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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第5章 与えられた役割の中で

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ビショップの憂鬱

「アードラぁ?…!ちょ、ちょっとその姿誰かに見られたら…!」

「落ち着いてよ、ご主人様。周り、よく見て」

「…え? あ」


そこは何もない真っ暗な空間だった。そう、多分ここは。


「‥もしかして、アードラが昔いた場所?」

「そういうこと。だから安心していいよ。全く、あれだけ自分で用心しろ、って言ってたくせに。馬鹿ユリウス。」


むっとした様子でアードラはそう言うと、畳みかけるように私に言った。


「それより何やってんのご主人様!危うくユリウスに落とされそうになったでしょ!」

「落とされ…って言葉が悪いわ!ちょ、ちょっとときめいただけだし!」

「全く、油断も隙もありすぎ!」


うう、反論できない。

かといって、あの状況じゃしょうがないじゃない!!

元は乙ゲーの主人公だもの。薬のせいとはいえ、本気モードで口説く彼らの威力は半端ない。ほんと、怖いわっ!


「レイヴンにも、わざわざ煽るような真似して!」

「心の本音がぽろっと‥つい。ごめん」


この行動が問題なのは認める。

勿論私だって自ら火種を巻くようなつもりはないけど、本当にヴィヴィアンが困っていたようだったし…彼女の本音も聞くことが出来た。


「それより、どうしよう‥今戻っても」

「‥少しだけなら時間を逆戻せる」

「逆戻せる…?そんなこともできるの?」


そういえば、と思い出した。

(仮面舞踏会の時も逆回し?みたいな風に時間を戻していた。)


「‥魔法って便利」

「まあ、と言っても、結構疲れるからあんまりやりたくないんだけど。‥頻繁には使えないな」

「む、無理させちゃって、ごめん」

「…はぁ、いいよ、君の為だから。それより、戻せる時間は一分もないからね。タックルでもかまして危機を脱して!逆戻りの時間に僕は関われないみたいだから」

「う、うん!分かった!!30秒あれば大丈夫!」


よし!と気合を入れ直すと、私はしっかりと目を閉じた。

ごめん、アードラ、ゆっくり休んでね。


次の瞬間‥目を開くと。


「!!」

はっとなって前方を見る。‥ユリウスが私の前にいるのは相変わらずだ。そして場面は…


「…‥ヴィヴィアン」

「私はヴィヴィアン・ブラウナーなんかじゃないっ!!いい加減()()をみて恋をしたふりをするのはやめて!!!私は女神様の生まれ変わりでも何でもないのよ!レイヴン・クロム!!!」

「…!」


こ、このシーンを二度も見るのはなんだかレイヴンが可哀そうになってくるんだけど…

ゆらり、とレイヴンが動き、懐から何かを取り出した‥次の瞬間。

私の後方からヘルトが走り出して、懐にかけようとしたレイヴンの腕をつかんでひねる。


「?!」

「え?」

「きゃぁ?!」



それぞれ小さな悲鳴を上げると、バリン!とレイヴンが持っていた小瓶が割れ、

どろりとした液体がレイヴンの身体にかかる。

巻き戻す前と同じような、甘くてくきつい濃厚な香りが周囲に充満する。


「これは‥」


ユリウスがパッと口元を覆い、ヘルトは私が飛び出すよりも早く動いた。


「ヘルト!それ‥」

()()()()()()


ヘルトが短くそう叫ぶと、どこから持ってきたのだろう。給仕用の銀トレイをレイヴンの顔に押し当てた。

あ、そういう方法があったか…メドゥーサ退治的な!

でも、これはどういういこと?


絶妙なタイミングで、ヘルトはこの事態を完璧に対処した。

まるで、最初から全部知っていたみたいに。


(なんでさっき起こったことを、ヘルトがわかってるの?!)


割れた小瓶をヘルトは靴の底で粉々に粉砕した。ピンク色の液体はそのまま地面にしみこむように消えていく。

そしてくるりと振り返り、私の方を見た。


お互いに聞きたいことがある、という表情で私はヘルトとしばし見つめ合う。


「…?俺は一体どうしてここで。何があった?」

「‥!レイヴン・クロム?」


ヘルトはそう言うと、すっと手を差し出した。

はっとなってレイヴンは頷き、ヘルトの手を借りて立ち上がる。


「‥そういうあなたは…ヘルト・グランシア。それに‥ユリウス卿?」

「元に戻ったようですね」


何が起こったのだろう?

今の彼の姿は‥まるで()()に見える。


(‥まさか、正気に戻った?)

思わずヴィヴィアンの方を見ると、彼女は私にしか聞こえない声でつぶやく。


「…レアルドと同じ」

「!」


そうか、レアルドはあれから正気に戻ることが出来たのね。


「何かありましたか!!」

「!!」


周囲を見渡すと、徐々に人だかりができ始めてきた。あれだけの騒ぎだ。…このメンバーなら目立たないわけがない。

しかもこのタイミングで、向こうからカシルと‥見慣れない女の子がこちらに向かって走ってくるのが見えた。ちら、と後ろを見る。


(どうすんのよヘルト!)


私の視線を受けて、ヘルトは軽く頷くと、ユリウスになにやら視線で合図をした。それを見てユリウスもまた頷く。

そして。私は見た。‥見間違いであってほしいけど。


「しっかりしてください!!レイヴン殿!!!」

「えっ?!…ウっ」


くるりと振り返ったユリウスは、油断しきってぼうっとしていたレイヴンの胸倉をつかむと、しっかりとみぞおちにめがけて、パンチを打ち込む。

前かがみになったまま、レイヴンは意識を失った。


(‥憐れ、レイヴン)


「に、日射病でしょうか?!カシル様、どこか休める場所はありませんか?!」

「はい!!ご案内いたしますわ!!」


ん?

