと少し様子が違うみたい。彼にはもしかして、何か強制力のようなものが働いていなくて‥純粋な想い、だとしたら。
本当の意味で、結奈の味方になってくれるんじゃ。
「ちょっと待って、バルク」
「なんだよ!!」
「いいから、ちょっとアードラ、バルクのこと抑えてて」
「はいよ」
「いて、いててて!!抑えるの意味が違うだろ!!」
アードラは、バルクの顔を壁に押し付け後ろ手を抑える。容疑者尋問でもしそうな雰囲気だわ。
私は結奈のそばまで行き、そっと耳打ちをする。
「ねえ、結奈」
「…な、なに?」
「バルクに会ってみる?」
「!!!」
あ、いい反応。
「で でも」
「同年代の友達位、作っておかない?」
「…」
ぎゅっと唇を結んでしまった。
無理強いは出来ないかな、と思ったりもしたのだけど。
「‥うん、バルクなら…だいじょうぶ」
「そお?…とっても似合うよ、その服。さすが、の一言ね」
彼女が着ているのは、赤と白のストライプ柄のワンピースドレスだった。
胸元には黄色のリボンが結ばれており、サイズもぴったり‥なのは、ノエルが選んだからかもしれないけど。うん、これは黙っておこう。
「バルク、生きてる?アードラ、手を放していいよ」
「コイツ僕以上に貧弱だね!」
アードラがパっと手を離すと、自由になったバルクはこちらをにらみつけるのだが。
「いて、何なんだよこの黒髪!!カサンドラ・グランシアもおれになんのよ…」
結奈を見るなり…あ、固まった。
「あ の、はじめ、まして…」
「……」
「えーと…私のぉーーぶ、文通友達のユイナよ!!」
私が取り繕って言うと、バルクははっとなり、パパっと身だしなみを整えた。
「えっと、どうも。バルク・ベルヴォンと言います。…その服、おれの新作なんだけど、似合うみたいでよかった」
「…服をデザインしているの?」
「あ、ああ。まだ駆け出しだけど…」
あれ、なんだろう、このふたり。
いかに色恋沙汰に鈍感な私でもわかる。…結構いい感じ、なんだけど。
結奈の今までの立場を想うと、少し複雑かもしれないけれど。
「な、言ったでしょ。害はないって」
「ま、まあね」
「サンドラ。一応確認だが‥あの子は元ヴィヴィアン、で間違いないか?」
ノエルがそう言うと、私はその手を取って壁側によせた。
「‥いつわかったの?!」
「赤い石の中にいた時、おおよそ聞いた」
「‥‥き、聞いたって」
「声は聞こえるんだ。…オレもたまには役に立つでしょ?」
ノエルって実はすごいのでは‥。
もしかして、ノエルの力を知っていたから、ヒューベルトはノエルに会え、そう言ったのだろうか。
(本当に、ヒューベルトは‥信じてもいいんだろうか?)
「ねえ、ご主人様。‥あの子、どうするの?」
「どうするって言っても、放っておけないよ。‥でも、かといって、うちに連れて帰るわけにはいかないし‥働くって言っても」
「じゃ、メイドとしては?」
「メイド?」
さも当然のようにアードラが言った。
…なるほど、こっちの世界の基準では、働くこと=メイドになるのか!?
「礼儀作法とかも学べるだろうし、何より衣・食・住困らないんじゃない?」
「それ、いいかも!‥あ、でもヘルトがなんていうか」
一応、私も住んでいるとはいえ、あの本邸の主人はヘルトである。
「‥そこは、サンドラがちょっと首を傾げて、あいつを上目遣いで見ながらお願い!っていえば、叶うと思うよ」
言いながら、ノエルはかくん、と首を少し傾ける。この位の角度だよ、とか何とか言いながら。
「‥‥ノエル、その言い方、なんかイヤ。」
「だーいじょーぶ!自分の魅力を信じるといい!」
‥本当だろうか。
疑いの眼差しをつい、向けてしまうのだが、アードラも同じようにうんうん頷いている。
「が、頑張ってみる」
遠くで時計台の鐘の音が五回、鳴り響いているのが聞こえた。
(…約束は三時だったよね、‥元は結奈との約束だけど)
もし、あのまま結奈を呼び戻せなかったとして‥あの約束の時間には誰が待っていたのだろうか。
結局、私は約束の場所に行くことはなかったのだった。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
突然流れを変えてしまいまして、読みにくいかもしれませんが、ご容赦くださいませ。
ゲームオーバーからのバッドな流れから、そうじゃない方に転換します。これの続きは本日昼頃投稿いたしますので、併せて読んでいただければ幸いです。




