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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第5章 与えられた役割の中で

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間章~それぞれの夜~

「おかえりなさい!!サンドラね―様!」

「お疲れ、ヘルトにユリウス、それにカサンドラ」


応接室を出ると、ノエルとクレインが笑顔で迎えてくれた。

フェイリーはノエルに抱っこされながら、すやすやと寝息を立てている。どうやら、疲れて眠ってしまったらしい。


「フェイリーも頑張ったもんね。クレインもお疲れ様」

「それでその…無事、サンドラ姉さまの()()は守られましたか?」

「て、ていそうって‥あのねえ。意味わかってるの?」

「もちろんです!!」


あまりにもクレインが力強く頷くので、それ以上は聞かないことにした。


「では、馬車を回してきます。‥ヘルト殿。行きましょう」

「あ?ああ」


二人を見送りながら、私は心の底からほっとした。


(はぁ‥もう。負けないとは思っていたけど、ヘルトが勝ってくれてほんとに良かった。)


もうこういうのはこりごりだわ。

そんな思いで空を見上げると、太陽はすっかり傾き、辺りは血のような赤い夕陽の色に染まっている。

なんとなくその色が不吉で、胸がざわついた。


(‥ヴィヴィアンは無事、帰れたのかしら。)


今日の彼女はどこか様子がおかしかった。

何か、助けを求めているような、どこか必死な形相だったのがどうしても気になった。


(手紙‥書いてみようかな?)


**



「うわぁあ―――――ん!!」

「‥‥はあ。全く」


フラムベルグの奥深く、プライベートルームにて。

ガーデンパーティーの挨拶もそこそこに、カシルは一人葡萄酒を飲んでいた。


「カシル、お前飲み過ぎだ。‥ってこれアルコールはいってないだろうに‥」

「くそぉ!僕のバカ者!!どうしてあそこで‥」

「もう!みっともないわね。子供のくせに調子に乗るからこうなるのよ?」


事情を察知した姉二人が来賓客の対応をしてくれたおかげで、無事ガーデンパーティーは終了した。

そして、カシルはリンジーとレイヴンに付き添われながら今に至るわけである。


「ほら、よく言うじゃないか。初恋は実らないもんなんだよ」

「レイヴン!お前に言われたくない!!」

「無理無理。高嶺の花を射止めるにはあんた、力なさすぎ。…最強の騎士二人に護られているんだもの、相手が悪すぎるのよ」


リンジーなりに素直ではないが、励ましているつもりなのだが、結果的にカシルの傷口に塩を塗りたくっている。

それを察してか、レイヴンはさらに深くため息をついた。


「もういい、リンジーは少し黙っていた方が、カシルの精神衛生面には良好だ」

「ちょっと!レイヴンあんたもよ?かの有名な巫女姫様にこっぴどく振られていたじゃない!あーあ、なんでこう二人とも選ぶ相手を間違えるかなあ。」

「「うるさい、リンジー!!」」


(でも、結局‥ヴィヴィアンにきちんと詫びることもできなかった。)


実はレイヴンは、自身の前後の記憶がほとんど残っていない。

まるで夢から覚めたように意識がはっきりした時、自分がしてきたことの片りんを思い出しただけだった。ただ、その行動は彼女を知らず知らずのうちに追い詰めていたのかもしれない。


「はあ。まるで幻想に惑われていたみたいだ。」


そう言って、アルコールが入った方の葡萄酒を瓶ごと飲み干した。


「あら、いい飲みっぷり。よしよーし、もっとお酒を持ってきてもらいましょう!」


こうして、夜は更けていった。


**


揺られる馬車の中で、私は睡魔と戦っていた。

公爵家の馬車ともなると、中は快適、フカフカの椅子にあまり激しく揺れたりはしない。

はっきり言って、乗り心地は最高だ。


(うう‥眠‥太陽の光って浴びるだけで疲れちゃうのよね)


限界はもうとっくに来ている。

このまま目を閉じてしまいたいが、それはそれで淑女としてどうなんだろうと思ってしまう。

しかし、さ迷う頭がグイ、と引っ張られるとある場所に落ち着いた。

どうやらここは誰かの肩のような気がする。あ、やっぱり。


「まだ着くまで時間があるでしょう?」

「‥‥あ ユリウス」


ユリウスの綺麗な顔が目の前に来ているのだが、眠さには勝てない。

色々昼間のことを思い出しそうになるのだが、それ以前に睡魔の方が勝る。


「大丈夫。少し休んでください」

「…うん あり がと‥ ‥」


・・


ぱたん、と倒れ込むように膝の上で眠るカサンドラの髪をそっとなでながら、ユリウスは先ほどのヘルトとの会話を思い出す。


馬車を呼びに行ったとき、ユリウスはヘルトと会話もせず肩を並べて歩いていた。

華やかなガーデンパーティーの半分は既に片付けられており、人もまばらだ。


「…ヘルト殿。今度、ぜひ私のチェスのお相手をお願いできませんか?」

「チェス?‥構わないが。今日はどうして」

「言ったでしょう。カサンドラ様にとってのキングが貴方だと。‥それに、貴方がカシルごときに負ける筈がありませんから」


ユリウスはちらりとヘルトの手首巻かれた銀色のリボンを見る。

本当は、自分の手でカサンドラを守りたかった。

強さを証明して、彼女に認めてもらいたかった。


(‥悔しい。けれど‥)