誰だろう?カシルを押しのけ、前に出たのは。

カシルと同じハニーブロンドで、ふわふわの綿菓子みたいなツインテールの女の子だった。


側にいたユリウスがそっと耳打ちする。


「フラムベルグの三番目の令嬢、リンジー嬢です。」

「へえ、そ」


振返った瞬間、ものすごく至近距離でユリウスと目が合う。


「‥?っっ!」


今ではなかったことになっているのだけど、先ほどのユリウスとのやりとりを思い出し、赤面する。私は顔をまともに見れずに不自然に目をそらしてしまった。


「…カサンドラ様?」


(あれはなかったこと、なかったこと!)


「ごほん!!な、何か?!」

「‥‥」


私の異常を察したのか、ユリウスはあえて私の目を見ようとする。

こっち見ないで!!空気読んで!!


「…顔が真っ赤ですよ?私の目をみて、なにがあったか教えてくださいませんか?」

「え、ええっと」


ぐいぐいと距離を詰めるユリウスにあからさまに逃げ腰になってしまう。


(やめろ、近づくな!)


そう心の中で叫んだ瞬間、別方向から熱烈な視線を感じた。

キラキラと目を輝かせているリンジー嬢はフリフリと左右に手を振った。


「‥‥…あ!私にはお構いなく!!続きをどうぞ!」

「‥はい?」


なんなの?私からすればユリウスから逃げるいい口実ができたから良かったけど。

すると、後ろの方からぐっと肩をつかまれ、不機嫌そうな声が頭上から落ちてきた。


「‥馬鹿なことをやってないで、早く運んでやろう」

「…‥あ はい」


ユリウスは私の方を流し目で一度見やり、微笑む。そしてレイヴンの肩を担いで歩き出した。


「あ、ご案内しま~す!」


リンジー嬢とカシルが歩き出すと、私とヘルトもそれに従う。

そういえば、とあたりを見渡すが‥ヴィヴィアンの姿はもうそこにはなかった。


「‥ヴィヴィアン」

大丈夫だろうか。前回はバルクがいたからいいけど。

後ろ髪を引かれる思いで、私は歩き出した。


**


カシルたちに案内されたのは、賓客用の応接室だった。

長椅子に座ると、私の隣になぜかリンジー嬢が座る。


(な、なんていうか、積極的な子ね)

にこにこと微笑む彼女の瞳の色は…なんだろう。敵意じゃないのは確かだけど。


「ご挨拶が遅れましたわ!私はリンジー・フラムベルグ。カシルのすぐ上の姉です!カサンドラ様、よろしくお見知りおき下さいませ!」

「え、ええ‥よろしく…」

「先ほどは次女がご迷惑をかけたみたいで、ホント、申し訳ありません」


(次女というと‥あのぱっつんぱっつんなクイーン様か)


顔は‥似てなくもないのだけど、雰囲気はまるで正反対。この子は随分とさっぱりとした性格のようで、年頃も近いせいか親近感がわいてしまう。


「カサンドラ。」

「はい!」


し、しまった反射的に返事をしてしまったが、油断するな、ということだろうか?

ヘルトとユリウスの二人は騎士らしく、そのまま私の後ろに立つ。

思い出したことがあり、ヘルトをそっと手招きして耳打ちをする。


「フェイリーたちは大丈夫でしょうか?」

「‥‥ノエルには後で別料金でも払っておくとしよう」


ノエルに対してヘルトは扱いが少し雑だ。

まあ、ノエルはそれ位がちょうどいいんだろうな。男同士の友情ってそういうものか?信頼の証、ということにしておこう。


テーブルを挟んだ向かいの長いすにはレイヴンがすっかり伸びて寝ており、カシルはソファーに一人座っている。

あ、まずい目が合った。


「さて、せっかくですから、僕とお話しませ‥」

「ねえ、カサンドラ様!!本はお好きですか?!」


カシルが私に話しかけようとすると、まるで被せるようにリンジー嬢が私に話しかけてきた。


「え?!え、ええ…本は好きでよく読みますけれど」

「本当ですか?!ならなら!恋愛小説は?!」

「れ れんあい」

 

そう言えば、読んだことがないかもしれない。

こちらに来てからというもの、堅苦しい本はグランシアの邸で相当数見たけど、そう言った俗書ジャンルにはまだ手を出していない。

そりゃ、あの邸に恋愛小説(そんなもの)があったらそれはそれで面白いのだけど。


「あまり‥」

「なら、今度お貸ししますわ!!お勧めの本が‥」

「リンジー!」


カシルが珍しく声を荒げると、きょとんとした表情でリンジーは見返した。


「僕が話しかけている」

「…はぁ?それで?」


イライラした様子のカシルをみると、同じようにむっとした表情でリンジーも立ち上がる。

おいおい。ちょっと待って、何この雰囲気。


リンジーは腰に手を当ててびしっとカシルに言い放つ。


「まともな告白もできないくせに、何よ!カサンドラにはこんなにかっこいい素敵な婚約者様がいるんだもの。あんたみたいなちんちくりんには最初から出番なんてないのよ!」


(こ、婚約者)


あ、改めてそう言われれると照れるな?!

なんか背中がぞわぞわする。後ろを振り向くのはやめておこう。


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