「私は今回、一度あなたに助けていただきました。…次は、必ず」

「……」


ヘルトは何を言うでもなく、ただ静かに笑った。


「望むところだ」


倒すべきはカシルでもノエルでもない。

ただ一人、ヘルト一人だということを、ユリウスはこの時身をもって思い知ったのだ。


(それにしても‥)

「カサンドラ様、貴方の心はどこにあるのでしょう?」


・・


何度か後ろの場所を振り返っては、前を向くヘルトにノエルは苦笑した。


「気になる?」

「…お前は気にならないのか?」

「気にならないわけじゃないけど、まあ、サンドラ相手じゃ大丈夫だろうなあと思う」

「‥…まあ、そうだろうな」


何か一瞬苦い物でも噛むような表情したのは気のせいだろうか。


(てっきり、ばっさり否定するかと思った)

「やっぱりチェスで勝負したのか?」

「ああ」

「…くそぉ、オレも見たかったなー。ヘルトのチェス‥今度勝負しようぜ」

「勝負したところで何もないだろうに。ユリウスもお前もどうしてそうこだわる」

「そりゃ、相手がお前だからだろ」


ユリウスも、となると…余程の勝負をしたのだろう。

そうなると、やはりそれを間近で見ることが出来なかったのが悔やまれる。


「クレインがべた褒めていたよ。…公爵にも負けたことがないんだって?」

「…父上にはいつも負けてばかりだが」

「いつの話だよ。…クレインは、公爵の後を継いだお前の役に立ちたいって、そう言ってた」


ヘルトの膝の上ですやすやと寝息を立てて眠るクレインとフェイリーを見る。右にクレイン、左にフェイリーと、ヘルト自身はまるで身動きが取れないだろう。


「それはクレインがすべきことだ」

「お前は?」

「‥‥さあ」


ノエルはじっとヘルトを見つめるが、やはり、彼の心は計り知れない。


「ヘルトはさ…」

「なんだ?」

「…いや。やめておく」


仲が良いとはいえ、互いに踏み入っていい領域と、そうじゃない領域があることをノエルもヘルトも互いに知っている。

だからこそ、二人は友であり、同志なのだろう。


**


夢の中で、誰かが泣いている。

泣くな、と慰めたいのに身体が動かない。


「どうして?一生懸命、一生懸命お願いしたわ。なのにどうして?…こんなの、あんまりだわ」


彼女が天に向かって叫んでも、何も返ってこない。

けれど、天の代わりに答えた者がいた。


「こんな世界、なくなっちゃえばいいと思わない?」


彼女の影からぞろぞろと何かがあふれ出してくる。

やがて触手のように伸びると、彼女を包み込む。それだけはいけない、と叫びだしたいのに、もう声も出ず、視界もぼやけてきた。


やがて自身も闇に呑まれて、何も見えなくなってしまう。

抗いたくても、もう動けない。そして‥



「…!!!」


ラヴィは、自分の息遣いで目を覚ます。


(夢‥?なんだ今の?)


まだがくがくと手が震える指先から動かし、ぎゅっと握りしめると、徐々に力が戻っていくようだった。

今はカサンドラの元を離れている為、ノエルが住んでいる部屋の一部を間借りさせてもらっている。ゆったりとした長椅子から身を起こすと、窓の外を見上げた。

まだ夜の闇は降りたばかり。薄い三日月が浮かぶ空は藍色というよりも紫がかった深い紺色で、きらきらと星が瞬いている。


「夢の中にいた女性も、同じ色だったな。」


顔も思い出せない、声も知らない。

けれど、胸が締め付けられるように苦しい。こういう夜は無性に寂しく、まるでこの世界に独りぼっちのようで、落ち着かない。


(まるで、君と出逢う前に住んでいたあの狭い空間の中にいるみたいだ)


もう何度か、逢いに行こうとも考えたが、どうしても自分の持つ記憶のような得体の知れない何かの正体が掴めず、躊躇ってしまう。


「‥苦しいの?」

「‥?!」


突如、何もない場所から声が聞こえる。

ラヴィは驚いて周りを見渡すと、いつの間にか目の前に一人の女性が立っていた。

腰まで長い茶色の髪、それに夜の空と同じような色の瞳。


「君は‥夢で」

「ああ‥やっと逢えた」


そう言うと、彼女はふわりとラヴィに抱き着いた。


「え…?き、きみは」

「でももう大丈夫。もう、寂しい思いなんてさせないわ」


ゾッとするほどの優しい声が耳元を滑る。

恐怖に似たようなものがラヴィに襲い掛かり、身体の自由が奪われていく。


「…迎えに来たわ。私の大切な愛する人、ヒューベルト」


その声を最後に、【ラヴィ】の意識がぶっつりと途絶えた。



同じころ、カサンドラの馬車を鳥の姿で追いかけていたアードラは、夜の空を悠々と飛んでいた。

(全く、毎回ひやひやするよ)

ふと、街の方に眼をやる。そろそろあのウサギを強制的に連れて行こうかなどと考えていると、突如不快な眩暈を感じた。


「…?なに?」


身体の力が抜け、妙な脱力感のようなものを感じた。

そして唐突に理解した。


「…ラヴィが、消えた」



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